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その寒さを、知らないはずだった。

再び集まった3人。


時間はまだある、と言うことで昔話が・・・!?


そして、それは知らない『はず』だった。

「今日、場所がわかるのかな・・・。」

昨日は一日中、落ち着かなかった。

明日、戻れるかもしれないし戻れないかもしれない。

記憶の核心?とやらが合っているかもわからない。

そんな状況で、落ち着ける人がいるわけない。

「いや!絶対にわかる!」

そして私は立ち上がる。

日が沈み始めていて、私の胸が高鳴った。

今日は日が変わるまで稲荷神社にいるから・・・11時30分にいけば間に合うか?

みんな、寝静まった後に家を抜け出る。

初めての体験。・・・ちょっとだけワクワクする。

前、親に黙って家を抜け出したことはあったけど・・・

いなりくんも先輩もいない中、一人で抜け出すのは正真正銘、『初めて』。

「桜〜?ご飯だよ。」

ふとお母さんがそう言った。

お腹・・・減った!!

「今行きます!」

ドアを開けるといい匂いが漂ってきた。




❀*.゜




時計の針が動く。

短針は11と12のちょうど真ん中。

長針は6を指している。

・・・そろそろかな?

最小音量で目覚まし時計をかけていたから、誰かが起きたような気配はない。

家の鍵を握って、部屋のドアをこっそりと開ける。

階段の音を鳴らさないよう、静かに降り、家のドアを開ける。

こそこそとしているせいか、ドアが何倍も重いように感じた。

そして、私は全力疾走で稲荷神社へ向かう。

そして、境内に飛び込むとぼんやりと光が二つ。

「桜!来たの!」

「いなりくん!先輩!」

いなりくんのしっぽが左右に揺さぶられる。

よかった〜、また、会えた。

ひとまず胸を下ろす。

「遅れ、ましたか?」

「いや、俺はついさっき来た。」

先輩はそう言う。

いなりくんは頷いて、口を開く。

「俺はずっとここにいたけど・・・蓮華は本当についさっき来たね。」

再び胸を下ろす。

それと同時に、不安が襲いかかってくる。

・・・戻れる、のかな?

先輩はそんな不安を抱いてないみたいで、腕時計を見る。

「今で39分・・・あと21分か。」

「それまで・・・何、します?」

春の終わり、桜が終わりかけている季節の夜は、少し肌寒かった。

ふと上を見るけど今日、星は出ていないみたい。

私はそんなことを考えながら縁側に座る。

「ちょっとだけ昔話、する?」

静かな風が吹いた後。

いなりくんが隣に座ってきた。

「昔話?桃太郎?」

「・・・狐の昔話。」

先輩はボソッとそう言った。

『聞きたくない』と言うかのように、顔を背ける。

「え!?昔話って、もしかして・・・本当に!?」

「しーっ!起きちゃう起きちゃう!」

その言葉に、慌てて口を塞いだ。

けど、その後にいなりくんは小さく縦に頷いた。

「全部話す・・・ってわけじゃないんだけどね。」

いなりくんは遠い目をしていた。




ฅ^_ ̫_^ฅ




俺はね、大きな剣術道場の息子だった。

多分・・・“明治時代“後期、だと思う。

その道場は、父さんが師範をしてた。

流儀の名前?

母さんがつけたんだ。

『神』が『渡る』ほどに強く、美しい流儀だから『神渡(かみわたり)流』ってね。

で、時雨と二人で毎日のように通ったんだ。

通ったっていうか・・・普通に、父さんが素振りをしているところに遊びに行って。

剣を持たせてもらったりした、ぐらいの“遊び“感覚なんだけどね。

開いた時はそりゃもう大盛況。

本当に、強くて美しいから。

けど・・・代償ってもんがあって。強さの裏に、難しさってのがあるんだ。

ピークを超えたらあとはもう右肩下がり。

門下生って呼べるのは、俺と時雨だけだったよ。

でも時雨は動物が大好きで・・・野良猫野良犬、拾ってきては飼っていいか聞いてたな。

でも、門下生がいないせいで収入は無い。

だから、飼えなかった。うちはみんな動物好きだったんだけどね。

それで、時雨は『飼えない』とわかると朝から晩まで。外で、餌やりしてた。

自分のパン。

体が弱かった時雨は、それでロクな飯を食べなかったせいでもっと体が弱くなった。

よく野良の動物から変な菌もらってきては寝込んでた。

俺はずっと剣をしてた。

だからなのか・・・習得。できたんだよね。

神渡流を成せるのは、俺と父さんだけ。

時雨もそこそこ強かったけど、体が弱いせいで続けられなくなった。

で。俺には・・・仲のいい友達がいたんだ。

しかも、でっかい呉服屋の孫。

でも、そんなこと気にせずに。俺と毎日どろんこになって、遊んだ。

・・・懐かしい。

それで・・・まあ、そういうことだ。それからは死のラッシュ。

父さんと母さんは多分今冥界。

え?なんでかって?

