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双子捜査官の魔法事件簿 ~twins investigator~  作者: 夢咲 雪
終始の書編
11/12

試合(後編)


「本日は忙しいので後日、電話でアポ取ってくださーい。それでも断りますけれどとりあえずお引き取りくださーい」

 

 今日仕事ねえんじゃねぇの?



「わ、ちょっと押さないで夜明くん」


「ジジィは公民館帰ってゲートボールでもしててくださーい」



 どんだけ嫌なんだよ



「待って! 今日はちゃんと正式ルールに基づいてるから!」



 そういうと茨城県警SIF班長、真田井は慌てて茶色の封筒をひらひらとさせた。



「情報! ウィッチのとある情報持ってきてるから!」



 俺たちイグナイトを扱うSIFは47都道府県警察署すべてに配属されており、メンバー構成も部署のデカさも様々である。俺たち千葉のような荒くれ者の集まりがあれば、公民館のジジババを集めたようなこの茨城みたいな集まりもある。


そんな俺たちの不思議なルール


情報やら移籍やら、他県から得たい何かがあれば、全て「組手」と呼ばれる試合で決める。

ルールは簡単

相手が膝をついたら負け

これを団体形式5on5で行い、制限時間以内に相手をより多く削ったほうの勝ち。

ベッド、つまり、賭けるものは

釣り合いが取れるもの、または取れなくても両者の責任者が承諾すれば問題ないもの。 



「気にならない?」


「別に」



――釣り合いが取れるなら賭けるものに制限は無い。



「こっちが勝ったら、そこのボンキュッボンのお姉ちゃんを内の茨城県警に移籍で」


「非常に目障り♡」



――釣り合いの天秤は



「その様子だとJIO委員会の審査は通ったんですか、その情報は」


「もちろん、チームの主戦力の移籍が可能なほどに大きい情報だよぉ」



――SIF総合運営本部、JIO委員会の人間が査定し判断を下す。許可が下りれば試合可能、となる。



「情報の規模は相当大きい、か」



 夜明さんはチラッと真美姉を見る。真美姉も目線に気づく。



「万に一つもないとは思うが…いいか? 橘」



 真美姉はニコッと笑う。



「班長のご命令とあらばどこまでも」


「そうか、わるいな」



 そして、夜明さんはほんわかとした表情の真田井に宣言した



「千葉県警SIF、試合を承諾します」


「おーけぇい」



 真田井がパチンと指を鳴らすと、室内なのにグラサンを掛けた黒人の男が入ってきた。奴の胸元にはJIO。つまり、審判員だ。



「茨城県警SIF、ウィッチに関する重要な情報をベッドとして提示し、千葉県警SIF特殊捜査官、橘真美の移籍を要求する」


「承諾した」



 男はぶっきらぼうに言うとそのまま背筋をピンとしたまま続ける。



「試合は完全成立した。以後の試合破棄は原則認めないものとする。破った場合は総合ポイントの強制剥奪、および相手チームへの完全移行、そしてベッド宣言された内容は全て相手へ行くものとする。試合開始は30分後。では」



 言い遂げたJIOの男はそのまま部屋を後にした。



◇◇◇





 千葉県警総合グラウンド上は一般開放も行うほど使い勝手のよい広さを誇る芝生型のダッカ―グラウンドだ。高校サッカーの千葉県大会で最初の方に使用されることが多くあるらしい。そんなグラウンドにいるのは先ほどのJIOのグラサン男にジジババ軍団の茨城県警SIF、入念すぎるほどに準備運動をしている。そして俺たち千葉県警SIF。夜明さん、真美姉、零埼さん、鋼山さん、そんで俺だ。ちなみに小鳥と琴音は観覧席にいる。特に小鳥はちっちゃい旗を振って応援しているのだが、琴音は興味がないのか、足を組みながら読書しとる。



「一緒に暮らしてて怖くないのか?」



 鋼山さんがヒソヒソと耳打ちした。



「え、なにがっすか?」


「あれ」



 鋼山さんがクイクイっと親指で琴音を指さす。



「あぁ……まぁ、そっすね~……」



 家にいる時はあんなにピリピリしてない……んだけれど。

 どっちかというとデレっとするし……



「まぁ、その……可愛いもんすよ」


「えぇ?」



 鋼山さんの驚く意味も分からんでもないが



「そうだよね~家だと「お兄ちゃん」だもんね~」


「なっ」



 真美姉が身体の後ろで腕を伸ばしながら、そんでもってどや顔で言ってきた。



「なんや? ギャップ萌やないか、ええのぉええのぉ」


「零埼、キモい」



 夜明さんの鋭すぎるツッコミがオヤジ化していた零埼さんをシャットアウトした。



「さぁ、千葉の皆さんよろしいですかな?」



 真田井率いる5人のSIFはすでにグラウンド中央におり、準備が完了したようで、年齢とそぐわないほど目がギラギラしていた。



「はい、大丈夫です」



 夜明さんもすでにスイッチが入っているようで、言葉遣いも整っていた。夜明さんの後に続いて俺たち4にんもグラウンドの中央に向かう。



「おい、てめぇら」



 背中越しに聞いた夜明さんの声は、緊張感を漂わせた。



「仮にも試合(ゲーム)だ。切り替えろ」



 思わず身震いするほどの緊張感に強張るわけではなかった。

 むしろ身体は求めていた。

 久しぶりの戦闘を

 5人とも、だ。

 

