再会と、記憶の核心
蓮華にあの声が聞こえてから、二日。
蓮華は夜、稲荷神社にいた。
「ここしか、思い当たらないよな・・・」
蓮華は夜風に吹かれながら、そう呟いた。
思い出の場所・・・それはおそらく、この稲荷神社だろう。
他に自分たち3人と繋がりがある場所など、思い当たらない。
・・・過去を含めなければ。
その時だった。
「先輩?」
少女の目が見開かれた。
夜、私は稲荷神社へ向かった。
いなりくんがいたり・・・と、思ったから。
いるわけない、って頭で思っていても足が勝手に向かう。
あの元気で秘密の多い狐の面影を感じたいのかもしれない。
・・・先輩にも会いたいけど。
でも、夜行けそうなのはこの稲荷神社だけ。
足を進める。
田舎すぎて、電柱がほとんどない夜道は文字通り真っ暗闇だった。
そして、稲荷神社の前で足を止める。
その時だった。
ボワっと光が浮かんだかと思ったら、徐々に輪郭が見えてきた。
「先輩?」
その姿に、目を見張った。
先輩も、驚いたような表情をする。
「佐倉さん?」
「先輩、なの・・・?」
先輩は幽霊警察の服装をしていた。
少し強い風のせいなのか、帽子は手に握っていた。
「よ、よ、・・・よかったああああ!!」
その変わらない姿に、目から涙がこぼれ落ちた。
「佐倉、さん・・・本人なのか?」
「本人ですよ!本人中の!」
慌てて先輩の元に駆け寄ろうとする。
けど、潤んだ景色のせいで石につまずく。
「佐倉さん!?」
先輩は慌てて私の体を支えてくれる。
ああ、よかった、本当に・・・!
もう2度と会えないのかとさえ思った。
安堵のせいか、足から力が抜けていく。
「落ち着け、佐倉さん。俺は生きている・・・佐倉さんも、無事でよかった。」
先輩は、そう言って私の体を抱き寄せる。
一瞬だけ驚いた。
けど、先輩の体から伝わってくる人間らしい体温にさらに涙が溢れてきた。
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「先輩・・・どうして、こうなったんでしょうか・・・」
ひとしきり泣いた後、涼しい風を感じながら先輩に聞いた。
「俺にもわからない・・・誰が?というか、なんのせいでこうなったのか?」
「というか、いなりくんは無事なんでしょうか?」
「あの狐のことだ。大丈夫だろう。」
確かに。
いなりくんだったら、どんなに厳しい環境でもなんだかんだ生きてそう。
先輩に会えたおかげで・・・ちょっとだけ緊張が解けたかも。
その時だった。
一瞬だけど、狛犬の先。
小さな一本の電柱の下に、黄土色の何かが見えた。
けど、すぐに見えなくなる。
「・・・先輩。今のって。」
「ああ、見飽きたほど見た・・・・あいつだ。」
先輩も、心なしか嬉しそう。
そして、顔を見合わせて同時に立ち上がると電柱へ走る。
「いなりくんっ!」
そう叫ぶ。
やや人影が見える。
そして、彼は振り向いた。
「・・・桜、その声・・・聞きたかったよ。」
私の姿をを確認した彼の狐耳は、大きく跳ね上がる。
そして、ふにゃっとした、いつもとは違う男の子らしい笑いを見せた。
「狐・・・まあ、心配はしていなかった。」
「・・・こちらこそ、ね?」
そうは言っているけど、相当嬉しそうな2人。
そして。
久しぶりに・・・いつもの3人で、懐かしさを感じながらベンチに腰掛けた。
そして、少し経ってから最初にいなりくんが口を開いた。
「俺たちには今・・・3つの謎が起こっている。」
「ああ。一人一つずつ行ってくか。」
「最初は桜!」
「私!?」
急な振りに、びっくりする。
けど・・・・やっぱり、これが安心する。
「えーっとね・・・この、誰も覚えていない世界にどうして連れてこられたのか。」
「次蓮華!」
先輩は小さくため息をつくと話し始める。
「ここで俺たちがどうして急に会えるようになったのか。」
「うんうん・・・最後に、この世界は何のために作られたのか、ということ。」
いなりくんは静かに告げた。
