狐の歌が聞こえる夜
『人じゃないかも』
そんな言葉を思い出していた桜。
すると、まさかまさかの歌泉へ向かうことになり・・・!?
森の奥から聞こえてくるのはなんなのか。
人じゃないかも・・・か。
一昨日、いなりくんに言われたことを思い出す。
・・・やけに、真面目だったないなりくん。
先輩とか・・・なのかな?
いや、先輩は幽霊警察だから、ほぼほぼ人間じゃない・・・のかな?
そんなことを考えていると。
「失礼します。2年A組の天羽蓮華です。」
・・・!?
ちょうど今、考えていた名前が聞こえて、息を呑む。
教室の空気が変わる。
・・・なんですか!?先輩!
「・・・佐倉桜さん、いますか。」
どうにかこうにか逃げようと荷物をまとめて席を立とうとした時には、すでに時遅しだった。
視線が私に集中する。
・・・逃げられない!
顔を上げなくても・・・見られていることは十二分にわかる。
「はっはい!今行きます!」
小さくなって、先輩の元へ向かう。
うう、背中に突き刺さる視線が痛いよ〜!
「な、なんのようなんですか?先輩。」
「・・・オウタの話だ。」
「ちょっ・・・それ今言いますか?」
「今言わなくていつ言う。」
先輩は淡々と答える。
「で?なんですか?」
『早く終わらせたい』と言う気持ちのせいか、口調が強くなっている気がする。
「今夜・・・あの泉の近くにある、郵便局まで来てくれないか?」
「もしかして、行く気なんですか?いなりくんは行くなって言っていましたけど・・・。」
先輩の言葉に、思わず目が丸くなる。
「いや、言い出しっぺは狐だ。授業中に俺のノートに落書きをしながら言っていたよ。」
先輩は一瞬、目つきが鋭くなる。
あらら・・・相当怒っているな、落書き。
「ま、まあまあ・・・。何か、わかった・・・・のかな。」
「時間は未定だ。」
「え!?」
「大丈夫だ。俺といなりが迎えに行く。いなりが行くそうだ。」
こう言う時、幽霊ってのは便利だな・・・。
「わ、わかりました。」
とりあえず、と頷く。
おおよそは・・・確認できた。
「じゃあ、また夜に。」
先輩はそう言って、私にくるり、と背を向けた。
___________________________________________________
「桜!迎えに来ました!」
「い、いなりくん・・・遅いな。」
じっと睨む。
「あれ?蓮華に話聞いていない?」
「聞きましたよ!夜とは言っていたけど・・・・まさか11時に来るとは。」
10時から布団に入って、意識を持っておくの・・・大変だったんだよ!
「ごめんごめん⭐︎じゃあ・・・行こう!」
いなりくんはそう言って、私の手を握る。
「行くって・・・どうやって?」
下手にドアを開けると・・・向かいの部屋で寝ている2人を起こしちゃうよ!
