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俺はムスケル、不幸を纏う漢  作者: 黒みゆき


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30/34

30.帝国進行(5)

 俺達は、今、黒い蛮族との死闘を演じている真っ最中だった。

 だが、三人のレッドショルダー兵の出現で、それどころじゃあ無くなったのだった。

 その三人のレッドショルダー兵は、みな鎧を持参していた。それも、ただの鎧ではなくレッドショルダー専用の鎧だった。どうやら三人の持っている鎧を集めると一人分になりそうだった。

 問題は、その鎧が誰のかという事だ。今現在、蛮族との闘いの最中なのだから、当然鎧を脱ぐなんてことは普通ありえない。

 おまけに、その鎧は血だらけじゃーねーか。血だらけの鎧・・・俺の脳裏には、さっき別れた小僧の事が浮かんじまった。

 まさか・・・なんで?

「そいつらの言う事には・・・部屋の中に、怪我をした兵士が居たので・・・いたので・・・」

 そのまま鎧を抱きしめたままうずくまって泣き出してしまった。

 すかさず横に居た兵士が、そんな彼の後を引き継いで涙ながらに話し出した。

「金になると思い・・・みんなで刺し殺して、鎧を、鎧を・・・奪ったとの事・・・でした。ううううぅぅぅ」

 その兵士も、抱きかかえていた鎧の頭部と胸部を抱えたままうずくまってしまった。


「な なんてこった・・・、本当の意味でバケモノなのは・・・・人間の方なんじゃねーのか?なんで、そんな事ができるんだ!てめーらを必死に守ろうとして傷ついた兵士に同族である人間が止めを刺すなんて・・・外道の所業じゃーねーかよ!」

 俺の中では、悲しみよりも怒りの方がどんどん広がっていき、怒りのあまり髪が逆立っているのを感じていた。

 鎧の両腕を抱えていた兵士が、俺のほうをキッと睨み、その手に抱えていた小僧の鎧の腕を差し出して来た。

「ムスケル殿!我々は誇り高いレッドショルダーです。戦場で戦死しようとも後悔をする事はありませんっ!しかし、しかしですっ!身体を張って守っているはずの一般市民に殺されるなんて・・・納得がいきませんっ!!我々がして来た事は、無駄な事だったのでしょうか?ムスケル殿は参謀殿の撤退の進言を退け、一般市民の救出を主張されました。その結果が・・・これです。ムスケル殿は今でもご自身の判断は正しかったとお思いでしょうか?」

「うっ、そ それは・・・」

「我々は誇り高き騎士であります。こんな最後は認められません。上官に意見など、重罪であるとは分かっています。でも!でも・・・・自分は・・自分は・・・」

「おい、もうよさんか。ムスケル殿も困ってらっしゃるではないか」

 たまらずマイクが間に入って来た。

「しかし・・・」

 彼も軍法会議ものだって分かっていて、厳罰覚悟で言っているのであろう事は、よーくわかる。だから、責めようとは思わない。

 そんな事よりも、あの小僧の明日を奪った三人組だけは許せん!!見つけ出して八つ裂きにしてやらねば、俺の気が済まん。


「すまん、全て俺が悪かった。俺の判断ミスだ。なんと罵られても、甘んじて受けよう。だが、俺にはやらなくてはならない事が出来ちまったんだ。罵るのはその後にしてはくれまいか?」

 俺の形相で、何を考えているのか感じ取ったのだろう。マイクが口を開いた。

「ムスケル殿、いかんぞ。それはいかんぞ。今は生き残った者をまとめてここを引き払う事が最善の策だと理解してくれ」


 マイクの言っている事は正しい。それはわかっている。だが、俺は・・・俺は・・・。

「マイク、あんた、みんなを連れて帰ってくれ。俺は・・・俺は、あの三人組を八つ裂きにしてやらなければ、この心の奥底から湧き出して来る怒りを鎮めるすべをしらんのだ。後生だ、俺のわがままだって事は十分にわかっている。だが、ここは見逃してくれ!武士の情けだ!頼むっ!」

 俺はマイクに向かって、九十度のお辞儀をした。

 ぼたぼたと落ちる涙で地面には染みが広がって居る。俺の心はもう決まっていた。


「じゃあ、後は頼むっ!!」

 そう言って踵を返したその時だった。俺の頭の中に女の、それも聞き覚えのある女の声が響いて来た。


⦅いけません。怒りに我を忘れてしまっては、ケダモノと変わりませんよ。冷静になるのです⦆


「だっ、誰でいっ!!」

 周囲をきょろきょろと見回してみるが、そんな女は何処にも見当たらなかった。

 幻聴か?


