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俺はムスケル、不幸を纏う漢  作者: 黒みゆき


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迫りくる脅威(4)

 頭をポリポリ掻きながら現れたその老人はチャック・クラウンと名乗った。

 自ら敵陣への偵察を申し出たその老人は、年の頃七十は超えているのだろうか?

 その昔は、そこそこ名の知れた武将だったそうだ。今はただの爺いだが。


 だが、気になる事を言っていたなぁ。やってしまった?

 まさか、敵陣のあの騒ぎって・・・。


「はっ、はっ、はっ、戻りましたぞ」満面の笑顔で帰って来やがったぞ。

 爺さんのこのお気楽な雰囲気はなんなんだ?

「おいっ、あの騒ぎはなんなんだ?見付かったのか?」

 息せき切って問い詰める俺を軽ぅ~くスルーすると、爺いは真っ直ぐにアドの所に行くじゃあねーかよ。

「嬢ちゃん、待たせたな。敵の様子はばっちりだぜ。何を聞きたい?」

 この偉そうな態度はなんなんだ。


「今、敵対しているのは帝国軍なのかしら?」

 おいおい、おめー、この爺いの態度、何とも思わねーのか?何しらっと質問してるんだよー。

「おー、間違ぇーねーぞ、ありゃあ正式な帝国軍じゃ」

「なら、なぜ帝国の誇りと迄言われた将軍が捕まったのでしょう?あれは、どう見ても敬意のある対応とは思えないのですが」

「おー、良い所を突いて来るねー。同じ帝国軍でも、あいつらは、、、えーっと何て言ったかな、あんたんとこの将軍とは対立関係にあるなんとかって言う将軍が率いている私兵の部隊じゃよ」

「ハーマン・ロング?」

「へ?ああ、そんな感じの名前だったなあ。年取ると忘れっぽくていけねーや。はっ、はっ、はっ」

「では、連れて行ったのは、救出ではなくて、害する為・・・」

「おお、良く知ってるなぁ、そんな事言ってたわ」

「では、敵の勢力はどのくらいなのでしょう?」

「たくさん」

「はっ?今なんと?」

「だから、たくさんだよ。こんな暗がりで、敵の数なんか分かるはずねーだろうがよ。とにかくたくさんだ。だがよ、船の方にはもっとたくさん居るみてーだぜ」

 この爺さん、使えるんだか、使えねーんだかわからんなぁ。


「では、質問を変えます。結界についての情報はありますか?」

 そうそう、それだよ。そこが大事だぜ。

「結界かぁ。奴らに結界って認識ねーから、そういう単語は出ていなかったんだがな、なんでもアダマンタイト製の妙な像が見つかったとか言ってたのう」

「それだっ!!」その場に居た全員が同時に叫んでいた。


 アダマンタイト製の像、実に怪しい。たぶんそれが結界のきもでいいのだろうな。

「それで、そのアダマンタイト製の像はどこにあるのでしょうか?」

「うーん、確か運び出すって言ってたなぁ」

「運び出す?それは、船に乗せて帝国に持って行く・・・ですよね?」

「ああ、そうだと思うぜ」

「なるほど。それで、シャルロッテ殿についての情報は何かありませんでしょうか?」

「シャルロッテ?」

 シャルロッテと聞いて一瞬怪訝な顔をした爺さんだったが、やがて何かを思い出したように手を打った。

「ああ、シャルロッテって、あの姉ーちゃんかあ」

「そうそう、それで?彼女の情報は?」

 期待に満ちたみんなの視線が、髭もじゃの爺様に集中した。


「んー、姉ーちゃんの情報は特にねーなあ。少女の石像の話しはちらほら聞こえたんだが、生きている少女の情報は無かったぞ?」

「少女の石像だと!?どういう事だ?」

 思わず声を張り上げてしまったが、すかさずアウラとポーリンにに咎められてしまった。

「おかしら、顔が怖いって!」

「そないに脅してどないするねん!」


「あ、すまん。いや、しかし、石像とはいったい・・・」

「そんな事いわれてもなぁ。儂もちらっとアダマンの像の近くに妙にリアルな石像があったから国に持って帰るって騒いでいた兵士の声を聞いただけじゃからのう。詳しくはわからん」

「何でもっと詳しく聞いて来なかった!それだけじゃ、何もわからんではないか!」

「どうどう、おかしら落ち付いて、落ち着いて」

 爺さんの胸倉を掴んで聞き出そうとしたのだが、又してもアウラとポーリンに身体を張って止められてしまった。


「そんな事言うがのう、仕方が無かったんじゃよ」

「どう仕方が無かったと言うんだ!」俺の声は益々激高していったのだが・・・。


「見つかったのね、敵に」アドの淡々とした声に、みんなの動きが一瞬止まってしまった。


「見つかった?見付かっただってえっ!?誰にだ?」後半は、声が裏返ってしまった。

「ほな、敵陣がさっきから騒がしいのって、おっちゃんが見付かったからなんや?」

「え?それっておかしくない?」珍しくメイが手を挙げて発言した。

「ん?何がおかしいんだ?見付かれば騒がれるに決まっておろーが」

 こいつ、珍しく発言したと思ったら、何を言ってやがんだ?

