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俺はムスケル、不幸を纏う漢  作者: 黒みゆき


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28.帝国進行(3)



 寝起きで訳も分からず、移動する隊列に加わったものの、何となく違和感を感じた俺は周囲を見回した。

 違和感の元はすぐにわかった。居ないんだよ、軍師殿改め賢者のアドがよお。

 どうなっているんだ?

 俺は近くを歩いて居る重装甲の歩兵を捕まえて問い質した。

「おいっ、この列はどこに向かって居るんだ?賢者はどうした?」

 すると、その歩兵は迷惑そうな表情でこっちをチラ見し、一言だけ言うとそのまま歩いて行ってしまった。

「はぁ?あんた、何寝惚けた事言ってるんだ?退避するに決まっているだろうが」


 退避?何から退避するんだ?どこへ退避するんだ?いったい俺が寝ている間に何があった?

 茫然として立ちすくんで居ると、聞き覚えのある声に呼ばれた。

「あーっ、いたいた、こんな所でなにしてんのよお」

 それはメイだった。

「何って、何がどーなってやがんだ?これはいったいどういう事なんだ?避難って何なんだ?」

「そんなに大きな声出さなくたって聞こえてるわよ。とにかく急いで来てちょうだい、みんなが待っているわよ、将軍様ww」

「待っているって・・・ん?将軍様?」

 思考停止していると、ポーリンもやって来やがった。

「何やっとるん?はようせんと、遅なるでぇ」

 俺はそんな二人に手を引っ張られて再び洞窟の中に連れて行かれてしまった。


 洞窟の奥で待っていたのは、アドとアウラ、そして町人の恰好をしたハンスと鎧をばっちり着こんだ奴の片腕のマイクだった。

 その後方には、レッドショルダー達が並んで居た。

 こ これはどうなってるんだ?なんでハンスが町人の恰好をしているんだ?


 困惑していると、マイクが話し掛けて来た。

「将軍閣下、遅うございますぞ。さ、時間もございません、急いで鎧を着てくださいまし」

 なっ、こいつも俺の事を将軍と言ったぞ、どうなってるんだ?

「時間がないので、まずは鎧を着てくださいな。レッドショルダーの方々、お手伝いを」

「おいっ、いったい何が・・・」

「時間がないんです、鎧を着ながら説明をしますので、さっさと着替えてくださいね」

 俺の言葉など完全に無視され、なし崩しにレッドショルダー用の鎧を着る事になった。

 俺は鎧なんていう野暮ったい物は嫌いなんだが、反論を許さないこの雰囲気はなんなんだ?

 約束通りアドが説明を始めた。

「明け方に、偵察に出ていた一人が帰って来ました。彼のもたらした情報は、この地方を治める領主であるウオーカー男爵の城から数台の馬車と相当数の騎兵が出発してこちらに向かっているとの事でした」

「おい、まさか匿ってくれるとかじゃあねーよな?」

「それはありません。そもそも、我々がここに居る事を知っている事事態が疑問なのですよ。何故知っているのか」

「そ そりゃあ、先に逃げ帰ったなんたら言う腰抜け将軍から聞いたんじゃねーか?」

「私もそう思います。でしたら彼らが何を目的にしているのかは、自ずとわかりますよね?」

 そこまで言われたら、さすがの俺だってわかるぞ。

「目障りな将軍の確保、もしくは処分・・・か」

「そう、間違いはないでしょうね。相当数の騎兵は護衛でなく逃走防止の為の見張りか、場合によっては取り囲んで処分する為だと思われます」

「おめー、よっぽど嫌われてんのなww それでよお、俺がこの嫌味ったらしい鎧を着る事とどう繋がってくるんだ?」

「まだわかりませんか?将軍閣下」

 ん?ん?なんだあ?もしかしてあれかぁ?わかっていても答えを言いたくない類の奴なのか?

