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影は語らない

影に包まれながらも、なんとか自我を取り戻したいなり。


桜は、蓮華に影に取り憑かれる理由を聞きに行こうとするも、まさかの桜まで・・・!?

「先輩、先輩!」

小声でそう呼びかけて、軽くノックをする。

ゴソゴソと部屋の中から音が聞こえて、少ししてから先輩がドアを開けた。

「先輩、いなりくんは・・・?」

「寝かせている。」

「雑魚寝ですか・・・。」

ちょっと、かわいそうだな。

そのとき、先輩が予想を裏切る発言をした。

「いや、ベッドで寝かしている。」

「!?」

「流石に地面に寝かせるわけはないだろ・・・俺がそんなに酷い人間とでも?」

『当たり前だ』という顔で喋る先輩。

「・・・さすがです。」

そうとしか言えなかった。

地面に寝かせると信じ込んでいた自分が恥ずかしい。

「で、どうしたんだ?狐のことだけじゃないだろ?」

「はい・・・。影がどこから生まれてきたか・・・見当はついてますか?私はめっきり・・・。」

「恐らく、いなりに取り憑いていたんだろう。」

「え!?取り憑くなんて・・・できるんですか?」

「ああ。取り憑いた、というよりは・・・蝕まれかけていた、というとこかな?」

先輩はベッドですやすやと眠るいなりくんを横目に見る。

「ど、どうしてですか・・・?守護霊であるいなりくんが、そんな・・・!」

「ここ最近、狐の様子がおかしいと思っていた。」

「いつからですか?」

喉がカスカスになってくる。

喉が渇いて、頭がくらくらする。

「人形屋敷に来る、三日ほど前だ。」

「!?」

それなら、私も会っている・・・!

なのに、いなりくんの使いなのに気づけなかった。

悔しさと腹立たしさに、自分の唇を噛む。

「ウルフが最初、記憶が歪み始めたんだな。」

「最初って、あの明治時代の没者リスト・・・!」

「そうだ。」

先輩は廊下に出て、柵へもたれかかる。

「三日前、狐のところへ行ったんだ。影と先頭の気配がしたからな。」

「・・・私も行ったのに、なんで気づけなかったんだろう。」

「佐倉さんが知らないのも無理はない。俺は少し、帰るのが遅くなったから。」

「委員会ですか・・・。そして、いなりくんは?」

「『幸、どこ・・・?』とひたすら言いながら影を無闇矢鱈めちゃくちゃに倒していたよ。」

『幸』という言葉に、心臓が一層早く脈を打ち始める。

「無闇矢鱈って・・・?」

「普段の狐らしくない、振り回しているだけの剣技だ。隙間が多すぎる。」

「・・・さっきの、確実に弱らせに来ているいなりくんからは予想もつきませんね。」

「ああ。声をかけても無視され、結局俺はそのまま帰った。」

先輩は、 『あの時狐の話を聞いていたら、早く気づけたのかもな。』と悔しそうに言った。

「私も、気づけていたら・・・!いなりくんがあんな風に、ならなくて済んだのかなぁ・・・。」

複雑に感情が入り混じって、目の前の景色がぐちゃぐちゃに歪み始める。

不気味な暗さを醸し出しているその景色が、もっともっと暗く見えた。

・・・いや、何かおかしい。

けど、この違和感は・・・?

「悔しい・・・。」

「佐倉さんが悩むことじゃない・・・って!」

急に先輩の顔色が変わった。

『慰め』から『焦り』に。

「先輩、どうしましたカッ・・・」

急に喉が掠れた。

この違和感は・・・目の前の暗さだ!

感情だけが理由じゃなくて・・・暗い!

まるで・・・影に、呑まれるように。

それと同時に、めまいをも引き起こす吐き気が襲いかかってきた。

くらっと頭が揺れたような感覚がする。

「佐倉さん!ちょっ・・・」

その瞬間、完全に目の前が真っ暗になった。

・・・やっぱりおかしい・・・。

「先輩、あとはお願いします・・・。」

自分がどうなるかは・・・予想もつかない。

さっきのいなりくんみたいになったら・・・きっと、止めてくれるよね。


ズキン


暗い景色の中、頭に鋭い痛みが走った。

「カハっ・・・・」

目を大きく見開く感覚がした。

けど、景色は広がらない。

・・・意識が朦朧としてくる!

