氷の皇帝が笑った?
アリアを女王から王女に設定変更したことにより、大幅に内容変更いたしました。
アリアが帝国を訪れて三日。婚姻協議は順調に進んでいた。
だが、帝国宮廷では、別の問題が発生していた。
「……陛下」
朝の執務室。
宰相が恐る恐る口を開く。
「本日のご予定ですが――」
「午後の会議は一時間短くしろ」
「……はい?」
「王女殿下が城下へ行きたいと言っていた」
「…………」
宰相は黙った。
最近、皇帝の予定変更の理由が、ほとんど王女殿下になっている。
「しかし、婚姻協議もございます」
「分かっている」
「でしたら――」
「だから一時間短くする」
宰相は心の中でため息をついた。
――それを過保護と呼ぶのですよ、陛下。
⸻
「今日は城下町へ行ってもいいんですか?」
アリアは目を輝かせた。
「はい」
「嬉しいです!」
その笑顔に、侍女たちも笑う。
「皇帝陛下が許可してくださいました」
「では、お礼を言わないと!」
アリアはすぐにレオンハルトの執務室へ向かった。
⸻
「失礼します!」
扉が開く。
レオンハルトが顔を上げた。
「……アリア?」
「はい!」
「どうした」
「今日は城下町へ行ってもいいんですよね?」
「ああ」
「ありがとうございます!」
「礼を言う必要はない」
「でも、皇帝陛下が許可してくださったんですよね?」
「そうだが」
「では、ありがとうございます!」
レオンハルトは黙った。
「……好きにするといい」
「はい!」
アリアは嬉しそうに笑って出ていった。
扉が閉まり、静かになった執務室。
「……」
レオンハルトは、しばらく扉を見つめていた。
⸻
その後。
城下から戻ったアリアが庭園を歩いていると、レオンハルトと出会った。
「皇帝陛下!」
「ああ」
「今日は楽しかったです!」
「そうか」
「帝国の方々、とても優しかったです!」
アリアは今日あったことを楽しそうに話す。
レオンハルトは黙って聞いていた。
「――それでですね!」
最後に、アリアが笑った。
「帝国のこと、もっと好きになりました!」
「……」
レオンハルトの口元がほんの少しだけ緩んだ。
「…………」
少し離れた場所にいた側近が固まった。
「……今」
侍従が震える。
「はい」
「陛下……」
「はい」
「笑いましたよね?」
「……間違いなく」
二人は顔を見合わせた。
――あの皇帝が。
笑った。
しかも王女殿下にだけ。
⸻
その夜、皇帝の私室。
「陛下」
「何だ」
「一つ、よろしいでしょうか」
「言え」
「もし……王女殿下を本当に皇后に迎えられるおつもりでしたら――」
レオンハルトの手が止まる。
「……」
「……」
「それでも構わない」
侍従が息を呑む。
「まだ何も決まってはいない」
「はい」
「だが――」
窓の外を見る。
「……あの者が、この国にいることは悪くない」
侍従は何も言えなかった。
けれど、その言葉が、単なる政略結婚への評価ではないことだけは分かった。
婚姻協議が終わればアリアはルヴェリアへ戻る。そう考えた瞬間、レオンハルトの胸にほんの少しだけ寂しさが生まれた。




