第18話 ボクがダンジョンで失った心のカケラを取り戻すまで(ジルside)
ボクの隣で、エドモンが話し続ける。
不愉快だけど、つい聞いてしまう。
エドモンの話は、ボクがずっと考えていたことでもあるから。
ボクは、何故あの時、ナイフでヴィオラを刺してしまったんだ?
「最初は、死霊属性の影響かと思った。
ジルは、ダンジョンにいた攻撃的な幽霊ゴーストや亡霊レイスの影響を受けたのかと。
ほら、『あの男』も幽霊ゴーストの影響を受けて、ちょっとおかしくなっていただろ?」
エドモンの声が続く。
「でもナイフを振り回したのは、あまりにもジルらしくないと思った。
ジルは、ダンジョンで亡霊レイスが暴れた時も、一応ヴィオラに当たらないように聖属性魔術を使っていたよね?」
一応は余計だよ。
ボクはキミが思ってるより、考えて魔術を使っている。
「なんでキミは、ボクについて分かったような口をきくのかな?」
「ジルは死霊属性はコントロールできているんだ。
別の要因を考えるべきだと思った」
「エドモン! ボクの話を、聞けよ!」
ボクはちょっと声を荒げた。
「この前、岩牢に俺とジルの二人で閉じ込められたよな?
その時のジルは、びっくりするほど勘が良かった。
まるで俺の考えを読んでいるように」
岩牢の中で『あの男』に気づかれずに、話をするのに役に立ったけどね、エドモンはと続けた。
「精神操作属性の持ち主は、大っぴらにヒトの心を読んだりはしないはずよ。
たとえ可能でもね」
アイラさんが言う。
そうだよ、アイラさん。ボクは……
「ジル自身が自分の能力に気づいていないと、俺は思っている。
だから今、こうして話をしている。
ジルの『読心』は、ダンジョンや死霊街などの、マナが豊富な場所で追い詰められると発動するんじゃないだろうか」
エドモンは言った。
「仮にそうだとしたら、どうなのさ。
エドモンは、ボクに謝罪させたいわけ?」
心を勝手に読むのは、失礼な行為になる。
「違う」
エドモンは言った。
ムッかつく!
「俺は、『ジルがダンジョンでヴィオラを刺した事件』について話をしているんだ」
「そうですよ。 あの事件ですよ。
なんでわたしはジルに刺されたんですか!」
吸血鬼ヴァンパイアヴィオラが、合いの手を入れた。
エドモンは、ヴィオラ贔屓だよな。
別にいいけど。
「いいか、みんな。
①ジルは暴力を振るう人エルフじゃない。
②ジルは『読心』を使える可能性がある。 本人の意思によらず、『読心』が発動する可能性がある」
エドモンは、ここでひと呼吸置いた。
「ここで③番目のヒントがある。
ヴィオラは言っていた。
『ジルのやる気のなさに殺意すら覚えた』と。
ダンジョンで、ヴィオラは追い詰められていてイライラしていた」
「それで?」
アイラさんが言う。
「以前ジルの発言も思い出してくれ。
『ヴィオラの目が赤かった。
ボクはヴィオラに噛まれるんだって思って、次の瞬間ヴィオラの胸にナイフを突き立てていた』
確かこんな感じだったと思う」
よく覚えているな、エドモン!
「確かにそんな風に言ったし、思ったよ。
ボクは本当に噛まれるって思ったんだ」
「俺の推理だ。
この時、ジルは『読心』で、ヴィオラの心を読んだんだ。
そして、ヴィオラの苛立ちと殺気をそのまま感じ取った。
そして、感じ取ったヴィオラの殺気と殺意を、そのまま実行してしまった。
目の前のヴィオラに向かって」
ボクは何も言えなかった。
アイラさんやヴィオラや、他のヒトも沈黙した。
「あーそう言えば、この糞エルフをナイフで脅してやりたいって、内心思ってましたねー。
刺したらスッキリするとも思ってましたねー」
吸血鬼ヴァンパイアヴィオラが言う。
「そんなこと考えてたの?」
アイラさんが言う。
「考えていただけですよー。
やってませーん」
ヴィオラは、イケシャアシャアと言う。
「そういうことだ。
ヴィオラは、考えただけだ。やってない。
ヴィオラは殺意をコントロールしていた」
エドモンはヴィオラの方を向いて言った。
……。
「でも、突然他人の殺意を感じ取ったジルは、コントロールできなかった。
なんていうかサ、いきなり他人の殺意が心の中に入ってきて……、何が何だか分からなくなったんじゃないかな?
だから、そのまま反射的に、何も考えずに感じた殺意のままに身体を動かした。
で、ナイフを振り回して、目の前のヴィオラを刺したんだ」
ボクは……。
ボクの『あの時』の記憶がよみがえる。
封印していた記憶だ。
あの時、ボクはナイフをどう扱うか、なんとなく分かった。
ナイフなんてりんごを剥く時ぐらいしか使ったことがなかったのに。
あの時は分かったんだ。
「精神操作魔術を習得するタイミングで、自分と他人の区別がつかなくなることは、時々あるよ。
あたしも若い頃は、苦労したもんさ」
ヨンナ婆さんが言う。
そう……。
ボクの中であの時の記憶がよみがえる。
怖くて、何より自分自身が恐ろしくて、封印していた記憶だ。
ヴィオラの赤い目。
殺意の目。
ボクは殺されると思った。
そして、殺せると思った。
そして、気がついたらボクはナイフをヴィオラの胸に刺していた。
あの時感じた殺意と万能感は何だろう……。
「俺の意見は俺が組み立てた推理だ。
推測に過ぎない。
でも、『なんとなく刺した』よりは納得できる」
エドモンは言った。
今、ボクは。
エドモンの言ってることは正しいかもしれないと思っている。
辻褄が合う。
記憶とも合う。
デリーメに帰ったら、久々に魔力検査を受けよう。
もちろん間違っていれば、的外れを笑ってやればいい。
理性で考えれば、それだけのことだ。
それだけのはずだ。
でも、ボクは猛烈に腹が立った。
ひどいよ。
うまく言えないけどひどいよ。
腹が立つよ。
なんで、ボクよりボクの事を分かっているんだよ!
お前のことが大キライだって言いたい。
でもここで大キライはあまりに情けない。
「ジル、大丈夫?
まずは落ち着いて」
アイラさんが、ボクの目の前にいた。
この前ダンジョンで、ボクはアイラさんに殴られた。
でも、そのことは素直に受け入れている。
死霊街にいっしょに行くと行った理由の一つは、アイラさんがいたからだ。
(もう一つは、ヴィオラのことをもっと知りたかったからだ)
「アイラさん……」
アイラさんの顔が涙でゆがんで見えた。
ボクの目から涙がこぼれた。
止められない。
ボクはアイラさんの胸に飛び込んだ。
そして泣いた。




