哀れの真実。と、秘密の笑顔。
「それでも動いている以上、そいつは『強力な物体』。すなわち兵器として扱われる。』
「改造されて哀れ。それもあるが・・・。本当の哀れの意味は、『自分がなんだったのかもう思い出せないこと』だ。」
ウルフさんの言葉を聞いた瞬間、胸の奥がギュッと締め付けられた。
「思い出せないって・・・。」
さっき見た、あの君の悪い冥獣たちの姿が頭に浮かぶ。
目の焦点があっていなくて、あんなブラックサイトで『取引』される存在。
でも、それは・・・。
「じゃあ、あの子達は普通に生きていたことを思い出せないの・・・?」
声が震えた。
「そういうことだ。改造前は普通の冥獣。だが、そういう『本物』の悪に捕まってしまったら終わりだ。」
ウルフさんはその亜冥獣たちの画面を延々とスクロールをしている。
「・・・闇が深いな。」
蓮華先輩がポツリ、と呟く。
いなりくんも一気に静かになる。
「でも、“哀れ“かどうかは関係ない。」
ウルフさんは一度振り返る。
「それでも動いている以上、そいつは『強力な物体』。すなわち兵器として扱われる。」
「・・・見つかってしまったらどうなるんだ?俺たち、幽霊警察に。」
「犯人・亜冥獣もろとも処分だろうね。冥獣を汚すのは大犯罪。亜冥獣だって記憶のない『兵器』なんだから。」
「ひどいよっ。」
・・・アチカーニャは、もともとどんな冥獣だったのかな。
どうしてああなっちゃったんだろうな。
・・・怖い、怖いけど。
悲しいよ。かわいそうだよ。
でも、アチカーニャはもう記憶を取り戻せない。一生、『兵器』という肩書きを背負っちゃう。
そして、いなりくんをも傷つけた。
・・・私が戦えばよかったのかな。
私が、怖がりさえしなければ・・・。
頭の中がぐるぐるとする。
気持ち悪い。
私って・・・弱虫、なのかな。
「あ!!」
急にいなりくんが画面を指差して大声を上げる。
それに釣られて画面を見ると、あの亜冥獣。
・・・ピエロの冥獣、アチカーニャが写っていた。
「いると思ったよ!これで亜冥獣なのは確定だね。」
ウルフさんが
アチカーニャ
という赤い文字をクリックする。
「いると思ったって・・・。ウルフ、どうしてわかった?」
先輩も珍しく理解が追いついていないみたい。
「亜冥獣はすごく値段が高い。どういうことかというと、とても貴重ってこと。」
さっき見ていた画面には、0が何個あるのかわからない程の数字がたくさんあった。
「ワタアメは『自分が作った』みたいなことを言ってたんだろ?」
ウルフさんは強気な笑顔を見せる。
「確かに、言っていたな。それが?」
「わざわざ言うほどのやつだよ?言わないほうが、足もつきにくいのに。」
「『作った』冥獣は亜冥獣しかいないのか。」
先輩も頷いている。
「そんなわざわざひけらかす奴がこんないいサイトで自慢しないわけないじゃん。」
「外れた場合はどうするの〜?」
「いなり、ウルフの実力を知らないのか?あんなわかりやすい冥獣ならウルフは3日あれば見つけるよ。」
うるるさんはまるで、自分が見つけたかのように自慢する。
「これで、亜冥獣ということが確定した。」
ウルフさんの笑顔はまだ続いている。
いつもほとんど笑うことがないから、希少だなぁ・・・。
「んで、問題は・・・」
いつもの表情に戻り、またパソコンに向かいこむ。
「こいつらが今どこにいるか、ってことと黒幕だな。」
ウルフさんはパソコンからまたまたこっちを振り向く。
でも、さっきまでは先輩とか私に向かって話していたのに・・・
今度はいなりくんを見て、だ。
いなりくんの表情はいつもと変わらない・・・ように見えるけど、少し笑顔がぎこちないように見える。
「なんで俺の方を見るの〜?ウルフ。」
「お前、言ってたんだろ?ワタアメの『自分の意思です。』という言葉に対して、『嘘だな』って。」
ウルフさんが目を細める。
「・・・文句があるのか?」
どうやら、そのことは先輩が言ったようだ。
でも・・・いなりくんが問い詰められるようなことはしていないと思う。
しかし、先輩の言葉をウルフさんは無視をする。
「お前は、何を知っているんだ?いなり。」
いなりくんの目からスゥッと暖かさが消えていく。
・・・怒っている?
