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俺はムスケル、不幸を纏う漢  作者: 黒みゆき


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27.帝国進行(2)

「しかし、この光景はなんなんだろうか。まったく生き物の気配がないではないか。私も帝国内をくまなく歩いたが、こんな光景は初めてみるぞ」

 周囲を見回しながらため息交じりにぼやいて居るのは、今でこそかつての栄光は影を潜めているが、帝国最高位の将軍であるハンスことハイデン・ハイン将軍だった。

 その将軍の隣でうんうんと頷きながら話を聞いて居るのは、ハンスの片腕である参謀長のマイクだ。

 つい最近までは、その威光は帝国中に轟いて居て歯向かう者など皆無だったのだが、どうも新大陸に渡ってから勝手が違ってきていて、密かに将軍を蹴落としてナンバーワンを狙って居た万年二番目の将軍に甘んじていたハーマン・ロング将軍が牙を剝いて来たのだった。

 事もあろうに、ハイデン・ハイン将軍が新大陸に渡ったのを好機ととらえ将軍の命を狙ってきたのだった。

 更に結界を構成していたアダマンタイト製の像を持って帰ろうとしたり、それに失敗すると何故か石に変えられてしまったシャルロッテを持ち去ってしまったのだ。

 その挙句、ハイデン・ハイン将軍が反撃に出ると、将軍旗下のレッドショルダーに蹴散らされて無様に帝国に逃げ帰る始末。

 現在は、敗走しているハーマン・ロング将軍を追って帝国領内に戻って来たところだった。


 戻って来た早々、周囲の異変に気付いたハイデン・ハイン将軍が片腕である参謀長のマイクにぼやいたところだった。

「私も、こんな光景は初めて見ますな。賢者殿の仰る通り、何者かがこの地を荒らして居るとしか思えませんな」

「うむ、私もそう思うぞ」

「それよりもです。なんで、帝国内では皇帝陛下に次ぐ権力を思いのままにされておりました閣下が、こんな荒野を僅かな兵を連れて歩かねばならないのか、その辺りの方が納得出来ませんな」

「そう言うな。とにかく帝都に着くまでの我慢だ。まもなく偵察の兵達も戻ろう。そうすれば今後の作戦も立てられよう」

「そうではあるのですが・・・どうも、隣国の聖女うんぬんと関わり出してから、どうも流れが良くない方向に向かっている気がして仕方が無いのです」

「ふむ、確かにお主の言う事は、いちいちもっともな意見ではあるな。確かに、あの聖女とやらとあの小娘、シャルロッテであったか、それとムスケル、この三人に関わり出してから何かが違う感じはしていた。これは一種の呪いなのであろうか?」


「おいおいおいおい、何勝手な事ぬかしてるんだ!?なぁにが呪いだあぁ?ぜーんぶおめーの日頃の行いだろうがよ!」

 突然会話に割って入った俺に、マイクの爺さんが渋い顔をする。

「これこれムスケル殿、言葉が過ぎますぞ。こちらは国を代表する将軍、貴殿は一介の夜盗、身分をわきまえなされよ」

 確かに、いちいちもっともな言い分なのだが、そこに又腹が立った。

「へんっ!どんな偉そうな事言ってもよお、今じゃお互いに落ちぶれたただの中年じゃねーかよ。偉そうにすんなってもんだぜ」

 そんなムスケルの脇からひょこっと顔を出したのはメイだ。

「中年が三人で言い争っているのって、みっともないぞーww」

「「「ぐぬぬぬ・・・」」」


 今我々の一行は、船から降ろした食料を、港町に放置してあった八台の荷車に乗せて運んで居る。荷車は先の戦いで降伏して来たロング将軍の配下の兵が引いてくれている。どうやら、むりやり徴兵されて不満たらたらだったので、喜んでこちらの軍に参加してくれたのだ。