「参謀殿、ムスケル殿の様子がおかしくはないですか?きょろきょろ何を探しているのでしょうか?」

「ううむ、確かに。普段もおかしいが、今は更におかしいな」


⦅怒りからは、何も生まれませんよ。あなたが今成すべき事を、今一度思い直しましょう⦆


「だっ、誰でいっ!どこでしゃべってやがるっ!!うおおおおぉぉぉっ!!!」

 気が付いたら、俺は耳を押さえたままぐるぐるとその場で回転していた。そして、よろけて地面にへたり込んでしまった。


「ムスケル殿・・・壊れましたかね?」

「せやな、いつも壊れとるけど、今日のは一段とえげつな」

「誰かがムスケル殿の頭に直接話し掛けてるのでしょうか?」

 蛮族の退治に一区切りをつけたポーリンがやって来た。

「おお、ポーリン殿、ご無事でしたか。で、蛮族はどうなりましたか?」

 マイクはさっきまでとは違って、優しい笑顔で話し掛けてきた。

「うん、あらかた片付いたわ。もう撤収してもええんとちゃうん?」

「そうですか。撤収したいのは山々なのですが、ほれムスケル殿があの調子なので、困っているのですよ」

「ほんま、何犬みたいにグルグルしてんやろなぁ?しまいにへたり込んでるやん。どないなっとるん?」


「俺の頭ん中で勝手にしゃべりやがって!てめーいったい誰でぃっ!!」


 なにやら叫びながら両手をぶんぶん振り回して暴れているムスケルを取り巻くように、レッドショルダーの参謀マイクをはじめとして、ポーリン達が唖然として見ていると、不意に背後から声がした。

 ぎょっとした一同が反射的に振り向くと、そこに居た面々を見て更にぎょっとしてしまった。

 そこには、すでにここから避難しているはずの人達が立っていたのだった。

 将軍であるハンスを始めとしてアド、アウラ、メイそして、レッドショルダーと一般の装甲騎士が合わせて十人程立っていた。


「アドちゃん、なしてここにおんのよ?将軍様も。避難したんとちゃうん?」

 心底驚いた表情のポーリンやマイクに対して、将軍達は余裕の表情で立っていた。

「ごめんなさいね。あの後、驚きの情報が届いたので、急遽予定を変更して駆けつけたのよ」

「それはそうと、ムスケルの奴、何をやっているんだ?気がふれたとしか思えんが?」

 将軍も驚いたというよりも、呆れた表情で「うおーっ、うおーっ」と叫びながら暴れているムスケルを見ている。


 だが、アドはいつも通り冷静だった。

「おそらく、アナ様がお頭の頭に直接話し掛けているのでしょう」

「アナ様が?そないな事ほんまにできるん?」

「ええ、そんなに頻繁には出来ないそうだけど、おかしらを止めるには仕方が無いと思われたのでしょうね」

「な なるほど・・・」


 すると、傍観していた将軍が、つかつかとムスケルの方に歩いて行き、彼の肩をむんずと掴み自分の方に向けさせると・・・。


 ・・・・いきなりその顔面を力の限りぶん殴った。ただ殴るのではなく、全身の力を込めてぶん殴ったのだった。

 不意を打たれたのと、将軍の剛腕のパワーも相まって、ムスケルの身体は身体を捻るように宙を舞って、少し離れた地面に激突した。

 何が起きたのかさっぱり分からないムスケルは、呆然とした表情で起き上がってきたが、そこに将軍が追撃をかけた。

「このオオバカモノがああぁっ!!もっとしゃんとせんかいっ!!なんだそのざまはっ!!情けないと思わんのかあっ!!」


 いきなり殴られ、いきなり怒鳴られ、ムスケルは言葉も出せずに将軍の事を凝視したまま固まっている。

 その二人の光景を見ていた全員は、別の意味で驚いて居た。

   あの拳を喰らって・・・何でもないのか?何で平然と起き上がってこれるのか?