桜はあんま詳しく言ってないんだったね。

人間界で死ぬと、冥界で生まれて冥界で死ぬと、人間界で生まれる。

人ってのはさ、それの繰り返し。

多分、今冥界だと思う。

・・・これだけ、今言えるのは。

ふふ、面白い顔してるね〜。

そんなに考えすぎなくていいよ。俺の勝手な自分語りだから。




❀*.゜




話が終わった時。

私はしばらく動けなかった。

いなりくんは、私の顔が面白いと笑っているけど・・・本気の笑いじゃない。

ちょっとだけ、暗さが混じっている。

先輩は相変わらず、こちらを向かない。

ここまで、普通で、残酷な日常を送っていたいなりくん・・・いや、日和くん。

その横顔は、もっと壮絶な物を隠しているように見えた。

・・・世界の末端、海の中で見ちゃったやつかな。

少し沈黙が流れたあと。

先輩が口を開く。

「あと3分だ。・・・そこで、季節が変わる。」

「記憶の世界だから、記憶にまつわるものって俺は思うんだけどね〜。」

3分。

その短い時間にドキッとした。

そして。

2分・・・30秒、経った。

「あと30秒だ!」

「・・・ちょっと怖いかもです。」

「何が怖いの?」

私が漏らした言葉を、いなりくんは聞き逃さなかった。

「いや・・・、戻れるのかな、って。」

するといなりくんは

「戻れるよ、きっと。だって桜は・・・そうだもん。」

と言った。

『桜は』まで言って、固まっていきなり『そうだもん』と言ったいなりくん。

「そうだもんって何!?何が!?」

「ううん、なんでもない。」

「やれやれ・・・あと10秒だ。」

そう言う先輩の顔にも、焦りが見えた気がした。

やけに静かになり、腕時計の秒針の音だけが響いていた。

「3、2、1・・・0!」

「・・・何も起こらない?」

いなりくんは首を傾げる。

・・・いや、でも。

「起こってる!季節の入れ替わり!」

私の体は気温がぐんと下がるのを感じ取っていた。

そして、花びらも、葉っぱも消え去る。

白い雪が地面いっぱいに広がっている。

「これって・・・雪、ですか?」

「そうだな。」

そして、完全に入れ替わるとすでに私の体には鳥肌ができていた。

「さ、さぶくないですか・・・へ、へ、へっくしょんっ!」

思いっきりくしゃみをする。

半袖だった私の足がガクガクと震えている。

けど・・・二人は、そんな寒さをモノともせず空を見上げていた。

「俺、この寒さ知ってる。」

いきなり、そんなことをいなりくんは言った。

「知ってるって・・・?」

思い当たることが全くない。

こんな感じの時は毎年ある。

けど・・・そんな、記憶に残るような出来事ってあったっけ?

「・・・思い出した、俺もだ。」

こめかみを抑えていた先輩が、不意にそう言った。

「あごめんなさい!私何も覚えてません!すみません!案内お願いします!」

何もわからなかった私は二人に頭を下げる。

けど、帰ってきた言葉は意外なモノだった。

「・・・本当に、そうか?」

「え?」

先輩の言葉に、頭を上げる。

「思い出せないのか?佐倉さん。」

先輩は目を丸くしている。

いなりくんも軽く頷いている。

「何がですか・・・?というか、先輩と出会ったのは今年の春が初めてで・・・」

先輩の顔をじっと見る。

その時だった。

ぼんやりと、先輩の横に誰かが立っているように見える。

徐々に、その人影は先輩に重なる。

・・・誰だ、?

ぼんやりとしすぎていて、『誰か』と言うことしかわからない。

誰・・・?

なんだか、覚えている気がするような気もしてきた。

けど・・・思いすぎじゃ?

こんな、寒くて寂しい雨の夜なんて・・・

そこまで考えたところで引っかかった。

・・・雨?

違う、これは雪だ。

雪なのに、なんで私は雨って・・・?

「佐倉・・・さん?」

ぼうっと無言で考え続けている私に声をかけてくれる先輩。

けど、その声すら何かがある気がする。

というか、なんで私は・・・?

「・・・すみません、私と先輩って会ったことありましたっけ。今年より前に。」

それを言った瞬間、驚きの表情を浮かべる先輩。

けれど、すぐにいつもの顔へ戻る。

「・・・いや、会ったことはない。」

「じゃあ、行こうってことで・・・」

「待て狐。」

「えぇ・・・」

意気揚々と行こうとしていたいなりくんを止める先輩。

「何、蓮華?」

「境内から出たら姿は見えなくなるが・・・どうするんだ?」

確かに・・・一昨日、そうだったもんな。

「簡単な話だよ。」

「簡単!?」

「うるさっ叫ばないでよ蓮華・・・俺は常人より耳がいいんだからね。」

「あぁ、すまない・・・」

珍しい。先輩が叫んでいる。

というか、『簡単』・・・

なんで、その言葉に先輩は反応したんだろう。

『カンタン』・・・ううん、何も思いつかない。

「いなりくん、それはどうするの?」

「俺は朱雀のいなり。ここの朱雀の分類になる神社の守護霊だから、朱雀のいなり。」

「そういえば、初めて会った時もそんなこと言ってたな・・・。」

「全国にある神社は、大まかに分けられてる。『こっちは〜だから』とかじゃなくて、ただ単にチーム分け。」

「だな。で、霊力にも少し違いがあって・・・まあ、たいした変わりはないが。」

「・・・あ!わかりました!同じ朱雀の霊力を持ついなりくんがそばにいれば姿が見える、ですよね!」

そう閃いたことをそのまま言う。

当たっているみたいだ。

「だが・・・どうする?よっぽど密着するしかないが・・・」

「だから、桜は俺がおぶっていく。」

「ふんふん・・・は?」

いなりくんの飛んだ爆弾発言を私は聞き逃さなかった。




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