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王女殿下の幸せを守る会と彼女にだけ甘い氷帝陛下  作者: 凛桜


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10/13

知らされる秘密

 翌日。

 皇宮の一室に、一人の男が呼び出されていた。


 名は、エドガー・ハインツ。

 帝国でも名の知れた高位貴族であり、これまで何度もアリアと顔を合わせてきた人物だ。

 しかし本人には、なぜ自分がここへ呼ばれたのか分からない。


「……何か、私に問題でも?」


 向かいに座る人物へ尋ねる。


「いいえ」


 審査担当の一人が静かに答えた。


「むしろ逆です」


「逆?」


「あなたには、ある会への加入をお願いしたい」


「……会?」


 エドガーは眉をひそめる。


「どのような会でしょう」


「それを今から説明します」


 男は一度、周囲を確認した。

 扉の外に人の気配はない。


「この会の存在は、外部へ漏らさないでいただきたい」


「……」


「そして、加入するかどうかは、すべてを聞いた上であなた自身に決めていただきます」


「分かりました」


 男は姿勢を正した。

 そして、


「我々は――アリア殿下の幸せを守ることを目的とした会です」


「…………」


 エドガーの目が点になる。


「……はい?」



「失礼しました」


 エドガーは咳払いをした。


「つまり……殿下の後援会、ということでしょうか」


「近いものではあります」


「なるほど」


 ようやく意味を理解したらしい。


「では、なぜ私が?」


「あなたを紹介した会員がいるからです」


「紹介者は?」


「第八番――セドリック・ヴァルモン」


「……セドリック殿が?」


 エドガーは驚いた。

 皇帝付き侍従。皇帝の側近として知られる彼が、自分を推薦……いや、紹介したということが意外だったのだ。


「理由を伺っても?」


「もちろんです」


 審査担当が書類を開く。


「以前、殿下が庭園で足を滑らせた際、あなたが咄嗟に手を差し伸べた」


「ああ……」


 エドガーは思い出した。

 ほんの些細な出来事だった。


「その際、殿下があなたへ笑顔を向けられた」


「……それが?」


「セドリックは、それを判断材料の一つとしました」


「……」


 エドガーはしばらく黙った。

 やがて、


「……随分と大げさな話ですね」


「そう思われますか?」


「はい。私は当然のことをしただけです」


 その答えを聞いた審査担当が、静かに微笑んだ。


「だからこそ、紹介されたのでしょう」



 数分後、エドガーは一枚の書類を前にしていた。


「こちらに署名をいただければ、正式加入となります」


「……本当に加入してしまってよいのでしょうか」


「もちろんです。あなたが望むのであれば」


 エドガーは書類を見る。


「では」


 迷いなく署名した。


「喜んで」


「ありがとうございます」


「むしろ、私のような者でもよかったのですか?」


「その言葉を聞けたことが、何よりの証明です」


 審査担当は書類を受け取った。


「本日付で、正式な会員となります」


 こうして、会員数は二十五名となった。



 その日の夜、秘密の会議室。


「正式加入を確認しました」


「よし」


 帝国宰相が名簿へ目を落とす。


「これで二十五名か」


「はい」


「番号は?」


「まだです」


「十番の席は?」


「空席です」


 全員がアルノーを見る。


「……なぜ私を見るのですか」


「候補だからだ」


「まだ決めていないのでしょう?」


「そうだ」


「ならば見ないでください」


「無理だな」


「なぜです」


「殿下の護衛隊長だから」


「……」


 アルノーは深く息を吐いた。

 どうやら、この会に関わってしまった以上、逃げることはできないらしい。



 その頃、アリアは庭園でレオンハルトと並んで歩いていた。


「陛下」


「何だ?」


「最近、皆さんが少し変なんです」


「……?」


「私を見ると、すごく嬉しそうにするんですよ」


「……」


 レオンハルトの足が一瞬止まる。


「以前からでは?」


「そうでしたっけ?」


「そうだ」


「そうかなぁ……」


 アリアは首を傾げる。

 その無自覚な仕草を見て、レオンハルトは小さく息を吐いた。


「気にする必要はない」


「どうして?」


「皆、お前を大切に思っているだけだ」


「……」


 アリアは嬉しそうに笑った。


「そうなら、嬉しいです」


「……ああ」


 レオンハルトも目を細める。

 少し離れたところでは、カイルとアルノーが二人の様子を見ていた。


「……殿下は本当に何も知らないようですね」


 アルノーが呟く。


「何のことです?」


「いえ」


 アルノーは首を横に振る。


「知らない方が、幸せなこともあるでしょう」


「……確かに」


 二人はそれ以上、何も言わなかった。



 その夜。

 新たに会員となったエドガーは、自室で一枚の会員証を眺めていた。

 そこには、まだ番号は記されていない。


 ただ一つ、小さく刻まれた紋章だけがある。


「……不思議な会だ」


 そう呟いた直後、机の上に置かれた別の紙に目が止まる。

 そこには、


 『殿下のお好きなもの一覧』


 と書かれていた。


「…………」


 エドガーはしばらく黙っていた。

 そして、


「……本気だな、この会」


 思わず笑ってしまう。

 だが、その紙を丁寧に折りたたみ、大切にしまった。

 新たな会員が一人。また一人。

 アリアの知らないところで、彼女の幸せを願う者たちが少しずつ増えていく。


 そして、誰も知らないところで、また新たな「紹介」の話が始まろうとしていた。

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