「わ わからねーな?いったい何を言いたいのか?わかりたくねーなぁ」

「わかっているようですね。その通り、おかしらが将軍に扮してみんなが避難する時間を稼ぐんですよ。簡単でしょう?」

「それで、みんなが将軍だって言っていたのかよ。俺は囮かよ」

「大丈夫ですよ、ムスケル殿。それがしもレッドショルダー達も一緒に参りますので」

「幸いな事に、おかしらと将軍閣下とは体格が似て居りますれば、成功する事間違いないでしょう」

「不幸な事って言ってくれ。なんで俺がよりにもよって、こいつの代わりなんてしなきゃあならねーんだ?」

「選ばれたのですよ、神様にね」

「神様だあぁ?くそったれがぁ、こんなのは神は神でも疫病神の仕業だぞっ!!」

 それにしても、この鎧って奴はなんて重たいんだ?こんなのを着て良く動けるもんだぜ。

 おまけに奴の臭いがして、気分最悪だぜ。


「ほう、馬子にも衣裳とは言うが、貴公なかなか似合っているではないかww。任務がおわったら将軍やってみるか?ww」

 ちっ、好き放題言ってくれるじゃねーかよ。

「将軍なんざまっぴらごめんだ!俺は自由気ままが好きなんでい。そもそも将軍なんてーのは暇な奴がやればいいんだ」

 そんなやり取りをしていると、洞窟の入り口の方が騒がしくなって来た。

 そして、見張りをしていた一人の兵士が駆けて来て、報告をした。

「閣下、奴ら来ましたぜ」

 洞窟内に緊張が・・・走らなかった。みんな、妙にリラックスしていて、その表情には笑顔すら見えた。

 まさか緊張しているのは、俺だけか?

 なんて焦って居ると、アドが声を掛けて来た。

「おかしらは絶対に喋らないでくださいね。奴らの城に着くまで、無言を通してください。城に着いたら、大暴れして構いません。適当に暴れたら合図を出しますので、我々も退散します。くれぐれも引き時は見誤らないでください」

「お前、簡単に言ってくれるがよお、周囲を敵に囲まれているんだぞ。そんなに上手く行く訳ねーだろうがよ。どんだけ犠牲が出るとおもってるんだ?」

「大丈夫です、なんとかなりますよ。臨機応変にいきましょうww」

「臨機応変だとお?それってなあ、行き当たりばったりって言うんだぞ。思っても言わねーけどな」

「おかしら・・・しっかり言っちゃってますよ」アウラは冷静だった。

「しらん!」

「はら、黙って。喋るとバカ丸出しになるなんて言いませんが、口を閉じていてくださいね」

「言ってるじゃねーか!」


 そんなやり取りをしている内に、男爵の使者と思われる一団が洞窟の入り口に到着した。

 一応隊列を組んで歩いて来ているつもりなのだろうが、どう見ても一糸乱れずとはなっていなかった。近所のおじちゃんの寄り合いがだらだらと歩いて来たみたいで、見るからに練度の低さが見て取れた。

 レッドショルダー達も気が付いて居たのかぁ、そりゃあこんな相手だったら後手を踏んでも怖くはねーな。緊張して損したぜ。

 使者との対応をしているのは奴の片腕でもある副官のマイクだった。

 階級で言えば確か男爵らしいから、あいつらの親玉と同じのはずだ。使者は地面に片膝を付け挨拶をしている。

 そして後ろに控えている部下から何やら書状の様な物を受け取り、うやうやしく差し出して来た。

 それを受け取り内容を見たマイクは使者に対して言い放った。

「ウオーカー男爵よりの書状、承った。有難く男爵のご厚意に甘えようと思う。ただし閣下は喉を痛めておいででな、今は喋る事が辛いので話し掛けないでいてくれるとたすかるのだが」

「ははあ~。了解致しました。それはそれは痛ましい事で御座います。一刻も早く我が国最高の医師団に診て貰うとよろしいでしょう。さ、馬車をご用意しておりますれば、お急ぎ下さいませ」


 そんなこんなで、俺の扮する将軍閣下は馬車上の人となった。周囲は騎馬隊に囲まれているので気分は悪いが、この後暴れられると思うとわくわくしてくるってもんだ。

 俺の隣にはポーリン、正面にはハンスとその側近が二人向かい合わせに座って居る。

 御者席には男爵の部下が二人。馬車後部には屋根はないが、お付きの者が乗れるスペースがあってハンスの部下が二人、俺達の槍を持って立っている。

 事が始まったら槍を渡してもらえる手はずだ。

 俺達は七人、使者とその護衛?は二十名は居るか?本当にその程度の数で俺達が抵抗したらどうにかなると本気で思っているのだろうか。それとも俺達が大人しく指示に従うとでもおもっているのか?使者が死者にならねーといいんだがな。