「だって、もし、敵が臨戦態勢になってるんなら、何でここにやってこないの?全然こっちに、って言うか誰一人来てないわよね?」


「言われてみれば・・・確かにさっきから騒がしいとは思ってはいたが、こっちにはあらわれんな。どうしてだ?」


 再びみんなの視線が爺さんに集まると、流石にそわそわしだした爺さんは下を向いたまま、ボソボソと話し出した。

「そ それはよお。仲間がよお・・・」

「仲間がどうなさったのですか?」アドの声も・・・怖い。

 バツの悪そうな表情をしてしどろもどろだった爺様だったが、決心がついたのだろう。

 急に胸を張って話し出した。

「仲間達は 仲間達は儂に報告任務を託して・・・砦に向かったはず・・・」


「砦だとお?砦って、あの反乱者共が立て籠もって、帝国兵に滅ぼされた、あの砦って事か?」

「そうだ。あの砦じゃ」

「そんな事、自殺行為じゃない。無茶を通り越して無謀だわ」

 そりゃそうだ。アウラじゃなくてもそう思うぞ。何考えてやがんだ?

 ずっと目を閉じて腕組みをして考え込んでいた軍師殿が、ここで目を開いた。

「全て理解しました。敵に見つかってしまったので、あなたに報告任務を託して、みなさんはあなたから敵の目を逸らす為に砦に立て籠もって囮になったと、そういう訳なのですね」

「う、まあ、そんなところじゃな」

 この年寄りどもは何を考えてるんだ。只の犬死にじゃあねーかよ。


「ちょっとお、何考えてるのよお!そんなのただの無駄死にじゃないのよ。命をなんだと思っているのよ!」

 お、メイが俺の言いたい事を代弁してくれたぜ。

 みんなも、レッドショルダー達も、うんうんと頷いて居る。


「お年寄りのみなさんの死を無駄死ににしない為にも、私達は今直ぐに動かねばなりません。このチャンス、何としても生かしますわよ」

 おお、軍師殿の目が燃えているぜ。

 メイが言った。「じゃあ、今、このチャンスに船に運ばれているであろう結界の像を奪い返しに行くのね。敵の目が砦に向いている今が絶好の機会よね」

 だが、アドは即座にメイの意見を却下した。

「違うわよ。今結界の像を取り返しに行けば、砦攻撃から取って返して来た帝国兵によって、私達は挟み撃ちになるわよ。それも、なにも身を護れる物の無い草原の中でね」

「あ・・・」

「そうやね、こないな平地では兵の数が物を言うさかいに、うちらは圧倒的に不利やな」

 真っ赤な顔をしたメイは俯いてしまった。

 そんなメイの肩をそっと抱いて優しく背中を撫でてやっているのはアウラだった。

「いいのよ、メイ。色んな意見を活発に出す事は、とっても大事な事なの。失敗を気にする事はないのよ」

 さすが、みんなのお母さん役のアウラだ。いい仕事をしてくれている。


「アド?これからどうしたらいいかしら?やっぱり将軍様の救出?」

 お母さん役のアウラがアドに今後の行動について指示を仰いだ時だった。

 意外な所から意外な声が聞こえて来たので、咄嗟にみんなそれぞれに武器で身構えた。

 もちろん俺は、堂々と仁王立ちのままだがな。ふっ。


「救出の必要はありません。それよりも、ご老体達を救いに行くべきでしょう。いかがかな?軍師殿」

 そう、それは捕まったと思われていて、これから救出するかどうかを話し合おうとしていた当の本人ハイデン・ハイン将軍だった。


「き 貴様っ、今までどこで何してやがったんだ!みんな心配していたんだぞ」当然の事だが、俺の声はでかくなっている。

「ほう、それでは貴殿も心配していてくれていたのかな?」

「おっ、俺は・・・心配なんかせん!する義理すらない!」

 俺は、奴に背を向けてそう吐き捨てた。


「で、どうかな軍師殿。ここは戦力を二つに分けて砦救出と結界奪回を同時にするのがベストだとおもうのだが?」

 こんな切羽詰まった状況なのに、そんな無茶を平然と言ってのける所・・・さすがお坊ちゃんだぜ。

「そうですね、それが出来るだけの戦力があるのなら、それが最適解なのかもしれませんが、こちらの戦力はこれしかありません。分散したら各個撃破されてしまうと思うのですが、敢えてそれを言い出すという事は、なにか手がおありなのですね?」