いや、怒っているというよりは・・・悲しみ・悔しさという感じだと、思う。
「十分知ってるでしょ?俺のこと。」
「知らな・・・」
「知らないなら調べたら?」
いなりくんはそういうと、『じゃ』と手を振ってドアを開けてどこかへ行ってしまった。
・・・前にも見たことある。
と思ったら、ウルフさんとうるるさんと初めて出会った時だ。
確か・・・没者リスト。
なんでいなりくんは消したんだろう。
・・・何か、まずいことでもあったのかな?
よいしょ、とウルフさんは立ち上がって奥のドアを開けて別の部屋へと行ってしまう。
「佐倉さん、俺いなりの方行ってくる。」
先輩も去っていってしまう。
部屋に残されたのは私とうるるさんだけ。
二人きりとなると、話すことが少ない。
というか、ない!!
「・・・。」
「・・・。」
みんないなくなってしまった。
だから・・・この部屋の空気を沈黙と気まずさが取り巻いている。
・・・話すことなんてない。
かと言って、どこかへ私も行くのもなんか嫌だ。
・・・どうしよう。
そう思っていたら、うるるさんは立ち上がって私に何かを差し出した。
「これは・・・?」
「飲食店のクーポン券。ワタアメたちと戦ってた時さ、クラスメイトの親がくれたらしい。一位祝いだってさ。」
うるるさんは言う。
「・・・これを私にどうしろ、と?」
「わからない?昼だよ昼!今は昼!ランチ行こーぜってこと!」
「私でいいんでしょうか。」
なぜかはわからないけど、一緒にご飯行こう!と誘ってくれているようだ。
これもなぜかはわからないけど、口から敬語が出てきた。
本来ならこれが正解なのかも。
うるるさん、大学生だから年上だし。殺し屋だし。
「だって、いなりとウルフは幽霊だから論外。蓮華は・・・あの顔じゃ街の女子たちにどんな目で見られるかわかる・・・?」
蓮華先輩とはいけない理由を言う時だけ、うるるさんは囁き声になった。
「・・・わかります。」
先輩、時々教室に顔を出すから怖いんだよな〜〜。
先輩の顔を見て、メロついてる迷に
『桜はいません☆』
って言ってもらってるけど・・・。
居留守していることがバレたら怖いぞ・・・・。
「よっしゃ行こう!」
「どこにですか!?」
「この券、チェーン店とかじゃなければ県どこでも使えるって!」
「じゃあ、汐見村の超マニアックな店とかでも・・・。」
「いけるいける!!」
うるるさんは食い気味に言う。
「何食べたい??桜は?」
・・・寿司かな。
でも、お寿司高いし・・・。
「うるるさんは何が食べたいですか??」
「寿司!」
「・・・私もです。」
「なら行こう!!この村、寿司屋あんの?」
「・・・一軒だけ。でも、超絶美味しいですよ。」
「海がすごいもんね〜。この村。」
と言うことで、私たちはお寿司屋さんに行くことになった。
でも・・・・
「混んでいるね〜〜。」
うるるさんのいうとおり、店内の待合席はほぼ満席だった。
祝日、ということも理由の一つだと思う。
家族連れから近所のおじいちゃんおばあちゃん。
ここは、結構ご長寿なお店。
明治時代くらいから続く。
「・・・待ちますか?」
「まとっか。」
うるるさんはさっさと名前を書いている。
番号は、今56番。私たちは・・・98番!?
今十時だから、ちょうど良くはなる、かな・・・?
このお店の待合席は二つに分かれている。
入り口に入って右側と、左側。
右側はめちゃくちゃ混んで混んでいるけど・・・左は少ない。というか0だ。
うるるさんが座ったのは、左側。
右側も、2席くらいは空いてそう・・・だと思う。
だけど、わざわざ左側を選んだ理由。
そんな深い理由はないのかもしれないけどさ。
私だったら右に座るかな〜〜?
