姉の本棚。
9歳年上の賢い姉は、私の自慢だった。
9歳も離れているとたいして遊んでもらった記憶も無いのだが、姉いわく「おまえのおむつも私が換えた」のだそうだ。
賢かった姉は間違いなく本棚の重たい立派な本を全部読んでいるに違いないと、私は友人たちに自慢していた。
そんなところも含めて姉は、私のことが嫌いだったらしい。
高水準な英語教育と女性リーダーを育成することを目的とした大学を落ちた姉は地元の大学へ行ったのだが、落ちた理由は私がうるさくて勉強に集中できなかったからだそうだ。
姉が自分の部屋を持って自分の本棚を持つと、姉らしい本が並ぶようになった。
女の自立に強い関心を持っていた姉の本棚には田辺聖子や林真理子、田嶋陽子の本がずらりと並んでいた。
たまに借りて何ページか読んでみたが、どの辺が自立している女なのかよくわからなくてどれを読んでもとん挫した。全部読めば分かったのかもしれないが、どれもこれもなんか主人公が押しつけがましくて興味を引かれなかった。途中で読むのを諦める私を、姉は鼻で嗤った。私のことを「専業主婦になるしかない」人間だと言っていた。ある意味予言は的中した。
さすが賢い姉は読書家で、結婚してからは無駄な出費を抑えるために本は買わずに図書館で借りて読んでいた。その頃の姉は女性作家ばかりではなく、ミステリーや歴史物も読んでいた。雑多にいろいろ読める器の広い人ではあったが、私に対してだけは器が狭かった。子供の手本にならないから、家には来るなと言われた。
私はあいかわらず字ばかりの本が苦手で、漫画をよく読んでいた。
たまに読む小説は氷室冴子や新井素子。田中芳樹とか菊池秀行だった。
姉に言わせれば「漫画みたいな本」だったらしい。
漫画ばっかり読んで、漫画みたいな本ばっかり読んで、アニメばっかり見ている妹は子供たちの教育によろしくないので近寄らないで欲しいとのことだった。
姉いわく『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は名作だが『機動戦士ガンダム』はただの漫画なのでレベルが違うとのことだった。
落ちたとは言え、高水準な英語教育と女性リーダーを育成することを目的とした大学を受験する権利を得、地元の大学に行った賢い姉の言うことである。
そうなのだろうなと納得した私は、私が好きであるがゆえに賢い姉にバカにされるに至った作家や漫画やアニメたちに申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
でも好きであることはやめられなかった。




