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俺はムスケル、不幸を纏う漢  作者: 黒みゆき


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39/48

39.撤収(1)

読者の皆様

投稿が遅くなりまして申し訳ございません。

暑さでばてておりました。

なるべく頑張りますので、ご容赦を・・・。


 シャルロッテの石像を中心に広がっていたまばゆいばかりの光の奔流は、次第に収まってきている。

 だが、それでも眩しいことには変わりがなかった。シャルロッテの姿は相変わらず光の中心にあって、その姿は一向に見えてこない。

 俺達は、シャルロッテの石像を背に上空を睨んでいるのだが、あいつら、ワイバーン達には何か変化が認識出来たのだろうか。耳障りな叫び声が一段と激しくなって来ているのが分かる。

 来るのか?と、身構えていると、二匹のワイバーンが同時に頭から突っ込んで来た。

 来やがったかっ!!

 長い羽を器用に畳んだワイバーンが二匹突っ込んで来た。俺達は剣を握りしめて身構えていると、器用だと思ったワイバーンは実は不器用なのだとわかった。

 二匹のワイバーンは二方向から本当に同時に突っ込んで来たのだが、天井の穴はワイバーンが二匹同時に通れるほど広くはなかったのだ。同じタイミングで突っ込んだ二匹は、ずぼっと天井の穴にはまってしまい、抜けなくてお互いを威嚇しながらもがいている。

「こいつら、不器用なんでねー?」

 なんて呆然と見ているのは俺だけで、ハンスとポーリンは状況を見るや否や剣を構えて走り出して居た。

 次の瞬間二匹のワイバーンは首を落とされて大人しくなっていた。


「貴公は何故何もしない?何の為にここにいるのだ?」剣を振って刃に付いた血を吹き飛ばしながら、振り返ったハンスから恒例のような言葉が発せられた。

「う・・・」

「おかしらはもうお年寄りやから、直ぐにはうごけへんのよねーww」ポーリンからも情け容赦ない言葉が投げかけられた。

「うう・・・」

 俺だってなぁ、動きたくなくて動かなかった訳じゃねー。おめーらが早すぎんだよ。


 二人と睨み合っている時間は永遠とも思えたのだが、メイの発する言葉でその地獄の様な時間に終止符が打たれた。

「ねー、見て!?姐さんがぁ~」

 反射的に振り返ってシャルロッテの石像があった方向を見ると、もうすでにあの眩い光は消え去っており、そこには一人の少女が石像だった時とまったく同じ姿勢で立っていた。

「まずいっ!」

 俺は本能の赴くまま疾風の様に駆け出して居た。

 何故かわからないのだが、まずいと感じたのだ。そして、俺の本能は間違っていなかった。

 人間に戻ったシャルロッテはゆっくりと傾いていた。

 俺は咄嗟にスライディングをおこない、倒れ込む手前で間一髪シャルロッテと瓦礫の間に滑り込む事に成功したのだった。おかげで俺の背中は擦り傷だらけだ。

「ふぃ~、危なかったぜ」


 ほっとしたのも一瞬だった。俺は嫌な感覚を覚え両腕の中のシャルロッテに視線を移した。

 確かに彼女は石像から生身の人間に戻っていた。間違いなく呪いの解除には成功したらしい。素直に喜んでいいはずだった。

 だが、生身に戻ったはずのシャルロッテの目は閉じたままだし、両手はだらんと下がったまま。全身の力も全く入っておらず、どう見ても意識があるようには見えなかった。

「おいっ!おいっ!起きろ!目を覚ませっ!」

 俺は揺すりながら、声を掛ける事しかできなかった。


「おい、どうした?さっさと脱出するぞ!ぼやぼやしてるんじゃあない」

 駆け寄って来るハンスとポーリンをうつろな目で出迎えた。

「おい、どうした?なにやってる、さっさと・・・・」

 そこまで言った所でハンスが異常な状況に気が付いた。


「まさか・・・意識がないのか?」呆然とするハンスだった。

 こんな時、うろたえる男とは違って女性は強かった。駆け寄って来たアウラがチラッとシャルロッテを横目で見ながら毅然とした声で俺達に命令?した。

「とにかく、今は脱出する事が第一ですよ。おかしらはお嬢を背負ってください。全力で宮廷から出ます。ついてきてください!」

 そう言うと、アウラは呆然とする俺達を尻目に駆け出して行った。


 呆然とした状況から一番最初に脱したのは、王宮に警備隊として派遣されて来ているハリー氏だった。

 走って行くアウラの背中に向かって大きな声で叫んだのだった。

「アウラどのぉ~!そっちに行くと王宮の奥に向かってしまいますぞおぉっ!脱出するのなら、こっちですう~っ!」


 ピタッと止まったアウラはクルッと向きを変えると何事もなかったかのように戻って来た。

 そして、俺達の前を素通りして走っていくではないか。

 俺は、シャルロッテを背負いながら隣に居たハリーに一言呟いた。

「ハリー、すまんが付いて行ってやってくれんか。あいつ、ちょっとアレなんでな」

 俺が何を言いたいのか直ぐにわかったのだろう。ニヤッと笑うとすぐに追いかけて行った。


「さあ、我々も続くぞ。ムスケル、行けるか?」

 偉そうなハンスだが、今は構っている暇はなかった。

「おう、こんなの空気と一緒だぜ。全力で走れるぜ」

 そう言うと俺はシャルロッテを背に立ち上がった。

 周囲に響いているワイバーンの叫び声は、さっきよりも賑やかになってきている。いったい何匹飛んで来やがったんだ?