と、そんなことを考えていると。
「桜も横来なよ!」
とうるるさんから声がかかった。
「は、はい!」
ちょっぴり古い、木造の椅子に腰をかける。
ギ、と軋む音がする。
「・・・。」
ここへ来ても、私から話すことがないのは変わらない。
うるるさんから話しかけてくれるとありがたいんだけどね・・・・。
と思っていたら、
「ねえ桜。」
「なんですか?」
話しかけてくれた。
ありがたいっ!
「桜ってさ・・・いなりのことについて何か知っているのか?」
こっちの席を選んだ理由が・・・わかる気がする。
こういう話を、できないから。
「知りません・・・。出会ってから2ヶ月くらい経ってるのに。」
「・・・・そうか。あたしも知らないから、桜は何か知っているのかな?と思って。」
うるるさんはスマートフォンを取り出す。
「これ、出会った頃のウルフ。」
見せてくれたのは、うるるさんとウルフさんのツーショット。
・・・でも、両方とも今とはだいぶ違う。
うるるさんの髪型が今と違って、すごく短い。
ショートカットとショートボブの間くらい。
でも、勢いとかは今のうるるさんそのまま。
対して、ウルフさんは顔は今のまんま。
「・・・ウルフさんとうるるさん・・・全く違いますね。今と。」
写真の中の、ウルフさんは・・・自信がなさげだ。
いつもは、
俺が神様だ!!
ぐらいの感じなのに、写真の中では目が強気じゃなくて、弱気だ。
「そうだろ。あたしは本当にぶれてないけど・・・ちょっと、ウルフがな。」
「そういえば、ウルフさんといなりくん言い争ったことが何回かありますよね。」
「な。」
そういうと、うるるさんはスマートフォンをポケットへしまう。
そして、ため息をついた。
悪いこと、言っちゃったかな・・・・。
「桜は・・・すごいね。」
「何が、ですか?」
「あたし、桜には秘密をどんどん話したくなっちゃうな。」
秘密・・・・?
私は特に何かした覚えはないけど・・・。
これは、喜んでいいのか悪いのか。
人の秘密を暴き出しているような気がして、申し訳ない・・・。
「本名、とかですか?」
「あれはバレる前提。桜にはまだ言えないあたしの秘密。あるんだけどさ・・・。前、言おうか迷ったんだよね。」
その目は、ずっとどこか遠くを見ているようだった。
お寿司屋さんの壁を突き抜けて、どんな建物も、自然も突き抜けて。
宇宙よりも向こうを見ている。
そんな目をしていた。
「なーいしょ!」
「気になります!!」
「今は無理!!・・・なんだけどさ。」
うるるさんは途中から声が小さくなる。
「ウルフについてなら。あ、ウルフには内緒!バレたら炙られる!!」
フッと私は笑ってしまった。
「・・・なんで笑うの!」
「いや、なんか・・・。」
「んも!教えないよ!」
「・・・教えて欲しいです。」
私はウルフさんについても、うるるさんについても、先輩にもいなりくんにも詳しくない。
みーーーーーんな、秘密ばっかり。
・・・秘密ばっか。
「いなりくんだって、教えてくれればいいのに・・・。」
「・・・ごめんな。なんか。」
うるるさんは今度は私のことをじっと見る。
「みんな、きっと。必死なんだ、自分のことで。」
うるるさんは自分の胸に手を当てる。
「桜がうらやましい。自由やれてて。」
「いや・・・これでも大変ですよ?」
「そっか。」
うるるさんはクスッと笑った。
そして・・・
真剣な目をして、こっちを向いた。
「なら、順番はまだだし・・・・。」
うるるさんは人差し指を立てて、内緒、のポーズをする。
「ウルフの過去について、話しちゃおっか。」
にっこりと笑った顔。
いつもの顔だけど、その笑みはいつもの何十倍も秘密を背負っているように見えた。
今日も更新が超ギリギリになってしまいました・・・。
毎日投稿14日目(多分)!
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