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俺はムスケル、不幸を纏う漢  作者: 黒みゆき


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29.帝国進行(4)

 断りも無く拳を齧られた俺は怒りに狂って壁を蹴破り表に飛び出し、俺のかわいい右の拳を齧った奴と正対した。

 そこには、異様にギラギラと輝く緋色の目を持った巨大な人型の何者かがいた。その全身はほぼ真っ黒と言っていいだろう。


「そうか、夜行性で、硬い皮膚、黒い見た目で、大勢で群れている奴 やはりオメー達の事だったか」


 そこに居たのは、身の丈はゆうに二メートルを超えた筋骨隆々の異形の生物。俺達が『黒い蛮族』と呼んでいる、とても厄介な奴らだった。

 なにが厄介って、こいつら動きは異常に素早く、その上俺の大剣ですら簡単には一刀両断に出来ない程の硬い皮膚を持っていやがるんだ。

 それに一番厄介な事は、奴ら恐怖という感情が無いときてやがる。もちろん情けなんてものも持ち合わせていない。

 言うならば、理想的な戦闘マシーンだ。こいつに対抗して戦う事ができるのは、俺とポーリン、アウラとメイ。そして神話的な武器を貰ったレッドショルダーの面々だけだろう。

 一般兵では立ち打ち出来ないと言っても良かった。いや、ハッキリ言って不可能だ。断言してもいい。

 こりゃあ、領民を守るどころの話しじゃねーぞ。戦力が足りなすぎるぞ!

 俺は目の前の奴から目を離さず、まだ室内にいるであろうマイクに叫んだ。

「おいっ、マイク!こいつとやり合うのは神話的武器を貰った者だけにして、他の連中には領民を城の中に避難させる事に専念してもらった方がいいんじゃねーか?」

 俺の叫びに、壁の破壊箇所から出て来たマイクが、仲間に指示を出そうとした瞬間、目の前の奴が突っ込んで来やがった。

「うぐぐっ!」

 物凄いダッシュと共に強烈な右腕の一撃が降って来た。受け止めるだけでも一杯一杯だぜ。

 どうやら、俺の大剣はこいつの一撃を完全に防げるようだ。防げてはいるんだが、物凄い圧と力はいかんともしがたかった。さすがの俺も両手で大剣を支えるだけで精一杯だった。

「むむむむむ・・・」

 奴と一進一退の攻防をしていると、マイクの声が聞こえて来た。

「神器を持った者は蛮族を掃討せよ!そうでない者は領民を城内に避難させる事に専念せよ!蛮族と戦おうとはするな、あくまで領民の避難が第一であるぞ!」

 これで何とかなるか?と思って居ると、攻撃が受け止められて焦れた奴はすかさず左手を繰り出してきた。

「やべっ!左手に対応できん!やられるっ!!」

 思わず目を閉じてしまったのだが、何故か左手の一撃がこねーぞ。

 恐る恐る目を開けてみると、ポーリンが奴の左手を彼女が持つ細身のレイピアで受け止めてくれていた。

「なーにやっとんのや。忙しいんやで?遊んどらんとちゃっちゃと始末しいいや!」

 そう言うと、あろう事か奴の左手の一撃を受け止めていたレイピアをそのまま降り下ろして、そのまま走って行ってしまった。

 そこには一刀両断された奴の左腕が転がっていたではないか。どういう事だ?あの細身のレイピアの方が俺の大剣よりも切れ味が良いっていうのか?

 そんな馬鹿な事があってたまるかよ。

「俺だって!」

 俺は全身の力と男の意地を大剣に込めて押し返した。

「うおおりゃああああああぁっ!!」


 奴の右手をすっぱりと斬る事は出来なかったが、俺の大剣を抑えて居た奴の右手の平は真っ二つに裂けそのままの勢いで俺の剣は奴の肘の所で止まった。

「ちっ、俺の力じゃこの程度かよっ!」

 さっと剣を奴から引き抜いた。本来なら勝負あった!なのだが、奴は何事も無かったかの様に突進してきやがったぜ。

 俺にも意地ってーもんがあるんでい。このまま引けるかぁ!!

