第4話 ダンジョン
「おや、アイラじゃないか。
へー、殺人事件の調査がしたい、と。
それなら、これ。
申請書に記入して。
あっと、小金貨1枚を預けてもらうよ」
カウンター越しに、冒険者組合の名物受付嬢が言った。
「事件の調査期限は一週間を予定している。
一週間後に、書類の控えを持って受付に来たら、預かった金貨は返すよ。
報酬についても説明する。
事件について新しい情報を報告したら、ネタの重要度によって小金貨1枚〜5枚だ。
もし事件を解決できたら小金貨15枚。
早期解決のボーナスも用意しているが、あまり期待しないことだ」
受付嬢は淡々と言った。
これが冒険者組合のやり方か。
アイラが俺達に相談した理由が分かった。
殺人事件の調査には、お金がかかるらしい。
「預け金は、今は私が立て替えて払うわ。
後で、パーティー積立金から引いておくから」
申請書を書きながら、アイラが言った。
『メイド探偵シャルロット』は街で大人気だ。
探偵を気取りたいのは、俺達だけじゃないんだろう。
さて。入り口近くとは言えダンジョンだ。
装備を整えてから出発になる。
再集合時、アイラは革鎧を着て、短剣を履き、小さめの背嚢を背負っていた。
ヴィオラは軽装だが、大きなメイスを背負っている。
俺も、ローブの下に革の胴鎧を着て、救急用品その他を背嚢に入れてきた。
それにしても、死んだ冒険者はどんな格好をしていたんだろう?
もし革鎧を着ていたなら、刃物で突き通すのは大変だろう。
ダンジョンの入り口は、急な階段だ。
しばらく階段を降りると、巨大な岩をくりぬいたような広場に出る。
広場には透明な湧き水がある。
俺とアイラは、水筒に水を汲んだ。
午後の遅い時間だが、広場には十人を越える冒険者がうろうろしている。
被害者と容疑者Aが口論したのは、この広場らしい。
この辺りで喧嘩すれば、目撃者は普通にいるだろう。
事件現場までの地図は受付でもらっている。
地図屋のアイラの案内で、俺達はダンジョンを進む。
石畳の単調なダンジョンだ。
天井にはヒカリゴケが密集している。
明かりの魔術はいらなそうだな。
そして、スライム一匹出ない。
「あと角を三つ曲がるから」
アイラが言った。
はいはい。
角を曲がると、向こうからやって来る冒険者パーティーが見えた。
五人組の男達だ。
俺達の方をジロジロ見ている。
特にヴィオラを。
俺達は、アイラとヴィオラと治癒術師の俺、女二人男一人のパーティーだ。
あまり強そうに見えないし、淡い金髪の美少女のヴィオラは、ともかく目立つ。
揉め事が起きなきゃ良いんだが。
いざという時は、雷撃を使うとして、いや、人間相手にまずいよな。
俺はちょっと緊張する。
「こんにちは『蒼炎五鬼』、ダンジョン日和ね!」
アイラが大きな声で挨拶する。
「なんだアイラか。
クソッタレなダンジョン日和だぜ。
冒険者組合に金貨を巻き上げられた」
向こうのパーティーの男の一人が、挨拶を返した。
「あなた達も殺人事件の現場を見に来たの?」
「ということは、お前らはこれから見に行くのか。
血まみれだったぞ。罠も隠し通路も見つからなかった」
彼らも事件現場からの帰り道か。
「一週間たったら、金貨は返してくれるらしいわよ」
「……俺達は、今日の飲み代にしたいんだよ」
「それは、残念ね。
まあ、飲み過ぎないようにってことよ」
「ったく。じゃあな、アイラ。
お前が探しても何も見つからないと思うぞ」
俺達と五人組の男達こと『蒼炎五鬼』は、何事もなくすれ違った。
何事となく、だ。
ふう。
俺は軽く息を吐く。
無駄に緊張したな。
「緊張した? エドモン」
アイラが俺に問いかける。
「少しだけ」
俺は正直に答える。
何事もなかったんだけどさ。
「入り口近くだし、さすがに大丈夫よ。
いざとなれば、私もヴィオラも強いし」
それは知っている。
「アイラさーん、今回はその入り口近くで殺人事件が起きてるんですよォ?
まぁ、エド様は、大船に乗ったつもりでいてください。
何かあれば、ヴィオラがこのメイスで叩き潰します」
ヴィオラが片手でメイスを振り回しながら言う。
持たせてもらったことがあるが、ヴィオラのメイスは、びっくりするほど重い。
「分かった。頼りにしてるよ」
俺は素直に返した。
「そろそろパーティー名を、考えた方が良いかもね。
名前が売れれば、無駄な諍いを避けられるし。
あっと、この十字路を右ね。その次は左よ」
アイラが指示を出す。
そうか、パーティー名か。
格好良いのが良いな!




