23.迫りくる脅威(5)
帝国兵達の後を追って草原を前進して来た俺達だが、遥か前方に帝国兵の最後部が見えて来た所で、我が軍師殿が動かなくなってしまった。
前方を凝視したまま、眉間に皺を寄せて物凄い顔をしている。そんな顔していたら彼氏できんぞ。
いったい何が気になるんだ?ただ、あいつらがもたもたしているだけなんだろうに?
「おい、どうしたんだ?急いで行動を起こさないと結界の像を持ってかれちゃうぞ!?」
だが、こいつ前方を見据えたまま身動きひとつしていない。どうしちまったんだ?
俺も前方を見てみたんだが、何故固まるんだかがわからなかった。
俺には逃げそこなった帝国兵がもたもたとたむろしている風にしかみえないのだが・・・。
「おい、あいつ、どうなってるんだ?固まっちまったぞ?」
たまりかねて、思わず隣に居たアウラにぼやいてしまった。
「アドちゃんが固まっているって事は、何かあるんだわ。信じて待ちましょうよ」
とは言うがよお、いつまで待ちゃあいいんだ?
そんな時、奴が、将軍様が声を掛けて来た。
「貴公の目にはあれがおかしいとは映らないのか?まあ凡人には無理かもしれませんね」
いきなり煽って来やがったもんだから、俺も頭にきちまった。
「そんなら、てめーにはわかるって言うのかよ!」
売り言葉に買い言葉である。
「当然でしょう。一目瞭然ですよ?本当にわかりませんか?」
「んなもん、わかるかいっ!!」
帝国兵がたむろしているだけじゃねーかよ。
「良く見てみたまえ。帝国兵は砦攻撃をする兵力を残して、みんな海岸線に向かって移動してはいないのかな?」
「それがどうしたって言うんだ。アダマンタイト製の像を持って帰るつもりなんだろうがよ」
「だったら、もっとさっさと移動しても良いのではないのかね?何故、こんな所でのろのろと移動しているのだろうか?」
「うっ、そ それは・・・」
「もたもたして居れば、それだけ大事な像を奪還される危険性が増えるのと言う事は、あの者達にも容易に想像できるのではないのかな?」
「せやな、ワイバーンの事を知らんとしても、誰ぞ奪い返しに来る危険性は考えるんとちゃうんかな?」
ポーリンの疑問にメイも元気に発言をする。
「将軍様が逃げたって事は、仲間が居るって思うはずよねー。絶対に脅威だって認識すると思うわ」
「お嬢さん達の仰る通り、我がレッドショルダーの存在を考えれば、一刻も早く本国に帰りたいはず。それが、なんでこんなにゆっくりと移動しているのだろうか?何か罠でも仕掛けているのだろうかと勘繰りたくもなるだろう?」
「確かに、そう言われると怪しい行動と言えない事もねーが、だったら何が有ると言うんだ?」
怪しい事は分かったが、そこから先に話が進まなくなったその時、それまでだんまりだったアドが急に言葉を発した。
「早く動かない・・・のではなく、早く動けない・・・のかも」
「早く動けない・・・だと?流石だな」
奴の、帝国の将軍であるハンスの顔がいつになく真剣だ。
「あら、将軍様も同じ考えに?」
さっきまで渋い顔をしていた参謀殿がいつの間にかスッキリした顔をしている。
「うむ、そうだね。では、早く動けない理由はわかったのかな?」
「そうですね、推測になりますが、アダマンタイト製の像のせいじゃあないかなと」
「やけどさぁ、何でアダマンタイトの像があると、はよ歩けへんの?」
「恐らく・・・大きいか、重いか、或いはその両方か・・・ですよね?軍師殿」
「そうね。確かめる方法ならあるわ」
そう言うアドは珍しくニヤッと微笑んでいた。
それを見たハンスもニヤッてやがる、気味の悪いやつだぜ。