「だから・・・こうやって、だよ!」
すると急に、いなりくんは私の体をヒョイ、と持ち上げた。
すっと背中に手を回して、お姫様抱っこ状態になる。
・・・・なんだか、嫌な予感がする。
『何!?』と言う暇もなく、いなりくんは窓枠に足をかける。
何をするのか察した時にはもう・・・いなりくんは実行をしてしまっていた。
「ひっ」
やけに冷たい、夜の風が顔をくすぐる。
わずかに黄土色のいなりくんの髪の毛が顔に触れる。
すぐに飛び降りはしなかった。
今、一回の屋根に私たちはいる。
「ももももしかして・・今から地上に飛び降りたり・・・?」
恐る恐る顔を覗き込む。
いなりくんの顔には、やけに怖い笑みが浮かんでいた。
「もちろん。」
それと同時に、屋根からいなりくんは飛び降りる。
「いやっt・・・」
叫びそうになる口を手で塞ぐ。
びゅうううっと顔に強く風があたる。
どんどんと地面が近づいてくる。
すとんっ
いなりくんはほんの少し、音を立てて地面に綺麗に着地する。
「どお?痛いとこ、ないでしょ?」
「ま、まあ・・・スリルは満点でしたけどね。」
そして、体をくねらせて地面に足をつける。
「なあ、狐。その様子だと佐倉さんに説明無しに屋根から飛び降りたな?」
その声に、いなりくんはすごい勢いで振り返る。
「いやっこれはっ違くてっ・・・!」
「何が違うの?いなりくん。説明、なかったよね。」
月光に照らされるいなりくんの顔が青ざめる。
「さて、落書きと説明のなかったことについてじっくりと説明をしてもらおうか。」
先輩の口調は優しかった。
ただただ・・・声色が、いつもの何倍・・いや、何百倍も怖かった。
___________________________________________________
「おぅわ・・・・。」
先輩のお説教がひとしきり終わった時。
いなりくんは怒られ疲れでげっそりとしていた。
「お前が悪いだろう。」
正論をぶつけられまくって、だいぶやつれたいなりくん。
ちょっとかわいそうに思っちゃうけど・・・屋根から飛び降りるスリルに比べれば、小さいことだ。
「ねえ桜!可哀想と思わない?俺のこと!ねえ!」
服の裾をひっぱってくるいなりくん。
「ごめんけど・・・・思わない。」
いなりくんは先輩の背中に飛びついた。
「ねーえ!残酷だって!人手無しこの野郎!ニンニクで炒めてやるよ!」
動揺をしているのか、いなりくんは意味不明なことを言っている。
「どうせ俺は人じゃありませんよ。」
やれやれ、と先輩は目を伏せる。
「・・・ねえ。」
「なんだ?」
「疲れた。」
「・・・?」
一瞬先輩は首を傾げるが、すぐに先輩は背中に張り付いているいなりくんの手を引き剥がした。
「うわああー!」
全体重をかけていたのか、いなりくんは尻餅をつく。
「イッタタタタ・・・。」
「だ、大丈夫?」
少し可哀想になって、手を伸ばす。
「ありがと・・・。」
いなりくんは手を掴むと、腰をさすりながら立ち上がる。
「ねえひどいよ!急に手を解くなんて!」
「すまない・・・少々、大きめの虫がついていたのかと思ってな。」
先輩は明後日の方向を向いて、あからさまな嘘をつく。
「むっ!」
それに懲りず、いなりくんはねえねえ、と先輩に声をかけ続ける。
「ねえ、蓮華!」
「なんだ・・・?」
ねえねえねえとうるさかったのか、先輩は返事をする。
ぐちゃり
「!?」
足元の地面が変わった。思わず下を見る。
「ぬかるんでいますね・・・いつの間に、こんな遠くまで?」
30分ほど歩いただろうか。
月の位置も高くなってきて、あたり一面を照らしている。
しかし、そんなに幻想的ではない。
むしろ・・・不気味だ。
「池に近くなってきたんだろう。」
「最近、この辺だけに雨が降ったとか・・・。」
だからなのかな?ドロドロになっている。
「靴、汚さずに行かないと・・・。」
ふと後ろを振り返ると、点々と続く私たちの足跡。
一寸先は闇とはこのことだろう。
月光さえも通さないほどの、大きな木が暗く影を落としている。
「佐倉さん。」
後ろから聞こえてきた声に、私は一瞬ビクッとする。
「な・・なんですか?」
不穏な雰囲気に、思わず声が詰まった。
「急に聞くが・・・佐倉さんは、この状況、どう思うか?」
先輩はゆっくりと足を踏み出す。
また一つ、足跡が増える。
「いやそりゃ・・・暗いし、足元はどろどろだし・・・最悪、ですかね。」
いなりくんは珍しく、口を閉じ切っている。
「そう言うわけじゃなく・・・。」
そういうわけじゃなく・・・って?