「今、お主の頭の中に直接話し掛けてこられているのはあの聖女様であらせられるアナスタシア殿だって言うじゃないか。もっと落ち着いて拝聴せんかっ!!」

「ア アナ・・・聖女・・・」

 まだ事態が呑み込めないムスケルは、呆けたまま固まっている。

 そんな中、アドがムスケルの元へと歩を進めた。

 ムスケルの眼前で足を止めたアドは静かに話し始めた。


「よく聞いて下さい。どうやら、かの帝国の万年二位の将軍であるハーマン・ロング将軍は、ハイデン・ハイン将軍が新大陸に立った時、これをチャンスと捉えたようなのです」

「チャンス だと?」

「そう、将軍を追い出すチャンスだと思ったのでしょう。金で抱え込んでいた幕僚達を使い皇帝に進言したそうです。ハイデン・ハイン将軍が新大陸に侵攻したのは帝国に反旗を翻して独立国家を造る為だと。国家反逆罪であると」

「くだらない妄想だ。そんな甘言を信じる皇帝も皇帝だ」吐き捨てるように将軍は言い放った。

「反逆者には天誅を加えるべし、と今現在帝国全土が敵に回っているそうです」

 言葉が出ないムスケルは、黙って将軍に視線を向けた。

 その視線に気付いた将軍は静かに呟いた。

「身内の恥をさらすようで情けないのだが、そんな状況だ。笑ってくれてもいいぞ」

「いや、そんな・・・。はっ、おい、お前の領地は・・・お前の身内はどうなっているんだ?まさか・・・」

「ははは、私を舐めるなよ。私に何か不測の事態が起こった時は、国境を閉じて決して打って出るなと普段から指示を出してある。国軍が攻め寄せて来た所で、問題無く持ち堪えられるだろう」

「おめー、こんな所で時間を使っている暇はねーんじゃねーか?領地を守りに戻らねーとだめだろうがよ!」

「心遣いはかんしゃする。が、心配無用だ。今はシャルロッテ嬢を取り戻す事の方が大事なようでな。聖女殿もそう仰っている」

「聖女が?それで俺の頭の中に声が響いて来たって事か?」

 胡散臭い話を聞かされているような表情のムスケルだったが、そんな事にはお構いなしのアドが話を引き継いだ。

「私が話しても信用出来ないでしょうから、これからアナ様がお話をなさるそうです」

「これからって、あんな遠くに居て、どうやって話をするって言うんだ?又俺の頭ん中に入って来るっていうんじゃねーだろうな」

「大丈夫です。私にアナ様が憑依なされるそうですから、みなさんで聞く事が出来るはずです」

 そう言うとアドは目を閉じて胸の前でそっと両手を組んだ。

 何が起こるのかと、興味津々で見ていると、アドの姿が僅かに光り始めた。

「「「「「おおおお~」」」」」

 その光は次第に強さを増していき、やがて全身が光り輝いていった。

 見ている者はみんな、口をぽかーんと開けて見入ってしまって居る。

 そして、アドがそっと目を開けた時、みんなの目に映ったアドはアナスタシアそのものとなっていた。

 その瞬間、誰が始めるでもなく、全員が地面にひれ伏してしまっていた。将軍とムスケルを除いて。

 静かに周囲に視線を送ったアド(アナスタシア)は口を開いた。

「時間がありません。要点だけ話させて頂きます。お聞きになったように、この国はほぼ敵に回ったと言っても良いでしょう。そんな中、シャルロッテ嬢を少しでも早く奪回して人間に戻さねばなりません。それには皆様方のお力が必要なのです」

「それは分かったがよお、石になった人間が再び人間に戻れるんか?見つけ出しても、元に戻れんじゃあ洒落にならんぞ?」

 やっと冷静さを取り戻したムスケルが口を開いた。

「それは大丈夫です。私達姉妹の祖先は竜王様のお血を頂きました。そのお陰で子孫である私達にも色々な力が授けられましたが、シャルロッテ嬢は竜王様から直接そのお力を頂いているのです。更に言えば、私達とも遠縁にあたるので、元々多少なりと竜王様のお力を受け継いでいるのです。ですので人間には問題無く戻れます」

