第7話 死霊街の聞き込み
月の明るい晩だった。
「ほー、ほー、ほー」
「lululu、lululu、lululu」
「クスクス、クスクス、クスクス」
外の風景は、昼間とは一変している。
幽霊や、もしかしたら亡霊、彼らの姿があちこちに見える。
「これが死霊街……」
アイラがほうと、溜息をつく。
「見えますか、アイラさん」
ヴィオラが言う。
「ぜんぶ見えてるのかどうかは、分からないけど。
あそこ、女がずっと笑ってる。
あっちは踊ってる、男ね。
もう一人座ってる女が見える
屋根の上にもいるわね」
アイラが言った幽霊は、俺にも見えた。
「たくさんいるんだな」
俺もつぶやく。
「君が見えてるのが全てだとは限らないからね」
ジルがピシャリと返す。
あー、はいはい。いちいち絡むなぁ。
「奴らたくさんいますが、まともに話をできるのは少ないんです。
あそこに座ってる女の幽霊に聞いてみましょう」
「赤毛の子供と、死霊術師を見ませんでしたか?」
ヴィオラが、女の、比較的はっきり見える幽霊に尋ねた。
「わたしはずぅっっと恋人を待っているの。
彼のことしか見えないの」
「彼はどんな人でしたか?
もしかしたら、私達が探してるヒトは、あなたの恋人に似てるかもしれません」
「彼がどんな人って?
そりゃもうステキな人なのよ」
「髪の色は何色ですか? 赤毛だったりしませんか?」
「彼の髪の色、そりゃもちろん、えーと何色だったかしら。
わたしが彼のことを忘れるはずがないのに。
やだっ、思い出せない、いやぁぁー」
幽霊は悲鳴をあげて飛んで行った。
ヴィオラは肩をすくめる。
「とまあ、こんな感じなんです。
幽霊への聞き込みは、なかなか大変なんです」
そうみたいだね。
「HEY、背の高いお姉さん、HEY、いっしょに踊らないか?」
踊ってる男の幽霊がアイラをナンパしてきた。
「赤毛の子供を見てないかしら?
私より派手な赤い髪の十歳ぐらいの男の子よ」
「HEY、HEY、HEY、ダンスダンス、踊れば世界が見えてくるYO!」
アイラは、幽霊の男に合わせて踊りだした。
残りの俺達も、なんとか合わせる。
「HEY、踊ってるあなたに質問よ、HEY、教えてくれる? HEYHEYHEY!」
「背の高いお姉さん、上手だね!
何だい、難題、HEY、HEY、HEY」
「HEY、生きてる子供を探しているの。
HEY、真っ赤な髪の子供なの、迷い込んだか、逃げ込んだのか、この街に。
いるんじゃないかと、思ってるのよ!」
「ステキな赤毛のお姉さん、いっしょに踊ろう、HEYHEYHEY」
「HEY、ダンスはとっても楽しいけれど、HEY、その子を探さなきゃいけないの。
教えて教えて、心配なのよ!」
「ごめん、知らない」
幽霊は言いった。
踊りが止まる。
「知らないの?」
アイラがたずねる。
「ずっと踊っていたから、見てないよ」
俺達は、一斉に溜息をついた。
いっしょにダンスもしたし、頑張ったんだけどなぁ。
その後も何人?かの幽霊に聞いたが、収穫はなかった。
アイラは、途中から聞き込みはヴィオラに任せてしまい、道にしゃがんでチョークで線を引いていた。
えーと、チョークの線の上を生きたヒトが通れば、分かるんだよな?
聞き込みより、こちらの方に引っかかるかもしれない。
ウロウロとあちこち歩いていたんだが、途中からジルが遅れがちになった。
「ジ〜ル〜、やる気があるんじゃなかったんですかァ?」
ヴィオラがあおる。
「頭が痛い。ちょっとだけ」
ジルが言う。
そりゃまた。
「もう、けっこう遅いわね。
今日は、帰りましょう。
聞き込みは明日も続ける予定だし」
アイラは懐中時計を見て、言った。
デリーメの街の方から微かに鐘の音が聞こえた。
あれは、真夜中の鐘だろうか。
俺達はセバスチャンの屋敷に戻り、床の上に毛布にくるまって寝た。
セバスチャンに許可された部屋は一つだ。みんなで場所を分け合った。
屋根も壁もあるが、感覚はキャンプに近い。
もちろん、絨毯には乗らない。
次の日、まだジルは顔色が悪かった。
「頭痛が残っているんじゃない?」
アイラが質問する。
「……うん」
「はぁー。やる気がないの次は、体調不良ですか。
手間がかかりますねェ」
「俺は頭痛に効く薬を持ってるよ。
飲んだ方が良いんじゃないかな?」
「……」
「師匠が調合した薬だよ。良く効くから」
「……分かった。もらう」
考えて見ればだけど、ジルは俺達と合流してから、すごく緊張していたんじゃないだろうか。
それが頭痛につながってるんじゃないかな?
「薬を飲んで、少し横になっていればよくなると思うよ」
俺は、粉薬をジルに渡した。
昨日の晩寝る前に、ジルに薬を渡せば良かったな。
失敗だ。
俺は、パーティーの治癒術師なのに。
「どうせ聞き込みは夜だし、昼間は掃除でもしながら、のんびりしましょ」
アイラは言った。
残念ながら、予定通りにはいかなかった。
「居候のお嬢様と、お客様。
斜め向かいの屋敷の家付き霊さんが、植木の手入れを頼めないかとのことです。
お願いできますか?」
セバスチャンに頼まれたのだ。
「植木の手入れね、分かったわ。
ヴィオラといっしょに行ってくる」
アイラが言った。
えっ?
「俺とジルが残るのか?」
いろいろ気まずいんだよ。
ジルは俺を避けてるし。
「医者のエドモンが残った方がいいでしょ?
セバスチャンもいるし、大丈夫よ」
「いやあの」
「……できたら、ジルと二人で話をしてほしいのよ。
あのさ、私はジルに、何故エドモンを避けるのか聞いてみたのよ。
でも、要領を得なくて」
アイラはひそひそ声で言った。
俺は、かなり情けない顔をしたと思う。
「ま、無理しなくていいわ。
早めに仕事は終わらせるし、何かあったら、斜め向かいまで来て。
セバスチャン、二人をよろしく」
アイラはそう言って、ヴィオラと二人で出て行った。
そして、屋敷に生きてるヒトは、俺とジルだけになった。