けど、先輩が一つ指摘する。
「いや・・・もう一つある。どうやって戻るのか。」
「・・・一番大事なこと、忘れちゃってんじゃんいなりくん。」
そして、いなりくんは自分の過ちを隠すかのようにわざと大きな声で話し始めた。
「わーわー!じゃあ、それを解くにはどうするのか、考えよう!」
「はぁ・・・いつまで経っても、狐は狐だな。」
いなりくんは先輩のぼやきも無視する。
「最初っから・・・考えよう。まず、『どうして連れてこられたのか』。」
「心当たりは、ない。」
「私も・・・」
急に連れてこられちゃったんだもんね。
「まあまあ、これは置いといて・・・次。どうしてここで会えるようになったのか。」
「それは俺が答えられると思う。」
「先輩が・・・?」
「ああ、完全ではないが。」
その言葉に、ほっと落ち着く。
「誰かが・・・脳に語りかけてきたんだ。」
「誰かって?」
「子供みたいな声だった・・・『巻き戻しの五つ目の夜。思い出の場所に集いし者、石が通じる』と言われた。・・・まあ、何者かはわからないが。」
子供みたいな声・・・人形屋敷の時、私はそんな声を聞いた。
もしも・・・あの声がなかったら、今頃私は影だったのかもしれない。
隣を見る。
気のせいかもしれないけど、いなりくんの瞬きの回数が増えた。
・・・まあ、気にしすぎかな。
「で、まさかと思って来たらこれだ。・・・何だったんだ、本当。」
「さあ、ね。まあ会えたしいいんじゃないか?」
少し早口ないなりくん。
そして、最後の謎の話が始まる。
「どうして・・・この世界が作られたんだ?」
いなりくんが首を傾げる。
「季節が変わって、誰も覚えてなくって・・・うるるさんも、記憶無くしちゃって・・・」
「「うるる!?」」
私の言葉に、二人は食い気味に声を発する。
「はい、うるるさん。もしかして、二人の世界にはいないんですか・・・!?」
「その通りだ。まあ、俺のところにはアイリがいる。が、やはり一週間で記憶がなくなっていた。」
「この流れだと、いなりくんのとこにはスイリくんとウルフさんがいるはず。」
私はいなりくんの顔を見る。
けど、いなりくんは首を振った。
「だ〜れもいない。」
「そうか。だったら、2人はどこに?」
「・・・私、わかっちゃったかもです。」
私はそう言った。
「ウルフさんは、記憶喪失だから・・・」
「「記憶喪失!?」」
再び声を発する二人。
しまった、と私は思った。
「うるるさんから聞いたんですよ・・・内緒、ですよ?」
『わかった!わかったから早く!』
というかのようにいなりくんはぶんぶんと頭が取れる勢いで首を縦に振る。
「記憶喪失で、人間界に何でいるかすらわからなかったらしいんですよ。でも、もしかしたらこの世界のウルフさんは記憶をなくさず、冥界で活動し続けているかも・・・って、ことです。」
「確かに。」
先輩はそう溢した。
「じゃあ、スイリは!?」
「仕事か何かで街を転々としてるだろう。アイリも突然出会ったくらいだし。」
「そっか・・・で?今何の謎、話してるんだっけ?」
いなりくんは頷いたのも束の間、首を傾げた。
「この世界は何のために作られたのか、だ。」
「本当に、誰が、何のために・・・」
いなりくんは『そうだった。』と言って、話し始める。
「桜、多分誰かがやったわけじゃない。」
「どうして!?」
「だってさ・・・考えてみてよ。世界を三つ作って?記憶を消して?一週間経つごとに記憶のリセットと季節の変更?いやいや、霊力がやばいでしょ。こんな霊力、オウタでさえも作り出せない。そして霊力が膨大すぎて幽霊警察に即バレ、ENDだ。」
いなりくんはそう捲し立てた。
た、確かに。
「じゃあ、自然発生ってことですか?」
「そうとしか考えられないな。狐の言う通りだ。」
先輩の言葉に、いなりくんはわかりやすすぎるドヤ顔をした。
思わず笑っちゃう。
笑いながら、ふと思い出した。
今の季節・・・いなりくんと出会った時の季節と同じ。
