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守りたかった、戻りたかった

豹変し、影に蝕まれて暴走していくいなり。


記憶も薄れ、桜に襲いかかる。


蓮華もなんとか戦うが、いなりの暴走は止まらなくて・・・!?

「それは・・・!」

いなりくんはその変貌した目で先輩のことを睨む。

「嫌だったんだよ!幸に似ている桜が!」

「私が、幸さんと・・・?」

自分のことを指差す私。

先輩は苦しそうに顔を歪めながらも、いなりくんの刀を杖で受け止めている。

「似てたであろうが、一般人に手を出すな!狐!」

一気に剣を振り解き、杖を構え直す先輩。

いなりくんは一瞬、何が起きたかわかっていなかった。

けど、その順応力ですぐに剣を構え直した。

「・・・無理なんだよ、もう。」

吐き捨てるような、諦めたかのような声でいなりくんは言った。

私は息を呑んだ。

いなりくんの目に、涙があった。

「なんで、泣いているの・・・?」

その言葉に、返事はなかった。

ただ、一瞬。

一瞬だけだけど、いなりくんの目が淡い、優しい色に戻ったのだ。

いつもの、いなりくん。

しかし、それも束の間、涙は消え去って顔には笑いが浮かび上がっていた。

「佐倉さん!今の、見たか?」

先輩はいなりくんに霊弾を飛ばしながら言った。

嬉しさなのか、焦りのせいかはわからないけど、先輩の声はいつもより少し高い。

「は、はい!」

「少し、状況は理解できた。見た感じ、影に呑まれかけているような・・・感じだな。」

杖と剣がぶつかり合う、金属音が鳴り響く。

なんとか、その激しい戦いに巻き込まれないように避けていく。

「気配が、影のようになり始めていて・・・。」

「いつから!?」

強い口調で先輩が言う。

その声色は、『焦り』に満ちていた。

「つ、ついさっきです・・・。」

「そうか・・・。おい!狐!なぜ影に!」

「・・・。」

いなりくんが戻る気配がしない。

・・・できることは?

そう考えたけど、できることが見つからない。

このまま、ここにいたら先輩の足手纏いかな・・・?