 他にも二十名程のレッドショルダー達が、この馬車に先行して配置に付いているらしい。事が始まったら突入してくると、さっきハンスが教えてくれたが、過剰戦力じゃねーのかとも思うが、少ないよりはいいか。

 賢者殿が言うには、男爵の城に着く頃、さらに増援が来る予定だとか。もう、そんな増援なんかいらんだろうによ。何考えているんだか、俺の頭じゃ理解不能だぜ。


 城までは相当距離があるらしく、このあと俺達は途中の宿場町で一泊する事になった。

 当然宿の周囲には男爵の兵が取り囲む事になった。俺達の安全の為と言っていたが、どう見ても逃げ出さんように監視してるのがありありだ。

 ま、逃げるつもりだったら、いつでも逃げ出せるんだがな。


 そんな事を考えて居ると、ポーリンが寄って来て小声で話し始めた。

「これな、アドちゃんから預かった。もし、騒ぎが起こった時の行動が書いてあるらしいで知らんけど」

「騒ぎだと!?」

「声がおっきい、とにかく読んでや」

 そう言うと、部屋の隅っこの方に歩いて行き丸まってしまった。

 なんなんだ。と思ったが、取り敢えず読む事にした。


『城に近づく頃騒ぎが起こる。起こらなければ予定通り力づくで脱出されたし』

 なっ、なんだこれは・・・。これだけか?

 何考えてるんだ?何でわざわざこんな事を・・・。

 ん?端っこに何か小さな字で書いてあるぞ。


『 夜 硬 黒 多 』


 なんじゃこりゃ。意味わかんねー

 いや、決して字が読めない訳では無い。書いてある事の意味している事がわからんのだ。

 誰に言い訳してるのかって?そりゃあ、寝っ転がって、こっちを怪しそうな目で見ているポーリンに向かってだ。


 謎の怪文書の意味している事が判ったのは、二泊目の夜の事だった。

 城は目の前に見えるのだが、陽が落ちたので城門が閉じられてしまった為、俺達は城の城下町に泊まらされる事になった。

 普通、客人、それも国家を代表する将軍閣下の一行だぞ。例外的に城門を開けて中に入れるもんじゃあねーのか?これだけをみても歓迎されていない事がわかるってもんだぜ。

 今夜も宿舎の周囲は武装兵で囲まれていた。違って居たのは、城の近くなせいなのか、兵士の数は段違いに多くなっていた。百人近くはいるのだろうか?

 宿舎周囲は設置型のかがり火で囲まれ、昼間のように明るく照らされており、ネズミ一匹抜け出られないようになっていた。こりゃあ、客人と言うよりも捕虜だな。

 思わず苦笑してしまったが、どうでもいい事だった。

 明日は城内に入る事になるだろう。暴れるとしたら、明朝だ。

 いいかげん身体がなまってしまっているから、明日は思いっ切り暴れてやるぜ。

 俺の大剣は、まったく痛む事がないので手入れの必要がなかったので、今夜は暇でしょうがないぜ。

 明日の事を考えながら、ワクワクして居ると、騒ぎが起こった。


 最初に気が付いたのは、周囲のざわざわだった。

 何騒いでやがるんだ?ここで俺達を処分でもしようっていうのか?と訝しんでいると、騒ぐ声が次第に大きくなっていった。

 そして兵士がばたばたと走って行く音が聞こえ始めたと思って居ると、足音に悲鳴が混じり始めた。

 こりゃあ、ただごとじゃねーぞと室内を見ると、みんなは既に戦闘準備をして入り口のドアに注目をしていた。


「おい、ポーリン、何が起こっているんだ?」

 ドアから目を外さず小声で聞くと、さも当たり前のように返事が返って来た。

「わからへんのか?援軍が来たんやで」

 なんでそんなに平然としているんだ?

「援軍って、誰が来たんだっていうんだ?援軍だったら迎えに出んでもいいんか?」

「わかれへん?アドちゃんからの手紙に書いてあったやろ?」

 なんでそんなに不思議そうな顔しているんだ?

「手紙にだと?どこにそんな・・・・あ、まさか・・・」


『 夜 硬 黒 多 』


 あれかぁ。あの文言が一体何なんだって言うんだ。夜に硬くて黒いものが多くって・・・。


「え、まさか・・・?嘘だろう?あの謎の文言が指し示しているのって・・・?」


 だとしても、なぜ、あんな連中が援軍として来てくれるって言うんだ?さっぱり意味がわからないぞ。

 だが、表の騒ぎは尋常な感じではなくなってきている気がする。やはりあいつらが来ているっていうのか?