「先輩、記憶でできているって言う考えは?」
「どうしてだ?」
「この季節・・・いなりくんと出会った時と、全く同じような感じなんですよ。」
「狐は?」
「うん、桜が言ってることと同じ。」
「じゃあ・・・あの、最初の季節も誰かの記憶ですか?」
そういうと、先輩が口を開いた。
「俺も何か・・・そう言うものを感じた。」
「どんな記憶です・・・」
そう言いかけたところで、触れてはいけないものを感じた。
慌てて口をつぐむ。
逆鱗に触れちゃったら・・・先輩、どうなるんだろう。
そして、私が言いかけたことがなかったかのように、話は進んでいく。
「だったら、次はいなりの記憶か?」
「だろうね。」
「いつぐらいだ?」
「そんなの・・・ありすぎて、わからないよ。」
いなりくんは空を見上げる。
その言葉には、妙な重みがあった。
それに反して・・・見上げた空は、満点の星空だった。
無数の星が個性を主張するかのように、輝き合っている。
「記憶の具現化・・・じゃあ、ここから4つ目の謎に繋げられるな。」
「はい、どうやって戻るのか。」
私と先輩の声に、いなりくんは視線を戻す。
「記憶から本当の世界に戻る方法、ですか・・・わかりやすく、鍵や扉はもちろんないですよね。」
「ああ。記憶から戻れるもの・・・違和感を感じたりとかはしていないか、二人とも。」
先輩の言葉に、二人揃って首を横に振る。
「そうか・・・何か、わかりやすく場所とかのヒントがあったらいいんだがな。」
「それがあったら俺たち今苦労していないってぇ・・・。」
いなりくんはヘナヘナとした情けない声を出す。
「記憶の世界から戻るには、何かきっかけが必要なんだよね。」
「そう。」
いなりくんは相槌を打つ。
「だったら、何かあるはず!」
「どうして、そう考えたんだ?」
先輩がこちらを向く。
「だって、人の仕業ではないんですよね。だったら、ここに永久的に閉じ込めるようなことはしないんじゃないかな・・・って、ただの仮説ですけどね。」
「・・・そうだな。」
「何か、違和感・・・場所か?記憶の世界なら俺たちの、どの世界にも存在する俺たちの過去に関わる場所・・・とか。なんかありそうじゃない?」
「・・・確かに。」
いなりくんが漏らした言葉が、はっきりはしていないのに納得できた。。
「記憶の核心を突くものがどこかにあるはずだ。」
「おい、もしもそれが間違っているならどうするつもりだ?」
「まあまあ、いいじゃん。時間はた〜っぷり、あるんだし。」
「・・・確かに、な。」
人為的なものじゃない、自然なもの。
だから、時間は経っても大丈夫・・・そんな言葉に、私は頷くことができなかった。
・・・一刻も早く戻りたい、そう考えているのは私だけなのかな・・・?
「記憶の核心、か・・・。俺たちに関わる、大きな場所・・・。」
先輩がボソリ、と呟いた。
そんな場所、少なくとも考えつかない。
二人もそんな顔をしている。
「・・・まあ、次は2日後の夜に会おうよ。」
静まり切った中、いなりくんがそう言った。
「次の季節で、何かわかるかもしれない。」
「また会えるかは、わからないけどな。」
先輩の言う通りだけど・・・試す価値は、ある。
「じゃあ・・・また、2日後。」
「ああ。」
先輩と私は腰を上げる。
いなりくんは手を振った。
「じゃあね!」
数歩進めただけで、いなりくんの姿が見えなくなる。
そして、神社から出ると先輩の姿は見えなくなった。
どうやら、3人で通じ合えるのは神社の中だけみたいだった。
あえて、良かった。
次は、2日後。そこで、記憶の記憶の核心がどこかがわかるかもしれない。
怖かった。
けど・・・少し、楽しみな自分もいた。
桜と別れた後。
蓮華は家へ戻り、自室へ入る。
そして、迷わず引き出しを開ける。
白い、角・・・
「・・・俺は、また力を使う時が来るのか?」
蓮華は、白い角を握りしめる。
嫌な記憶が蘇る。
「まあ、いいな。」
蓮華は角を引き出しにしまうと、音を立てて引き出しを閉じた。




