非常にして非情なる警視庁SIF(前)
かつて、私は「裏切り」という言葉を知らなかった時期があった。
仮にも捜査官の卵でありながら、疑うことを知らなかった。
自分が―裏切られる―までは
「ったく、ご立派ですなぁ。 警視庁ってもんは」
「そう? 千葉県警より周辺地域が東京なりに活性化してるからそう見えるだけじゃない?」
俺はそういう真面目なコメントを求めたわけではないのだぞ? 妹よ。
とは、言わない。
適当に相槌を打ちながら午前中ながらも肌寒い東京の街を黒パーカーのポケットに手を突っ込みながら歩む。
まぁ、当然
「ねぇねぇ琴音さん?」
「何お兄ちゃん? 改まって」
こうして妹も双子コーデで隣にいるのだが
「なぜ俺たちは毎度毎度組まされるのでしょうか?」
「まぁ、監視役でしょうな。 お兄ちゃん、すぐサボるし。 すぐ喧嘩腰になるし。 あと、馬鹿だし。 うん、特に馬鹿だからかな」
「妹よ、サボり癖があることは認めよう。短気な性格であることも異論はしない。だが、そこまで馬鹿と言われるほど馬鹿ではないというのは訓練学校の時に照明し」
「はいはい、お兄ちゃんは天才でーす」
妹はそそくさと足が速くなり、目的地である警視庁の自動扉を一人で潜った。
「おい、琴音。待てって」
俺もすぐに後を追う。
寛大なロビーは天に広い作りで光も程よく入射する綺麗なロビーだった。千葉県警と違い、ロビーが温かいとは東京様様としか言いようがない。
「ま、私たち二人そろって一人前だからね。組むことも自然でしょうに。ってか今に始まったことじゃないじゃん」
「いや、そうなんだが……今日みたいな戦わない(予定)の日でも組むのは何故かねって思って」
「いや、今日の仕事はお兄ちゃんに向いてないでしょ、特に私が大活躍の日」
琴音に追いつき、さっそく愚痴られる兄。
「馬鹿言え、書物の読解なんて小学生でも出来る」
「その小学生でも出来ることをお兄ちゃんは訓練学校で血反吐しながら挑んでた記憶があるけれど?」
「何年経ったと思ってんだ。 4年だぞ? 4年。 お兄ちゃんだって成長……あれ、琴音?」
「千葉県警SIFから来ました胡蝶琴音と胡蝶羽雪です」
気がつけば琴音は受付嬢と話していた。
ガッデム
「千葉県警の方ですね。お話は預かっています。 少々こちらでお待ちいただいてもよろしいですか?」
「はい」
そういうと、受付嬢は手元の固定電話に手をかけた。
千葉の輩が来たら連絡しろ、とでも言われてたのかね。
「ねぇ、お兄ち……羽雪」
お、仕事モード
「どした」
「昨日の班長が言ってた事、やっぱり少しは警戒したほうがいいか…な?」
「まぁ、そうだな。 とはいえそんなに気にすることも――」
仕事モードに入ってるだけあって問題はねぇと思ったが、琴音の手元が小刻みに震えていた。
俺は無言で琴音の頭に自分の手のひらをポンと乗せた。
これが一番、妹が安心する動作である。
「なんかあっても問題ねぇだろ。今日は2人揃ってるし、ってか俺たち強ぇし」
妹の震える手はみるみる内に収まっていき、目にもやる気が吹き込まれた。
「そうだね。 ごめん、ありがと羽雪」
なんて言いつつ俺も昨日の夜明さんが言っていた事には少しばかり警戒してはいる。
「警視庁の輩との小競り合い……ですか」
「あぁ」
俺と琴音が昨日の夜、茨城県警SIFと夜飲み会に向かう道のりで少し言われたことだった。
「地下情報庫の使用許可は下りたのだが、やはりあちらは警戒していた。 なんせ無料で情報を売るようなもんだからな。警戒して当然ではあるが、ウィッチ調査のためであり、解決した暁には報酬の4分の1を明け渡す、と言って強引に話を通したのが現状だ」
「それはいいんですけれども……それで何が小競り合いに」
「いや、小競り合いになっても可笑しくはないだろ。 相手は東京だぞ。 言葉も通じなければ感情もない。 結果のみの完全個人主義軍団」
俺も思わず口を挟んでしまった。
「そうですな、多少なりと警戒はしといた方がよいですな」
「真田井さん」
ひょこっと現れた茨城県警SIF班長の真田井さんもあまりよくない印象を持っているようだ。
「え~と何でしたかな? あの…先々月あたりの関東SIF班長会議で問題議題として挙げられてた」
「ハゼラル」
「あ! それです、それ」
「ハゼラル?」
聞いたことのない単語だった。
「ハゼラルとは福島に生息していたウィッチによる強盗グループの名です」
真田井さんの説明に夜明さんが補足する。
「確か…3か月前ぐらいか、福島県警が東京と組んでハゼラル制圧戦に挑んだ際、作戦に関する内容かなんかで口喧嘩になり小競り合いが始まり、東京のSIFがウィッチだけでなく福島県警にも手を出して全員病院送りにしたって問題になった」
俺たち兄弟は同時に息を呑んだ。
「そんな…」
「噂以上っすね…」
思わず身震いした。が同時に沸き上がったのが
「仲間に手を出すって…本当に血が通ってる人間っすかね?」
怒り、だった。
「まぁ、そういうことだから胡蝶兄妹。 危ないと判断したらすぐに報告。 警視庁からすぐに逃げ出せ。 とは言え調査しているだけで何かしてくるほど危ない輩とは思っていないが」
万に一つもないとは考え難い。少なからず俺だけでも警戒は必要だろう。ということで今日の俺の左腕にはいつもは着けない腕時計をカモフラージュした心拍機を装着している。これはリアルタイムで夜明さんのパソコンおよびスマートフォンへ直接情報が流れている。
ちなみにこれは琴音に内緒だ。
変に心配かけたくない。
「お~、羽雪に琴音じゃねぇか!」
誰だ、この緊張感あふれる空間で陽気に俺らの名を呼ぶのは。
と、思ったが声に覚えがあった。
俺にとっても嫌な思い出だが、琴音にとっては消し去りたい思い出。
金髪でダボダボのズボンを身に纏い、ポケットに手をツッコミ、ゲートを跳び箱のようにピョンピョン飛びながらアクロバティックに越えた人物は
顔馴染みの
同期だった。
「冗談きついよ」
「そっか、こいつ東京に所属したんだったな」
目の前の人物に驚愕した。
「「慎二」」
この不良のようなファッションに金髪ととても法を秩序する立場の人間ではない慎二が
「久しぶり~――」
抱き着こうとしたので
「「近寄るな、うぜぇ」」
と、兄妹揃って慎二の顔面向けて足の裏を突き付けた。
「ということで、地下情報庫の案内役の巻慎二でございます!」
垢ぬけた笑顔でビシッと決める慎二を目の前に
俺たち兄妹は間違いなく同じことを考えただろう。
チョロいな、こいつなら。




