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孤立した三人

世界は三つにキリトラれた。

そして・・・三人がイナクナッタ。

「「「・・・どうなってる?」」」

いなり、桜、蓮華は空を見上げてそれぞれが同じ一言を呟いた。

和気藹々(わきあいあい)としたいつもの雰囲気は全くない。

ただ冷たい絶望だけが張り詰めていた。

___________________________________________________________________

「うるるさん!」

勢いよく古民家の扉を開け、五右衛門風呂の蓋めがけて駆け込む。

階段を踏み外しそうになりながら、地下へ降りる。

そして勢い余ってつい部屋のドアを乱暴に突き飛ばした。

「うるるさんっ!!」

「!?桜。そんな勢いでどうした。」

部屋の中では、うるるさんが目を丸くしていた。

その“いつもの姿“をみた瞬間、胸の奥で張り詰めていたものがぷつり、と切れた。

スイッチが入ったかのように、目から涙がこぼれ落ちる。

「よかっ・・・たぁ・・・!」

絞り出した声は、自分でも何を言っているのかわからないほど震えていた。

「どどどどうした!?ていうか、学校は!?」

「昼休みです・・・!抜け出してきました!」

「・・・それほど大事な事情があるのか?」

その柔らかい声色に、かえって涙が溢れる。

声を出すことができなかったから、首を大きく縦に振った。

「うるるさん!私・・・先輩の元に行ったら・・・先輩がいなくて!」

「休みってだけじゃないのか?」

うるるさんは首をかしげた。

・・・そう思うのも無理はない。

「違うんです!先輩・・・蓮華先輩の存在が、ないことになってて・・・出席番号も先輩の物だけないし、机も椅子も・・・。」

ひくひくと喉が震えて、声が裏返る。

「いなりくんのとこに行けるお稲荷さんを食べても、何も起こらなくって・・・!」

うるるさんは、『落ち着け』と言って、ソファーに座らせてくれる。

「・・・確かに、それは異常だ。桜、他にその人のことを覚えている人は?」

「いないんですよ!こんな時に限って、いなりくんもいないし・・・先輩のこと大好きだった友達でさえ、何も・・・!」

「そっかそっか・・・知り合いが次々いなくなるのは、霊力が関係しているのか?」

「知り合い・・・?」

小さな違和感が背筋を走った。

“その人“や、“知り合い“。

まるで、うるるさんまで先輩のことを忘れたみたいな、他人行儀な響き。

その瞬間、嫌なことが脳をよぎった。

そして、それは実現してしまう。

「桜・・・落ち着け、蓮華とかいなりとか言ってるけど・・・誰だそれ。あたしは桜しか知らないよ?」

暖かい声色だった。

けど、その言葉が私の心を極限まで冷やし切って、希望を打ち砕いたのだった。

___________________________________________________

「ふっふーん!どんなもんだ!」

裏世界。黒い町の中で、いなりは影を真っ二つに切り裂いていた。

「オオオオオ!」

雄叫びを上げながら、襲いかかってくるたくさんの影。

重心を保ったまま、流れるような足捌きで次々と両断していく。

「ふう・・・あれ。」

息を整え、いなりは周囲を見回した。

あれほどにわいていた影が、いつの間にか1匹もいない。

気づくと全て自分で倒してしまっていた。

「・・・桜は?」

桜は学校終わりにいつも少し寄って影倒しを手伝ってくれる。

なのに今日は・・・待てど暮らせど来る気配がない。

「熱でも出したのかな・・・?」

呟きながら剣を地面に突き立てて、一気に元の世界へと戻ってくる。

見上げた空は、すでに夕焼けに染まっていた。

「夕方か・・・やっぱり、遅い!」

いなりは剣をしまうとすぐ近くの桜の家へ走り始める。

「いるかな?」

そっとドアを開け、そっと閉める。

(桜の部屋は・・・2階の・・・この部屋!)

そして、いなりはドアを開ける。

「桜!遅かったじゃ・・・ん。」

言葉が、喉の奥で凍りついた。

いなりは衝撃の事実を目の当たりにした。

誰もいない。

それどころか、ベッドも机も家具の痕跡すら何もない、ただの“空き部屋“だったのだ。

「・・・え?」

いなりは声を漏らした。

おかしい、どう考えてもおかしい。

いなりは慌てて向かいの部屋のドアを開ける。

そこには、今アイリとスイリがいるはず・・・だったのだが、やはりそこにも誰もいない。

「・・・どうして?」

いなりはこの異常な事態に、ただただ立ち尽くしていた。

(部屋は絶対に間違ってない。ここで合ってるはず。・・・そうだ、蓮華!)

