第七話:お茶会と冬のクッキー
第七話:お茶会と冬のクッキー
午後。
決闘が終わったあと、僕は城内のテラスで第三王女のクリスタと小さなお茶会をしていた。
さわやかな風が通り抜けるテラスのテーブルには、温かい紅茶と焼き立てのクッキーが並んでいる。
「本当に良かった、エクスが私の婚約者のままになってくれて。今更、知らない地位だけが欲しい底辺貴族なんて絶対に嫌だもの」
ふふふ、と嬉しそうにクリスタは僕を見てほほ笑んで、クッキーを小さなお口へ運ぶ。
僕も淹れてもらった紅茶を一口飲んで、心を落ち着かせた。
「うん、大きな問題にならなくてよかったよ。壊れた城壁の修理費も、決闘を申し込んだデバット卿が全額支払うことになったからね」
僕がそう言うと、クリスタはいたずらっぽく目を細めた。
「デバット卿の息子さん、泣いて帰っちゃったのはちょっと笑っちゃったわ」
「あはは、確かにね。でも、僕は父上が安心してくれてうれしかったな。まぁ、しばらくはリエット姉さんの家で勉強しろって、改めて言われちゃったけどね」
苦笑いする僕を見て、クリスタは何かを思い出したように、紅茶のカップを置いた。
「そういえば、エクス、覚えてる?」
「何のこと?」
「私が昔、城壁にある高い見張り塔に上って、怖くて降りられなくなっちゃったときのことよ。あのとき、エクスが一生懸命に助けてくれたのよね」
クリスタの言葉に、僕の頭の中に流れ込んでいた記憶が呼び起こされる。
高い塔の上で、涙目を浮かべて座り込んでいる小さなクリスタの姿が浮かんだ。
「あぁ、そんなこともあったね」
クリスタはまた優しく微笑んで、僕をまっすぐに見つめた。
「困った時に助けてくれるのは、昔から変わらないのね。昔は少し頼りなくても優しかったし、今みたいにすごく頼りになっても、エクスはやっぱり優しいんだわ」
そう言って、クリスタはまた嬉しそうに次のクッキーを口に運んだ。
その様子を見ていて、僕はふと気になったことを口にする。
「クリスタはずいぶんとクッキーが好きなんだね」
すると、クリスタは少し顔を赤くして、照れたようにうつむいた。
「だって、もうすぐ冬でしょ? 冬になると小麦や薪の質が落ちるし、お城でも余裕がなくなってクッキーが食べられなくなっちゃうもの。だから、今のうちにたくさん食べておこうかなって。えへへ……」
照れ笑いするクリスタは、どこからどう見ても、九歳の年相応の可愛い女の子だった。
冬になると燃料や小麦の質が落ちて、お菓子を作る余裕がなくなる。
それがこの世界の厳しい現実なのだろう。
「去年も冬の終わり頃には、お城でも硬いパンや干した肉みたいな保存食ばかりだったの……」
少し悲しそうな婚約者のお姫様の顔を見て、それなら、僕の出番だって思った。
「うん、そういうことなら、冬でもおいしく食べられるクッキーをどっさり作っちゃおうか」
「えっ? そんなことができるの?」
クリスタが目を丸くする。
僕は席を立ち、後ろに控えていたお城のメイドさんに向き直った。
「お茶会の後で、少しだけ厨房で料理をさせてもらってもいいですか? できれば、いつもクッキーを作っている料理人さんにもレシピを覚えてほしいので、同席してもらう形でお願いしたいです」
メイドさんは驚きながらも、「かしこまりました。手配いたします」と丁寧に頭を下げた。
婚約者の少女の笑顔の為に。
そして、冬場の食糧難の改善に、僕の持っている科学の知識が役に立つなら、それはきっとすごくいいことだと思うんだ。




