いなりの作戦
潜入し、桜は上へと続く階段を見つける。
アイリは上にいる。
それだけはわかっていた。
そして、いなりはまさかまさかの・・・!?
桜が階段を見つける少し前・・・。
がたんっ
「おうわやっべ!こんなところにゴミ置くなよ!!」
いなりは足元のゴミを鋭い目つきで睨みつける。
(なんだこれ・・・金属?)
すると。
「侵入者!襲え!」
「あーもう!ゴミのせいだ!」
どちらかというと、いなりの声が原因なのだが、いなりはしっかりとゴミのせいにする。
二匹のうち、一匹が稲荷に槍を突きつけて、もう一匹が襲いかかる。
「さあ・・・仕方、ないね。」
いなりの目がほんのり黄金に光る。
しゅばっ
光速の速さで、いなりの剣は魚から頭をもぎ取った。
「っチ・・・。」
魚は舌打ちをすると、走って角を曲がる。
「あっちょっおい!待て!」
いなりは魚を追う。
そして、角を曲がるとそこには魚の大群が、いなりを待ち構えていた。
「げっ・・・。」
素早く後ろへ曲がった魚がいなりの手から剣を叩き落とす。
そして、腕を固定され、地べたに座らされる。
「ほう、これが侵入者とやらか。」
「でも、情報と違うようですよ。」
大群の中で一匹、体が大きく、装備も豪華な魚がこの群れを束ねているようだ。
「情報とは違う?どういうことだ。」
その一際大きな魚は、目を細めた。
体の色の明度が少し下がる。
「いや、銃を持っていたそうですよ。こいつは剣じゃないですか。」
(・・・桜のことだ。まさか・・・捕まった?)
いなりはほんのり不安を感じたが、魚の言葉により、不安は打ち切られた。
「部下たちが発砲音を聞いて、駆けつけた時にはすでに・・・跡形もありませんでした。」
「けしからん!」
その言葉と共に、『情報と違う』と言った魚の肉が四方八方に散らばる。
ボトボト、と痛々しい音がなる。
「異物が・・・ここに紛れているというのか!全く、今日に限って・・・。」
大きな魚は、ひどく怒りをぶちまける。
「ま、まあ・・・弟の儀式の方はちゃんと進んでいます。」
『弟』という言葉に、いなりの耳が一瞬動く。
すると、縛られた手首に何かが触れた。
それをしばらく触ると、自分の剣だということがわかった。
そっと手繰り寄せ、剣を立てる。
そして。
「どうわっ!」
「なんだ!」
いなりは転ぶふりをする。
上手いこと刃がチョーカーに当たり、チャームへと変化をする。
「おいっ!なにをした!?」
「いや、転んだだけです。」
(あー、ビビった〜バレたら俺も終わりだもんな〜。)
いなりは怯える表情を作り、なんとかその場をやり過ごす。
「まあいい、姉の方は?『弟の方は』と言っただろう。」
「それがですね・・・ひどく落ち着いていまして。」
「不自然なのか?」
「いや、決してそういうわけじゃないんですが・・・。」
モゴモゴといい籠る魚に、『いい籠るな!はっきり言え!』と大きな魚は言った。
辺りの魚の体がビクッと震える。
その間、いなりは後ろ手をそっと動かしていた。
自分の剣を思い浮かべ、手触りや形、色。
寸分の狂いのないように、正確に、正確に。
魚の怒りがおさまったのか、いなりは無理やり立たされる。
「ほら、こっちに来い!しばらくして人魚様に見てもらった後・・・霊絞り、かな?」
一匹の魚はいなりの目を覗き込んだ。
「おい!こいつの武器を回収するのを忘れるな!」
その時。
いなりの後ろには、『いなりの剣に“そっくり“な物』があった。
寸分の狂いなく、普通の人が見たらまんまと騙されるような、代物。
「よし・・・間違いないな。上に行くぞ!」
その声に、いなりはこっそりと微笑んだ。
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その頃、桜は・・・。
「あーあ、見つからない。」
でも、上の階にいる・・・っていうことは確かなんだけどな〜。
何度か、階段を登り、何度か階段を降り、何十回か角を曲がった。
今、正確な位置はわからないけど・・・最初にいた階より、5階分上、ということはわかっている。
ガシャン、ガシャン
鎖を引きずるような音がすぐそばから聞こえ、狭い通路に身を潜める。
「ほら!さっさと歩け!」
看守の荒い声が聞こえてくる。
息を殺し、そっとやり過ごそうとする。
その時だった。
通路の隙間から、見覚えのある顔が見えた。
思わず、大きく息を吸う。
そうだ・・・いなりくんだ。
いなりくんと目が合う。
・・・どうして?どうして捕まったの?