「おい、ポーリン、おめーこの事を知っていやがったな?」

「さて、何の事やらww」

「もし、もしだ。あいつらが来たって言うのが本当なら、こんな城なんか一瞬だぞ。こんな城の兵力じゃあまるっきり太刀打ちできんぞ」

「そうやで。せやさかいうちらは、騒ぎに乗じて馬を奪ってさっさとトンズラすればええんよ」

 平然と言ってのけるこいつに、今初めて恐ろしさを感じたぞ。

「あいつらをそのままにして逃げたら、この国が滅亡するのは目に見えてるぞ。いいのか?それで」

「しゃーないやん。そもそも事の発端はやつらなんやし、責任を取って滅びるんもええんとちゃう?」

 こいつ・・・こんな性格だったか?今までは猫被って居たって言うんか?それも、とてつもなくデカイ猫の皮を・・・。


 その時、黙って外の様子を窺っていたマイクがこちらに振り向いた。

「そろそろ頃合いですかな。あいつらもだいぶ引っ掻き回してくれている様で、城の兵士は我々の事どころでは無くなっておりますようで、脱出するのなら今ですな」

「参謀殿、厩の位置はすぐ近くです。簡単に人数分の馬の調達は可能です。行きますか?」

 レッドショルダーの一人がそう報告してきたが、いいのか?本当にいいのか?このまま逃げ出して。

「おい、ここの連中はあんたと同じ帝国国民なんじゃねーのか?同胞だろうがよ、いいのか見殺しにして」

 俺はいたたまれなくなってマイクに詰め寄った。

 だが、彼は平然と返して来た。

「我々の最大の任務はシャルロッテ嬢の一刻も早い奪回です。このままずるずると目先の事に捕らわれていたらどうなると思います?時が経てばワイバーンやダークエンジェルなどが出て来る可能性もあるのですよ?そうなったら被害はこんな小国のひとつやふたつじゃあ済まなくなってしまいます。あなたはそれでもよろしいのか?」

「うっ、それはそうなんだが・・・」

「人族全般の生活圏が危機に直面するのですよ?人類全体とこの小国、あなたはどちらを選ぶのです?」

「り 理屈じゃあそうだけどよ、俺は人間だ。ちっぽけな人間なんだよ。どっちかなんて選べねー。甘いと言われたっていい、俺はどっちも助けてー」


 ふぅと大きく溜息を吐いたマイクは両肩をすぼませた。

「やはり閣下の仰る通りの反応をなさるか。閣下の人を見る眼力は確かだと言う事ですな。いいでしょう、お気の済むようになさってください。みんな、作戦行動第二案に移行します。準備を」

「「「「はっ」」」」

「お おい、なんなんだ第二案って」

「おそらくあなたは素直に脱出しないだろうからと、事前に考えられていた作戦案ですよ。我々はこのまま打って出ます。あらかた魔物達を退治してから我々は本隊に合流します。生きていればですが」

「なにもあんたらに付き合えなんて言っとらんぞ」

「我々はあなたが撤退しない場合にはサポートするようにと仰せつかっております。仰せつかった時点で生還は諦めておりますので、ご安心ください」

「おいおいおい、何が安心だよ。きたねーぞハンス!こんな事言われたら、逃げ出すしかねーじゃねーかよ」

 怒りのやり場が無くなった俺は、八つ当たり的に目の前の壁を思い切り殴りつけた。

 安普請の壁だったらしく壁はは簡単に貫通してしまい、俺の右手の拳は壁を通り抜けて外に飛び出してしまった。

 いけねーと思った瞬間、何者かに拳を握られてしまった。「なにぃ」と思って居ると、さらに拳に激痛が走った。

 何者かが俺の拳を齧りやがった。

 瞬間的に怒りがマックスに達した俺は力任せに壁を蹴破って、宿の外に飛び出し俺の拳に噛り付いた奴と対面した。


「やはり・・・てめーらだったのか!」


お待たせしました。待っていない?そりゃあ失礼しました。

二週間お休みを頂きましたが、話しを再開しようと思います。

この間に、父親が肺炎で救急搬送されたり、母親が夜中に具合が悪くなり救急搬送されたりとバタバタしていました。今後も何があるか分からない状況ですので、突然お休みするかもしれませんが、どうか忘れないでくださいね。

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