44.結界復活(3)
円月輪を右手に握りしめ、すたすた奴に向かって歩いて行くメイ。基本的に身長はそれほど高くない、と言うかハッキリ言って小さい。
だが、今目の前を歩いて行くその後ろ姿は、決して小さくは見えなかった。
堂々と歩いて行くその姿に、思わず見惚れてしまった俺がいた。内緒だがな。
同時に疑問も浮かんで来た。
奴の身長は十メートルを優に超えている。小さな少女の投げる金属の円盤が届くとは思えないんだ。
おまけにだ。そんな上空の小さな目標に正確に当てる事が出来るもんなんか?
足の皮膚でさえ伝説の剣ですら、これといった致命傷を与えられないんだぞ。いくら目ん玉だからって、皮膚と同じ位とはいかないまでもそこそこ硬いんじゃねーのか?
考えれば考えるほいど、不安が増していく一方、頭の片隅ではあの天才賢者アドが自信を持って送り出してきたんだ、何か勝算があるのではという淡い期待も浮かんでくる。
そもそも、こんな土埃と濃霧の中で目標を正確に認識出来たとして、そこに投げられるコントロールを持っているのか?
堂々巡りのような思考を中断させたのは、上空から響いて来る奴の絶叫だった。
ハッとして上空に視線を移すと、奴のものと思われるシルエットが濃霧越しにうっすらと・・・いや、次第にくっきりとなってきてねーか?
そう思ったのも一瞬だった。俺は危険を察知したからではなく、本能的に横っ飛びに飛び退っていた。
そして、転がりながら今まで俺が立っていた場所を見ると、巨大な物、おそらく奴の巨大な図体であろうものが地面に激突するところだった。
地響きを上げて倒れ込む巨人のその目には、その目には、しっかりと黒光りする円盤が二つしっかりと刺さっているじゃあねーかよ、それも二枚。
「驚いた。なんで正確に目ん玉に刺さっているんだ?」
などとぼやいている暇はなかった。
なぜなら、倒れ込んで土埃を巻き上げながらジタバタしている巨人に向かってふたつの黒い影が突進していくのが見えたからだ。
やべー、俺も仕事をしねーと後から何言われるかわかんねーぞ。
そうして、俺もジタバタ暴れている巨人の元に走ったのだった。
巨人がハッキリと視認できる所に到着すると、すでに二人は奴に向かって斬りかかっているところだった。
「畜生、なんて硬いんだ。伝説のアダマンタイトの大剣と私の腕をもってしても歯が立たないぞ」
「ほんまや、どないせー言うんや」
暴れまくる奴の手足を避けながら、そのぶっとい腕に斬りかかったハンスが、痺れる両手を見つめながら叫んでいる。
その様子を見ていたメイがぼそっと呟いた。
「やはり目ね。わたしの円月輪は、目に刺さったわ。もしかしたら、あそこなら効果があるかもしれないわね」
「うむ、やはりそれしかないか」
「わたしの残った武器はトンファーだけ。ハンスさん、とどめはお願いしますわ」メイは今日も冷静に判断をくだす。
痺れもものとせず再び大剣を握り直したハンスは、掛け声とともに奴に突進して行った。
当然、奴も大人しく始末されるつもりはないみたいで、右手で顔を押さえながらも、左手を横に払って迎撃してきたが、ハンスはそれを紙一重の所でかわすと、奴の顔に向かって槍のようにその大剣を突き立てた。
その瞬間耳をつんざく叫び声をあげた一つ目の巨人は、二度三度と全身を大きく震わせ、そのまま動かなくなった。
「やった・・・のか?」
大剣を突き刺した後、巨人の痙攣発作に巻き込まれたハンスは、弾き飛ばされて宙を舞い、地面をごろごろと転がってうつぶせのまま停止した。そしておもむろに顔を上げると一言呟いた。
「すごーい!ハンスさん、やりましたねー。おそらく、人類初のサイクロプス退治ですよ」
眼球に伝説の大剣を突きさされたまま、サイクロプスはぴくりとも動かなくなっていた。大剣の刺さった所からは、おびただしい血が噴水のように上空に向かって吹き上げている。
ようやく立ち上がったハンスは、呆然と巨人を眺めている。その表情はさっきまでの勇ましい面影は影を潜め、まるで魂の抜け殻のようになっていた。
呆然と立ち尽くすハンスの横では、メイが妙な心配を始めた。
「あの伝説の大剣、使い捨てではないですよね?回収して、再び使用するのですよね?わたしの円月輪も回収したいです」
ここは、もっと感動する所ではないのか?何を心配してるんだ?あいつは・・・。
そんな事を思いながら、近寄って行くと、おもむろにメイがこっちを向いた。そして、とんでもない事を言い出した。
「ああ、おかしら。剣を回収にこられたのですね?でしたら、大剣のついでにわたしの円月輪も回収してきて貰えますか?」
「な・・・」
「あ、そのついでに奴の血は海で洗って来てくださいね。なんか、汚いので」
それだけ言うと、ハンスの背中を押しながら、テントの方に歩いて行ってしまった。いつの間にか、ポーリンも姿を消して居た。
俺はひとり現場に残されてしまい、途方に暮れてしまっていた。
「俺が・・・あれを回収するのか?何故だ?何故俺が?」
奴の亡骸を見上げると、まだぴゅーぴゅー血が吹き上げている。どっちの武器も完全に血まみれじゃーねーかよ。それも青い?青い血?赤くねーのに、血って言ってもいいのか?
