43.結界復活(2)
突然現れた白い霧のような塊から現れやがった一つ目の巨人サイクロプス?にむかって俺達三人は各々の剣を振りかざして突撃を敢行している。
まだ俺達人間サイドのターンのはずなのに、空気を読まずに出てきやがったデカブツ。
目が一つしかないから空気が読めないんだろうが、とにかく迷惑この上ない野郎だぜ。
こっちは、眠り姫が二人に増えちまって、混乱してるってゆーのによお。
まずは、先頭切って突っ込んで行ったハンスが仕掛けた。
当然、奴も気が付いて、その持っていた巨大な棍棒を振り上げながら進撃を続けている。
ハンスが奴のテリトリーに入ったのだろう、奴は振り上げた棍棒を力の限り振り下ろした。
「早えーっ」俺は思わず呟いていた。
遥か上空から振り下ろされた棍棒は、目にも止まらない速度でハンスに向かっていく。
実際、その動きははっきりとは見えなかった。なんとなく、見えたような感じがしただけだった。
棍棒が振り下ろされたと思った瞬間、奴の脚元は巻き上がる土埃で視界が塞がれていた。
ハンスの野郎。まともに喰らいやがったか?
前方は舞い上がる土埃で視界が遮られていて、状況がまったくわからなかった。
速度を落としながら、土埃に突っ込まないようにしていると、もうもうと巻き上がる土埃の向こうからハンスの声が聞こえて来た。
「こいつ、図体の割に早いぞ!だが、よーく見れば動きは単調だ。喰らう事はないだろう。だが、固くて刃が通らんから、攻撃は集中したほうがいいだろう。右脚だ。奴の右脚に集中攻撃を掛けたまえ!」
あんの野郎、こんな時に冷静じゃねーかよ。おまけに、当然のようにリーダーシップを取ろうとしてやがる。ホント目立ちたがりだぜ。ちっ、面白くねー。
面白くねーが、あいつの言う事にも一理あるのが腹立たしいぜ。しかたがねー、奴の言いなりは癪だが、やってやろうじゃねーかよ。
だが、もうもうと湧き上がる土埃で奴の位置がわからん。
攻撃を躊躇していると、奴の雄叫びが辺りに響き渡った。うるせー、耳が痛くなる叫び声だぜ。
誰かが攻撃をしかけたか?
更に絶叫が何度も繰り返された。
なんだ、なんだ?みんなも攻撃を仕掛けているのか?こんな視界ゼロの状況でか?
絶叫の合間に、轟音と地響きがひっきりなしに聞こえて来る。
おそらく巨人が、足元に斬りかかって来る相手に対して棍棒をふりおろしているんだろう。その度に土埃が舞い上がるので、視界は一向に回復しない。
あいつら、こんな中でどうやって相手を捕捉してるんだ?
こうしていても埒が明かん。取り敢えずは接近してみるか。
俺は、上空に意識を集中しつつ、そろそろと前進を始めた。徐々に地響きと爆音、奴の叫び声が大きくなってくるが、まだ奴の姿は見えない。
近くに居るはずなんだがなぁ・・・
と思って居ると、突然横から突き飛ばされて、地面に転がった。
「なっ・・・」
相手はハンスだった。
「何こんな所にぼーっと突っ立っている。我々の邪魔をするんじゃない!」
そう叫ぶと、再び土埃の中に消えて行った。
「なにおおっ!!」叫びながら立ち上がると、俺が今まで転がっていた場所に、何やら大質量の物が降って来た。奴の棍棒だった。
「あっぶねー!あのやろーこっちが見えるんか?目がひとつしかねーくせによお」
憤慨していると、再び側面から体当たりされた。
「キャッ!!」今度はポーリンだった。
流石に俺が地面に吹き飛ばされる事はなかったが、今度は逆にポーリンが弾き飛ばされた。
今度は地面に転がったであろうポーリンから怒声を浴びてしまうはめになった。
「おかしらあっ、なーにぼーっとしてんのやっ!!あぶないやんかあああぁ」
そう叫ぶと、ポーリンも再び土埃の中に消えて行った。
何がどうなってるんだ?一瞬ひるんでしまったのだが、俺の野生の血が危険を知らせて来た。背筋がぞわぞわしてきたのだ、今までもこんな時にはロクな事がなかった。
俺は考えるよりも先に行動に移していた。
気が付いたら身を投げるように前方に飛び、地面を転がっていた。
転がりながら後方を見ると、さっきまで俺がいた場所に、巨大な物が上から物凄い勢いで降って来たのが見えた。
あ あれは 奴の足か?そうだ、足に違いない。だが、なんであいつは正確に俺の居た場所がわかるんだ?
考えていたのは、ほんの一秒か二秒くらいだったと思う。奴の足が降って来たと同時に黒い大きな塊が足に向かって突っ込んで行った。同時に小さな影も足に向かって突っ込んで行く。
俺は・・・立ち尽くしていた。あいつら、なんでこんな土埃の中で、奴の足を正確に追えるんだ?俺には全然見えないぞ?
斬りつけられた足は、すぐにミルク色の上空に上がって行って見えなくなった。
呆然としていると、少し遠方に激しい振動と爆音を伴って巨大な足が落ちて来た。
周囲は、前にも増して舞い上がった土埃で視界が塞がって行く。
だが、その土埃の向こうでは、アハンスとポーリンの声と刃物が固い物に当たる音だけが響いている。足への攻撃が続いているのがわかった。
わかってはいるのだが、俺の目には何も見えない。どうすりゃいいんだ?なんであのふたりは攻撃が続けられるんだ?