「佐倉さんは、守護霊と幽霊警察と一緒にいることを・・・どう思うか?ってことだ。」
「・・・本当に急ですね。」
「すまない。」
どう思うかって言われても・・・。
「まだ、不思議ですよ。なんだか、ずっと夢の中にいるような感じっていうか・・・。で、でも。楽しいし・・・いなりくんや先輩と出会えてよかったな〜って。」
ふわふわとして答えになってしまったけど・・・現状は、本当にこうとしかいうことができない。
昔の私にこんなことを言ったら、絶対に信じないと思う。
幽霊なんてもってのほかだったもんな・・・。
「今でも、いなりくんや先輩と出会った時のことは・・・よく覚えています。」
私の言葉に、いなりくんは少し微笑むと、先輩の右側から、私の左側へくる。
「俺も、だよ?桜!」
「ありがとう・・・。」
「まあ、俺もだな。」
先輩は珍しくいなりくんの言葉に同意する。
「狐が何かしでかしたら・・・逮捕、だがな?」
先輩はイタズラっこみたいに笑う。
いなりくんはそれに、ほっぺを膨らませる。
「最近は悪事働いてないし!」
「“最近は“の時点でおかしいがな。」
「むーっ!」
「まあまあ・・・。」
その時だった。
バチバチっ
「っ・・・・!」
先輩の帽子についた宝石が急に光り始めた。
ギラギラと、何か危険を知らせるように。
そして、髪の毛の先が静電気が起こった時みたいに跳ね上がり始める。
先輩の顔に汗が浮かぶ。
「先輩!?」
ファサッ
今度は左側からおかしな音が聞こえ始めた。
「いなりくんまで!?」
見ると、尻尾の毛がハラハラと抜け落ちていっている。
「え!?」
急なことに、固まってしまう。
どどどどどどうしよう!?
2人とも、いったんここから離れなきゃ・・・!
そこで気づいた。
驚きで固まっているんじゃない。
・・・本当に、足が固まって動かないのだ。
「桜も・・・?」
いなりくんは、先輩と私の手を握って、いったんその場からはなれる。
すると不思議なことに、するっと足が動き始めたのだ。
「な、何あれ!!」
それほど走っていないはずなのに、息切れがひどい。
「ショートだよ。霊力の。」
いなりくんは、すでに闇に包まれたさっきまで私たちがいた方に、目を向ける。
「ああ。特に名前はないが・・・前、狐が言っただろう。霊力が満ちた場所に霊力があるものがいくと・・・爆発すると。」
「あ・・・聞いたような、聞いていないような・・・。」
確か・・・小学校に潜入した時だっけ。
「でも、あの時は大丈夫だったのに・・・。」
私はさっき固まった足を軽くさする。
・・・・うん、大丈夫だ。
「いなりと俺といることで・・・・霊力が高まったんじゃないか?影との戦闘なども通して。」
「確かに・・・!」
先輩の言葉に納得して、うんうんと頷く。
「そうしたら、霊力と霊力が反応しあってあんな現象が起こる。まあ、忠告みたいなものだね。」
「ショートの症状は、人それぞれだが・・・・踏み込みすぎると、爆発が起こるというのは皆同じだ。」
「ひっ・・・。」
私は息を呑んだ。
・・・まるこげだ!
「で?どうするんだ?調査はできないぞ?」
先輩がいなりくんにそう言うと、いなりくんは舌を鳴らす。
「チッチッチィ・・・舐めてもらっちゃあ困りますね!」
いなりくんは煽るように人差し指を立てた手を、先輩の前で左右に振る。
「どういうことだ?」
先輩はよっぽど嫌だったのか、振り子のように触れる指をガシッと掴む。
「こまる!」
ああ、と先輩は納得したように声を漏らす。
ほわっと光が広がったかと思うと、すぐにその光は弱まる。
消えた光の代わりに、現れたのは一匹の小柄な狐。
「こまるちゃん!」
「ウーン!ウンウン!」
会えたことがよっぽど嬉しい・・・のかな?
