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俺はムスケル、不幸を纏う漢  作者: 黒みゆき


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24.いざ帝国へ(1)

 プリプリしながら、ずんずん進んで行く軍師殿を追って謎の巨大な像に向かって進んで行く俺達だったが、出会う帝国兵の数はみるみる少なくなっていき、巨大な謎の像の足元に着いた時には、帝国兵の姿はほとんど見る事ができなくなっていた。

 像の足元に到達して最初に思ったことは『デカイ!』だった。

  遠くから見た時もそうとうデカイなとは思っていたのだが、実際足元に立って見ると、その大きさが際立っていた。

 見上げた感じ、五メートルはあるだろうか?こんなアダマンタイトの結晶がこの世にあったなんて、驚きでしかない。

 この像を解体したら、アダマンタイトの剣がいったい何本出来るのやら、想像もつかなかった。


「この像売ったら、一生遊んで暮らせるかなぁ?」罰当たりな事を呟いて居たのはメイだった。

 ミリーが居たら、焼き肉の串が何本買えるか、真剣に悩む事だろう。

 だが、今はそんな事はどうでも良かった。


「おい、軍師殿よお。こいつが結界の像で間違いないんだろうな?」

「ええ、こんな非常識な大きさのアダマンタイトの像が結界以外の何ものだと言われるので?」

 ばっさり切り返されてしまった。確かに、他には考えられんよな。

「それでよ。こいつをどうしろって言うんだ?聖女さんに聞いて来ているんだろ?」

 腕組みをして何やら思案顔の軍師殿に聞いて見た。

 まさかとは思うが、こんなでけえ物を元の場所まで押して行け・・・なんて言わんよな。

 だが、それを平然と言うのが我らが軍師殿だった。

「ええ、聞いて来ていますよ。元の場所まで戻して、そこでもう一度結界を張ればいいそうです」

「をいをいをい、簡単に言ってくれるがよお、まず、どーやってこんな重てーもんを移動させるんだ?それによお、戻せたとしてもよお、結界を張るなんて、そんな事が出来る奴、聖女さん以外におるんか?それともおめーさんが張れるっちゅうんか?」

「ここまで移動してこれたのです、戻す事も出来るでしょう。見た所、像に何本もロープを結び付けてありますので、大勢で引っ張れば問題はないでしょう」

 なぜ、こいつは何事も簡単に言ってくれるんだろうか?俺には理解できねーぜ。

「結界は、聖女様以外にも、竜王様の血を引いている人でしたら可能みたいですよ?そうアナスタシア様が仰っておりましたので間違いはないでしょう」

「竜王様の血をだって?そんな奴どこに・・・・・」

「おるでぇ、ひとりおるやん」突如ポーリンが叫んだ。

「ひとりだとお?」

「おるやんっ、人間離れしとお能力の持ち主が・・・」

「そんな奴が・・・・って、まさか?」

「そうや、姐さんや。姐さんなら・・・」

「ちょい待ちっ!姐さんって、シャルロッテの事か?」

「そうや、他におらんやろが」

 なぜか自信満々のポーリンなんだが・・・。


「おいおい、冷静になって考えてみろよ。あいつは、シャルロッテは今は石の像になってるんじゃあねーのか?結界どころじゃねーだろうよ」

「あ!!そうやった・・・そもそも、今の所在すらわからないんやったわ」

 ポーリンは納得したみたいだったが、俺は納得出来なかった。

 そりゃあそうだろう。ツッコミ所満載だからだ。


 いったい今の状況はなんなんだ?まず、ひとつづつ突っ込んで行こうとした矢先、またあの野郎が先に突っ込んできやがった。

「軍師殿、帝国兵の残党の姿が見えなくなったのでいい機会だ、今のこの状況を整理したいと思うのだがいいだろうか?」

「ええ、将軍様の仰りたい事はよくわかっております。まず、私達が今直ぐしなければならない事は四っつあります。まず一つ目、この巨大な結界の像を元の位置に戻す事」

「ああ」

「二つ目に、結界を再起動させてワイバーンやダーク・エンジェルの流出を防ぐ事」

「そうだ、万が一ワイバーンが帝国領にやって来ることにでもなったら大変な事になる」

「三つ目に、シャルロッテ殿の奪還」

「彼女がおらんと結界を再起動できないのであれば、これは重大な事案だ」

「四つ目に、まだ確定事項ではありませんが、石にされた可能性があるのであれば、その呪い?を解除せねばなりません」

「実際問題、そんな事が出来るのか?石化を解除した事例はあるのだろうか?」

「まあ、その事はシャルロッテ殿を奪回してから考えましょう。とにかく、今は時間がありません。手分けしてこの四つの事案に対処せねばならないと思っています」

「状況は理解した。で、どの様に動いたらいい?我々も全力で協力しようではないか。我が祖国の安全がかかっているのだ、何でも言ってくれ」

「そう言って頂けると助かります。まずは、周囲で偵察をおこなっているであろう諜報部の方の報告を聞きたいのですが」

 アドがそう言うと、すかさずハイデン・ハイン将軍が右手を上げた。

 すると、その脇にはいつの間にか、 長身で華奢な男が強いウエーブのかかったシルバーの髪をなびかせて膝まづいて居た。帝国軍諜報部のアルバート・ベルだ。

 将軍はにこやかに言った。「軍師殿、何でも聞いてやってくれ」

 ここで物怖じしないのがアドだった。

「では、まず砦方面の戦況はどうなっているでしょうか?お年寄りが立て籠もった砦が帝国兵に攻められているとの事でしたが」

「はっ、救援に向かったレッドショルダーによって、帝国兵は全員投降して現在は無力化され、レッドショルダーの監視の元こちらに向かっております」

 おめーも帝国兵じゃねーのか?なんで他人事みたいな言い方なんだ?

