第1話 ヴィオラさんとお呼び
いいですか、ジル。
わたしのことは『ヴィオラさん』と呼んでください」
ヴィオラは、にこやかに言った。
「……『ヴィオラ・サン』」
しばらくの沈黙の後、ジルは言った。
やれやれ。
前途多難だ。
時を少し戻す。
オリーブさんの「頼みがある」の言葉に、アイラは即反応した。
「ちょっと待って!
こっちにも都合が……」
「今回の事件でゾンビを作った死霊術師ネクロマンサーを探してほしい。
我がデリーメ冒険者組合からの正式な依頼だ」
オリーブさんは言い切った。
アイラは無言で天を仰いだ。
「アイラさん、なんとか理由を付けて断りましょう。
ヒト探しなんて、手間と時間がかかるだけですよ」
ヴィオラが大きめのヒソヒソ声で言う。
「聞こえてるよ!」
オリーブさんがドスのきいた声で返した。
俺の意見はって?
同じ意見だよ。
ヴィオラにも、オリーブさんにも。
ヒソヒソ声は聞こえるし、ヒト探しはめんどうだ。
しかし。この依頼、断れるのだろうか?
「アイラ、あんたは組合直属の地図屋マッパーだ。
断らせないよ」
小柄なオリーブさんが、長身のアイラを見上げて言う。
「確かにね。私は断れない」
アイラは沈痛な表情で言った。
「ヴィオラ、この件を断るなら、組合はあんたの後見から降りるよ」
オリーブさんは、今度はヴィオラを見た。
「えェェー、それはヒドイです!
話が違います!」
「ヴィオラ、分かっているはずだ。
死霊術師ネクロマンサー探しなら、自分が適任だと」
「ぶー」
ヴィオラはむくれた。
でも、反論はなかった。
うん、やっぱり断れないんだな。
「でも、オリーブさん。
私達では実力不足じゃないかと思うのよ。
ヴィオラは吸血鬼ヴァンパイアであって、死霊術師ネクロマンサーではない。
私もエドモンも、死霊術の心得はない。
だから専門家を付けてほしいわ。
もちろん、私達ではなく専門家チームに依頼するのでも良いと思うわ」
アイラが交渉モードに入った。
あわよくば断ろうともしている。
がんばれ、アイラ。
「もちろん死霊術が使える魔術師を付けるよ。
今、呼んでくる」
オリーブさんはそう言うと、部屋を出て行った。
オリーブさんは、魔術師を待機させていた。
俺達に仕事を押し付けるつもりで、準備万端で待っていたと。
「どんなヤツですかねェ?
同行する魔術師って」
ヴィオラの後の扉が開いた。
オリーブさんと、エルフの女の子が入ってきた。
知った顔である。
ジル。
オリーブさん、なぜジルを選ぶんだ?
改めてジルについて語る。
ジルは、エルフ族の女魔術師だ。
暗い金髪ダークブロンドで、小柄で細身で、見かけはせいぜい14〜5歳。
エルフの年齢は闇だが、内面もそのぐらいの年齢に思える。
思春期まっさかり。難しい年頃なのだ。
そして、ジルは俺達と浅からぬ、いや悪い因縁があるということだ。
いや、いやいや。
ここは俺も発言しなければならない。
オリーブさんが、いかに迫力があって恐ろしかろうと、だ。
そのことを俺は、姉と妹から学んできた。
「ちょっと待ってください」
「なんだい?」
オリーブさんは、軽く向き直る。
アイラやヴィオラと比べて俺の扱いは軽い。
「この前のマッドハウス事件を思い出してください。
どう考えても、ジルは不適当です。
別の死霊術師ネクロマンサーを紹介してください」
ジルはヴィオラを刺して、活動停止したい状態にした犯人だ。
事件の加害者と被害者がいっしょのパーティーになる。
マズイ。
分かるだろ?
「こっちにもいろいろ都合があってね。
予算とか、予算とか、予算とか!
組合は、誰にでも頼めるわけじゃないんだよ」
つまり一番安い死霊術師ネクロマンサーがジルだったと言うことか。
それにしてもさー。
「オリーブさん、わたしは納得できません!」
ヴィオラが一歩踏み出して言い、続ける。
「このジル、やる気がないんですよ!
すぐ帰りたいって言うんです。
ほんとですよ。
ダンジョンでジルのやる気のなさに、わたしは殺意すら覚えましたからね!
やる気のないヤツにヒト探しができるはずないです。
高くても、やる気のある魔術師にしてください!」
やる気のなさ。
ヴィオラ、問題はそっちなのか?
「ジルは今回はやる気があるよ。
ジル本人がやるって言ってるんだ」
オリーブさんは言った。
「それが信用できないってことですよォ。
オリーブさん、前回もジルを連れて行ってくれって押し付けたじゃないですか。
それで全然ダメだったんです!」
ヴィオラはオリーブさんに食ってかかる。
「やる気あるよ。ちゃんとやる」
脇から発言したのはジルだ。
この部屋にいる、アイラ、ヴィオラ、俺、オリーブさん。
4人の視線がジルに集まる。
ヴィオラは軽く顎を上げて、フンと鼻を鳴らした。
「ジ〜ル〜、ダンジョンで帰りたい帰りたいを連呼していたのを覚えてますよォ」
ジルは唇を引き結んで黙っている。
ヴィオラの煽りは続く。
「今回は、死霊術師ネクロマンサー探しですよォ。
ゾンビが出るかもしれません。
幽霊ゴーストが出るかもしれません。
いえ、もしかしたら、亡霊レイスが出るかもしれませんよォ〜!」
ジルは黙っている。
そして、イライラしている。
ヴィオラとジル。
混ぜるな危険だ。
「オリーブさん、ヴィオラとジルを一緒のパーティーで連れて行くのは無理だわ。
少なくとも私には」
アイラが言った。
俺も同じ気持ちだ。
はぁー。
オリーブさんは深い溜息をついた。
「それでもジルを連れて行ってほしいんだよ。
吸血鬼ヴァンパイアのヴィオラ、アタシ個人からの報酬として、血をコップ半分わたす。
これでどうだろう?」
「!」
ヴィオラの紫の目が見開かれる。
「……オリーブさんは、健康そうだし魔力もあるし、血は美味しそう。
いや、でも、毎回丸め込まれるわけには……」
ヴィオラは何やら悩みだした。
「だから、やる気あるよ。
ちゃんとやる」
再び声を上げたのはジルだ。
ヴィオラとジルの視線が交わった。
「はぁー、分かりましたよ、ジル。
ただし、条件があります。
わたしのことは『ヴィオラさん』と呼んでください。
わたしの方が冒険者として先輩ですからねェ。
やる気があるなら、その程度できますよねェ」
そして、冒頭に戻るのである。
ほんと前途多難だ。
俺の隣でアイラも溜息をついた。
【特別企画】
死霊術師ネクロマンサーを探せ
1人目、ジル。(初級)
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