 俺達はアウラの後を追って、この場から脱出を始めた。


 帰り道は、来た道をまっすぐ帰るだけなので、来た時よりも早く通り抜ける事が出来た。

 まだ、刺激臭の煙の充満した厨房を通り過ぎる時が一番の難関だったが、それ以外はほぼ誰にも合わず、無事帝都の正門に辿り着く事が出来た。

 周囲を見回しても、人影は見当たらず、唯一動いているのは多くのワイバーンだけというなんとも言い表せない光景が広がっていた。


 先頭を行くアウラとハリーを見ると、無人の街道を南へと走っている。

 この道は、来る時に走って来た道だ。そうか、このまま帝国に上陸する時に使ったあの小さな漁村に向かうんだな。あそこなら船があるから新大陸にも行きやすいって訳か。


 その後、途中に乗り捨ててあった馬車を拾い、我々は港町へと向かった。

 俺としては、邪魔者を背負って走らなくてすんだので、これ幸いとばかりに馬車に乗り込んだ。

 馬車の荷台ではアウラが眠り姫に膝枕をしてやっている。まだ意識が戻らないなんて、なにか間違ったやり方をしたんじゃねーのか?

 ハッ、もしかして・・・。

「こいつ、もしかして頭ん中は石のままなんじゃねーの?これこそ本当の意味で石頭だったりしてなあ はははははは ははは はは は・・・」

 み みんなの突き刺さるような視線が・・・痛い。

「な なんだよお、場をなごませようとしただけじゃねーかよお。そんなに睨むなよおお~」


 誰も一言も発しない。俺、そんなに変な事言ったか?


 だが、その後も誰も言葉を発せず、気まずい時間が流れた。

 なんでーなんでー、みんなケツの穴がチーせい奴ばかりだぜ。


 その時だった。聞き覚えのある声がどこからともなく聞こえて来た。


「いやいや、今回はムスケル殿の発言に問題がありますぞww」


 それは馬車の外からだった。

 馬車の後部から乗り出して見ると、一人の男が馬車と同じ速度で走っていた。

「あ、アルバートさんやあww」

 そう、ハンスの元部下で情報部長のアルバート・ベルだった。しばらく見ないと思っていたが、どこに行ってやがったんだ?

「はい、ごめんなさいよー」

 そう言うと、アルバート・ベルはふわっと馬車に飛び乗って来た。


「どうした?アル。何か新しい情報でもあったのか?」

 ハンスの問いに、アルバート・ベルは水を得た魚のように話し始めた。

「当初の予定では、陽動部隊が正面から帝都に迫り、帝都駐留の敵部隊の注意を引く手はずでした。ですが、実際には戦いは起こらなかったのです」

「起こらなかっただと?そんなはずはあるまい、帝都にはかなりの数の軍隊が駐留していたはずだぞ?陽動部隊が行けば必然的に戦いになるはずだぞ?」

 いつも冷静なハンスが珍しく憤慨してるぞww

「まさか、陽動部隊になにかあったのか?」

「いえ、陽動部隊は実に見事な隊列を組んで帝都に迫りました」

「じゃあ、なんで?」

「迎え撃つべき帝都の兵がいなかったのです」

「そんなアホな。まったく居らん何てことあるんかいな?」

「まったく居なかったのですよ。既に駐留軍のほとんどはハーマン・ロング将軍と共に、北方にある奴の領地に移動してしまった後だったのです」

「信じられんことだ。その事をお前達情報部は気付かなかったというのか?」

「はっ、面目も御座いませぬ。我々の目は完全に新大陸に向いておりまして、まさかこんな事態になっているとは・・・全て私めの不徳の致すところであります。どの様な処罰も甘んじて受ける所存」

「ああ、勘違いするな。お前達情報部を責めている訳ではない。お前達は良くやってくれている。私は感謝しかない」

「勿体ないお言葉に御座います」

 アルバート・ベルはこれ以上ない位に小さくなってしまっている。


「そうか、戦いがあった形跡がなかったので、何かあったなとはおもっていたのだが、まさか軍が夜逃げとはな。それで、皇帝やらその取り巻きはどうしたのだ?ロングと一緒に逃げたのか?」

「高級貴族どもはみなロングが逃げ出した後、それぞれの領地に逃げ出したとの事であります」

「そうか。で?皇帝はどこに?」

「皇帝は・・・基本的に帝都が領地なので、行く場所が無く、誰も引き取ろうとはしなかったようで、いまだに王都におわすようです」

「みじめなものだ。もう存在価値すらなくなっていたのだな」

「政治もなにもかもがロング将軍に押さえられていましたから、皇帝など名ばかりでしたのでしょう」

「私は政治には全く興味がなかったからなあ、まさか、こんな事になっているとはな・・・」

 偉そうに言ってはいるが、帝国の内情なんてこんなもんか。大した事ねーなあ。


 そんな事を考えながら、ぼーっとしていると、メイの叫び声が聞こえた。


「ワイバーン、二匹!こちらに向かって来るっ!正面っ!!」


「更に左から一匹!」


「正面の二匹の後ろから、形の違うのが接近中!」


 矢継ぎ早にメイの悲鳴のような報告が響き渡った。

 形の違う奴だとお?まさか、ついにダークエンジェルが来やがったのか?


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