 彼らの中には大工が何人も居たので、放置されていたぼろぼろの荷車をあっという間に修理して実用に耐えられるようにしてくれたので、大変助かっている。

 我々とレッドショルダー達と重装甲の歩兵は、荷車の周囲を警戒しながら歩いて居る。

 女性陣には、荷車を引く兵達から交代で荷車に乗って休憩をする栄誉を賜っている。


 今の所、怪しい追跡者の気配はなかったが、まだ安心はできない。夜行性の可能性もあるからだ。

 賢者殿が言うは、根こそぎ食べられる物を持ち去っている事から、蛮族系の奴ではないかとの事だった。

 その辺を踏まえ、今夜の野営地を選択しなければならなかったが、幸いな事に進路上に地殻変動の際に出来たであろう高さ十メートルはあるであろう崖が見つかった。

 地殻の移動によって隆起して崖になったのだろうとの事だった。

 ここに、ポーリンの剣のスキルで横穴を掘って貰い、荷車ごと中に避難した。ここなら守りは入り口だけでいいので、かなり守り易いと言えよう。

 ポーリンには無理を言って、入り口を小さく、奥を広く造って貰った。

 剣の切っ先から迸る光の剣でもって、岩盤はどんどん削られて行った。なんて便利なスキルなんだろうか?

 レッドショルダー達の中には、「剣は穴掘りの道具じゃない!」と憤慨している者もいたのだが、「使える物は何でも使え」だ。文句なんて糞くらえ!だ。


 日が暮れる前に洞窟に避難を終えた我々は、焚火を囲んで思い思いの時間を過ごして居た。

「閣下、もう少し行きますと、閣下が常日頃から目を掛けておられたウオーカー男爵の領地となります。お声を掛けましたらきっとお力を貸して頂けるかと」

 参謀長のマイクが、手に持った干し肉を見つめながらそう進言すると、将軍のハンスは渋い顔をした。

「ラリー・ウオーカーな、奴は駄目だ。あいつは、ロングにたらしこまれているか若しくは弱みを握られている可能性がある。奴の屋敷にロングの手の者が度々訪れているとの報告が上がっているのを知らないのか?。敵側だと思っていた方が無難ではないかと思うぞ」

「そ そんな情報が・・・?知りませなんだ。それでは、奴の領内は避けて通らねばなりませぬな」


 帝国内は一枚岩ではないって事か。普段は偉そうだが、ハンスも大した事ないって事だな。

 二人の会話をニヤニヤしながら聞いて居ると、軍師殿改め賢者殿が焚火にやって来た。

「気を悪くしないで聞いて欲しいのですが・・・」

 よっこいしょとハンスの隣に座った賢者殿が、そう切り出して来た。

「気を悪くなどするものですか。何なりと仰って下さって構いませんぞ」

 女の前だと言いカッコをする所は昔から変わらないってことだな。

「有難うございます。かの将軍の事なのですが、閣下に弓を引くという大それた事をしておいて、大した抵抗もせずにさっさと引き上げて行った事が少々気になっておりまして・・・」

「うん?それがどう気になるのかな?あまりにも戦力差があり過ぎて敵わないと思ったので、ビビったのではないのか?奴は小心者で有名だからなぁ」

「それにしても、帝国ナンバーワンである閣下にたいして敵対行動に出たのですよ?本国に戻っても、反逆者の烙印を押されて、下手をすれば逮捕からの処刑?なんて事もじゅうぶんに考えられませんでしょうか?」