「それは良かったです。それで砦のお年寄りの皆さんは?」

 ん?急に口ごもったぞ?どうしたんだ?

「そうですか、わかりました。では、マイクさんの指揮で捕虜にした帝国兵を使ってこの結界の像を元の位置に戻して下さい。お願いできますね?」

 急に振られた将軍の右腕を自負するマイク・シュミットはビックリして将軍に視線を送ったが、すべてを理解したのだろう、ゆっくりと頷いた。

「了解した、直ちに取り掛かろう」

 それ以上は何も言わず、話の輪から離れて行った。


「帝国海軍の方はいかがでしょうか?」

「はっ、戦船の数は約二十八隻と補給船が約四十三隻。おおよその兵数は一万弱という所です」

 おい、そんなに正確に報告するんならよお、「約」はいらねーんじゃねーのか?

「シャルロッテ殿の連れ込まれた船は、三隻あるもっとも大きな軍船の一隻です。マストに金の旗印がありましたので、ハーマン・ロング将軍の座乗船と思われます」

「思われる・・・確定ではないのね?」

「申し訳ありません」

「いえ、いいんですよ。それが分かっただけでも収穫です。ちなみにシャルロッテ殿の石像と言われている物は、本人で間違いなさそうですか?」

「はい、事前情報と照らし合わせてみて、間違いないと確信しております」

「素晴らしいです。それで、彼らは今ここから逃げ出しているのですよね?彼らの船の出航状況は如何なものでしょうか?」

「それが・・・」ん?一瞬言い淀んだか?

「各船がてんでバラバラに出航を始めましたので、概算になるのですが、おおよそ戦船、補給船合わせて十四隻プラスマイナス五隻程度が出航済みで、残りの概ね半数がまもなく出航すると思われます」

 概算におおよそに概ねかい、精度がいいんだか悪いんだかわからんなぁ。

「当然、その将軍の座乗船は既に出航してしまっているのよね?」

「はい、それはそれは素早く真っ先に逃げる様に出航してしまっております」


 そこまで聞くとアドは再び考え込んで・・・しまわなかった。

「将軍様?こうなってしまったら帝国本土に強襲をかけなければなりませんが、閣下はどう考えますか?」

 将軍の目を正面から見据えた若き軍師からは、一切引かないぞとの思いが溢れているように思えた。

 その若き軍師の眼差しを、こちらも又正面から受け止めた将軍は、不思議なほど穏やかな目で見返していた。

 一瞬両の目を閉じたハイデン・ハイン将軍であったが、再び開いたその目からは覚悟を決めた決意が感じられた。


「事はもう帝国一国の話しでは無くなっている。結界の回復には、人類だけではない、全ての生きとし生ける者の未来が、いやこの大地全ての未来がかかっていると言っても良いだろう。私は決心した。例え我が故郷である帝国を滅ぼす事になったとしても結界の修復を最優先事項にする事をここに宣言する。私に賛同してくれる者だけでいい、力を貸して欲しい」

 最後の方は、周囲に集まってきているレッドショルダーにも語りかけているのがわかった。

 集まって来たレッドショルダー達からは、最初はバラバラに賛同の叫びが上がっていたが、その叫びは次第に大きくまるで一つのうねりのように草原一帯に広がって行った。

 その様子を満足そうに見ていたハイデン・ハイン将軍は再び若き軍師に向き直って、やがて片膝を地面についた。

「これが我々の決意です。どうか世界を破滅からお救いくだされ。我々は最後の一兵迄力の限り戦いましょうぞ。あなたこそ、我が国に伝わる伝説の存在『賢者』の生まれ変わりに違いない」


 気が付くと、集まって来ていたレッドショルダー達も皆地面に片膝をつき首を垂れていた。一人の少女に対しその場に居るフル装備の騎士達が一斉に頭を垂れる、なんとも不思議な形容しがたい雰囲気を醸し出していた。


 不思議なのは将軍たちだけではなかった。こんな状況になっても臆することなく、まるで当然であるかのように振舞っているこの少女、アドも不思議だった。まるで過去にもこんな事を経験しているかのように、自然に振舞っているではないか。俺ですら内緒だが、足がガクガク震えているって言うのによお。


「さあ、皆さん立ち上がって下さい。これから全力で帝国の船を奪取して、海を渡ります。第一目標はシャルロッテ殿の奪回です。当然話し合いの場は設けようとは思いますが、最悪の場合、抵抗する者は力ずくで排除します」

「賢者殿、恐らく帝国は面子にかけても話し合いには応じて来ないでしょう。その場合は我々に気兼ねせず作戦を立てて頂きたい。今この時点で帝国だのと言う小さな事は頭から排除します。結界の復活こそが我々の全てと考えます」

 すっくと立ち上がった将軍は、黒光りする大剣をすらりと抜くと頭上に高々と掲げた。

「諸君!結界を復活させるその時まで、我々は一体となって突き進む。諸君の一糸乱れぬ戦いを期待するっ!!」

「「「「「おーっ!!!」」」」」

 草原に雄叫びが響き渡った。


 こうして俺達の新たな旅が、地獄への旅が始まった。

 なんで、こんな事になっちまったんだ?

 石になってまで俺を悩ませる、いったい何なんだ、シャルロッテっていう娘っ子はよお。


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