と思って入り口を見ると、蹴破られたドアの木片と倒れた本棚で塞がれてしまっている。

「佐倉さん!避けて!」

気づくと、いなりくんが私の方に剣を構えていた。

「気づかれちゃったかあ・・・。」

いなりくんと目が合った瞬間、体が震え始めた。

人間どうぶつとしての本能が、私に言っている。


危険


と。

ずるずると、動きにくい震えている足を動かす。

足におもりがついたかのように、足が重たい。

なんとか、いなりくんの剣が届く範囲から抜け出すことができた。

先輩はいなりくんの後ろから霊弾を飛ばしている。

けど、いなりくんはその霊弾をひらりひらりと避けている。

気づけば、先輩も頭から血を流していた。

せっかくの整った顔が、左側だけ真っ赤に染まっている。

そのせいか、霊弾のスピードもかなり落ちている。

「いなりくん!いなりくんってば!」

呼びかけるけど、いなりくんは剣を下ろさない。

「先輩!何か方法は!?」

「ないことはない。けど、成功率は低い。」

「・・・もし、それが失敗したら・・・どうなっちゃんですか?」

いなりくんに切られたワンピースのレースが、ひらひらと優雅に空中を舞っている。

「・・・いなりの命がなくなる。」

「へ!?」

「まず、それができるかが問題だよねえ。」

いなりくんは剣を逆手に持つと、背後の先輩へ一気に剣を突き出した。

先輩も先輩だ。

すぐにその動きを読み取ると、素早く左へ。

いなりくんは勢いよく剣を振り下ろす。

先輩は、倒れた机を盾にして、剣を防いだ。

「っ・・・。」

速い。とにかく、速い。

いなりくんはともかく、先輩だ。

先輩は人間。

あまり速く動きすぎたら、そのうち力尽きてしまう。

・・・先輩が言っている、その方法しかないのかな。

でも、すっかり影に染まったいなりくんを救い出す方法は、私には思いつかなかった。

「・・・は?」

困り果てたような声が聞こえてきた。

いなりくんの声だ。

顔を上げると、一瞬何が起きたのか理解ができなかった。

あちこちに散らばった木片、ボロボロの何かの布、ところどころに落ちた血痕。

その時、何が起きたのかが理解できた。

先輩が持っている机から、剣が抜けなくなったのだ。

「・・・・!」

いなりくんの顔が、余裕の笑みからすぐに焦りに変わる。

武器を失うと、圧倒的に私たちの方が有利だ。

だから、いなりくんは剣を必死で抜こうとしている。

「先輩!」

私の声に、先輩が私の方を向く。

「やりましょう、その方法とやらを。」

「・・・・リスクは承知、だな?」

「もちろんです!」

その瞬間、先輩は立ち上がった。

その腕で、一気に机を押し倒す。

「!?」

いなりくんの目に、倒れていく机が映る。

先輩は、逃げる間もないように一気に机を蹴り倒した。


バターーン!!!!!


床が少し揺れる。

机の下から、赤い血が広がっていっている。

「先輩!?」

「大丈夫だ、合っている。」

先輩も苦しそうだ。

けど・・・・救えるのなら。

救える可能性があるなら、やるしかない。

もしも、いなりくんが死んでしまったのなら・・・・。

その問いに、少しの間答えは出なかった。

しかし、その瞬間。

ある言葉を思い出した。


ピンチはチャンス、チャンスはピンチ


そうだ。

今はチャンスだ。

けれど、ピンチとも読み取れる。

消えてしまうかもしれないけど・・・・ピンチはチャンスだ!

それが私の答え。

先輩は、ゆっくりと机を引き上げた。

不思議と、いなりくんの体に傷はない。

守護霊と影が合わさった体。

このくらいの衝撃だったら傷さえつかないんだろう。

でも・・・意識を失わさせることには成功した。

「佐倉さん、ちょっと首を見せて。」

「・・・・?」

先輩は、私に髪をかきあげるよう言った。

嘘を言っているようには見えない。本当だ。

私はしゃがんで、髪の毛を上げて首が見えるようにする。

「・・・霊印か。」

何か、ぼそりとつぶやく先輩。

「首に少し触る。」

申し訳なさそうに、先輩はそう言った。

何も返すことができない私は、小さく頷いた。

先輩の指の感触が首にした。

その瞬間、先輩は一気に杖をいなりくんの心臓近くに突き刺した。

「!?ななな何をしているんですか!?」

「一旦静かにしてもらっていいか!?」

これまでになく、正義に満ちた声。

「・・・はい。」

その衝撃でも、いなりくんはぴくりとも動かなかった。

体を貫通するほどの衝撃と力。

・・・これが、リスク。

ひたすら心の中で祈った。

いなりくんを・・・元に戻してください!

そっと手を合わせる。

その時。

先輩が触れている部分から、何かが流れ出ていくような感覚がした。

血じゃない。髪の毛でもない。

不思議な感覚だ。

痛くはない。水が流れていくような感覚だ。

「先輩・・・?」

「すまない。」

先輩はそれだけ言った。

「狐はほとんど影に蝕まれていた。だが、あの時一度、自我を取り戻した。まだ戻るチャンスはあったと言うことだ。」

私は頷くことができなかった。

ここで頷いたら、その水の流れが途切れてしまうような気がしたからだ。

「だから、こうするしかなかった。」

「どうして・・・体に穴を?」

「心臓部分、とは大事な部分のことだ。ここまで大事になるということは、『心臓部分しんぞう』に原因があるということだ。」

「元の状態にする、ということですか?」

少しだけ空気が揺らいだ。

私は目を瞑っているからわからないけど、先輩が頷いたからだと思う。

「多分・・・大丈夫だ、いなりは。」

先輩の声が震えた。

「お願い、消えないで・・・!」

目の前が曇る。

目から涙が流れていく。

やっと、体の痛みがしてきた。

痛みから『生きている』と感じることができる。

そして、横目でいなりくんを見る。

痛みをものともせず戦ういなりくんは・・・『守護霊』だから。

生きていないから、戦える。

おねがい・・・!

