いなりの腕に隠されたもの
蓮華の小さな秘密が明らかになった後。
お風呂上がりの桜は、いなりがバスタオルを忘れていることに気づく。
届けにいった先で見てしまったものとは・・・!?
「先輩、意外だなぁ・・・。」
私の声が、お風呂の中に響く。
先輩はみかんが苦手。
あのあと、いなりくんがフルーツポンチを奪っていた。
先輩もどことなく嬉しそうだったし、いなりくんも幸せそう・・・だった。
両手にすくった水を、浴槽に溜まった水に落とす。
チャポン
湯煙の中。
マネキンたち、先輩、私、いなりくんの順にお風呂に入ることになった。
・・・いつになったら帰れるんだろう。
世界の末端では、『時間』というものがない。
「桜〜?早くあがってくんないかな〜?」
「わかりました!」
脱衣所のドアの向こうからいなりくんが催促してくる。
・・・幽霊なんて、入らなくてもいいだろ!
こう言う遠頃、潔癖症なんだよなあの狐。
あーもう!
もうちょっと浸かっていたかったのに!
「もう・・・。」
そうな声が口から漏れた。
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「はい、上がりましたよ。」
皮肉を込めていなりくんに言う。
大広間に置いてあったピンク色のタオルで頭を拭く。
「はい!」
いなりくんは尻尾をフリフリ。
スキップ混じりの駆け足で、真っ先にお風呂場へと向かった。
「全く・・・。」
あのお風呂、めちゃくちゃ広い。
広さにはしゃいで転ばないといいけど・・・。
髪の毛の水分がある程度とれたところで、先輩の部屋を訪ねる。
「せんぱーい?桜です!」
「佐倉さん?」
先輩の声が聞こえてドアが開く。
「今、狐が風呂に入っているのか?」
「はい。もうちょっと浸かっていたかったんですけどね。いなりくんに急かされちゃいました。」
「狐の声は、催促の声だったのか・・・。」
「聞こえたんですか?」
「ああ。よく通るからな。あの声。」
「ですよね・・・。」
お風呂上がりのためか、先輩の髪の毛はいつもより乱れていた。
肩には、青色のタオル。
「佐倉さん。」
「なんですか・・・?」
「俺、みかんが苦手だ。」
「はい。」
「何も、言わないのか?」
「なんでですか?」
先輩は、目を丸くする。
「人の好き嫌いに口出しする権利はありませんよ!ましてや、先輩なんかに!」
「・・・そうか。」
先輩はクスッと笑った。
「なんでですか!」
「いや・・・。なんでも。」
先輩は、窓を開けた。
虹色をした月の光が窓から流れてくる。
「自由、か・・・。」
「何か言いました?」
「なんでも。」
「『なんでも』が多過ぎてずるいですよ!先輩!」
すると、先輩はハッとしたように言った。
「狐、タオルを忘れていってる!」
「どうしてですか?」
「俺の部屋に、狐の分のタオルがあったんだよ!」
先輩は引き出しから黄色のタオルを取り出す。
「あ、私届けてきます!」
「わかった。」
タオルを受け取り、一階まで行ってお風呂に向かう。
「いなりくーん?いなりくん!」
「何?桜!裸見たいの?すけべ!」
「誰も裸なんて見たくないわ!タオル!いなりくん忘れていってるでしょ?」
「あ・・・!」
自分の過ちに気付いたのか、お風呂のドアが開く音がする。
ドアがほんの少しだけ開いて、手が出てくる。
間違ってでも『見て』しまわないように離れる。
「もうちょっと手を出してくれない?」
離れ過ぎたせいか、タオルが届かなくなってしまった。
「・・・。」
「何?タオルもうあげないよ!」
いなりくんが黙り込んでしまった。
・・・全くもう!
でも、すぐに腕が伸びてきた。
「はいこれ・・・って、何それ!?」
いなりくんの腕には、無数の傷があった。
どれもこれも切り傷。
赤く、黒く、深い傷がついてしまっている。
「なんでも、ない!」
そこで私は思い出してしまった。
『四葉日和』くん。
夢の中で見た、殺されているいなりくん。
「なんで・・・!」
急に目の前が真っ暗になった。
かろうじてその痛々しい腕にタオルを握らせた。
頭がギュウウっと締め付けられるような感覚がする。
殺された・・?
恨み・・・?
そんな言葉が頭の中で渦を作っている。
どうにか、追い出そうとするけど出ていってくれない。
ゴン
気付いた時には頭が床についていた。
じんわりと痛みが広がっていく。
さっきまで考えていたことのせいで、痛さが何倍にも膨れ上がる。
「桜!?」
いなりくんの声が聞こえる。
けど、ドアが開く音はしない。
ゴソゴソと服を探る音がよく聞こえる。
人間って、目を閉じたらほんと音がよく聞こえるようになるんだよね。
こんな時に、そんなことばっかりを考えてしまう。
そして、目の前は完全に真っ暗となった・・・。
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「桜!起きて!」
むにゃむにゃ・・・・あれ?なんか、明るい・・・。
目を覚ますと、そこはベッドの上。
屋敷の自分の部屋だった。
「あれ!?私、倒れていたんじゃ・・・。」
「蓮華が運んできてくれたよ!」
「まあ、な。」
ドアの向こうから先輩の声が聞こえてくる。
いなりくんはいつの間にか、窓を開けている。
ベッドを見ると、すごく綺麗。
干したから、かな・・・?