先輩が今どんな顔をしているかもわからない。

次第に、感覚と音も消えていった。


コツン


後頭部に何かが当たる感触がした。

きっと、廊下の手すりだと思う。

痛い、痛い・・・!

頭がもげそうな痛みだ。

そんな中私は、一部の希望を胸に耳に神経を全て集中させて、全力で音を拾う。


・・・ドウシテ?


体の中から、私ではない声が聞こえてきた。

寂しそうな、苦しそうな子供の声だ。

だめだっ!この声に耳を傾けたら!

・・・待てよ、耳が、聞こえる・・・?

もう一度、耳を澄ませる。

「佐倉さん!聞こえるか!」

『聞こえるよ』そう言いたかったけど、声が出なかった。

その代わりに、顔を上下に振った。

その勢いで、わずかな風が顔に当たる。

感覚が戻ってくる。

「佐倉さんが落ち込むことはない!佐倉さんだって頑張っていた!」


・・・・ガンバッテナンカ、ナイヨ


また、あの“声“が芯から語りかけてきた。

だめだ、先輩の声だけ聞くなんて。


(頑張っているのかな、私って・・・。あなたは、どう思う?)


私は心の中で、その影に尋ねてみた。

しかし、『当たり前』というべきか何も返事は帰ってこなかった。

すると、少し間を置いてから声が聞こえてきた。


ドッチデモイインジャナイ?


どっちでもいい・・・・?

さっきと言っていることが違うぞ、この影。


ズキン!


っ・・・!痛い!

危険警報を鳴らすかのように、あの痛みが戻ってきた。

なんで、なんで・・・?


(どうして、そんなことするの?)


胸がどんどん苦しくなってくる。

頭が割れそうだ。

それでも、私は問いかけた。


ワタシジャナイ、コノイタミヲオコシテイルノハアナタ。


(私じゃないよお!私は起こしていない!)


頭を抑えたいけど、手がどこに着いているかがわからない。

これまで“当たり前“のようにこなしてきた動きが、できない。


(どうやったら、止められるの?)


アナタガ、シュウチャクスルノヲヤメル。


(何に・・・・!)


サチトイウオンナノコ。イマ、アナタハジブンデツクリダシタカゲニノマレソウニナッテイル。


(なっているって・・・!?)


ダカラ、イッタンワスレテ。カゲノコンポンヲナクス。


その瞬間、一つ気がついた。

声が、『子供の声』ではなく、『少女の声』に変化しているのだ。

けどその声は、少女の声をしていながら無機質な機械的な話し方だ。

そしてもう一つ気がつく。

影は喋らない、ということを。



(・・・やってみる。)


今、私は誰と話しているかはわからないけど・・・意識があるうちに、執着するのをやめる!

・・・でも、どうやったら執着を辞められるの?

「佐倉さん、佐倉さん!」

その瞬間、先輩の声がふと聞こえてきた。

先輩・・・・?

声を出そうとして、声が出せないことに気がつく。

「佐倉さん!いなりは戻った!幸という人物から一旦離れろ!」

・・・離れる。

考えすぎない、思い込みすぎない。

「自信を持て!佐倉さんはいなりの使いだ!何があっても。あいつは佐倉さんのことを見捨てない!」

・・・そうだ。

いなりくんは、私のことを守ってくれる。

いざとなったら守ってくれる。

シャボン玉のオウタからも守ってくれた。世界の末端でも守ってくれた。

・・・戻る。というか、戻ってみせる!


ジシンヲモッテ。アナタハヒヨリノコトヲワカッテイル。


その瞬間、脳から何かが抜け出て行った。

それと入れ替わりに、生きている感覚?が戻ってくる。


・・・セイコウ、カナ?


あの少女の声が聞こえてくる。


(あなたは、何者なの・・・?)


・・・マタクル。


その言葉と共に、再び何かが抜け出して行った。

そして今度は放心感が入れ違いに入ってくる。

なんだったんだ・・・?あの、声は。

すると、目の前に光。

じんわりとなんだか背中が暖かい。

・・・戻って、行ける!!

光はどんどんと大きくなっていって、しまいには視界いっぱいに広がっていった。

「佐倉さん!佐倉さん!」

その声がはっきりと聞こえる。

そっと瞼を持ち上げると、人形屋敷の景色が広がっていた。

「先輩!私どうなっていましたか!」

「っ良かった・・・!」

・・・でも、どうして背中が暖かいんだ?