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「佐倉さん、起きて。」

その声に、目を開ける。

ぼやけた視界に、安心したような表情の先輩。

むにゃむにゃ・・・ガ◯ガ◯君味のカステイラもう一個・・・。

そこで気づいた。

・・・もしかして私、寝ちゃってた!?

自分の不甲斐なさに死にそうになる。

ガバッと起き上がる。

先輩は、どうやら背中をずっと手で支えてくれたらしい。

「先輩、どれぐらい寝ちゃっていましたか・・・・?」

「二時間。」

その時間に、叫びたくなる。

『やばいよおおおおお!』

言い訳すら思いつかない。

「・・・ごめんなさい。」

「俺もあっという間だった。狐の様子を見ていたら。」

見ると、いなりくんの体から杖は抜かれていた。

「ずっと、謝っていた。」

「謝っていたって・・・意識戻ったんですか!?」

「いや、寝言だ。『桜、ごめん。蓮華、ごめん。幸、守れなくてごめん』と。」

「『守れなくてごめん』かあ・・・。」

「こいつが人間だった頃の記憶だろうな。」

先輩は、頭をかいた。

「影の気配がない・・・ということは、成功ですか?」

「ああ。急変しない限りは。」

その言葉にホッと胸を下ろす。

「佐倉さん、狐をベッドへ寝かせてくれないか・・・?」

「この部屋、見るに無惨ですもんね・・・。」

「これからの就寝場所は、その辺で雑魚寝でいいだろう。」

その先輩の一言に、口元が緩む。

「じゃあ、寝かせてきます。」

そう言って、いなりくんを抱える。

力の抜けた手が揺れる。

「心配したんだから・・・。」

返事はない。

けど・・・本当に、よかった。

いなりくんに殺されたら本当にどうしようかと思ったよ・・・。

そして、ドアを開けて自分の部屋のベッドに寝かせる。

「いなりくん、幸って誰・・・?」

その質問に、いつ答えてくれるのか。

すやすやと眠る顔を見ていると、なんだか眠くなってきた・・・。

ううん、しっかりしろ自分!

さっき2時間寝たんだぞ!

ペチペチ、と頬を叩く。

「よし!部屋の掃除だ!」

少しほつれた袖をまくり、いなりくんの部屋へと向かった。

___________________________________________________

桜が部屋から出ていった後。

いなりは狸寝入りをやめ、目を開けた。

そう、さくらに抱えられた時に意識は戻っていたのだ。

「俺、何してたんだっけ・・・?」

首元にぶら下がっている剣のチャームがないことに、不安を抱く。

思い出そうとすれば、思い出そうとするほど頭が痛む。

「桜はなんで幸のことを知っているんだ・・・?」

不安が膨らんでいく。

だからと言って、聞くわけにはいかない。

「いつ話すかなあ。」

いなりは天を仰いだ。

天井の木目が、だんだんと顔に見えてくる。

その顔が歪んで桜の顔にも見えてくる。

「幸・・・。」

いなりは懐を探った。

そこからは、小さな紙切れが出てきた。

写真だ。

それを持って眺める。

古い白黒写真には、笑顔で映り込む日和と、短い髪の女の子『幸』。

「守りたかったよ。戻りたかった。」

いなりは、胸から込み上げるものに気づいて写真をしまった。

自分があの霊巫女、『桜』にあそこまで信頼する理由。

それに答えは出せなかった。

もしかしたら、幸に似ているからかもしれない。

「桜・・・幸・・・。」

そうつぶやいた。

すると、今度は本当に眠気がしてきた。

狸寝入りではない、眠気だ。

「おやすみ・・・。蓮華起こしてね・・・。」

いないはずの人物に言ってもダメだ、ということをわかっていながら口にする。

なんだか、いつもより安心できる気がした。




こんにちは、みりぐらむです!

今日は土曜日ではないですが、投稿しました!

土曜日もちゃんと投稿します!


どうでしたか・・・?

力作回です!

いなりと幸の関係・・・謎ですね!


面白い、と思っていただけたらブクマ・評価・感想おねがいします!

次話も読んでいただけたらめっっっちゃ嬉しいです!

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