「ふむ、確かにそれは間違いのない事ではあるな」

「ええ、閣下に弓を引いたのです、王都に戻って報告すればすぐに親衛隊が逮捕してくれるはずです」

 腕組みをしたまま、参謀長のマイク氏は何度も頷いている。

「では、そんな暗い未来が待ち受けているのに、なぜあの将軍はさっさと逃げ帰ったのでしょう?そんなに破滅願望があるお方なのでしょうか?」

「いや、愚か者ではあるが、そこまで馬鹿ではないはずなのだが・・」

「愚か者もバカも同じやんww」ポーリンも会話に参加して来た。


「「うむむむ・・・」」

 帝国の二大巨頭は眉間に皺を造って唸っていたが、やがて将軍ハンスが思い付いたとばかりにポンと手を打った。

「そうか、何か根回しをしてあって、逮捕されない自信があるって事か」

「閣下、さらに一歩進めて考えてみると、自分が逮捕されないだけでなく、閣下の信用をなくす何らかの手を打ってある事も考えられますぞ」

 ニコニコしながらマイク参謀長も叫んだ。

 そこでアウラが恐ろしい事を言い出した。

「信用を無くすなんてまどろっこしい事をするよりも、閣下を反逆者に仕立て上げてしまえば、もっと簡単に事が済むのでは?」


「「「「なるほど・・・」」」」

 アウラの恐ろしい意見に、みんなが思わず納得してしまった。

 みんなが揃って納得してしまったので、言い出したアウラは逆に焦ってしまっている。

「あ、あくまで、あくまで仮の 仮の話しですって やだなぁ、みんなしてそんな真剣にならないでくださいよぉ」

 だが、ハンス将軍は真顔だった。

「いや、貴殿のその意見は、結構真実を言い当てているのかもしれんぞ?賢者殿、賢者殿もそこの所を危惧されていたのかな?」

「ええ、私の思い過ごしであれば良いのですが。行動を考える時は、常に最悪の事も合わせて考えねばなりません。そして、最悪の事を考えていたら、この様な事が思い浮かんだのです」

「なるほど・・・。こんな事にまで考えが及ぶとは、私のような凡人には足元にも届かないという事であるな。さすがだ」

 帝国の誇る将軍に面と向かって最大の賛辞を貰ったアドだったが、そんな事は一切介さず話を進めるそのメンタルの強さには、みんな心の中で舌を巻いて居たに違いない。単に鈍感なのかもしれんが・・・。


「帝都に向かって動くのは、偵察の結果を待ってからの方が良いかもしれませんね。偵察に出られた方々は、私達がここに居る事を見付けられるでしょうか?」

 そんなアドに驚きながらも、マイク参謀長は落ち着いて答えた。

「その点は大丈夫ですよ。我が偵察兵はその辺の所はしっかりと訓練されていますのでご安心ください」

「良かったです。きっと荷車のわだちとか見てらっしゃるのでしょうね」

 それ以上の事には答えなかった参謀長だったが、その自信満々の顔から容易く想像することが出来た。


 たしかになぁ、このまま帝都に突入して、国軍を相手に大立ち回りは勘弁して欲しい所だが、あの石になった迷惑ねーちゃんを取り戻さないとならんからなぁ、どうすりゃあいいんだ?

 そんな事を考えていると、アドと目が合った。そして、にっこりと微笑まれてしまった。ん?なんだ?


「閣下?おかしらが何か言いたそうにしておりますよww」

 うげっ!何て事言いやがるんだ。俺は何も言いたくはねーぞ!

 あーあ、ハンスがこっち向いちゃったじゃねーかよ、どーすんだよ。

「ムスケル、どうせ大した事ではないんだろうが、退屈しのぎに聞いてやってもいいぞ?発言を許可しよう、言って見たまえよ」

 かーっ、その上からの物言い、ムカつく、ムカつく、ムカつく。意地でも言ってやるもんか。

 ふんっ!俺は腕を組んだままそっぽを向いてやった。


「おかしらは照れ屋さんなんですよww」

 アウラがいらねーフォローをしやがった。余計な事言うんじゃねーよ!

 いたたまれなくなった俺は、黙って立ち上がって、洞窟の奥に止めてある荷車の方に歩き出した。

 これ以上遊ばれてたまるかよ!こんな時は荷車の影で寝ちまうに限るぜ。

 夜中に騒ぎがあったみたいだったが、俺は朝迄ぐっすりと寝てやった。こうなりゃ意地だぜ。


 目が醒めた時には、洞窟内は騒然となっていた。

 なんなんだ?いったい何があったんだ?

 重装甲歩兵達はみな鎧を装着して、既に臨戦態勢になっていた。

 荷車も入口に近いやつから移動を始めていた。

「大きな兄さん、そんな所で寝て居ると轢かれちゃいますぜ」

 いきなり後ろから声を掛けられ、飛び退いたのは言うまでも無かった。

 食料を山のように積んだ荷車が、今まで俺が居た場所をゆっくりと過ぎて行く。

 あぶねー、轢かれる所だったぜ。


 もう出発するのか?暫くは様子を見るんじゃなかったのか?

 頭の中は?????だらけだった。

 訳が分からず呆けている俺を避けるように、支度の終わった者から洞窟を後にしている。

 訳が分からんが、これは本格的な移動が始まったってことか。

 それならと、俺も相棒の黒光りする大剣を肩に乗せて移動の列に加わった。


本日も拙い小説もどきを読みに来て頂き有難うございます。

皆様のご来場が、作品を書き続ける力となっています。

本当にありがとうございます。


つきましては、月曜日より一週間家を空ける事となりました。

次回の投稿は5月23日(土)になります。

それまで、忘れないで下さいね~。

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