「あの、気持ち悪い身体を登らねーと回収できんじゃねーかよ。知らん!武器が惜しかったら、俺の知ったこっちゃねー、自分の武器くらい自分で回収すりゃーいいんだ」
俺は奴に背を向けテントの方に戻ろうと一歩を踏み出したのだが、そこから動けなくなった。
あんなもん知るもんかと言いながらも、伝説の武器を見捨てる事に抵抗があったのだ。売ったらいくらになるだろうか?などと言う計算があったわけではないが・・・。
奴の血にまみれた武器を、奴によじ登りながら、血まみれになってまで回収する事にも物凄い抵抗があったのは事実だ。臭いも物凄いしな。だが、それを放置して帰る事にもかなり抵抗があった。
ただ、もったいないと言う以上の葛藤が俺の心の中であったのは事実だ。だが、それを認めたくない自分が居るのも事実だった。自分でも良く分らない葛藤だった。
「ちっ、しかたがねー、後でたっぷりと恩に着せてやろうじゃーねーか」
俺は、仕方が無く巨人の亡骸に向かって歩き始めた。
だが、数歩歩いた所で足が止まった。妙な違和感を感じたのだ。
「・・・・・?」
気のせいか?なにやら微かに音がすすんだが?
なんの音なんだ?なんか湿った物が動いているようなぬるぬるした音?
耳を澄まして居ると、更に異変に気が付いた。
なんと、奴の亡骸が僅かだが動いているのだ。
「な なんなんだ?何が起こっている?こいつ、まだ死んでいねーのか?」
大きく動いている訳ではなかった、わずかに身体全体が不規則に動いていると言うか揺れている?
どうする?どうする?俺。みんなに応援を頼むか?
いや!そんなみっともねー事出来るか!ここは俺一人で十分だ。応援なんて頼んだら、後で何言われるかわかんねー。
俺は愛剣である伝説の大剣をしっかりと両手で握り、少しずつ歩を進めた。
背中を嫌な汗が流れるのを感じた。
び びびってなんか、びびってなんかいねーぞ。俺は無敵なんだ!伝説の大剣だってある。何が来ても、怖くなんかねー!はず・・・だ。
どうやら、妙な音は奴の腹の向こう側あたりから聞こえてくるようだ。
間違いねー、何者かが動いていやがるぞ。どー言う事なんだ、意味がわからんぞ。
と 取り敢えず様子見だ。下手に動くのは得策じゃねー気がする。ここは、向こうの動きを観察して、行動を起こすのはそれからでも遅くはねーはずだ。敵の正体もわからねーしな。
時間が経つのが物凄く遅く感じる。早くこんな所から逃げ出したいぞ。だけど、足が動かないし、目は奴の腹に釘付けになったままだ。
他の連中はテントに行ったきり戻って来る気配はねーし、俺一人で対処せにゃならんのか?ちっ、めんどくせーが、しょうがねー。ホント不幸だぜ。
さっきからしている、この音はなんなんだ?肉をくちゃくちゃ食べてるような不快な音だが・・・。来るならさっさと来やがれっ!いつまで待たせやがるんだ。
嫌な時間は長く感じるもんだが、それにしても長すぎる。じれったいを通り越してイライラしてくるぜ。
「やったら、待っとれへんでちゃっちゃと出て行ったらええんやないん?」
「うおおおおおおおおおおっ!!!!!」
いきなり背後から声を掛けられて、俺は雄叫びをあげてしまったじゃねーかよ。
「い いきなり背後から声をかけるんじゃねー!!ビックリしたじゃねーか」
「ビビったの?ねーねー、ビビった?ww」
ポーリンの奴、いい性格してやがる。いったい誰の影響なんだか・・・。
「なんか、妙な音 してますね。わたしの円月輪、早く取り返してくださいね」
メイまで来やがったぜ。
「それにしても、不快な音やなぁ。何もんかしらんけど、何してんのかいな」
こ こいつら・・・物見雄山気分なんか?相手が見えなくて怖くねーのかよ。
すると、メイが突然素っ頓狂な声を上げたので、みんなして身構えてしまった。
「あああっ!!!」
「どないした?メイ」
メイは倒れたサイクロプスのお腹あたりを指差しながら、冷静に言葉を繋いだ。
「あそこ、出て来るよ。なにかが頭出そうとしている」
なんでわかる?っていう突っ込みよりも、見えない敵の動きの方が、緊張感を増幅する事がわかった。
全員、メイの声で身構えた。
全員の視線の先、サイクロプスの腹の所から正体不明だった奴が姿を現した。
「あ、あれは・・・?」
「なんや?あれ」
「見間違えでなければ・・・あれは・・・耳?耳だよな?」
サイクロプスの腹の向こうから姿を現したのは、何者かの耳、それも長い長い細長い耳だった。二メートルはゆうにあるんじゃねーか?
「ありゃあ、まるでうさぎの耳だな。あんなでけーうさぎが居ればの話だがな」
うさぎのような長すぎる二本の耳?と思われる物体は、しっかりこっちを捉えているようで、俺達の声に反応してぴくぴく動いていやがるぜ。
さらにその隣にも、二本の耳と思われる物体が現れて、しっかりとこっちを窺っているではないか。こいつら、複数いやがんのか?
さらに次の瞬間、俺達は恐怖することになる。
先月の千葉の大雨災害から無事生還しました。
丁度あの大雨のピーク時にJR蘇我駅の近くで食事をしておりました。
店を出ると店前の道路が既に川になっており、帰りの道すがら放置された車が道路のあちこちにありました。
二時間もあれば帰れる道でしたが、あの日は8時間かけて帰りました。
家に着いた時には、明け方の4時になっておりました。
被災された千葉の皆様、1日も早い復興を心からお祈り致します。
ちなみに、私が走った県庁前の同じ道がNHKのニュースで映っておりましたが、既に放置車両で埋め尽くされておりました。ホント危機一髪だったのかと恐怖しました。
みなさんも大雨のにゅーすには他人事と思わず、しっかりと見て対策をしましょうね。




