第17話 最初の事件
「来年の夏には、またお手伝いをお願いしたいですね」
別れ際にセバスチャンは言った。
夏かぁ。
これは草むしりの手伝いだな。
「ちゃんと歓迎してくれるなら、お手伝いするわ」
アイラが返す。
セバスチャンは、無言で頭を下げた。
これはどういう意味になるんだ?
正門をくぐり、鍵を閉めて、死霊街とはお別れになった。
外に出ると、鳥の声が聞こえた。
ここから先は、生者の世界である。
カブ畑を貫く道。
そこを歩くのは、アイラとヨンナ婆さんとヤトス、ジル、俺、ヴィオラ、そして黒マントの怪しい人影だ。
人数が合わないって?
実はマントの中身は、ゾンビなのである。
正確に言うと、『あの男』の死体から作ったゾンビだ。
セバスチャンに、死体をなるべく早く片付けてほしいと命令、いや頼まれてしまった。
戻ってから、運搬用の荷車を引いて死霊街までとんぼ返りするか?
二度手間だね。
少なくとも、オリーブさんならそう言うと思う。
そして俺達の一行には、上級の死霊術師ネクロマンサーのヨンナ婆さんがいる。
ヨンナ婆さんが、死体をゾンビ化する術をかけ、死体には歩いて帰ってもらう。
これで解決だ。
死体運搬の裏技ってヤツだね!
ただ、ゾンビを連れ歩いている所を見られると外聞が悪い。
だからゾンビには黒いフード付きマントを着せた。
ゾンビの手首にロープをかけ、引っ張るのはヴィオラである。
これで犯罪者を連行しているように見えるだろう。
さて。
俺は探索クエストの間、度々考えていたことがある。
この問題を明らかにすべきか、否か。
ずいぶん迷った。
今ここには、俺とジルとヴィオラと、そしてアイラがいる。
周りはカブ畑で、ヒトの耳もない。
ヨンナ婆さんには口止め済みだ。
やはり今しかない。
「なあジル」
俺はジルに尋ねた。
「ボクに何の用?」
ジルは聞き返す。
「ジルは、なぜヴィオラを刺したんだ?」
俺は言った。
俺の言葉は、俺達一行の空気を凍らせた。
「えっ」
ヤトスがギョッとしたような顔で俺とジルを見る。
ヨンナ婆さんがヤトスの手を握った。
アイラが振り返る。
ヴィオラの目は大きく見開かれている。
そして、ジルの表情は凍りついていた。
「この前、聞こうとしたら逃げられただろ。
もう一度、考えてみたいんだ」
「今さらだと思わないの?
ボクをいじめて、そんなに楽しい?」
イジメではない。多分。
「俺も、どうでも良い事じゃないかと思っていたんだ。
ヴィオラはピンピンしてるし」
「そうだよ!
ヴィオラはあの程度じゃ死なない。
ボクには分かる」
「ジ〜ル〜、ヴィオラさんですよォ〜」
ヴィオラが脇から言う。
「ヴィオラ・3サンはあの程度じゃ滅びないよ!」
ジルが言う。
ジルの言ってることは正しい。
ヨンナ婆さんも、吸血鬼ヴァンパイアヴィオラは、ナイフで胸を刺されたぐらいでは滅びないだろうと言っていた。
「でもやはり、これは必要な真実だと思うんだ。
だからこそ、ジルは俺達に付いて来たんじゃないのか?」
他の死霊術師ネクロマンサーを探してくれって言われる中で、ジルは『やる気がある断固いっしょに行く』って言ったんだよな。
ジルも何か思うところ、考える所があるのではないだろうか。
「治癒術師ヒーラーさん、いやエドモン、キミが思ってるほど単純じゃないんだよ。
そういうの、余計なお世話って言うんだよ」
俺はジルの意見を無視して続ける。
「今回ジルといっしょに行動して分かったことがある。
ジルは、暴力を振るうような人エルフじゃない。
死霊街で、聖属性を使った時も、周りの幽霊ゴーストたちに気を使っていた。
しばらく一緒に行動したけど、俺はジルが暴力を振るうのをついぞ見なかった」
暴言を吐いてるのは、何度も聞いたけど。
「うるさいな。
暴力の代わりに暴言を吐くタイプなんだよ、ボクは」
暴言が暴力よりマシかどうかは別として。
「ともかく、ジルは暴力を好まないんだ。
魔術でなら、状況とタイミングが合えば攻撃魔術を使うだろう。
でも、肉体的な暴力は苦手なんじゃないかな。
俺にはそう見える」
「だから、どうなんだよ!
キミ、何が言いたいわけ?」
ごめん。
だいぶまどろっこしい話をした。
「要は、ジルがヴィオラを刺した事件には、見落としている要素があるってことだ。
ジルは本来ならやらないはずのことをしたんだから」
「……」
俺は、ひと呼吸おいた。
良い天気である。
流れるひつじ雲が、カブ畑にまだら模様を作っている。
「ジル、おそらく君は精神操作属性を持っている。
そして、君は他人の心が読める。読めてしまう。
いつも、読めるかどうかは分からない。
少なくとも、条件がそろうと読めてしまう。
その能力が、事件の原因だと思う」
師匠に聞いたことがある。
『他人の心が読めると訴える患者』がたまにいるのだと。
それらのほとんどは『妄想』と呼ばれる。
本人の心の中だけにある現象だ。
だが、稀まれに本当に他人の心を本当に読めるヒトも存在する。
精神操作属性を持っていると、そういう能力が発動することがあるのだと。
ジルは沈黙した。
ヴィオラもアイラも、ヨンナ婆さんとヤトスも。




