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嫌われ令嬢は断罪も溺愛もお断り~モブだけどスパダリな幼馴染と、あえての偽装婚約を選びます!~  作者: 桜祈理


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03 第三の男登場

「……ロサヴィア、だよな?」


 後ろから声をかけられ、振り向いた私は、ちょっときょとんとしてしまった。


 一瞬誰だっけ、と思ったけど、すぐにハッと気づく。


「……もしかして、ノクス……!?」

「もしかしなくても、ノクスだよ。ちょっと会わない間に、俺のことを忘れちゃったのか?」


 そう言って、ノクスはふふ、と口元を緩める。



 ノクス・シグリッド伯爵令息は、私の幼馴染である。



 レークス侯爵領とシグリッド伯爵領は隣同士で、父親たちも学園時代からの親友同士。となれば、幼い頃からお互いの領地を行き来することも多く、私のお兄様やノクスの妹も含めてよく一緒に遊んだ仲である。


 ただ、私がユストゥス殿下の婚約者に決まって以降はめっきりやり取りが減ってしまったし、学園入学と同時にノクスは他国に留学してしまったから、なんだかんだいって会うのは久しぶりなのだ。


 それに。


 幼い頃はわりと仲がよかったと思うのだけど、なぜかノクスはだんだん私と口を利いてくれなくなってしまった。


 たまに会っても無愛想で素っ気ない反応しかしてくれないし、留学するときだって全然教えてくれなかった。はっきりと距離を置かれるようになったことで、理由はよくわからないものの嫌われてしまった、とだいぶ落ち込んだのだ。


 だから、こんなふうにノクスのほうから声をかけてくること自体が珍しい。それもあって、一瞬ピンとこなかったのである。


「あれ、でも留学は……?」

「最初から二年間って決まっていたんだよ。無事に期間が終了したから、帰ってきたんだ」

「そうだったのね。おかえりなさい」

「うん、ただいま」


 記憶より大人びた雰囲気を纏う幼馴染が、なんだかとてもまぶしい。


 でも、こんな黒髪イケメン、原作にいたっけ? と首をひねる。


 ユストゥス殿下は金髪だし、アラスター殿下は銀髪だし、ユストゥス殿下の側近の中に茶色い髪のキャラはいたけど……。


 あ、そういえば。


 原作の冒頭、ルチア編入時の説明の部分に『同じタイミングで編入してきた数名の中には、他国に留学していた友人もいた』みたいな文章があったような気がする。


 でも、『友人』の話はそこだけで、その後原作に登場することはない。


 名前すら、出てこないはず。



 ……え、もしかして、ノクスっていわゆるモブキャラだったの……?



 目の前に立つ幼馴染をまじまじと見返して、私は思わずつぶやいてしまった。


「……もったいない……」

「え? なに?」

「あ、なんでもない、なんでもない」


 慌てて誤魔化しながらも、内心驚きを隠せない。



 だって、こんなにもイケメンなのに、なんでモブなの?



 もったいなさすぎる……!!



 しばらく会わない間に、ノクスは信じられないくらい見目麗しい令息に成長していたらしい。


 闇夜のような黒髪に菫色の目をしたノクスは、確かに幼い頃から人目を引く存在ではあった。でも留学を経て、ますます凛々しく魅力的な美貌の貴公子に変貌を遂げている。


 おまけに、金だの銀だのド派手な髪色が飽和状態な異世界にあって、闇夜のような黒髪のなんと貴重なことか。


 前世が日本人の私にとって、とにかく黒髪には目に優しい。そして落ち着く。なんなら癒される。



 ああ、黒髪バンザイ……!!



「ノクス、学園生活でわからないことがあったらなんでも言って。力になれると思うから」


 黒髪に癒されたいという下心全開でそう言うと、ノクスは幼い頃のように屈託なく笑った。


「ありがとう。助かるよ」


 懐かしいその笑顔に、正直ホッとする。



 でもまさか、この再会が、俄かには信じ難いほど大きな転機をもたらすことになるなんて――――



 そのときの私は、知る由もなかったのである。






◇・◇・◇






 数日後。


 午前の授業が終わり、ランチを買いに行こうと廊下に出たところで、いきなり「ロサヴィア!」と呼び止められた。


 聞き覚えのありすぎる声に、私は渋々振り返る。


 案の定、そこに立っていたのは鬼の形相をしたユストゥス殿下だった。


「ご機嫌麗しゅう、ユストゥス殿下――」

「ロサヴィア、いったいどういうことだ!?」


 珍しく、今日は側近たちも聖女ルチアも一緒ではないらしい。


 ユストゥス殿下は廊下を行き交うたくさんの生徒たちには目もくれず、問答無用で声を荒げる。


「昨日レークス侯爵が登城し、いきなり婚約解消を申し入れてきた! いったいどういうつもりなんだ!?」

「……ああ、そのことですか……」


 十中八九、その話だろうと思ってはいましたけどね。


 私が殿下との婚約について相談したあとすぐに、お父様は王家に対して婚約解消を願い出るべく、あらゆる情報をかき集めてくれたらしい。


 そして、ようやく昨日、陛下とユストゥス殿下に謁見する機会を得たのだ。


 ユストゥス殿下が何かと鬱陶しい私を毛嫌いし、蔑ろにしてきたことは周知の事実である。学園生たちはもちろん、恐らく多くの親たちも知っている。陛下だって、聞き及んでいるはずである。


 だからこそ、お父様はそれを理由に、婚約を辞退したいと申し出た。


 ただし、婚約自体がなくなっても、引き続きユストゥス殿下を支持していくつもりであることは、しっかり伝えたという。



 ユストゥス殿下は王太子だけど、その立場はいまだに盤石とは言い難い。



 陛下は学園生時代からユストゥス殿下のお母上である側妃様を寵愛し、結婚後すぐにユストゥス殿下がお生まれになった。


 一方の王妃様はなかなかお子に恵まれなかったため、ユストゥス殿下の立太子がすんなり決まったのだ。


 でも立太子決定の直後、王妃様のご懐妊が判明し、翌年第二王子が誕生する。


 国の重鎮たちの中には、王妃様のお子である第二王子のほうが王として相応しいのでは、と主張する者が少なからずいるという。


 王妃様のご実家は由緒正しい公爵家だし、王妃様ご自身も国母に相応しい聡明な方である。


 それに比べて、側妃様のご実家はさほど影響力を持たない新興の子爵家。


 そのうえ、側妃様ご自身にもずば抜けた能力があるわけではない。


 そうした方のお子が王として立つことに、異を唱えたい貴族は予想以上に多いらしい。


 だからこそ、お父様は王太子であるユストゥス殿下に対する変わらぬ支持をしっかりと表明した。婚約解消を拒むとすれば、理由はその一点に尽きると思っていたからだ。


 だというのに、ユストゥス殿下は婚約解消に強い抵抗を示したのだという。


「陛下のほうは殿下の仕打ちをご存じだったし、婚約解消もやむなし、と仰ったのだがね。ユストゥス殿下は頑として、婚約解消を了承してくださらなかったのだよ」


 昨日、王城から戻ってきたお父様が困り果てた様子で話してくれたとき、私はあまり驚かなかった。


 なんとなく、こうなることは予想できていたのだ。




 だって、『嫌われ令嬢は龍の皇子に溺れるほど愛される』に登場するユストゥスは、実はとんでもない性癖拗らせ王太子なのだから……!







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