心配と焦燥感で胸がいっぱいになる。
どうする?このまま捜索するにも、探した後どうしたらいいかなんてわかんないし・・・。
その時だった。
いなりくんは私の方を急に指差す。
「あ!桜、どうしてこんなところに?」
「!?」
「もう1人の侵入者、発見!」
ガヤガヤと声が聞こえる。
魚たちの声だ。
ここからでも、大人数でいなりくんを取り巻いているということは十分わかった。
慌てて立ち上がる。
こんな奴らに襲い掛かられたら・・・絶対に捕まる。
銃を構えて、撃とうとする。
その時だった。
いなりくんは、笑って口の前、人差し指でバッテンを作る。
「どういうこと・・・?」
私はそれに驚き、思わず足を止めてしまう。
“逃げるな“と言っているわけじゃないよね・・・?
しかし、その隙を突かれて手をひねられる。
ズキっと痛みが走る。
銃を持つ手が反射的に開く。
・・・まずい!
銃をいなりくんの方へ投げる。
この騒ぎの中、いなりくんの方には警戒が薄れている。
いなりくんは縛られた腕を力を入れて無理やり伸ばし、なんとかキャッチをする。
「っ・・・!?」
私は息を呑む。
いなりくんの手に・・・私の銃があったのだ。
だから、いなりくんの手の中には銃が二つ。
いなりくんは、帯に本物の銃を挟み、謎の銃は地面へ落とす。
ガラッと音が鳴り、魚たちが一斉に落ちた銃に目を向ける。
「よし・・・これで2人揃って、確保。武器もないな。」
武器・・・いなりくんの首に目を向ける。
剣のチャームが何事もなかったかのように、揺れている。
すると、いつの間にか手には手錠をかけられていた。
いなりくんの手にもだ。
足には、鉄の輪っかをはめられ、鎖に繋がれている。
その鎖は魚が持っている。
「ど、どういうこと?」
私は真っ先にいなりくんに駆け寄ろうとするが、看守に阻まれる。
「話すな!よし・・・ここの牢屋に行け!」
私たちの鎖を持った看守は、私たちの先に行く。
鎖がピン、と張って危うくバランスを崩しかける。
鎖はつながれ、非情に鍵までしっかりと閉められてしまった。
「おい、ここの牢屋で合ってんのか?ここ、生贄用の牢屋だけど・・・。」
「こいつらはもうすぐ人魚様に見て貰わなきゃいけねえから、近くに置いとくんだよ!」
少しして、看守がいなくなり、声も遠ざかっていく。
「・・・ねえどういうこと?」
私はいなりくんの方に詰め寄る。
2人揃って捕まり、偽物の銃・・・何か策があるんだろう。
「ちょっとした作戦だよ。さっきの銃は、俺の霊力の化身。」
「え、あれが?」
「うん・・・。魚たちはオウタの霊力で作られた物だから、あそこまで動くけど・・・俺ができるのは、物の具現化。こっそり作ったんだ。」
「こっそりって・・・バレたらどうするつもりだったの?」
すると、いなりくんはこう言った。
「バレたら・・・バレた時に、だよ!」
いなりくんはひひっと笑った。
そこで私は気づいた。
いなりくんの瞳が、太陽を映したかのようにほんのり黄金を纏っていることを。
「さて・・・まずはここから出ることを始めようか。」
「でも・・・どうするの?またバレたら・・・タダじゃ済まないよ?」
「大丈夫。俺たちの狙っているものは、両方ともこの階にいるってことがもうわかったじゃないか。」
いなりくんは高く飛び上がって頭を下げる。
そして、その反動で高く跳ねた剣のチャームを口で咥えて引きちぎる。
そして、現れた剣を口で咥えたまま、鎖を断ち切る。
そして鎖が音を立てて地面に落ちる前に、足で防ぐ。
「・・・で?これからどうするの?」
「もちろん・・・救出だよ!若干力任せでも構わない。アイリさえ連れ出せれば・・・こっちのもんだ。」
「アイリちゃんを救った後は?」
「アイリと桜は人魚のところへ行って。俺はスイリを救う。」
「・・・わかった。」
いなりくんは、私の鎖も切る。
銃を私にくれる。
「じゃあ・・・救出、開始だよ?」
「もちろん・・・絶対、救う。」
いなりくんは、その剣を振って、ドアを破る。
大きな音が鳴る。
「じゃあ・・・なるべく早く!」
私たちは、全力で地面を蹴った。
この階を一階、ぐるっと回る・・・看守がいたら、即やっつける!
