41.撤収(3)
シャルロッテ救出部隊の俺達五人は、無事?ダークエンジェルの呪いを解いて石から元の人間に戻したのでめでたしめでたしのはずだった。
しかし、シャルロッテの意識は戻らず、今に至る迄寝たままだった。
仕方が無いので、俺達は眠り姫となったシャルロッテを連れて帰る事になったんだが、先読みのアドが船を用意しておいてくれたので、俺達は陸路を遥か新大陸までとぼとぼ戻らないで済んだ。
幸いにも帰り道に出会ったのは、対処が簡単なワイバーンだけだったので助かった。ワイバーンが対処が簡単って、言っている事が滅茶苦茶だが。
とは言え、本当なら最近まではワイバーンですら対応に苦慮する相手だったんだが、俺達には竜王から貰った伝説の武器があったので、今のワイバーンは俺達にとって美味しいお客様となったと言ってもいいだろう。
ダークエンジェルさえ出て来なきゃ問題無い。出て来なきゃあな。
出て来たら・・・一目散に逃げるしかないわな。国の被害がどうこう言ってられる状況じゃないのだ。
だから、一刻も早く結界を修復しなきゃならんのに、肝心の結界修復の鍵であるシャルロッテが眠り姫状態じゃ話にならんのだよ。
アドの話しじゃ、幸いな事に聖女のねーちゃんはこっちにまで出張って来てくれてるって言うじゃねーか。早くこいつを渡して起こして貰わんと、命がいくつあっても足りんぞ。
「おい、聖女のねーちゃんは、どこまで来て居るんだ?そもそもどうやって来たんだ?」
何かを思案しているアドに、今最大の質問をぶつけてみた。
「あ?ああ、こうなる事は想定できましたので、アンジェラちゃんに迎えに行って貰ったんですよ。みなさんが新大陸を離れるタイミングでね」
「そっかー、船やったらあそこまで行くのもすぐやからねー」
愛剣の手入れをしながらポーリンが話しに加わってきた。手入れと言っても、竜王シリーズは刃こぼれしないから、綺麗に磨くだけだがな。
「賢者殿、陽動に使った部隊のその後は・・・」
うーん、ハンスにはそっちが気がかりなんだな。ま、当然か。
「ハンス殿、その点ならご心配なく。全員無傷で閣下の所領の地へ向かってもらいましたから、今頃はマイク殿の元国境の守りを固めているかと」
「おお、それを聞いて安心しましたぞ。帝都ルルティアはあんなですが、元凶のハーマン・ロングは健在ですからな。奴の事だ、何をしでかすか分かりませんからな」
「ええ、おそらく経済の中心であるコルドバを押さえてご自分が皇帝でも名乗るのではないですかね?知らないですけど」
「奴なら考えそうな事です。ですが、国は国民があっての国なのです。国民をないがしろにしている奴がてっぺんでは、どんなに頑張っても国は成り立たないでしょう」
「でしょうね。ですから我々は結界の修復に全力をあげればいいのです。今はね」
「はっ、先まで見通すその慧眼。御神眼と言っても良いでしょう。恐れ入りました。で、聖女様は今どちらに?」
「アナスタシア様は、現在破られた結界の基石の所までいらしております」
「あそこまで?あそこまでって、あそこまで?それって、危険なのでは?」
あははは、あのいつでも冷静なハンスともあろう者が、言葉が変になってやがるぜww
船は我々を回収した後離陸、その後まっすぐに新大陸に向かって南下を始めた。
ワイバーンに見つかると面倒くさいとでも思ったのか、なるべく低高度で進んで行った。
幸いな事にワイバーンには遭遇しなかったのだが、低高度なのが災いして他のモノに出くわした。
それは、右舷の見張りをしていた兵士の一報から始まった。
「左舷前方、スズメ接近中!数は・・・四羽」
さっと全員の視線が左舷側に集まった。
「スズメやて?何でこないな所に?」
ポーリンの疑問ももっともだった。この世界のスズメは、家族単位で人里離れた山奥に生息しているのが常だったからだ。
「総員、戦闘配置っ!!」
ハンスの掛け声が甲板上に響いた。
なぜ、スズメが居たくらいで色めき立つのか、それはこの世界のスズメは体長五メートル近くあるので、近くに寄って来られるだけで、とても危険なのだった。
おまけに好奇心が旺盛なので、変に興味を持たれて纏わりつかれても迷惑なのだった。
「おい、アンジェラよ。もっと高度を取れんのか?高度を取ればあいつらは追って来れねーだろう」俺は特に変な事を聞いたつもりはなかったのだったが、アンジェラの返事はなんかはっきりとしなかった。
「そうは思うのですが、なんか思う様に高度が取れないんです。最近特に高度が取りにくいんですよお。重いのかなぁ?」
俺達が乗ったから重くなったのか。いや、それはない。もっと大勢乗った時もあったはずだ、他に原因があるんじゃねーのか?
「おっとっと・・・」
風にあおられたのか、ゆらっと船が揺れた。
心なしか、船の進みは、よろよろしている感じがするのは気のせいだろうか?