 血に飢えたような5人は不気味な笑みを浮かべると同時にそれぞれのイグナイトを解放した。

 

 殺し屋の殺気を纏う若旦那は鬼の気が纏う刀を

 肩まで髪が伸びる美女は水を纏わせた警棒を

 大きすぎる黒縁眼鏡の関西弁男は電気が形成する刀を

 ゴリマッチョすぎる黒人男は鋼色の銅を

 若さが滲み出る青年は黒い電気を走らせる腕を


 構えた



「始めっ」



 JIOの男の合図と共に試合は始まった。



「フォーメーションC!」



 茨城県警SIFは5人で円を描くように手を繋ぐと、芝生の草が激しく揺れるほどに恐るべき速度で回転した。



「これぞ千葉対策のUFOスタイル! 最強のフォーメーションですぞぉ!」



 速度はさらにさらにと増していく。





「お~! すご~い! ほんとのUFOみた~い!」


  観客席の小鳥は呑気に見とれているが、琴音は台風並みの強風にも関わらず読書を止めなかった。足も組んだままだった。


「あの平均年齢でこれほどの風を引き起こすのはたしかに凄いけれど」


 最後のページを読み終えた琴音は本を閉じた。


「凄さと強さは違うよ」






「さぁさぁ! 止めてみなさいな千葉の皆さん!」



 勢いよく突っ込むUFOに千葉の5人は一人も動じなかった。



「……一人ずつな」


「「「「はい」」」」


 夜明班長の指示に4人は同時に返事。目の前まで来た瞬間で

 各々がイグナイトを発動し、回転するUFOから5人を引き剥がした。



「おほっ!?」

「あがっ!?」



 そのまま芝生に叩き付けるとJIOの男は大きくコールした。



「茨城県警SIF、5人同時fallen。よって、千葉県警SIFの勝利とする」



 ◇◇◇




「いや~、流石は4位の千葉ですなぁ~。手も足も出せませんでしたわ」


「黙れ39位」



 試合を終え、茨城県警SIFも全員、千葉のSIFオフィスに戻り、ベッド報酬のウィッチに関する情報とやらの茶色い封筒を受け取っていた。夜明さんはその封筒の紐をグルグルと外しながら真田井の言葉に反抗していた。



「何が千葉対策ですか。一瞬で粉砕出来ましたけれど」


「いや、これでも考えてるんですよ? 橘ちゃんの好きなUFOだったら動揺してくれるんじゃないかと思ってねぇ…」


「夜明班長、このジジィ逮捕でしょ」


「まぁ、そう言うな橘」



 夜明さんは封筒の中に入っているA4プリントの資料を引き抜いた。資料は50枚ほどかと思わせるほどの分厚さだった。



「これは……肩が凝りそうですね」


「あ、それじゃあ肩揉みましょうか? 特に橘ちゃんだったら別の部位を揉ませて貰っても」


「橘、逮捕していいぞ」


「はい、遠慮なく」



 ブンブンブンと指に引っ掛けながら回す手錠に真田井も両手を挙げた。

 俺はふと目に入った黄色い付箋付きの資料をデスクから拾いあげる。そこには英語……ではなく別な何かの言語が複数用いられており、幾度となく引かれたラインマーカーの文字に疑問を覚える。