いなりは蓮華に頼ろうと、全力で今度は蓮華の家へ走る。

何も考えられない。全力で足と手を動かす。

「蓮華!蓮華!」

蓮華の家の近くの空き地でとにかく名前を呼ぶ。

蓮華の術が仕掛けられているこの場所なら、自分が来たら姿を現すはず。

しかし、何も起きない。。

「嘘だろ・・・?」

胸を締め付けるような絶望が押し寄せる。。

「いや、うるるとウルフが・・・!」

再び駆け出す。

が、結果は同じだった。

五右衛門風呂の蓋を開けても、あるのは変哲のない床のみ。

地下へ続く階段など、どこにも見当たらない。

とぼとぼと古民家を後にして、稲荷神社への帰路を歩くいなり。

「おかしい・・・絶対におかしい!」

その叫びに、反応はなかった。

___________________________________________________

「失礼します。」

蓮華は一年生の教室の扉を叩いた。

桜に聞きたいことがあったからだ。

二年生が訪ねることが珍しいのか、物珍しそうな目が蓮華へ向く。

「二年の天羽蓮華です。佐倉桜さんいますか。」

蓮華がそう告げた時、空気が止まったような感覚がした。

生徒のざわめきが嘘のように消え失せる。

その事態に、蓮華が目を丸くしていると、1人の一年生が口を開いた。

「天羽先輩、えっとあの・・・佐倉桜さん?は一年生にはいませんよ。」

「・・・え?」

聞き間違いかと思った。

しかし、いくら視線を巡らせようとも全員『誰?』と口にしている。

「いやっ・・・ここ、一年生ですよね?」

慌てて問いかえす蓮華に、生徒は困惑した顔で答えた。

「はい。ですけど・・・勘違い、じゃないですか?」

勘違いなんかじゃない。

絶対にいるはずだ。佐倉桜が。

「嘘・・・ですよね?」

すると別の一年生が口を開いた。

「じゃあ、ネームプレート見てくださいよ。」

言われるがまま、蓮華は視線をネームプレートへ向ける。

『佐倉』という字を血眼で探す。

が、さ行にその字は見つからなかった。

・・・何かの間違いだ、きっと。

そう思おうとしたが、間違いなど存在しなかったように、時間は進んでいくだけだった。

「いなり!いなり!」

放課後。

蓮華は町中を駆け回った。

だが、稲荷神社にも。古民家にも。霊力の気配は一切なかった。

「どうして、だ・・・?」

桜の家に行こうともしたが、もしもそこに桜がいなかったら?

ただの変質者になってしまうだろう。

「くそっ・・・!」

蓮華は珍しく声を張った。

そこでだった。

「そんなに間抜けな顔をしてどうした?警察。」

「・・・アイリ!」

暗闇に、一筋の光が刺した気がした。

「何だなんだ、警察。珍しく取り乱してるな。」

アイリは『いい気味』というかのように、鼻で笑う。

「桜を知らないか?あと、いなりとウルフ、うるるも。」

「・・・は?急に頭が壊れたのか、警察。」

目を丸くするアイリ。

蓮華は、『自分のことをからかうために嘘を言った』

と一瞬考えた。

だが、アイリの瞳の奥にあるのはからかいではなく、本物の『何こいつ』という困惑だった。

「お前がいる家の桜だ!」

「・・・は?吾輩がいる家?吾輩はずっと外で単独行動だぞ?今更何を。」

アイリは目をぱちくりとする。

蓮華の顔はどんどんと青ざめていく。

「は・・・?どうしてだ。」

だが、いつも通りのアイリが目の前に“いる“ということだけが、今の蓮華にとって唯一の救いだった。

「とにかく!俺のいうことを信じてくれ!」

「誰が耳を傾けるものか・・・。」

と言いながらも、アイリは『早く言え』と言うふうに蓮華と目を合わせた。

___________________________________________________

そして、夜。

桜は誰もいない家の前で。

蓮華は誰もいない家の横の空き地で。

いなりは誰もいない稲荷神社の縁側で。

それぞれが、気分を映し出したかのような漆黒の空を見上げて言った。

「「「・・・どうなってる?」」」


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