32.帝国進行(7)
俺達はたった五人でパンゲア帝国の帝都、ルルティアを強襲する為、密かに徒歩で帝都に接近していた。
大切なので、もう一度言うが、たった五人で だ。
ちなみに、ルルティアは帝国きっての巨大都市だ。当然守っている軍隊の数も半端ではない位居るはずなのは自明の理だ。
おそらく万単位で居るものと思われる。そんな中に、俺達はたった五人で突入しなくちゃならねーんだぜ。
遠回しに死ねって言われているようなもんじゃねーか?俺がいったい何をしたっていうんだ?静かに山賊家業を謳歌していただけなのによお。
俺はなんて不幸なんだ。知らず知らず大きなため息が何回も出るってもんだ。
「はああああぁぁぁぁぁ」
「ん?どうした?大きなため息なんぞ吐いて。貴公らしくはないではないか」
ノー天気そうな笑顔で、ハンスが声を掛けて来た。
「おめーは何とも思わねーんか?いくら陽動部隊が敵兵力を誘き出してくれるとは言え、帝都内にはまだ無数の敵兵が居るんだぞ?たった五人でどうしろっていうんだよ」
「大丈夫だ。いざとなったら貴殿を置いて逃げればいいんだから安心しろよww」
「ちっ、話すんじゃなかったぜ」
むかついた俺は奴を置いてさっさと歩き始めた が、アウラの一言で思いとどまった。
「おかしらが一人で囮になってくれるみたいですねぇ。その間に私達は姐さんをさがしましょうよ」
「ぐっ・・・」立ち止まった俺にアウラの追撃が来た。
「あらあ、先に行って敵を引き付けてくださるのでは?ww」
アウラのやつ、日に日に可愛げが無くなってきやがる。
「ところで、将軍様?」ひょいと顔を出して来たポーリンが奴に声を掛けた。
「私は将軍は辞めたのだ。ハンスでかまわんぞww」
こいつ、本当に辞めたんか。というか、そんなに簡単に辞められるもんなのか?将軍職ってーのはよ。
「さよけ?ほならハンスはん、さっきアドちゃんと何話してたん?」
順応はやっ!
「ああ、さっきにを見てたのか。あれはな、シャルロッテ嬢の石像のおおよその場所が分かったと言う報告を受けていたのだよ」
「ほんまなん?」
「ああ、王宮内に持ち込まれたのは間違いないらしいと言う所迄わかったそうだ」
「わーお、ほなら探すんは楽なんとちゃうか?」
ポーリンは、もう見つかったかのように喜んでいるが、現実はそんなに甘くないと教えてやらねばならん。
「をい、ポーリン王宮はな・・・」
そこまで言ったところで、奴が口を出してきやがった。
「お嬢さん、王宮はあのムスケルのアジトとは違うんだよ。王宮内に住み込みの使用人だけで千人はくだらないんだ。公務をする館に、私的館、貴賓をおもてなしする館に会議室なんか十や二十じゃ済まない。この私ですら知らない館まであるのだ。ああ、儀式をするホールなんかちょっとした集落位の大きさがあるぞ。なにせ一万人以上入る規模だからな。わかったかな?王宮と言っても果てしなく大きいのだよ。まあ、王宮勤めの兵を捕まえて優しく問い質せば、すぐに場所は判明するであろうがなww」
ちっ、なんで王宮と俺のアジトを比べなきゃならんのだ。意味がわからん。
「をいっ、王宮の大きさなんかよりも、どうやって帝都に潜り込むかを考えるのが先なんじゃねーのか?」
だが、奴は余裕の笑みで切り返してきやがった。
「ふふふ、貴公と一緒にしないでもらおうか。今、帝都への侵入は実に簡単なのだよww」
「どう言う意味でぃ。そんなに簡単に侵入許したら駄目なんじゃねーのか?帝都だぞ?皇帝の居城だぞ?」
「そやで?何で帝都の警備がガバガバなん?」
ポーリンの指摘はもっともだった。奴は大きなため息をひとつ吐くと、淡々と話し始めた。
「先だって国の北部で、火山の噴火が群発したのは知っているな?」
「知っとうよ。うちらの国もえらい目にあったもん。それが、どないしたん?」
「その噴火が群発した時、噴火した最後のひとつがあったのが、帝都のすぐ近くでな。火口から溢れて来た火砕流が帝都を襲ったのだ」
「あちゃーっ、なんでそないな危険な山の近くに帝都なんかこさえたん?」
「あはは、それを言われると頭が痛いのだが、最近まであの山は死火山だと信じられていたのだ。だから完全に虚を突かれてしまったのだよ。火砕流は北部の城壁の一部を破壊して、王宮を少し呑み込んで収束したのだよ」
「ほな、その火砕流の流れた残を辿って王宮に侵入する訳やな」
「いやいや、そこはそんなに甘くないのだ。帝都に入るのは簡単なのだがな、その分王宮の警備が厳重になってしまっているのだ」
「警備って、レッドショルダーみたいな精鋭が守りに就いておるん?」
「いや、武力は普通のレベルだな。ただ出身が高貴な家の出なだけだな」
「それやったら簡単やん。片っ端から打ち倒してしまえばええだけやん」
ふふふ、ハンスの奴め、やっとこの娘っ子達の恐ろしさに気が付いたかww俺の苦労を思い知れっ!!