 愛剣を大上段に構え、思いっ切り、力の限り突っ込んで来る奴に向かって降り下ろした。

「でええええええいっ!!」

 剣は運よく奴の首筋にめり込み、そこからは激しい血しぶきが噴き出した。

 さすがのバケモノも全身を数回震わすと、そのまま後ろに倒れていった。


「ふぅ、たった一匹倒すのにこんなに苦労するなんて、いったい何なんだこいつらはよお」

 思わずぼやきながら周囲を見回すとあちこちでレッドショルダー達があのバケモノと対戦していた。

 その中に、二匹に絡まれている奴を見付け、俺は全力で助太刀に駆けつけた。


 二匹からの攻撃で鎧はボロボロだったが、その兵士は一歩も引かないで耐えていた。たいしたもんだぜ。

 俺は双方の間に身体を滑り込ませて、その内の一匹に体当たりをかました。

 そいつは、たいしてよろけもせずこっちを睨んで来た。俺の体当たりをもともしないとはさすがバケモノだぜ。

「おい、大丈夫か?一匹引き受けてやるから、そっちの奴に専念しろよ」

 そう声を掛けながら彼の顔を見たんだが、月明りのせいかどうも顔色が良くないように見えた。やばいか?二匹共こっちで面倒見た方がいいのか?

 などと思ったのも一瞬だった。すぐに俺の相手の奴が仕掛けてきたからだ。

 こいつら、どんだけせっかちなんだよ。

 だが、さっきの奴と戦って分かった事がある。手の平に比べてそれ以外の場所の硬度がやや、ほんの少しだが低い感じがした。

 あのぶんぶん振り回してくる手の平に惑わされなければ、何とかなるんじゃねーか?

 取り敢えず、腹だな。腕をかいくぐるのは至難の業だが、フェイントを使えば出来ねーこともねえざ。ま、やってみるぜ。

 一旦突っかかって来た奴をかわして、側面に回り大上段に構えてみた。そして・・・。

 斬りかかる真似をすると、簡単に引っ掛かってきやがった。やはり、こいつらバカだ。

 両手で俺の剣を迎え撃とうとした為、胴体は一瞬無防備になった。

「ここだああぁっ!」

 俺は奴の両手で防御されるよりも一瞬早く剣の軌道を変え、奴の腹に強烈な一撃をお見舞いした。

 よしっ!!決まった。俺の読み通り・・・なんだが。


 おれ・・・もう帰っても・・・いいかな。

 もうやだ!こんなのの相手するの。


 だってよ、確かに俺の攻撃は成功したんだよ。思っていた通り、奴の腹の強度は手の平に比べると弱かった。そこまではいい。そこまではいいんだよ。

 問題は、その先だ。

 俺の大剣はよお、奴の腹を見事に切り裂いたんだよ。真一文字によ。ふつー、もうその時点で勝負あった!だよな?

 それなのによお、あいつったら、にょろにょろ出て来た自分の内臓をよお、何事も無かったかのように腹の中に押し込めはじめたんだよ。ありえねーだろ?

 俺、こんなのと戦うのかぁ?勘弁してくれよお。

 なんて嘆いて居たら、奴の頭部が突如宙に舞った。

「へ?」

 血しぶきをあげながら飛んで行く奴の頭部をぼーっと見ていると、倒れて行くバケモノの向こうには剣を振り抜いた姿勢のポーリンが居た。

「おかしら、何ぼーっとしとるんや。こいつは頭部を落とさへんかったらいつまでも戦いつづけるんやでぇ。それが嫌やったら、ちゃっちゃと頭を落としてぇやぁ」

 なんで?なんでこいつは、平気な顔でバケモノの頭を落とせるんだ?罪悪感とかねーのか?

 俺って、もしかして物凄く善人だったりしねーか?何か、そんな気がして来た。

 そんな一瞬の内に、もう一匹の頭も宙を舞っていた。

「おかしら、戦えへんんやったら、そこの彼、部屋の中に連れて行ってあげてや。何処かやられてるんとちゃうん?」

 そう言いたい事を言うと、ポーリンは暗闇に消えて行った。


 はっとして、さっきまでそこで戦っていたレッドショルダーの小僧をみると、地べたにへたり込んでいた。

 俺が声を掛けると、自分の剣を支えに必死に立ち上がろうとしている。よく見ると足が小刻みに震えているではないか。

「おい、大丈夫か?どこかやられたんか?」

「大丈夫です。まだやれます、父さん」

「なにっ、おめーなに言ってやがんだ?」

「早くかーさんを、かーさんを・・・」

 そのまま崩れ落ちてしまった。

「おいっ!しっかりしろっ!!おいっ!」

 抱き上げてみると右手に濡れた感触があった。右手を見ると血だった。かなりの出血だった。幸いな事にそのレッドショルダーの小僧は気を失っただけだったので、俺はそのまま抱き上げてさっきまで俺達が寝ていた部屋に運び込んだ。

