第四話:リエットの魔法授業と試作一号
第四話:リエットの魔法授業と試作一号
三日後の朝。
リエットに魔法の基本を教えてもらうことになった僕は、屋敷の裏手にある演習場へとやってきた。
僕の後ろには、心配そうな顔をしたアンナもついてきている。
「まずは初級魔法を覚えれば大丈夫よ。爆炎系の初級魔法をやって見せるわね。あの案山子を見ててね」
リエットはそう言って、五メートルほど先にある木製の案山子を指さした。
それから、愛用の杖を構えて目を閉じ、集中し始める。
「杖に魔力をためるイメージ、熱が集まるイメージをして、案山子が燃え上がるように……爆炎初級魔法・炎の柱!」
リエットが呪文を唱えた瞬間、激しい炎の竜巻が巻き起こり、案山子をすっぽりと包み込んで燃え上がらせた。
やがて炎の嵐が収まると、そこには黒焦げになった案山子が残されていた。
「これなら単純だからできると思うわ。範囲も狭いし、エクス君、やってみて」
「わかりました。やってみます」
僕はうなずき、一歩前に出た。
杖を構え、「むー……」と声を漏らしながら集中する。
狙うのは、案山子の足元にある空気だ。
酸素や窒素の結合に魔力で干渉し、化学反応を起こして燃やそうとしてみる。
パチパチパチ……。
けれど、上がったのは線香花火のような小さな火花だけだった。
リエットは困ったように苦笑いをして、僕の頭を優しく撫でる。
「……魔力はあるみたいだけど、エクス君は出力が弱いのかしら」
「父上の前でもこんな感じでした。……ねえ、リエット姉さん。今度は僕の方法で試してもいいですか?」
僕はそう言って、懐から白金色に鈍く輝く、やや大ぶりのハンドガンを取り出した。
この三日間、部屋にこもって作り上げた試作品だ。
「え? ええ、いいわよ? 何かエクス君のやり方があるのかしら?」
リエットは見たこともない鉄の塊を不思議そうに見つめている。
僕はハンドガンを両手でしっかりと構えた。
これは魔法で生み出したプラズマを、固定し、加速させて撃ち出すための魔導銃だ。
(今度こそ、拡散させない)
銃口の前に、四日ぶりとなる空気の超圧縮球――プラズマの弾を作り出す。
青白い光がパチパチと弾けた。
すかさず、僕はハンドガンの引き金を引いた。
カチャ、と小気味いい音が響く。
次の瞬間、銃身から目に見えない高圧の空気の膜が展開され、暴れ狂う青白い光の球をガチリと強固に包み込んだ。
これで、数万度の熱も圧力も外へ逃げない。
完璧な銃弾の完成だ。
「いけ……!」
銃身に組み込んだ加速魔法が、空気の器ごとプラズマ弾を前方へと凄まじい速度で弾き出した。
ズガァン!
空間を切り裂くような轟音が響き渡る。
青白い光の弾条が朝の空を一直線に駆け抜け、一瞬で標的の案山子へと着弾した。
その衝撃によって、弾の表面を覆っていた高圧の膜が解除される。
内部に閉じ込められていた数万度のプラズマと、限界まで溜まっていた超高圧が、一気に解放された。
ドガアアアアン!!
まばゆい閃光が視界を真っ白に染め、凄まじい大爆発の衝撃波が演習場の周囲の木々をなぎ倒していく。
激しい熱風が僕たちの髪を大きく揺らした。
やがて煙が晴れたあとに残されていたのは――。
黒焦げの案山子どころか、ドロドロに溶けてマグマのようになった、地面の残骸だけだった。
「えぇぇ……」
リエットは開いた口が塞がらないといった様子で、完全に絶句して唖然としている。
眼鏡が少しズレているのにも気づいていない。
「……うーん、出力調整がまだみたいだね。構造の耐久性も低いし、三十パーセントじゃ強すぎるか」
僕は亀裂が入ってしまった白金のハンドガンの側面にあるダイヤルを回し、メモリの調整を始める。
「やったぁ!」
後ろで耳をふさいでいたアンナが、美しい破壊の跡を見て嬉しそうに飛び跳ねた。
リエットの常識を完全に覆した、そんな朝のこと。
お昼過ぎになった頃、屋敷の前に王城の紋章を付けた馬車が止まった。