どうしたもんかと思案していると、巨大な影が前方からこっちに向かって飛んで来るではないか。俺はとっさに避けると飛んで来た物は、俺の後方にどさりと落下し、直ぐにむくりと起き上がった。
「なんて奴だ。こっちは伝説の武器を持って居るというのに、全然歯が立たないぞ」激しい呼吸音と同時に発せられたその声はハンスだった。
今度は地面を何かが転がって来て、ハンスが受け止めていた。
「あかんわあ、どないなっとんのや?あいつ、何度斬りつけても平気な顔しよる。バケモノやあ」転がって来たのはポーリンだった。
「ポーリン殿は何回斬りつけましたか?」
「うちは四回や」
「私は五回斬りつけましたが、まったく歯が立ちませんな。おや?そこに居るのはムスケル君ですか?貴殿は何回斬りつけましたか?」
げっ、いきなりそんな事聞いてくんなよお。
「ああ?えーとだな・・・」
「ああ、貴殿に聞いた私が愚かでしたね、忘れてください。さ、ポーリン殿、もう一回行きますぞ」
「おっしゃあぁ~!」
ふたりは再び土煙の向こうに消えて行った。
俺は・・・どうしていいかわからず、途方に暮れている。
だが、そうも言ってはいられない状況なのは十分判っている。
目が役に立たねーんだったら、耳で戦うまでよ。俺は目をつぶり耳に神経を集中させた。
「おう、目をつぶると奴の動きがよーくわかるぞ。奴が動く度に空気を斬る音がする。俺とした事がこんな初歩的な事を忘れるなんて、情けねーぜ。
俺は両手に漆黒に光る大剣を握り直し、音のする方に全力で駆け出した。
あ、今足を持ち上げたぞ。土が落ちて来る音がしている。持ち上げた足はその前方に降ろすに違いねー。そこを目指して突撃だーっ!
だが、どうにもしまらねー俺だった。
走り出してすぐだった。突然なにか硬くて柔らかい物にぶち当たって、俺は後ろに吹き飛ばされた。
「「うわっ!!」」
地面に投げ出され、呻きながらも前方に目を凝らすと、それは地面に転がったハンスだった。
「貴様っ!なぜ邪魔をするかっ!」
いきなり暴言が飛んで来た。邪魔?それは俺のセリフだった。
「うるせーっ!てめーこそ、邪魔するんじゃねーぞ。せっかくいい所だったのによお」
俺達の言い合いが奴に聞こえたのだろうか?奴の巨大な足が俺達の真上に降って来た。
流石に今度は俺にも察知できたので、とっさに横に飛び退った。
その瞬間、轟音、地響き、そしてもうもうと巻き上がる土埃が、俺達を襲った。
「ぺっ、ぺっ、口の中がジャリジャリだぜ。あのヤロー、好き勝手やりやがって」
「その手伝いをしているのが貴殿じゃないか」
「なんだとーっ!!」
「やめい、やめい!そないな大声だしてはると、又上から足が降ってくるでぇ。今は奴に専念せんとあかんでぇ」
「ふんっ」
俺達はいつになっても収まらない土埃の中、姿勢を低くしたまま三方に分かれて行った。
まずいぞ。このまま奴が進めば、二人の眠り姫と鉢合わせしちまうじゃねーか。どうしたらいい?
こんな時にアドがいりゃあいい案出してくれるのに・・・そうか、対応策、聞きに行けばいいんでないか?
そうだよ。なんでこんな簡単な事思いつかなかったんだ?俺も焼きが回ったか?そうと決まれば・・・
だが、世の中そううまくはいかないのだった。
「なあにバカな事考えているんだか、この人は」突然、後ろから聞こえて来た声はメイだった。
俺は、心臓が飛び出さんばかりに驚いてしまったよ。
「な なんなんだ」
「やはり、アドちゃんが言っていた通りだったわ。今からテントに戻って居たら手遅れってわからん?」
「えっ?えっ?な なんで俺の考えがわかるんだ?」驚いたせいで、声が裏返っちまったぜ。
「心の声が駄々洩れしてますよ?自覚ないんですか?」
「そ それよりも、何でおめーがここに居るんだ?テントで護衛してるんじゃねーのか?」
俺、間違った事言ってないよな。
だが、メイは冷静に返して来た。
「攻撃陣が頼りないから、わたしが援護に来たんですよ。アドちゃんに言われてね」
「おめーが来たって、あいつの足の硬さには刃が立たんぞ。ハンスの大剣ですら歯が立たねーんだからな」
「おかしら、わたしの武器、何だったか覚えていますか?」
「オメーの武器ぃ?えーと、ああ、あれだ。何とか言う平べったい輪っかだろう。確か」
「そう、円月輪、わたし達の中で唯一の飛び道具ですよ。アドちゃんが言うには、あいつを倒すにはあの目を潰すしかないんだって」
「それでおめーが?」
「そうですよ。ちょっと行ってきますね。やつが倒れたら、すかさず攻撃してくださいね、頼みましたよ」
そう言うと、腰に付けていたきびだんご じゃあなくて、円月輪を手に取り、メイはすたすたと歩き始めた。
俺は、呆然と見送るしかなかった。