「お姫様抱っこ、でね。」
「!?」
小声ですごい声が聞こえてきた。
おひめさま・・・だっこ!?
「おい!狐余計なことを言うな!」
ドアノブがガチャガチャとなり、ドアがドンドンと叩かれる。
鍵は・・・閉まってる。
さてはいなりくん、先輩だけ外へ締め出したな?
古いそのドアは、強い先輩の力で壊れる寸前まで来ている。
「・・・別に、いいですよ?ありがたいですし。」
「だってな。狐。企みは失敗だな。」
「企んでなんかいませーん。」
そのいつも通りの姿の2人を見て、自然と笑いが漏れた。
「ほんと・・・ありがと!」
一瞬口喧嘩をやめる2人。
「まぁ、佐倉さんが助かってよかった。」
「俺はなーんにも、できなかったしねぇ。」
いなりくんは立ち上がると、ドアを開けて廊下へ出た。
ちらり、と先輩の顔が見える。
「さ!着替えて。」
「着替えるって・・・。」
服は制服。着替えなんて、持ってきているわけがない。
「桜、ちょっと廊下きて。」
「う、うん。」
言われるがままに、外に出る。
いなりくんは『こっちこっち!』と手招きをする。
ついていくと、階段の踊り場にワンピースがかかっていた。
「このワンピースが何?」
「昨日、なかっただろ?」
先輩は後ろへ回していた左手を前に出す。
先輩が持っていたのは、ハンガーにかかった黒色のベストと白のシャツ。
「ここにかかっていた。着ろ、と言うことなんだろうな。」
ため息をつく。
こんな服、着るのか?俺が・・・。と言う表情。
それを見たいなりくん。
「蓮華イケメンだから似合う!多分!」
「お前に言われたら貶されているような気がする!」
もっと険しい表情をしてしまう先輩。
・・・似合うと思う。
私は、もう一度黒いワンピースを見る。
襟、袖の部分は白いフリフリがついている。
ところどころにイチゴと赤い薔薇の刺繍がある。
・・・絶対似合わない自信がある!
「わかった!わかったから着る!だからひっつくな狐!」
見ると、いなりくんが先輩に張り付いていた。
腰に手を回している。
先輩は、手をなんとかずりおろそうとしているけど、ガッチガッチに固められていて動かない。
「言ったね!蓮華!」
「まぁ・・・な。着て文句言ったら飛ばすから。」
顔が青白くなっていく先輩。
すると、急にこちらを振り返って目を光らせる先輩といなりくん。
「何・・・・ですか。」
「ねぇ〜〜〜桜も、着てくれるよねぇ〜〜〜?」
「うっ・・・・。」
「佐倉さん・・・。」
哀れそうな目で見てくる先輩。
そんな目で見ないでください!
なんかこっちまで哀しくなってきます!
「着る!着るから!」
「よっしゃ〜!決まり!着替えてきてね〜!」
いなりくんはその大きな喜びを表すかのように尻尾を振り回した。
「はいはい。」
「文句言ったら飛ばす。」
先輩は、恨みのこもった目でベストを睨むと部屋に戻っていった。
・・・私も行かなきゃ!
黒いワンピースを壁から取り、私は部屋へ向かった。
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「これでいい。これでいい。」
2人を見送った後。
部屋に入ったことを確認すると、いなりの尻尾はぴたりと動くのをやめた。
そう、わざとだったのだ。
「幸せに、ね?」
そう、自分に言い聞かせるかのように呟くいなり。
その目には、涙がいっぱいに溜まっていた・・・。
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「あら、着てくれたのかしら?」
パルフェーンは、とある部屋で紅茶を啜っていた。
監視などは一切していない。
ただ、パルフェーンは勘がいいのだ。
それはもう、人の人生をずっと見てきているかのように。
「さぁて、そろそろ始まりかしら?」
パチン、とパルフェーンは両手を叩く。
カーテンが開く。
カーテンの向こうは、小さなステージとなっていた。
大広間にそっくりなステージ。
そして、11体の人形。
それらは全て、マネキンと3人にそっくりだった。
「ミステリーって、素敵だわ!」
パルフェーンの口角が不気味に上がった。
今回の回はどうでしたか・・・?
いなりの腕には、大量の傷。
人形屋敷編、犯人探しが本格的にスタートします!!
ここまで読んでくれてありがとうございます(T ^ T)
本当に嬉しいです!
面白いと思っていただけたら、ブクマ・評価・感想どんどんお願いします!!
誤字があれば、報告お願いします(╹◡╹)
次話も読んでいただけたら踊って喜びます!