 この思いがけない告白に、その場は静まり返っている。

「じ じゃあ、なんだ、あいつも聖女だって言うんか?あの歩く天変地異が?あの疫病神が?」

 ムスケルにはとってもじゃないが納得できる話しではなかったが、アド(アナスタシア)は優しく微笑みながら口を開いた。

「聖女とは、一種類ではないのです。私とエレノア姉様は人々を慈愛の力で助ける事に特化しています。それに対してシャルロッテ嬢は慈愛の力では解決できない事を力づくで強制的に解決する事に特化しているのです。言わば戦闘聖女とでも言えば良いのでしょうか?今の時代には彼女の力が必要なのです。竜王様は、まだまだ後千年は動けません。その間、彼女の力が必要なのです」

「そんな事があるなんて・・・」ここまで聞いてもムスケルには信じられなかった。

 ここで、将軍も口を開いた。

「仰る事はわかりました。ですが、彼女一人でなんとかなるものでしょうか?」

「無理・・・でしょうね」アド(アナスタシア)は即答した。

「では・・・・」

「一人で出来る事には限界があります。一人では無理です。それなのであなた方が重要になってくるのです」

「我々が・・・ですか?」

「そう。あなたと・・・そこにいるムスケル殿。そして、ポーリンちゃんを始めとするお嬢さん方。みんなで戦闘聖女であるシャルロッテを助けて頂きたいのです。お願いできませんでしょうか?」

「するーっ!!」

「うちも、やるでぇ!!」

「私も助けてあげたい」

 少女達は間髪を入れずに手を挙げた。

「ふ、こんな少女達が名乗り出ているのに、大人の私が参加しない訳にもいかんだろう。私も将軍を辞めて参加させてもらう。将軍をしているよりも面白いかもしれんしな」

 そんな将軍の言葉に焦ったのは将軍の片腕であるマイクだった。

「閣下、将軍を辞めるなど、とんでもない事ですぞ。どうか、今一度冷静になって考え直しては貰えませんでしょうか?」

「私の後は貴殿が継げば良いではないか。どうせこの後は帝都に攻め上る事になるのだろうから、政治の中枢を徹底的に叩き潰してやるから、貴殿が中心になって再度国家を建て直せばいいだろう。うん、それがいい。ついでに我が領土も貴殿に任せようではないか。あそこを拠点に、再び国家統一をすればいい。こっちは時々でいいので補給の支援をしてくれればいいので、後の事は宜しく頼むぞww」

「閣下ぁ~」

 泣きそうな参謀のマイクだった。


「それで、お主はどうするんだ?」

 将軍はムスケルに向かって問いただした。

「どうって・・・どうもこうもねーだろうがよ。俺が行かなきゃ、話しがはじまらんだろう」

 照れたように下を向いたままそう答えるムスケルだった。


「聖女殿、話しは決まりましたぞ。予定通り全員でシャルロッテ嬢を救出に参りましょう・・・ん?」

 そう報告する将軍だったが、ふとアド(アナスタシア)の輝きが弱くなってきているのに気が付いた。

「良かったです。では今後の事宜しくお願いしますね。そろそろアドちゃんの負担が限界に近いので開放してあげようと思います。今後の事はアドちゃんに伝えておきますので、くれぐれにも無茶は謹んでくださいね。では・・・」

 そう言うと、アドの輝きは すうーっと消えて行った。そして完全に輝きが消えた時、アドは崩れるように倒れていったが、すかさず将軍が手を差し伸べたので、地面に激突する事は回避できたのだった。


「あ、アナ様の声が聞こえたわ」

「うちもや。みんなに力を分けてくれるんやて」

 

 どうやら、全員なのかはわからないが、何人かにはなんらかの力を貰えるらしいことがわかり、一同はテンションが上がっていた。


「今は遠い新大陸の方を見ながら、ムスケルは思わず呟いていた。

「無茶は慎めって・・・そもそも、この戦力で国を相手に喧嘩するのって、無茶って言わんのか?」


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