こまるちゃんは私と先輩へ近づいてくると、大きく尻尾を振る。
スンスン、と私の服の匂いや、先輩の服の匂いをたくさん嗅いでいる。
「かわいいね・・・いつぶり、だっけ?」
「人形屋敷を挟んでいるから、日にちの間隔がおかしくなっているな。」
先輩はこまるちゃんの頭を撫でる。
「ほんと可愛い・・・って!いなりくん、まさか・・・!」
ハッと我に返り、いなりくんの方向を向く。
いなりくんは哀れそうな、楽しそうな、変な顔でこまるちゃんのことを見ている。
「・・・狐、残酷だ。」
先輩はそう言いつつも、こまるちゃんをさっと抱き抱えて、いなりくんの方へ連れて行く。
「こまる・・・とりあえず、やって・・・・くれる?」
かわいそうに。
こまるちゃんは大きく首を横に振ったが、いなりくんは問答無用。
「わかった!そんなに行きたいんだね!」
「おい、狐動きをよく見ろ・・・。」
しかし、いなりくんは先輩の言葉を無視。
「ねえ・・・ご主人様の言うことは・・・絶対、だよ?」
いなりくんの圧に押し負かされたかわいそうなこまるちゃん。
すたたっといなりくんの腕を抜け出ると、闇の中へ駆けて行った。
「あーあ、かわいそうに・・・。」
私の言葉に、いなりくんは反論する。
「でも・・・俺は一応、こまるのご主人だから。」
「やれやれ・・・“ご主人“ってだけなのにな。」
「うるせえ!」
場がわっと盛り上がる。
「使い魔ってペットじゃ・・・ないんですか?」
すると、私の言葉に一気に場は盛り下がった。
・・・どしてだ?
「ぺ、ペットって今まで思っていたの?」
「うん。」
目が飛び出らんばかりに、目を見開くいなりくん。
「いや・・・だいぶ、別物だぞ。」
先輩は、目こそ見開いていないものの顔から動揺が見て取れる。
「え・・・?」
「こまるは・・・俺が引き取ったんだ。」
「引き取った・・・?」
「冥界の野生の冥獣だったんだ。こまるは。」
「野良・・・・狐?」
「まあ・・・野良ではなかったんだ。こまるは、霊力を持っていたからとある地域の守護をしていたんだけど・・・扱いがひどくってね。」
「可哀想・・・。」
いなりくんは、ぽつりぽつりと話し始める。
「けど・・・俺が、引き取ったんだよ。俺の言うことを『なんでも』聞く代わりに、稲荷神社の使い魔になってもらうって!」
「可哀想なこまるは“意地悪狐“の言うことを鵜呑みにしてしまったんだな。」
「失礼な!ちゃんと許可もらってるし!」
「果たしてそれはお前の思い込みじゃないか?」
先輩はいなりくんの頬を小突く。
「むー!」
図星だったのか、何も言い返せなくなるいなりくん。
「まあ、とにかく・・・使い魔になった冥獣は、苦しむ必要がなくなる。だから、こまるは今とても幸せだよ!」
「その『幸せ』の前に『不』をつけ忘れていないか?」
「失礼な!」
さっきと似たような流れになっているよね・・・。
やれやれ、いつ帰れるんだと私は肩を落としてため息をついた。
___________________________________________________
こんこん こんこん
月が笑う
こんこん こんこん
森、闇の中。
どこからか歌声が聞こえてくる。
笑い声の混じった、声。
こんこん こんこん
ご主人様 どこですか
月が通っても何も云わん
声はかなり幼い。
しかし、威厳がただものではないことを表している。
こんこん こんこん
赤い鳥居が光ってく
それを潜れば
2度と戻らん
雲に隠れていた月が、再び顔を出す。
月光が2つの影を伸ばしていた。
「ひひひひっ!」
髪の長い方が、楽しそうな笑い声を上げる。
「あはははっ!」
短い髪の方が楽しそうな笑い声を上げる。
その2人の頭には、色違いの狐の面が付いているのだった。
みりぐらむです!
投稿頻度には触れないでおいてください。反省中です(泣)
まあまあ、それはおいておくとして・・・。
今回の話はどうでしたか?
ラストの狐面、彼ら(彼女ら?)は一体誰なのか・・・?
そして、歌泉の秘密とは?
次話も読んでくれたら嬉しすぎます!
ブクマ・評価・感想・レビュー
してくださったら、跳ねて転がって喜びます!(?)
ブクマしてくださっている方!
評価をつけてくれている方!
感謝感激・・・。
⭐︎あらすじ更新しました!