 鎧を脱がせて、傷口に応急処理を施した。

「すまんな、今はこれで精一杯でな。さっさとバケモノを始末したら仲間の所に連れて行ってやるからな、それまで頑張れよ。寝るんじゃねーぞ」

 俺は、相棒の大剣を握りしめて部屋を出た。彼にはむしろを被せてバケモノに見つかりにくいようにした。気休めだがな。

 畜生、バケモノめ!俺にもポーリンみたいな能力があれば、あんな奴らに好き勝手させねーのによお。ちくしょう。


 部屋から出て周囲を見回すと、三人の一般人を追い回しているバケモノを見つけた。

「おのれえええぇぇぇぇっ!!」

 俺は大剣を頭上に振り上げて、一般人を追い回している化け物に向かって大声で叫びながら一直線に突っ込んで行った。

 怒りに任せて、頭上からありったけの力で大剣を振り下ろした。

 俺の雄叫びで、俺の存在に気が付いて居たバケモノは、斬りつけられる直前にこっちに向き直り、生意気にも迎え撃とうとしてやがる。

 だが、俺は構わず大剣を振り下ろした。

 ガキッ!!

 金属同士がぶつかるような甲高い音・・・ではなく、鈍く重たい音がして、俺の突進は停止させられた。

 やはり、駄目だったかと思ったのだが、良く見ると、俺の剣は奴の右手を粉砕して、更に奴の右肩に食い込んで止まっていた。

 お、いけるじゃん。

 俺はそのまま剣を引き抜きざま、横に薙ぎ払った。

 頭部を失ったバケモノは、もんどりうって後ろに倒れていった。

「よっしゃあ!」

 振り返ると、今の今まで奴に追われていた領民達が恐怖の表情でこちらを見て固まっていた。

 そりゃあ無理もねー、こんなバケモノに追い回されていたんだ、そんな顔にもなるだろうよ。

「もう大丈夫だぞ。安心して城内に・・・」

 まだ全て言い終わらない内だったのだが、いきなり三人の内の一人が叫びやがった。

「ば ばけものだあああぁぁぁぁっ!!」

 その声を合図に、三人は城門のある方に向かって走って行ってしまった。

 ばけものだと?おれが?おれがばけものなのか?

 感謝しろとはいわんが、助けて貰った恩人に・・・バケモノ?思っても言っちゃダメだろうがよ。

 思わず呆然としてしまった。

 とっても虚しい気持ちになっても、誰も文句は言わんだろうよ。


「ムスケル殿、気は済みましたかな?そろそろ我々も撤収する頃合いかと思うのだが?」

 参謀のマイクが全身血まみれでやって来た。バケモノの青い血で凄い事になっている。

 良く見ると、俺も全身返り血でべとべとだぜ。

「バケモノは?」

「まだ数匹残っているが、もういいでしょう。後は彼らに任せましょう。我々は十分にやりました。これ以上は・・・」

「おいおいおい、冷たくねーか?ここまでやって、後は放置するんか?あんた、そんな冷てー奴だったんか?」

「・・・・・・・」

「なんで言い返さないんだ?何とか言えよ。それになぁ、宿坊の部屋ン中には、重症のレッドショルダーの坊やがよお、怪我をして迎えを待って居るんだ。置いて帰れねーだろうがよ!」

「ん?」

 よく見ると、マイクの奴拳を握りしめて震えてねーか?

 まさか・・・。

「おい、まさか、あの坊や、間に合わなかったなんて言わねーよな。なあなあ、言わねーだろー?」

 俺は両手でマイクの両腕をがしっと掴み、揺する様にして問いただした。

「確かに傷は負ってはいたが、そんな重症じゃあなかったはずだぞ?なんで・・・」

「あいつは・・・ティムは・・・」

 すると、マイクの後ろからレッドショルダーが三人現れた。彼らはそれぞれ大事そうにレッドショルダーの鎧を抱きかかえていた。

「おい、、、その鎧は・・・まさか」

 その中の一人が涙声で話し始めた。

「自分は、このレッドショルダーの鎧を小脇に抱えて走っている三人の領民を見たんです。すぐさま追いかけてとっ捕まえました。そして問いただした所、拾ったと言ってました。ですが、違和感を感じたので、その中の一人を締め上げたら、本当の事を話し出しました」

「そ そいつは何て言ったんだ?」


「そいつは・・・」


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