第十二話:強靭なる心臓、そして目覚め
第十二話:強靭なる心臓、そして目覚め
ベッドの上の少女は、いまだ深い眠りの中にあった。
彼女を完全に目覚めさせ、自分の足で立たせるためには、最後の、そして最も重要な手術が必要だった。
それは、彼女の生きる力の中心となる、完璧な恒久型の人工心臓を作ること。
そして、体力を取り戻した彼女の体に、新しい手足を授けることだ。
居間のテーブルや不要な鉄の置物を、精密な魔力で分子のレベルまで分解していく。
ベースにするのは、どこまでも少女自身の遺伝子構造だ。
劣化することのない強靭な人工筋肉を、合成によって一切の拒絶反応が起きないように組み立てていく。
「ここが、本当の正念場だ」
二十時間を超える作業で僕の視界はかすみ始めていたが、指先だけは絶対に狂わせない。
生成した白銀の人工心臓を、少女の胸の奥へと慎重に取り付ける。
血管を繋ぎ、魔力を通した瞬間。
ドクン……、ドクン……。
力強い、確かな鼓動が部屋の中に響き渡った。
休む間もなく、僕は次の作業へと移る。
手足の失われた部分へ、同じく強靭な人工筋肉で構成した、神経接続型の義手と義足を接続していく。
彼女の脳から出る命令がそのまま伝わるよう、見えない神経の束を一本ずつ、僕の魔力で直接同期させて繋ぎ合わせていった。
僕の行う生成と手術は、すでに二十四時間を超えていた。
部屋に入れないリエット姉さんとアンナは、長い手袋とマスクをつけた姿で、時折ドアの隙間から心配そうに中の様子を覗き込んでくる。
けれど、僕の集中が途切れないよう、静かに見守ってくれていた。
最後の手術が終わったのは、次の日の朝だった。
椅子に座ったまま眠ってしまっていた僕は、重い頭を抱えて朝日を浴びて目を覚ました。
ベッドで眠る彼女の全身の肉体は完全に飢餓状態を脱し、補助用の人工臓器もすべて恒久型へと最適化された。
僕はゆっくりと、少女を眠らせていた麻酔の魔力を解いていく。
「……ん」
少女の小さな唇から、かすかな声が漏れた。
ゆっくりと開かれた茶色の瞳が、ぼんやりと天井を見つめる。
「気がついたかい?」
僕が声をかけると、少女は不思議そうに僕を見て、それから自分の体を確かめるように視線を落とした。
最初は痩せ細った肉体だが、人工臓器の完璧なサポートによって、内臓の痛みはどこにもないはずだ。
新しい義肢の神経が、彼女の脳と完全に同期を始める。
ピクッ……。
少女の新しい銀色の指先が、僕の目の前で小さく、けれど確かに動いた。