そうしている間にもスズメの群れはこっちに接近してきている。間違いない、あれは確実にこっちをロックオンしているに違いない。
「ポーリン、あの剣の先からぶわあぁっと出る光線みたいな奴で追っ払えないのか?」
「無理やっ!最近あれ出来へんってゆーたやん。あかんって」
ちっ、肝心な時に使えねー奴だぜ。
「ちっ、ちっ、ちっ、使える方がおかしいんだって理解しいや」
又、俺の考え読まれたぜ。そんなに単純なんか?俺って・・・。
甲板上では、俺達のやり取りなど関係なく、軽歩兵達が弓で迎え撃つ準備をしている。
アンジェラも必死で進路を右に変え、スズメどもから離れようとしているが、どうもあっちの方が早いようで、どんどん距離が詰まってきている。
なんで、あんなにずんぐりむっくりの姿であんなに早く飛べるんだ?どう考えてもおかしーだろうがよ。
だが、おかしくてもおかしくなくても、スズメの群れは確実に接近を続け、ついにはその赤い頭部と黄色いくちばしがはっきりと視認できる距離にまで寄って来てしまった。
「よーく狙えよ!頭部だ、撃ち落さんでもいい、追い払えばいいのだから、頭部を中心に狙えよ!」
ハンスの号令を合図に、甲板上で準備をしていた軽歩兵達が一斉に矢を放った。
矢の射程はそれほど長くはないので、やつらには届いてはいないようだが、顔に向かって飛んで来る矢は鬱陶しいとでも思ったのだろうか、やつらは接近するのをやめて一定の距離をおいて周囲を旋回しはじめた。
「まずいな、矢だって無尽蔵にある訳じゃねーぞ。ちっ、しかたがねーな」
俺は腰のナイフを抜いて甲板後部に走った。そこには多数の竹が補修用に保管してあった。
その中からなるべく真っ直ぐな奴を選んでその数本の先端をナイフで削って尖らせた。
「これでいいか」そうひとりごちた俺は竹の槍を右手で掴むと舷側に走った。
やつら、まだ船の周囲をぐるぐると飛んでやがる。今目に物見せてやるぜ。
「どっせいっ!!!」
掛け声と共に、ちょうど目の前を横切ろうとしていた奴に狙いを定めて槍を力一杯放った。
槍は、その見事に太った図体の真ん中に突き刺さった。
そいつは、甲高い叫び声をあげると、錐もみ状態で下界へと落ちて行った。
「ざまーみろいっ!人間様を舐めくさるからそうなるんだ」
俺は誇らしげに胸を張って、勝利の宣言をしたのだが、何故か周囲の視線は冷たかった。
おいおい、俺はみんなを救ったんだぜ?なんでそんな目で見るんだ?他の奴らだって逃げてったじゃねーかよ。
「アンジェラさん、予定のコースに戻して下さい」
アドはそれだけ言うと、階下に降りて行った。
なんなんだ、いったいよお。感謝の言葉もねーんか?憤慨して居るとハンスが寄って来て、さもわかったふうに話し掛けてきた。
「そんなに脅威でもなかったんだ。なにも撃ち落さんでも良かったのではないか?あの四羽はたぶん家族だぞ。後は自分で考えてみることだな」
そう言うと、ハンスも去って行った。
家族だから何だって言うんだ。俺達にとっては邪魔者に違いねーだろうに!撃ち落して何が悪いってんだ。
なんか腑に落ちねー。ムカつくから俺は寝るっ!俺はそのまま甲板上で転がってふて寝してやった。
俺が目をさましたのは、少しうとうとし始めた頃だった。
何が起こったのかと目を覚ましてみると、船は高度を下げている所だった。
前方を見ると、もうすぐ海岸線のようだ。破損した戦船が多数打ち捨てられている所を見ると、俺達が船で出発した新大陸か?
やがて船は静かに着水して、ゆっくりと砂浜に向かって前進して、そのまま砂浜に乗り上げた。
「やっと帰って来たぜ」感慨深げにそう言ったのだが、誰も聞いて居なかった。
みんな、上陸の準備のために忙しそうに甲板上を行ったり来たりしていたからだ。
特に忙しそうなのは、船首付近の左舷だった。何人もの軽歩兵が竹で作られたとおぼしき担架に取り付いていた。
ああ、そうか。あれにシャルロッテを乗せてロープで下に降ろすんだな。なるほどな。
感心して居ると、ハンスに声を掛けられた。
「暇なんだったら、先に行って聖女殿の護衛でもしたらどうだ?ここは、戦力は足りているんでな」
ちっ、うるせーな、わかったよ。行きゃあいいんだろ?行きゃあ。
もうこれ以上嫌味を言われるのが嫌で、俺は垂らしてあったロープを伝い砂浜に降りて、結界の巨像のあったと思われる方に記憶を頼りに走り出した。
走っていると、一瞬だが急に辺りが暗くなった。上を見上げると、かなりの高高度を二匹のワイバーンが帝国に向けて飛んで行く所だった。
「ちっ、いってー何匹いやがるんだ、あの野郎達はよお」
遠くに消えて行く後ろ姿を憎々し気に見送ったあと、俺はまた走り出した。もたもたしてっと、又何言われるかわかんねーからな。
しばらく走ると、あの見覚えのある巨大な真っ黒な石像が見えて来た。そして・・・
「なーにやってんだあ!こんな所でよお」思わず叫んじまったぞ。
巨大な石像の足元に、ひと張りのテントが見えたからだ。こんな遮蔽物も無い草っぱらに、なに無防備にテントなんて張ってやがんだ。聖女ってーのは危機感がねーのか?
テントに駆け寄った俺は、容赦なくテントを開け放った。
「おいっ!!なんでこんなところで・・・・」
俺の言葉は、そこでとぎれてしまった。
「おかえりなさい」
満々の笑みでそう言われたら、もう何も言う事が出来なかった。
うそだろう?俺が、俺様が、こんな女ひとりにブルっているっていうのか?
一体どういう事なんだ・・・?
そんな俺の動揺などには一切構わず、こいつ、ニコニコしてやがるぜ。これが聖女の能力なのか?