だが、奴は淡々としていやがる。やせ我慢なのか?鈍いのか?
「そんな事をしていたら、ムスケルと変わらなくなってしまうよ?嫌だろう?」
「「いやっ、凄く嫌っ!!」」 そんなに拒絶せんでもいーじゃねーか。
「そうだろう?我々は産まれ変わったのだよ。もう、只の山賊ではないのだ。〖聖なる賊〗となったからは、無駄な殺生は避けねばならんのだ」
いつなったんだ?その〖聖なる賊〗とやらに。俺は知らんぞ。
「そりゃあね、無駄な殺生がしたい訳じゃないけどさぁ」
「予定通りに陽動部隊の活躍に期待しようじゃないか。彼らが事を起こすまでに、我々は突入地点、帝都の北門に到達しておかないとならないのだ。さあ、もう少し速度を上げて帝都の裏側に向かおうではないか」
ちっ、勝手に指揮官ぶりやがって。おもしろくねーなぁ。だが、ここで騒いで騒ぎを起こす訳にはいかねーから、我慢するしかねーのか?
「なぁ、将軍様。王宮のどこに姐さんがおるんだか分かれへんのよね?この人数で見付けられるん?」
「ああ、お嬢さん。ポーリンさんでしたか?さっきも申しましたが私はもう将軍を辞めて、一介の山賊なのだよ。だから、普通に呼んでもらって構わないですぞ」
"「
えへっ、つい呼んじゃうのよねぇ。ほななぁ、親しみを込めて""大将""で、どや?
」"
「ううむ・・・まあ、いいでしょう。で、質問の答えなのだが、石像をどこに置くかと考えてみれば、一番可能性が高いのは普通宝物庫ではないかな?もし、まだ皇帝の拝謁が済んでいないのだったら、謁見の間あたりも怪しいのではないかなと思うのだが」
「後は臨機応変でなww」
「出たとこ勝負 やろ?ww」
「そう言うこったww」
そこでポーリンが後ろを振り向いたので、俺と目が合った。
「おかしらー、たそがれとらへんで、ちゃっちゃと走るわよ!」
誰がたそがれてるだって?失礼なやっちゃ。
あいつら、憤慨する俺を置いてさっさと走って行きやがるぜ。俺も甘くみられたもんだ。
ついこの間までは、誰もが恐れた存在だったって言うのによ、なんでこんなになっちゃったんだ?
ぶつぶつ言ってても仕方がねーから、俺もあいつらの後を追って走ったけどよお、走っている場所が茂みやら崖やら走りずらいったらねーぜ。
まあ、人目についたらいけねーから仕方がねーんだけどよ。
暫く走ると異様な風景が目に飛び込んで来た。
高く威容を誇る巨大な帝都の城壁が視界一杯に広がっているのは想定通りだが、まだ噴煙を上げている火山が、帝都から五キロから十キロくらいしか離れていない至近距離にそそり立っている姿は異様だった。
おまけに、その火山のなだらかな稜線が真っ直ぐに帝都に突き刺さっている絵は理解の範疇を遥かに超えていた。
俺達は帝都に突き刺さっている溶岩を避ける為に、反時計回りに帝都の巨大な城壁に沿って北門を目指した。その途中で帝都の正面を横切ったのだが、まだ平和な感じで商人の大きな馬車が何台も出たり入ったりしていたが、全体的に静かなものだった。ただ、正門前の警備の兵士の数がやや多く感じたのは気のせいだったのだろうか?
