第16話 やっぱりセバスチャンといっしょ
「居候のお嬢様が、またお客様を連れてこられましたか」
セバスチャンは、沈痛な声で言った。
推測だが、翻訳してみる。
「どんどん人数が増えやがって、図々しいんだよ」
こんな所かなぁ。
「ごめんなさい。セバスチャン。
長居はしません。
この二人は、冒険者組合に連れて行かなきゃいけないんです」
居候のお嬢様こと、ヴィオラが頭を下げた。
「仕方ありませんね。
お嬢様が、組合の仕事を完遂できるようになったのは、すばらしいことです。
お部屋はお貸しします」
「ありがとう、セバスチャン。
勝手に押しかけてごめんなさい」
アイラも頭を下げる。
あっと、俺も下げないと。
横目で、ヤトスとヨンナ婆さんを見ると、完全に硬直している。
大丈夫だろうか。
多分、これから庭仕事なんだけど。
「ヤトス、こっちだよ」
俺は硬直しているヤトスの肩を軽く叩いた。
一瞬ビクッとして、硬直が解ける。
「……あんな強い亡霊レイスはじめて見た」
ヤトスは、ポツリと言った。
「やっぱりセバスチャンってすごいんだ?」
そうじゃないかとは思ってたけど。
セバスチャンは、外の幽霊ゴーストや、以前見た亡霊レイスと比べて、まともに見える。
これって強さと関係してるよな。
「うん、すごいよ。
僕の死霊術はもちろん、お祖母ちゃんの死霊術も通じないと思う」
ヤトスは言う。
「聖属性でも生半可な術では、通じないだろう。
あのクラスの亡霊レイスには、敬して遠ざく以外に方法はない」
隣でヨンナ婆さんが言う。
ヨンナ婆さんが、完全に逆らう気をなくしたのは良かった。
「そう言えば、ヨンナさんはどちらに泊まっていたんですか?
荷物とかはないんですか?」
俺はヨンナ婆さんに尋ねる。
遠くから来たんだし、荷物もあるんじゃないだろうか。
「大人しい守護霊がいる家におじゃましてるんだよ」
ヨンナ婆さんは答えた。
「なんと! それはどこの家ですか!」
突然、俺達の目の前にセバスチャンが現れた。
ヨンナ婆さんは、また硬直した。
「大人しい霊とは、自分の思いを伝えられない霊なんです。
それを良いことに侵入して好き勝手するとは、何たる身勝手。
家主が静かなら、何をしても良いと思われたのですか!」
セバスチャンは、よよよと嘆いてみせた。
ヨンナ婆さんは、完璧に固まった。
「あーもー。
屋敷の外に興味がないセバスチャンに、文句を言う権利はありませんよ」
ヴィオラが言う。
「軽く食事をしたら、皆で荷物を取りに行って、お掃除して、ついでにお詫びもしましょう。
それで許してもらえないかしら」
アイラが言った。
さて。ヨンナ婆さんの宿は、石垣のそばの廃墟スレスレのボロ屋だった。
セバスチャンの屋敷に比べると、だいぶ小さい。
「おじゃましまーす」
「ごめんください」
ヴィオラとアイラが玄関で挨拶する。
誰もいない、ように見える、
ヨンナ婆さんの荷物は、少しだけだ。
家の使い方も丁寧である。
対して、俺達はジルも含めて全部で6人もいる。
あちこち掃除して回り、荒れた庭も整えた。
途中で日が落ち暗くなったが、明かりの魔術を使ってやり遂げた。
「……あの」
帰ろうとした俺達に、後ろから細い声がかかった。
振り向こうとすると。
「ダメです。振り向かないでください。
見ないでください」
俺達は顔を見合わせる。
振り向くなと言われると、振り向きたくなるよな。
「家付き霊シルキーさんですかァ?
掃除で足りない部分はありませんかァ?
セバスチャンに、ちゃんとやれって言われてるんです」
ヴィオラが言う。
「いえ、十分です。あの、ありがとうございました。
ワタシだけだと行き届かないので。
あ、それだけです」
そして、細い声も微かな気配も消えてしまった。
俺達は、なんとか振り向かずにセバスチャンの屋敷に戻った。
次の日は、俺達が閉じ込められた地下牢に向かった。
魔術を通さない鉄格子と岩牢の話をしたら、アイラが興味を持ったのだ。
「こんな特殊な岩牢があるなんて知らなかったわ。
新発見者じゃないかしら」
アイラは気合を入れて、手帳にマッピングしている。
俺達は、地下牢と地下道と、ヤトスと『あの男』が潜伏していた部屋を掃除した。
セバスチャンへの義理である。
こっちの掃除が方が大変だったな。
ヤトスの持ってきた鍵は、冒険者組合に渡すことになるだろう。
「ヨンナさん、ちょっと聞きたいことがあるんです」
掃除をしながら俺はヨンナ婆さんに質問する。
「なんだい?」
「あなたは、精神操作属性の魔術を使えるんですよね?」
「そんな事言ったかねぇ」
ヨンナ婆さんはとぼけた。
「そう言ってましたよ。
組合への報告書にも書きます。
その上でお聞きしたいことがあるんです」
帰り道、すでに日は落ちていた。
ポッ、ポッ、ポッ、ポッ、ポッ。
LaLaLa、LaLaLa、LaLaLa。
幽霊ゴーストたちが踊っている。
今夜は満月だ。
「やあやあ、ヴィオラ!
背の高いお姉さんと仲間達!
今夜はまんまる、満月だ。
ひととき踊って、いかないか?」
俺達はひと踊りして、セバスチャンの屋敷に帰ったのだった。




