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王女殿下の幸せを守る会と彼女にだけ甘い氷帝陛下  作者: 凛桜


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2/13

氷帝からの求婚

アリアを女王から王女に設定変更したことにより、大幅に内容変更いたしました。

 ヴァルディア帝国から届いた婚姻の申し出。

 その翌日、ルヴェリア王国では王族と重臣たちによる緊急の協議が開かれていた。


「皇帝陛下からの正式な婚姻申し込みです」


 国王の隣で宰相が書状を読み上げる。


「対象は第一王女アリア・ルヴェリア殿下」


「……」


 重臣たちの間に緊張が走る。

 ヴァルディア帝国は、大陸最大の国家。

 その皇帝であるレオンハルトは、二十七歳にして帝国の全権を握る傑物だ。


 その一方で――


「氷帝、ですか」


 アリアの兄である第一王子アルベルトが呟いた。

 王位継承者であり、アリアの三歳上の兄。

 普段は冷静沈着な王太子だが、妹のことになると少々話が変わる。


「妹を……皇后に?」


 低い声。

 宰相が静かに頷く。


「はい」


「……」


 アルベルトは書状を見つめた。

 皇帝がどれほど優秀であろうと、どれほど大国を治めていようと、妹を泣かせる男なら認めるつもりはない。

 それが兄としての、当然の気持ちだった。



 そして、婚姻について両国で正式に協議するため、アリアは帝国を訪れることになった。

 王女本人だけではない。

 ルヴェリア側からも、宰相、外務卿、王国騎士団長、王女付き侍女長、護衛隊長、宮廷魔術師、その他の高位官僚たちが協議団として同行する。

 表向きは、両国の未来を左右する重要な婚姻条件を協議するため。


 ――そして一部の者たちにとっては、


 「殿下を本当に帝国へ預けて大丈夫なのか」


 を確かめるためでもあった。



 帝国到着の日。

 巨大な皇宮の正門前には、帝国の重臣たちが並んでいた。

 その中央に黒い軍服をまとった男が立っている。

 銀灰色の髪、鋭い瞳、整った顔立ちには、感情らしいものがほとんど浮かんでいない。


 ――皇帝レオンハルト。


 彼が一歩前へ出る。


「ようこそ、ルヴェリア王国第一王女、アリア・ルヴェリア殿下」


「初めまして、皇帝陛下」


 アリアは優雅に礼をして、顔を上げた。


「……!」


 ふわり。

 まるで春の陽だまりのような笑顔を見せた。


「この度は、お招きいただきありがとうございます」


「……」


 レオンハルトが止まった。


「陛下?」


 側近が小さく声をかける。


「……何でもない」


 レオンハルトはそう答えた。

 だが、ほんの一瞬。彼の瞳が、確かに揺れた。



 到着したその日のうちに、婚姻協議が始まった。


「王女殿下の生活についてですが――」


「庭園の使用は?」


「もちろん可能です」


「王女殿下付きの侍女については?」


「現在の侍女たちをそのまま同行させていただいて構いません」


 帝国側も驚くほど柔軟だった。


「王女殿下の希望については?」


 ルヴェリア側の外務卿が尋ねる。

 レオンハルトは迷いなく答えた。


「可能な限り叶える」


「……」


 ルヴェリア側が顔を見合わせる。聞いていた話と違う。


 氷帝とは。

 冷酷な皇帝とは。


「皇帝陛下」


 アリアがそっと口を開いた。


「私の希望を聞いてくださるのですか?」


「ああ」


「では……」


 アリアは少し考えてから、


「帝国のお花を見てみたいです」


「……」


「それから、城下町にも行ってみたいです」


「分かった」


「本当ですか?」


「ああ」


「ありがとうございます!」


 また笑う。

 レオンハルトは、しばらく彼女を見つめた。


「……好きなだけ見ればいい」


 その瞬間、帝国側の重臣たちは一斉に顔を上げた。


 ――皇帝陛下が。

 王女殿下にだけ、明らかに甘い。



 その夜、側近が恐る恐る尋ねた。


「陛下」


「何だ」


「……王女殿下を、気に入られましたか?」


「……」


 レオンハルトは答えなかった。ただ一言。


「……悪くない」


 それだけだった。

 しかし、この時すでに氷帝の心は、静かに動き始めていた。

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