幸いな事に、町民の姿をしている俺達に興味を持った兵士は居なかったので、無事に正門前を素通りする事が出来た。警備・・・ゆるゆるじゃねーか?とも思ったが、今の俺達にとってはラッキーだったと言えよう。
そんな事を考えていたら、ハンスがすすすと近寄って来た。こいつ、今度は何ケチ付けて来るつもりなんだと身構えていたのだったが・・・。
「昔はこんなじゃなかったんだ・・・」
「を?何が言いたい?」
「独り言だ。気にするな。兵の質が落ちて来たのを嘆いて居ただけだ」
「そうか、こんな怪しいのが目の前を通っても目に入らないとは困ったものだな」
「気にすんなよ。俺達はついているんだ。聖なんとか なんだろう?」
「ああ、すまんな」
ハンスが気落ちしているのを察したのかは知らんが、アウラが話し掛けて来た。
「ハンスさん、ふと思ったのですが、帝都がこんな有様なのに、移転とかはしないのですか?警備上考えても、このままの状態だと色々問題がありそうに思えるのですが」
「そうですな。傍から見るとそう思えるのでしょうな。我が帝国には二つの中心地があるのだよ。ここ帝都ルルティアは皇帝と古くからの貴族を中心とした帝国人の心の中心地。そして、もう一つの中心地は首都コルドバ、軍と商業の中心地だ。はっきり言ってルルティアを失っても国としては影響が少ないが、コルドバを失うと、国家として機能しなくなるのだ」
「影響が無いから放置されていると?皇帝様って一番偉い方でしょ?それで国民が納得しているのですか?」
「今現在我が帝国を支えているのは強大な軍事力なのだ。世界的にも軍事国家として知られている。皇帝の存在は形骸化されていてな、居ても居なくても変わらんのだよ。実際、皇室には何の権限も無い。只のお飾りなのだよ」
今度は今まで黙って聞くだけだったメイが口を挟んで来た。
「それって、何か事が起こった時の腹切り要員として存在させて貰っているって聞こえるのですが?私の考え過ぎなのかな?」
この時のハンスの顔、傑作だったな。目をまん丸にして口もあんぐりと開いていた。
「これは驚いた。普段は控えめな存在なのに、メイ嬢の洞察力は大人顔負けだな。いや、仰る通り、今の皇帝はお飾りなのだよ。だから、帝都もあのままなのだ。政治を行っているのはコルドバの軍事貴族達なので、問題はないそうだ」
それって、なんか違くねーか?
「おい、おめーそれでいいのかよ?おめー、軍のトップだろうが、発言力あるんだろう?」
珍しくハンスが言い返して来ないで頭をぽりぽりと掻いている。自信家ハンスのこんな姿は滅多に見れるもんじゃねーぞ。
アウラ達も、興味津々でその顔を覗き込んでいる。
「確かに、私は現場ではそれ相応の発言力はあると自負している。しているのだが、あくまでそれは現場での事であって、政治が絡むと大将軍であっても所詮は兵隊と変わらんのだよ。政治には一切口を挟む事はできないのだ」
「なんでー、偉そうにしてたって、その程度なんかよ」
「そう言うなよ。宮仕えなんてこんなもんだ」
お、珍しく奴を言い負かしたか?鼻息が荒くなりそうだったのだが、アウラに諫められてしまった。
「おかしら、そういう事を言うもんじゃあありませんよ。ハンスさんだって、一生懸命に出来る事を行っているのです。今は、そんな事を言っている場合じゃないと思いますよ?これしか味方が居ないのですから、みんなで一致団結して事に当たらないと。でしょ?」
「う・・・確かに。すまん、ハンス」
アウラの奴、最近言う事が婆さんみたいになってきやがったな。誰の影響なんだ?
「いや、いいんだ。貴公の言う通りだ。もっとしっかりせんといかんな」
大の大人が二人して年端も行かない小娘に言い負かされるなんて、時代は変わったって事か?
そんな事を言い合って居ると、遠くに帝都の北門と思われる物が見えて来た。
どこか近くに潜む場所を見付けて騒ぎの起こるのを待たねーとな。
周囲には小集落が何か所か見受けられる。この中のどこかに潜めばいいか。
俺はハンスに小声で話し掛けた。
「おい・・・」
「分かっている、潜伏場所だろう?小さな集落がいくつが見られるが、出来れば騒ぎは起こしたくはないな」
「空き家をさがすしかねーか」
脇で俺達の会話を聞いて居たポーリンが声を上げた。
「ほなら、うちがひとっ走り見て来るわ」
止める間もなく走り出そうとしたその瞬間だった。
突然、声を掛けられてしまった。
「おい、お前達!」