いなりくんが先導をしてくれている。
「ねえ・・・どうしてこっちに行っているの?」
「霊力の察知だよ。強い霊力が・・・こっちから漂ってくる。」
「匂いじゃあるまいし・・・というか、霊力が漂ってくるんならもう見つかってるでしょ。」
私はいなりくんを見る。
「いや・・・相当近くないと、感知は難しいからね。」
その時だった。
急にいなりくんが立ち止まる。
私は、思いっきりいなりくんに突っ込んでしまう。
「ちょっと!隠れて!」
「わ、わかった!」
隠れ、そっと顔を覗かせる。
すると。
「離せ!離すんだ!」
「暴れるな!痛い目に逢いたいのか!」
・・・耳が痛い。
聞きたくて、聞きたくてたまらなかった声。
手錠をされた・・・アイリちゃんだ。
私たちより、もっときつく拘束されている。
「最後の晩餐だ、楽しんで食え。」
「くっ・・・食いたくもないがな!」
廊下を横切り、アイリちゃんと看守は一つの部屋の中に入って行った。
「今なら助けられ・・・。」
そう言った時だった。
ざくっ
いなりくんの身体を一本の槍が貫いた。
「カハッ・・・」
その勢いで、いなりくんは倒れる。
槍は、完全にいなりくんの体を貫通していた。
「なっ・・・なんだ・・・?」
いなりくんの口から、赤い血が滴り落ちている。
白い着物に紅が広がっていく。
「大丈夫・・・じゃないよね!?いなりくん!!」
頭の中がいろんなことでいっぱいいっぱいになる。
「うふふ・・・会えて光栄です、守護霊さん。」
その声を聞いた瞬間、身体中に鳥肌が立った。
ジメジメ、ヌメヌメした、いやらしい声。
頭の中に入ってきて、2度と離れてくれなさそうな声。
「だっ誰!?」
そう言って、振り返った時に視界に入ったものは、写真のドス黒いヒレ。
慌てて顔を覗かせ、廊下を見るけどすでに人魚の姿は消えていた。
「どどどど、どうしてっ!?」
そして・・・人魚より、いなりくんだ!
元気を無くし、ぐったりとしてしまっている。
「いなりくん!ああ、どうしよう・・・槍を抜くの?え?」
パニックになり、なにもできなくなる。
槍を抜こうかと思ったけど、手が震えて決心ができない。
その時。
「桜、のいう通り・・・アイリを助けるのは、今がチャンスだ。」
いなりくんがゆっくりと上体を起こす。
「桜なら、やれる・・・。」
「や、やれるって・・・いなりくんは?いなりくんは!?」
いなりくんはそっと槍の持ち手に手をかける。
「俺は、大丈夫・・・幽霊だから。」
「でも!」
「いいんだってば!」
その強い口調に、つい怯んでしまう。
いなりくんは大きく目を見開くと、咄嗟に謝ってくれた。
「ごめん、つい・・・。」
「ううん、いいよ。でも・・・そこまで言うなら。」
私がそう言うと、いなりくんは槍を持つ手に力を込めて、一気に槍を引き抜いた。
血が溢れ、血溜まりを成していく。
「っ・・・。」
あまりの痛々しさに、私の体も痛くなってくる。
「む、無理しないで・・・よ?」
パニック、焦り、心配・・・負の感情でいっぱいになる。
「いいんだ。人を心配する暇あったら・・・自分の心配をしたら?」
いなりくんは穴の空いた体に手を当てる。
その姿は、心くんを彷彿とさせた。
「自分の心配って・・・。」
“自分の心配“私はそれを否定することができなかった。
でも・・・いなりくんの言葉を聞いて、勇気が出た。
いなりくんは大ダメージを喰らったのに、めげずに前に進もうとしている。
・・・私も、私もだ。頑張らなきゃ。
後1話で、50話・・・。




