第8話 ジルと俺
俺は、屋敷でジルと二人で残された。
正直に言うけど、気まずい。
二人で話せってか?
うーん。
部屋に戻ると、薬を飲んだジルは毛布にくるまって寝ていた。
頭痛なんだし、話しかけるタイミングじゃないだろう。
俺は昨日使った屋敷の設備を掃除をすることにした。
掃除道具は、セバスチャンが貸してくれた。
よろしくお願いします、だってさ。
はい。
掃除が一段落して部屋に戻ったら、ジルは目を覚ましていた。
「頭痛はどう?」
俺は尋ねる。
「効いたよ、楽になった。この薬、よく効くね」
ジルは答えた。
「師匠の調合だよ。木の皮からできる薬だって」
「ふーん」
そして、ジルは黙ってしまった。
予想通り、気まずい空気が流れる。
それにしてもさ。
なんで、オリーブさんはジルに肩入れするんだろう。
「オリーブさんとボクは親戚だよ」
ジルがポツリと言った。
「えっ?」
「オリーブさんの父親とボクの母親が従兄弟同士」
えーと、ジルとオリーブさんは再従兄弟ということか。
ジルは、冒険者組合の偉いさんと親戚だと聞いたことがある。
偉いさんって、オリーブさんのことなのか?
ジルは再び黙りこんだ。
居心地が悪い。
このエルフの女の子と、どうやってコミュニケーションを取れば良いんだろう。
後から考えると、ここが失敗だった。
女の子とビミョーに気まずいなんて、良くあることなのだ。
慌てず騒がず、アイラとヴィオラが戻ってくるのを待てば良かった。
だけど、最近エド様なんて呼ばれて、俺は気が大きくなっていた。
アイラにジルと話をしておけと言われていたのもある。
ともかく。
俺は年下の女の子の扱いが分かっていない。
「エエとさ、ジル。
俺達は一緒のパーティーで動くわけなんだ。
だから、不満があるならちゃんと言ってほしいんだ。
わけが分からず避けられると凹む」
俺は単刀直入に言った。
「君さ、馬鹿じゃないの?」
ジルは言った。
いきなり、『馬鹿』か。
ジルはおそらくローティーンぐらいだ。
姉と妹、特に姉が同じぐらいだった時を思い出せ。
「はぁー、ホント分かってないね。
まず基本だよ。
君はボクのことが嫌いでしょ?」
……。
ジルが言いたいことはこうだ。
俺がジルを嫌っているから、ジルは俺を嫌っている。
確かに。
人間関係の基本だ。
嫌えば、嫌われる。
ここで、俺は二度目の失敗をした。
ローティーンの思春期の女の子に、俺が何ができると言うんだ?
師匠のつもりか?
この場は、セバスチャンに任せて、庭の草むしりでもしてれば良かった。
「あまり好感は持ってないよ。
君は、ヴィオラを刺した張本人だし」
図星を刺されたり何やらで、カチンときた俺は、感情のままに言い返した。
ヴィオラを刺して、悪びれないジルに思う所があったのは事実なのだ。
「ヴィオラは、あの程度じゃ死なないし、滅びないよ」
「俺が見た時は、ほとんど死体みたいに見えた。とても哀れな状況だった」
「それは、君の感覚が鈍いせいだ。
ボクは死霊属性があるから、ヴィオラが滅んでいないのは分かっていたよ」
ジルの目と俺の目が合う。
俺は本格的に腹が立ってきた。
「じゃあなぜ、ダンジョンに放置したんだ?
その場で血を与えれば復活しただろう」
「復活した吸血鬼が、暴れだしたらどうするのさ。
一旦ダンジョンの外に出て、死霊属性・聖属性の専門家を連れてくるのが良いと思ったんだよ。
あの状況のヴィオラに無条件に血を与えるなんて。
君は、自分がどれだけ危険なことをしたのか、自覚した方が良いよ」
売り言葉に買い言葉だ。
「制約による条件は付けた上で、血を与えた。
事実、俺もアイラもヴィオラも無事だった。
マッドハウスも解除されたし、事件も解決した」
解決、したよな?
「こっちはいろいろ見える分苦労が多いんだよ。
自分の中身が全部分かった気なれば苦労しないさ。
死霊属性がない、お天気アタマの治癒術師がうらやましいよ。
オリーブやアイラさんや、君を重視する理由が分からないね」
確かに俺には死霊属性はないし、昼間の幽霊はほとんど見えないけどさ。
「あーあ、ここで君と話をしても無駄だよ。
ボクはアイラさんがいる斜め向かいに行くよ。
あ、頭痛は治ったよ。いい薬だった」
ジルはそう言うと、立ち上がって部屋を出ていこうとした。
ぁーゔー。
どうしよう。
俺は一瞬考え込んだ後、ジルを追いかけることにした。
ここでも、俺は失敗した。
「待ってくれ、ジル!
あっとセバスチャンさん、失礼します!」
俺はジルを追って外に出た。
外は変わらず明るい廃墟である。
斜め向かいの家は、えーと。
ジルは道の真ん中でキョロキョロしてる。
もしかして、どの家か迷ってるな。
「あそこの家じゃないか?
家付き霊がいるなら、きれいな家だろ?」
斜め向かいには、ボロボロの家ときれいな家がある。
きれいな家の方が、セバスチャンみたいな家付き霊が管理してる家じゃないかな。
「斜め向かいなら、こっちじゃないの?」
「ボロボロ過ぎないか?」
「一応、玄関だけ見てみるよ。誰もいなければ、隣に行けばいいだろ」
ま、そうだ。
俺とジルは、ボロ屋敷の門をくぐった。
その時。
目の端で、赤い何かが揺れた。
ボロ屋の離れの壁から見える、赤い……、そう。
「いたっ!あそこ。赤毛の子供!」
ジルは声をあげた。
そう子供だ。赤毛の子供。
子供は壁の向こうに逃げ出した。
反射的に俺は追いかける。
ジルも付いてきた。
角を曲がると、赤毛の子供が庭を駆けて行くのが見えた。
俺とジルは何も言わない。
お互いに対する対抗意識がある。
子供は逃げる。
俺達は、追いかけた。
子供は、塀の穴をくぐり、木立のすき間を通った。
明らかに道を知っている。
引き返すべきかと思ったが、木立の向こうで子供が転ぶのが見えた。
ヨシッ、追いつくぞ。
子供は立ち上がって逃げる。
俺とジルは追いかける。
と、その時。
足元が崩れた。
バキバキッ。
小枝が折れる音がした。
これは。
俺達は、落とし穴に落ちた。




