第二話:貴族失格
第二話:貴族失格
その日の夜。
体調が回復した僕は、白髪交じりの厳しい顔つきの父親のガンドルフ・ゼフォードに屋敷の中庭へと呼び出された。
月明かりに照らされた中庭は少し肌寒い。
僕の後ろでは、アンナが自分の手をぎゅっと握りしめて、心配そうに僕のことを見守っていた。
僕の前に立つ父親は、冷たい目を向けてくる。
「我がゼフォード家の者なら、目の前にある標的を破壊することなど造作もないはずだ」
父親が指さした先には、僕から四メートルほど離れた場所に、鉄の鎧を着せられた木製のかかしが立っていた。
「先日は何もできずに倒れ、熱を出してしまったから見逃したが……今日が最後だと思いなさい」
ここで結果を出さなければ、僕は本当にこの家を追放されてしまう。
けれど、普通の火炎魔法なんて僕には使えない。
だから僕は、自分の知識を使った方法を試すことにした。
そのために、ひとつ確認しておきたいことがあった。
「父上、道具を使ってもいいですか?」
科学の力を応用するなら、あらかじめ用意しておきたい装置や道具がある。
しかし、父親は冷たく突き放した。
「ならん。魔法の力で的を破壊するのだ。皆と同じように杖を使いなさい。杖を」
父親から手渡されたのは、この世界で一般的な、木製の古びた魔法の杖だった。
これじゃただの木の棒だ。
道具を使ったアプローチが禁止されたことに、僕はしょんぼりと肩を落とした。
でも、やるしかない。
「……よし、やれるだけやってみよう」
僕は杖を握り、かかしに向き直る。
狙うのは、高熱の弾丸だ。
僕は手のひらの上に魔力を集中させ、周囲の空気を強引に一点へと超圧縮していった。
ギチギチと空間が軋む音が響き始める。
気体を急激に圧縮すると温度が跳ね上がる。
僕は魔力の壁で空気を限界まで押しつぶし、極限の断熱圧縮を引き起こした。
次の瞬間、僕の掌の上でそれが産声をあげる。
大気圏に突入する流星と同じ、極限の断熱圧縮がもたらす超高温。
空気の原子から電子が剥がれ、青白く、太陽のように激しく明滅するプラズマの球が完成した。
「わぁ、きれい!」
後ろで見守っていたアンナが、思わずといった風に歓声をあげる。
「できた……! これがプラズマの弾……!」
僕自身、その完成度に胸を躍らせた。
あとは、この圧倒的なエネルギーの塊を、あのかかしに向けて放つだけだ。
僕は震える手で、その光球を前方の標的に向けて押し出そうとした。
しかし、手を離したその時だった。
数万度の超高温と超高圧を閉じ込めていた、見えない壁が消えてしまう。
――ポンッ!
悲しい破裂音とともに、プラズマ球は前方に飛ぶことなく、その場で破裂して四散した。
ゆるやかな熱風が僕の顔を撫でて、周囲の冷たい大気に一瞬で熱を奪われ、ただの激しいぬるい突風へと戻っていく。
当然、標的には傷一つついていない。
鉄の鎧は、月光を浴びて冷たく光ったままだ。
「あ、あれ……?」
アンナがおろおろと悲しそうな顔になり、戸惑ったように僕と標的を交互に見つめている。
弾そのものは作れても、それを形に留めて撃ち出す銃がなければ、ただの手元での不発に終わる。
(……なるほど。ほぼ、予想通りの結果か)
そして正面からは、父親の冷酷な足音が近づいてきた。
次の日の朝。
荷物をまとめられた僕とアンナは、すでに馬車に乗せられていた。
見送りに立った父親、ガンドルフ・ゼフォードは、少し眉間にしわを寄せ、苦しそうな顔で僕を見つめている。
「昨夜の光球だけなら評価できるが、一度従妹の家で学びなおせ。お前は今日からゼフォードの人間ではない。二度と名乗るな」
父親は厳しい目を向けて僕にはっきりとそう言うと、後ろを向いた。
「……だが、リエットの元で学びなおせ。それが最後の機会だ。私の期待を裏切るな、息子よ」
それが、父親の不器用な決断だった。
完全な追放ではなく、まだチャンスは残されたのだ。
動き出した馬車の窓から、遠ざかる屋敷を眺める。
隣では、アンナがまだ不安そうに僕の顔をのぞき込んでいた。
「巻き添えにしちゃってごめんね、アンナ。次は大丈夫だから」
そう言って僕はアンナにほほ笑んだ。
「その為には……魔法だけじゃ駄目か」
ぽつりと、僕は声に出した。
手元でプラズマを作れても、撃ち出す銃身がなければ拡散してしまう。
純粋な魔法の才能だけでは、あの標的は壊せない。
なら、道具を作ろう。
前世の知識があれば、最低限の魔力を効率よく運用する『銃』だって設計できるはずだ。
分解と合成ができるなら、材料さえあれば作るのだって難しくない。
まずは小型化だ。
手のひらに収まる試作品なら、三日で作れる。