「そうですね、全員で攻め寄せれば、アダマンタイトの像は置いて逃げるでしょうね。我がレッドショルダーが攻め寄せて来たと知れば、まともな奴なら戦わずに逃げるはずです。少人数でもなんとかなるでしょう」
「お前ら本気か?相手はこっちの十倍、いや二十倍以上いるかもしれねーんだぞ。たとえ戦力としては大したことはなくても、数の暴力は無視できねーぞ。わかっているのか?」
「そんな事は織り込み済みですよ。こちらの有利な点は少人数だって事と、みんな一騎当千だって事です。数人づつに別れて広範囲に分散すれば、向こうも大軍に襲われていると勘違いして、勝手に混乱に陥る事でしょう」
「そんなにうまくいくのか?楽観視し過ぎてねーか?」
「大丈夫よ、おかしら。まだ日の出前で暗いからこちらの数は掴めないはず。それにね、向こうには本国に帰れる船があるっていうのが最大の弱点なのよ」
「なんでだよ。帰れる船があるんなら、最大の利点だろうがよ」
「ふふふ、そこが貴殿の考えの甘さなのだよ。あいつらだってみんな死にたくないんだよ、未知の敵に襲われて、包囲されつつあるとしたらどう考えるかね?」
「あーっ!船に逃げ込むんとちゃう?」勢いよくポーリンが答えた。
「そう、みんなが我先にと敗走してくれれば、私達の勝ちです。結界の像は放置して逃げるでしょうね」
アドは自信満々のようだったが、みんなは当然疑心暗鬼だ。
「とにかく、広く散らばって包囲するように攻めて下さい。決して包囲されませんように。もし、包囲されそうになったら下がって下さい。相手が調子に乗って前進してくれれば、こちらが逆に包囲する事ができます。この事は絶対に忘れないでくださいね」
アドの訓示が終わると、みんなは順次数人の組になって暗闇へと消えて行った。
さぁてと、俺は一人が向いているから、勝手にやらせて貰うぜ。
黒光りするアダマンタイト製の愛剣に頬ずりしながら暗闇に消えて行こうとした時、不意に後ろから声を掛けられた。
「おかしらは、将軍様と一緒に私の護衛をお願いします」
そのふてぶてしくも生意気なその声は・・・軍師殿であるアドだった。
なんとなく嫌な予感はあったんだよなぁ。まさか本当に声を掛けられるとは・・・。おまけに、ハンスと一緒に護衛だとお?
「どういうつもりだ?護衛だなんて話し、聞いてねーぞ?おまけにハンスも一緒だって?」
ハンスも面白くなさそうな顔をしているぞ。きっと無茶言ったんだろうなぁ。
「私も、貴公と一緒に護衛任務に就くなど聞いていない」
「今言いました。さっ、行きますよ」
そう言うと、若き参謀殿は振り向きもせずにさっさと歩いて行ってしまった。
ハンスと顔を見合わせたが、お互いに渋い顔で肩をすくめ、小走りに草原の中に消えて行こうとしている軍師殿の後を追いかけるしかなかった。
「わぁ~アドちゃん、ナイトを二人も従えて、かっこええわあ~ww」
不謹慎に喜んで居るポーリンの声を背中に聞きながら、飼い主の後を追う子犬のように俺達は草を搔き分けて、軍師殿の後を追って行った。
意外とあいつの歩く速度が速く、周囲を警戒しながら見失わないように後を追うのが大変だった。
剣を抜き前方の草を薙ぎ払いながら、やっとの事でアドの前に出た俺達は人の気配を探りながら歩き始めた。
「おい、貴公はいつもこんな扱いを受けているのか?」
不意にハンスが小声で呟いてきた。
そりゃそうだろうなぁ、いつでもお山のてっぺんでふんぞり返っていたんだ、不満もあるだろうよ。
「こんなもんじゃねーぞ。覚悟するんだな」
ほんと、俺の不幸はこんなもんじゃねーぞ。少しは山分けしねーと不公平だ。
前進するにつれ、現れる帝国兵が少しづつ増えては来たんだが、練度は決して高くなかった。
と言うか、ハッキリ言ってアウラやポーリン達の方が強いんじゃねーか?