 ニヤリと口角を上げた将軍。

「さすがだ。良くわかったな。もし賢者が居るとしたら、そなたの事を言うのだろう。見たまえっ!」

 将軍が右手を上げると、彼の背後の草むらから大勢の鎧武者が現れた。

 よくも、誰にも気づかれずに、三十名以上もの人数がここまで接近出来たものだぜ。さすが、一糸乱れんレッドショルダーだぜ、侮れんぞ。

「みんな、普段から非常時の対応は身体に叩きこんでいるのでな『命を大切に』だ。みんな、うまく隠れていたって事だ」

「そうなのですね。この戦力があるのなら、閣下の作戦が現実味を帯びてきますね」

「ああ、で、どうやる?」

「敵が砦にどの程度の戦力を割いているのかが分かれば・・・」

 ぱああっと将軍の表情が明るくなった?

「それなら、任せてもらいたい。ベルっ!」

 そう将軍が叫ぶと、草むらの中からひょろっとした細身で、いかにも不健康そうな男が現れた。

「みんなも一度は見ているはずだが?ww」

 しきりに首を捻っているみんなを見て、将軍はなぜか嬉しそうだ。

「ふふふ、彼は情報部長のアルバート・ベル。常に私の傍に居るのだがなww」


「こんな人、居たっけー?」

「見た記憶あらへんなぁ?」

「人の顔を覚えるのは得意なのですが、見た記憶が・・・」


 みんな首を傾げているのだが、それを見て、将軍は更に自慢げににやついていた。

「彼は情報部長だ。人の記憶に残ってはいけない仕事がおおいのでな、見ても記憶に残り難いのだよ」

「敵は、砦攻略にはあまり関心が無い様子で、参加しているのは多く見積もって、二百三十一人です」

 やけに細けーなぁと思っていると、すかさずポーリンが突っ込んだ。

「少なく見積もったらぁ?」

「そうですねぇ、少なく見積もったら二百三十人ですね」

 やっぱり、こいつ変な奴だ。


「そうですか、敵は一般兵。レッドショルダーの足元にも及ばないでしょうから、砦には三十人・・・」

「十人。十人だ」

 みんなの視線は将軍に集中した。腕を組んだ将軍が高らかに宣言している。

「十人?そんなに少なくて・・・」言いかけたアウラを、再び将軍が遮った。

「十人だ。それ以上は不要だ」

「もし、十人で抑えられへんかったら、どないするんや?」

 ポーリンの疑問ももっともだったが、将軍はぶれなかった。

「大丈夫だ。日頃から鍛えて有る。あの程度の相手にそれ以上の戦力は不要!そうだな、デービス」


 草むらの中から現れた一団の先頭に居た兵士がすぐに反応した。彼がデービスなのだろう。

「もちろん、あんな奴らに後れをとったりは致しません。直ちに十名を選抜して砦に向かいます」

 彼は直立不動のまま、自信満々にそう答えた。

「うむ、我々はこれから敵対勢力であるハーマン・ロングを追う。お前達は老人達を開放したら後を追って来い。以上だ」

 敬礼と共に、デービスは随行する兵士を呼び上げ草むらの中に消えて行った。実に無駄のない動きだった。


「さあ、参謀殿。我々も動きましょうぞ。結界の像を船に乗せられると、些か厄介になりますからな」

「そうですね、私達も移動しましょう!」


 そうして、二十名のレッドショルダーを加え、総勢五十名弱になった、結界&シャルロッテ奪回任務部隊は、敵将ハーマン・ロングを追って移動を開始した。

 先頭は情報部長のアルバートベル率いる偵察部隊だった。

 以前は二百人規模を誇っていたのだが、ワイバーンとの戦いで多くを失い、今は五十名程度にまで減ってしまったらしい。

 その内の半数以上は既に海岸線に向かっていて、敵の船団の偵察を行って居るとの事だった。

 

 それほど広い草原ではない為、敵の後衛に追い付いたのは、まだ薄暗い日の出前だった。

 さあ、ここからが勝負だ。



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