第九話:行き倒れの少女
第九話:行き倒れの少女
王城からの帰り道。
ガタゴトと揺れる馬車の窓から外を眺めていると、異様な一団が目に入った。
それは、鎖でつながれてトボトボと歩く、奴隷たちの長い行列だった。
薄汚れた布をまとった彼らは、誰もが生きる気力を失ったような目で地面を見つめている。
その行列の最後尾に、一台の小さな荷車が引かれていた。
中をのぞき込んだ僕は、思わず息をのむ。
そこには、一人の少女が横たわっていた。
顔は血の気が引いて真っ青に変色し、ひどい栄養失調のせいで骨と皮ばかりに痩せ細っている。
さらに恐ろしいことに、手足の先が黒ずみ、生気を失って壊死し始めていた。
「リエット姉さん、馬車を止めて!」
「えっ? どうしたの、エクス君」
リエット姉さんが驚いて僕を見る。
僕は馬車が止まるのも待てずに扉を開け、地面へと飛び降りた。
「待って、エクス君! 危ないわ!」
後ろからリエット姉さんが止める声が聞こえたけれど、僕はまっすぐに奴隷たちの行列へ走った。
臨終の一歩手前のような状態の少女を、見過ごすわけにはいかない。
行列を率いていた太った奴隷商人の前に、僕は立ちはだかった。
「おじさん、そこの荷車の少女をどうするつもりですか!」
突然現れた九歳の僕を見て、奴隷商人は不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「あぁ? なんだい坊主。こいつかい? 生きている奴隷を勝手に捨てると罪になるから、仕方がなく引きずっているだけさ。だが、もう虫の息だ。死んじまえばただの死体だからな、死んだらそこらの道端にでも捨てるさ」
奴隷商人は、法律の縛りがあるから連れているだけで、命をまるでモノのように吐き捨てた。
少女の手足の壊死は、このまま放置すれば確実に全身へ回って命を奪う。
一刻の猶予もない。
僕は、追いかけてきたリエット姉さんを振り返った。
「リエット姉さん、お願い。この子をリエット姉さんの屋敷に連れて帰りたいんだ。僕に手当てをさせてほしい」
居候の身である僕が、勝手に人を連れ帰るわけにはいかない。
リエット姉さんは一瞬、少女の凄惨な姿に息をのんだ。
けれど、僕の真剣な目を見て、すぐに優しく微笑んだ。
「わかったわ、エクス君。連れて帰りましょう。お医者様も手配するからね」
「ありがとう、リエット姉さん」
僕は奴隷商人に真っ向から向き直った。
「なら、その子を僕が買います」
「はあ? 坊主が奴隷を買うだって? いくら死にかけでも、タダじゃ渡さないよ」
奴隷商人がにやにやと下品な笑みを浮かべる。
僕はポケットに手を入れた。
そこには、家を出るときに父親のガンドルフから渡された、十枚しかない聖金貨が入っている。
その中から、きらりと光る聖金貨を一枚取り出し、奴隷商人の目の前に突きつけた。
「これでいいですよね? 十分足りるはずです」
大金である聖金貨を見た瞬間、奴隷商人は目の色を変えた。
「お、おいおい、本気かい!? これならお釣りがくるくらいだ! よし、交渉成立だ!」
奴隷商人は奪い取るように金貨を受け取ると、すぐに少女を荷車から降ろした。
僕はリエット姉さんと一緒に、ぐったりとした少女の体をそっと抱き上げる。
信じられないほど軽くて、冷たくなりかけている体だった。
急いで馬車へと運び込み、僕たちは少女の命を繋ぎ止めるため、急ぎ足でリエット姉さんの家へと帰るのだった。