周囲から聞こえてきている小競り合いの音も、単発的なものばかりで、遭遇戦は一瞬でケリが付いて居るであろう事が窺えた。
目の前に現れる帝国兵も、慌てて斬りかかって来るものの、みんな俺やハンスの大剣の一振りで消し飛んでばかりだ。
「おい、おめーの所の兵って、みんなこんな腰抜けばかりなんか?大陸一の軍団だって言うのはハッタリだったんか?」
あまりにも手応えがないもんだから、ハンスに絡んでみたが、奴は平然と返して来た。
「大陸一なのは、私の軍団だけだ、こんなカス将軍の私兵が最強の訳あるまい」
「私兵・・・か。だったら遠慮なく薙ぎ払っても構わんのだな?」
「ああ、遠慮なくやってくれ。あんな愚連隊みたいな軍団は、絶滅してやるのが世の為人の為だ」
遭遇した帝国兵と剣を交えながらこんな会話が出来るって事からも、彼我の戦力差は推して知るべしだろう。
俺もハンスも、汗一つかいていないし、息も全くあがっていない。早朝の散歩となんら変わらなかった。
ただ、敵兵の数が段々と増えて来ているので、多少うっとおしくはあった。
後ろを振り向くと軍師殿がしっかりとついて来ているのには多少驚いた。どこにこんな体力を隠していたんだ?
つくづく女ってものは分らんぜ。
驚いたのはそれだけじゃなかった。あいつ、素手でついて来ているはずなのに、襲って来た敵兵をいとも簡単に退けてやがった。
あれは、何度目か後ろを振り返った時だった。
脇から敵兵が飛び出して来やがったんだ。「やべっ!」と思った瞬間だった。斬りつけて来た敵兵と軍師殿が交差したと思った瞬間敵兵は動きを止め、そのまま地面に倒れ込んじまったんだ。いったいどうなってるんだ?
ハンスも、目を見開いて驚いていたさ。だが、敵兵は次々に現れるので、ゆっくり驚いている暇もなく、俺達は前進を続けた。
やがて変な違和感を感じ、俺達は立ち止まった。
日の出の時間を迎え、周囲も少しづつ明るくなって来ていた。
急に敵兵の抵抗が無くなったんだ。思わず立ち止まって前方を見ていると、軍師殿も追い付いて来た。
「やっと帝国兵が敗走を始めましたね。もう反撃する気力もないでしょうね」
「軍師殿の思惑通りってことかい?」あんなに大きな兵力がこんな少数に敗走するとは・・・俺は驚くよりも、唖然としてしまった。
「見事だ。アド殿、どうだろうか、私の軍師になってもらえんだろうか?それなりの待遇は保障しますぞ?」
「おいっ!なにこんな時にナンパしてやがるんだ!」
俺はいきり立ったが、当のアド本人は気にもしていないようだった。
「あれは何でしょうか?あの、巨人みたいな物は?」
軍師殿の指差す方向を見ると、まだ夜が明けたばかりでもやっているせいか、あまりはっきりとは見えないが、遠くの方に巨人が立って居た。
「ほう、巨人ですな。そう、身の丈三メートルはありそうですな。もしや、あれがアダマンタイト製の像ですかな?あんなのが居たら、もたもたとしか移動出来ない訳ですな」
「そうだな。あんなのを引っ張って居たら、移動も大変だろうよ。兎にも角にもあの像を持って行かれなくてよかったぜ」
周囲を見回すと、あちらこちらの草むらから仲間の姿が見えている。みんな無事だったようで良かった。
「ん?軍師殿?まだ浮かない表情だが、いかがしたのか?」
確かに軍師殿の顔は、渋い顔のままだ。
「もう結界の像は目の前だ、一安心じゃねーのか?」
「おかしら、私達の任務は?」
「そりゃあ、結界の像の奪回」
「それと?」
「ん?それと?他に何かあったか?」
そこでハンスの野郎、俺より先に気が付きやがった。
「ああ、シャルロッテ殿の捜索と奪回でしたな」
「あ!!やべー、すっかり忘れとったわ。だがな、どこを捜索すればいいんだ?」
しかしなぁ、捜索するにも、まったくヒントがねーじゃねーか。どうするっていうんだよ。
そこで、又ハンスの奴、点数稼ぎをしやがった。
「そうか、石に変えられたと言う情報が正しいのであれば、大きさは等身大。十分担いで運べますな。という事は・・・船ですな?」
「ええ、その公算が高いわね」
「しかし、もし奪還の為に船に乗り込むとしても、出航されてしてしまったら、退路はなくなるぞ」
「そうだな、皆殺しにでもするしかないか?」
「取り戻すなら・・・ここに居る内に か」
「取り戻すならって・・・絶対に取り戻しますっ!!」
あーあ、怒らしちまいやんの。