「どうしたの? 羽雪」



 後ろから琴音が資料を覗いた。



「いや、なんか気になってな……特にこのラインマーカーの文字たち」


「えっと……あ、これフランス語だ。 それにこれはロシア語……小鳥――」


「はいはーい」



 呼ばれた小鳥が近寄る。



「これフランス語みたいなんだけれど、ラインマーカーの文字、読める?」


「うん、えっと……「終わって始まる……書物」かな」


「ありがと。えっと、それじゃあこのロシア語は?」


「これは……「始まりと終わりの本」かな……」



 さすがは大学課程まで修了してる小鳥。



「ってあれ?」



 そんな彼女が首を傾げる。



「ちょっといい? 琴音ちゃん」


「え? ああ、うん」


 琴音は資料を渡した。そして、小鳥はその資料を速読するように上から一気に羅列した。

 他の付箋を貼られた資料にも目を通す。次から次へと目を通す。

 そして、小鳥は一言



「これ、ラインマーカーしてあるところ、全部同じこと書いてある……」


「その通り」



 ここで真田井が手錠を掛けられながら口を開く。



「様々な言語で描かれてはいますが、ラインマーカーで描かれた部分は全て同じ意味です」



 先ほどまでとは緊張感が違った。



「その資料は先週行われた裏ウィッチ対策世界会議での盗聴内容です」



 オフィス内に激震が走る。



「そんな資料、どこで手に入れたんや……」


「茨城県警SIFに今年配属された新人の子のイグナイトで。 あまり戦闘向けではないので今日は連れてきてないのですが」



 それらを踏まえた上で改めて資料を見たが、確かに言語の境目で一列分のスペースが空いて、会話しているようには見える。


 それにしても……



「おい、小鳥」



 ひそっと小鳥に耳打ちした。



「なぁに羽雪くん?」


「これ、見ただけでも7ヵ国語はあるぞ? お前、どんだけの言語覚えてんだよ」


「う~ん……13ぐらい?」



 言語ってそんなあんの? っていうツッコミをしたかったが、ここで手錠を解かれた真田井が話始める。



「そのラインマーカーの文字は裏ウィッチ対策世界会議中に合計で124回は言われています。おそらくはそれが会議の議題だったようにも感じます。それらの言葉には国々の言葉の文法で色々とニュアンスは違いますが……私たちはそれを「終始の書」と呼んでいます」



 終始の書。その言葉に何か不気味さを感じた。



「終始の……書、か」 



 夜明さんは考え込んだ。が、その答えを出す前にふと顔を真田井に向けた。



「試合でもらったとはいえ、こんなに大きな情報はJIOに提出っていう形を取ったほうが自分たちのポイントになったのでは……」



 そう、SIFのポイント獲得にはもう一つ「本部との情報売買」がある。



 情報を掛け金としてベッドする際はJIOの人間一人だけが情報を覗き、価値を決める。その際、確認した情報は日本を動かすようなデカい情報だとしても他言無用であり、他のJIOの人間にもJIOトップの人間にも情報を公開はしないものとなっている。これは情報漏えいを防ぐとともに情報の価値を下げないための配慮でもある。


 しかし、「本部との情報売買」は少し違う。


 これは本部に情報を売ることで「共有料」が発生する。これは本来、釣り合うはずの金額から半額で本部が買い取り、同時に釣り合うだけのポイントを提供する、というものだ。

 これは特に失うものもなく、実力のない都道府県警はこのシステムを利用して成り上がるしかない。情報は「共有」という形で全国の県警に知れ渡る。そして、ポイント争奪戦が始まる、というものであるのだが、



「そのポイントさえあれば順位だって少なからず20番代には入れたと思いま」


「あのねぇ夜明くん。 世の中順位だけじゃないんだよ」



 真田井はその場にゆっくりと立ち上がった。



「私たちは平和な日本を目指してウィッチと自分たちなりの戦い方で戦ってるんだ。その事実にポイントも順位も不要だよ。私たちは夜明くん率いる千葉のみんなならと思って希望を託しているんだ。JIOに提出して全都道府県警に情報が回った時にはJIOが都合のいいように改ざんしている最悪なもんだろうよ。だから、このクリアな情報のまま、君たちに託したい」 



 仙人のような言葉に思わず聞き入る。あ、と飛び出た言葉に続いて真田井は真美姉に振り向いた。そこに先ほどまでのスケベな顔はなかった。



「まぁ、橘ちゃんが欲しかったのは本当だよ。容姿端麗で面倒見もすごくいい。そのために全力で戦ったのも紛れもない事実だ」



 真美姉もぶっ飛ばさず、笑顔で頭を下げた。



「色々とかっていただき、ありがとうございます」



 そして、夜明さんも頭を下げた。



「こちらの情報は責任を持って、千葉県警SIFが解決に努めさせていただきます」



 その姿に真田井も笑顔だった。



「頑張りぃよ、夜明くん」


「はい」



 そして夜明さんは顔をあげ



「千葉県警SIFに通達する」



 その言葉に皆、真剣な目つきで耳を傾ける。



「明日から本格的に「終始の書」についての調査を始める。そのために今から茨城県警SIFの方々と共にこの裏ウィッチ世界会議の内容を一から洗い直す! いいな!」


「「「「「「はい!」」」」」」



 同調する返事に決心が固まる。



「え、私たちも手伝うのかい?」



思わず真田井が言葉にした。



「当然です」



 そして見せた夜明さんの爽やかな笑顔は今日一番かっこよかった。



「夜は合同飲み会ですから」



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