その次の瞬間、脳が全てを理解した。

・・・今、先輩に抱きしめられていないか、私!

すごいスピードで首を振って辺りを見る。

やはり、ハグされている・・・!

顔がかああっと熱くなり、さっきとは別の意味でめまいがする。

「せ、先輩・・・?」

「・・・すまない。」

先輩はそっと離れる。

表情は相変わらず変わらない、真顔。

けれど、少し顔色が赤く見える。

それにつられて、顔の表面温度がさらに上がった。

「・・・なんか、すみません。」

いたたまれない気持ちになり、何もしていないけど頭を下げる。

「こっちこそだ。説明もなく抱いて・・・・失態だな。」

「理由がなけれが怒ります!けど、理由があったなら・・・許します。」

「影に蝕まれる条件。それは、心がマイナス思考な時だ。」

「ネガティブ・・・。影ができる条件と同じですね。」

「ああ。いなりは、過去の記憶が蒸し返されてマイナス思考に陥った。そして、影に取り憑かれた。」

そしてそのあと、小さな声で『だから抱いた。』とつけ加えた。

さっきの温もりがフラッシュバック。

一気に顔がまた熱くなる。

「私・・・さっきどうなっちゃっていましたか?」

「目の焦点が合わなくなり、そのあと倒れた。」

「廊下の手すりに頭が当たったのは覚えています。」

「その後、俺が受け止めて・・・正気に戻ったな。」

「え!?それだけ、ですか??」

私が急に大きな声を出したので、先輩は少し驚いたような表情をした。

慌てて、口を塞ぐ。

いなりくんに聞こえちゃったら・・・大変だ!

「それだけ、とは?」

「いや・・・私、視界も感覚も無くなって・・・。先輩に何かしたらどうしよう、と。」

「意識はあったのか?」

「はい・・・。もしかしたら、いなりくんはなかったんじゃないですか?意識。」

「確証は得られないが・・・そうだろうな。本人に聞くわけにもいけないし。」

先輩は自分の部屋の方を振り返る。

「せ、先輩!」

声をかける。

あの少女の声のことを話そうと思ったから。

けど・・・やめた。

このことは・・・内緒、だ。

「なんだ?」

不思議そうに首を傾げる先輩に、私は慌てて言った。

「とにかく、いなりくんの様子には気をつけてください。」

「もちろん、だ。いざとなったら逃げろ。」

「逃げるって・・・?」

「なるようになるだろう。」

先輩は、そっと部屋の中へ足を踏み入れた。

「おやすみ。」

その声は、ひどく眠たげだった。

私は先輩に一礼。

そして、自分の部屋に入ると窓をそっと開けた。

先輩と、ちょっと距離が近くなった気がする・・・。

そう感じているのは、私だけなのかな。

そして窓から顔を出して、下を見てみる。

夜なのに、なぜか庭がよく見える。

それは影に取り憑かれてやけに目が冴えているからかもしれない。

けど、庭の周りは白い霧で包まれて、先が見えないようになっている。

霧はどこまでも続いている。

あの中に入ってしまったら・・・命は、ない。

「神様、お願いします。」

そっと両手を組む。

目を閉じて願う。

本日何度目かのお願いだけど・・・叶えてください!

「元に、戻りますように!」

その一言だけで、心がそっと温かくなった。

___________________________________________________


ドンドンドン!!!


すごい音が鳴り響いた。

眠気に包まれながらも、只事ではない雰囲気を感じていた。

目をこすりながら、ベッドから飛び起きる。

「助けてくれぇ!」

ドアの外から悲痛な叫びが聞こえてきた。






こんばんは、みりぐらむです(╹◡╹)

投稿時間がすごいことになってしまった・・・。


読んでくれている人!死ぬほど感謝です!

やばいほど嬉しいです!


感謝感激雨霰(いつの言葉だよ!)すぎます!


今回どうでしたか?

桜と蓮華の距離が縮まって嬉しい限りです!


感想・レビュー頂けたら嬉しいです!

これからも上を目指して頑張ります!


次話も読んでいただけたらめっちゃ嬉しいです!

土曜日、投稿です!

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