第10話 奈落と思索
仮面の男が去って、小半時が経った。
俺とジルは、鉄格子の内側、落とし穴の底に残された。
「これからどうなるんだろうな」
俺はポツリと言った。
「言うべきことは言ったよ。助けが来るのを待つしかないだろ」
ジルが答える。
そうするしかないのか?
この落とし穴の中で?
ジルの意見は一理はあると思うが、俺には納得できなかった。
いや、ジルが言ったから納得できなかった、のかな?
アイラが言ったら納得できたかもしれない。
「何かできるかもしれないだろ?」
「この鉄格子は開かない。上の壁は登れない。
下手にジタバタして、仮面の死霊術師ネクロマンサーの怒りを買うのが賢い判断だとは思えないね」
「……」
「ボクの人質としての価値に感謝することだね。
待つのが一番さ」
今のはカチンときた。
俺の人質としての価値はジルには及ばない。
ここでジルに苛つくのは、理屈に合わない。
でもさ、似たような感情を抱くヒトは、俺以外にもいると思うんだよ。
目を上げると、ジルはプイと横を向いた。
ジルと話すことはなくなってしまった。
俺は現実逃避も兼ねて、もう一度考えてみることにした。
状況を整理してみよう。
まず、アイラとヴィオラは、俺達を探すだろう。
二人に見つけてもらえれば、ベストだ。
一方で、仮面の死霊術師ネクロマンサーだ。
彼は俺達をどう扱うだろうか。
ジルの言うとおり、合理的な判断をしてくれるだろうか。
仮面の死霊術師ネクロマンサーは、芝居がかった口調で、よくしゃべる男だった。
俺の抱いていたイメージとは少し違った。
もっと無口で、超然とした人物を想像していたのだ。
そう、もっと……。
!
俺は突然思い出した。
「背は高かった。見上げたのを覚えている」
冒険者組合で、証言した男はそう言った。
先ほどの仮面の男は、俺と目の位置が近かった。
俺と同じぐらいの身長だった。
俺の身長は、平均かそれよりちょっとだけ高いぐらいだ。
残念ながら、見上げられるような長身では、ない。
「ジル」
「なんだよ!」
「気になる事がある。小さな声で話すよ」
俺は、ジルの目を見た。
さっきまで喧嘩をしていたけど、今は話を聞いてほしい。
真剣な話なのだ。
フッと、周りの風の動きが変わった。
「防音の魔術をかけたよ。音は漏れない。
で、何が言いたいのかな、治癒術師ヒーラーさんは」
ここで、ジルに腹を立ててはダメだ。
俺は建設的に相談したいのだ。
「さっきの仮面の男は俺と同じぐらいの身長だった」
「それが?」
「俺は冒険者組合で、犯人グループの一人から話を聞いた。
仮面の死霊術師は、見上げるような大男だったそうだ」
「……!」
ジルは、俺の言わんとすることを理解したようだ。
「俺の推測を言う。
仮面の男の中身が変わっている。
今の仮面男は、ゾンビを作った死霊術師ネクロマンサーとは別人だ」
しばらくの沈黙があった。
「仮に違っていたとして、ボク達が捕まっていることに変わりはないよ」
「その通りだ。
でも、なぜ中身が違っているのか考えたいんだ」
「それで、どんな可能性があるって言うんだい?
治癒術師ヒーラーさん」
俺の名前はエドモンだって言いたい。
だけど、ここは我慢だ。
「背の低い方の仮面の男は、ゾンビを作るような高度な死霊術は使えないんじゃないかな」
俺は思いついたことを言った。
「ふーん。でも、別の可能性もあるよ。
仮面の男は少なくとも二人いて、あの子供も含めて三人組かもしれない。
これはどう?」
そうきたか。
三人組なら、逃げ出すのはいよいよ難しい。
「ボクは死霊属性を持っている。
死霊属性持ちとして、言える事がある。
この街で潜伏できるなら、それは死霊術師ネクロマンサーだってことだよ」
ジルは宣言した。
「俺は死霊属性を持ってないニブチンだけど?」
反論してみる。
「キミは正門から入ったし、護符を持っている。
さらに、吸血鬼ヴァンパイアヴィオラの仲間で、ヴィオラから住人に紹介されている」
ふーむ。
「じゃあ、あの赤毛の子供も死霊術師ネクロマンサーってことか?」
俺は気がついたことを口にする。
「うん。おそらく死霊属性持ちのはずだよ」
そうなのか。
「あるいは、強い護符を持っているか、だね」
ジルはまとめた。
うーむ。
この街に死霊術師ネクロマンサーは、いったい何人いるんだ?




