第12話 話し合い
俺とジルは、とりあえず仲直りした。
話したいことがいっぱいある。
喧嘩どころじゃない。
「ジルの言うとおり、背の高い方の仮面の死霊術師ネクロマンサーの中身は、あの子供だろう。
後ろ暗い連中と組む時に、侮られないように大人を装ったんじゃないかな」
俺は言った。
「ボクもエドモンの言うとおり、背の低い方は『ゾンビ殺人事件』の主犯だと思うよ。
向こうはやっぱり、二人だけかもしれない。
死霊属性持ちを何人も集めるのは、大変なんだ」
俺とジルは意見をすり合わせた。
俺の呼び名は、治癒術師ヒーラーさんからエドモンになった。
とりあえずの仲直りは良いとして、決めなければならないことがある。
ここで人質として大人しく助けを持つか、逃げるためにジタバタするか、だ。
「ボクは冒険者だから」
ジルは宣言した。
俺も同じ気持ちだ。
ヨシッ。
ジタバタするぞ!
「あのー、すみませーん、水と保存食が取れないんですけどー、取ってもらえませんかー」
俺は声をあげた。
なるべく下手に。哀れっぽく。
また赤毛の子供が来ると良いのだが。
しばらくして、ビクビクした様子で赤毛の子供がやって来た。
まずはヨシッ。
主犯の『あの男』が、雑用で顔を出すことはないと思っていたよ。
赤毛の子供は、落ちていた水筒と保存食を拾う。
「あの、扉から離れてもらえませんか?」
こわがられてるなぁ。
俺とジルは、鉄格子から離れて奥へ移動する。打ち合わせ通りに。
赤毛の子供はしゃがんで、扉の穴から水筒と保存食を入れようとした。
その時。
「防音結界サウンドプルーフ」
ジルの防音の風魔術が発動した。
さっきより規模が大きい。
しゃがんでいた赤毛の子供は、魔術の気配に気づいたようだ。
立ち上がろうとする前に。
「待ってくれ。デリーメ冒険者組合は、『仮面の死霊術師ネクロマンサー』と、司法取引を希望している。証言して協力すれば、君は自由になれる」
俺は早口で言った。
「あんな男と組むよりは、冒険者組合に仕えた方がマシだと、ボクは思うよ!あ、今の声は外に聞こえないから安心して!」
ジルも早口で言う。
「僕は……」
赤毛の子供は、目に見えて怯えている。
怯えているのは、俺達にじゃないよな?
『あの男』に対してだ。
たぶんな!
「この死霊街を見れば分かるだろう。
デリーメには、死霊術師ネクロマンサーが必要なんだ。
冒険者組合は、キミをスカウトしたいらしいよ」
ジルがさらに早口で続ける。
「俺達は、死霊術師ネクロマンサーを探して、橋渡しをしてくれと頼まれたんだ」
俺も、さらにたたみかける。
今言ったことは、本当だ。
アイラは司法取引の書類まで持っている。
アイラは書類を、俺達の前でオリーブさんと交渉して手に入れた。
まぁ抵抗するなら、死体で良いって許可ももらっているけど、それはヒミツな。
「あの、僕は」
赤毛の子供は左右を見回した。
今、決断させるのは無理か。
「『あの男』が気になるなら、戻って良いよ。けれど、よく考えてくれ。
君は、自分の才能をまっとうな方法で使うべきだ。
デリーメでは、死霊術師ネクロマンサーは迫害されてない。
死霊属性持ちで堂々としているジルを見れば、分かるだろう」
赤毛の子供は、泣きそうな表情になった。
そのまま、後ずさる。
あっと。
ちょっと待って。
ちょっと待った!
「水と保存食は、入れておいてくれ!」
俺は慌てて続けた。
赤毛の子供は、扉の穴に水筒と保存食を放り込み、そのまま走り去った。
俺とジルは、あまり美味しくない保存食をかじり、水で口を湿らせた。
毒や薬物は大丈夫かって?
俺は解毒の魔術も使えるし、大丈夫だと思うよ。
「ボクらの言うこと、ちゃんと通じたかな?」
ジルが言った。
「まともな判断力があれば、分かると思うんだよな。
『あの男』に付いて行っても良いことないって」
俺は答える。
「その、『まともな判断力』があるかどうかをボクは心配しているんたよ」
ジル。
「……まあ、言うべきことは言ったよ」
俺。
脱出策のプランAは、赤毛の子供の説得だ。
条件だけなら十分に勝算はあると思うんだが。
プランB以降は、風魔術で天井の穴を伝って声を届けるとか、幽霊ゴーストを使うとか、だいぶ不確実になるんだよな。
俺とジルは静かに待つことにした。
無駄に体力を消耗するのは愚策だ。
日がまだ傾ききらない頃だった。
赤毛の子供が足音を忍ばせて、あらわれた。
「鍵を持ってきました。『あの男』はこの時間は昼寝をします。
僕を冒険者組合に連れて行ってください。
証言します」
俺とジルは顔を見合わせる。
プランA成功だ。
ヨシッ。
脱出だ!




