第3話 殺人事件とおやつタイム
「で、懸賞金案件だけど、受ける?
私は興味があるんだけど、リーダーが勝手に決めるのもどうかと思って」
アイラは、俺とヴィオラに確認した。
「俺は興味があるよ」
即答する。
ミステリー小説好きとして、見逃せない事件だ。
「エド様とアイラさんがやる気なら、いっしょにやります。
でも、わたしが事件を解決したら、コップに半分ずつ血をくださいね。
約束ですよ」
「分かったよ」
「分かったわ」
俺とアイラは答える。
「ならオッケーでーす。
ヴィオラ、頑張りまァす!」
パーティー結成に当たって、俺とアイラは吸血鬼であるヴィオラに血を渡す契約を結んだ。
一月に一回、量は少し。
でもヴィオラの様子を見るに、ちょっと足りてないんじゃないかな。
それとも、別腹ってやつか?
さて。
組合に行く前にやることがある。
団子を食べること!
仕事の前には腹ごしらえだ。
「まあ、私は、死体一つにいちいち大騒ぎする必要ないと思うんですけどォ」
ヴィオラが言う。
ヴィオラの前には、新しく注文したポーション入りトマトジュースがある。
「何度も言うけど、組合が気にしてるのは、死体よりもマッドハウスが発生してないことよ」
アイラが返す。
アイラの団子は、すでに一串なくなっている。
この店の団子は美味い。
きな粉とタレと芋団子の甘さが絶妙なバランスだ。
アイラが次の串を手に持って、食べずに話し出す。
「まあ、いっしょに潜った容疑者Aは、露骨にあやしいわよね。
でもアリバイがあるのよ」
「ダンジョンですから、隠し通路があるかもしれませんね。
アイラさん、仕事してますかァ?
Aさんは、隠し通路を通って、被害者を◯ったのかもしれませんよォ?」
ヴィオラがアイラを煽る。
「入り口近くなんて、私の持ち場じゃないわよ。
でも、ちゃんと調査はしないとね。
何か見つかるかもしれないし」
「冒険者組合は、真偽判定の台は使ってないのか?」
俺は思いついたことを言った。
真偽判定の台は、冒険者組合が持っている魔術道具だ。
質問について嘘をつけば、分かる。
「容疑者Aは、真偽判定の台には乗ってるそうよ」
アイラが答える。
うーん、そうなのか。
「人間は嘘つきですからね。
心の内をごまかす方法は、いくらでもありまァす」
人間ではないヴィオラが混ぜっ返した。
「組合がどんな質問をしたか分かればね。
教えてくれるといいけど」
そう言うと、アイラは団子をかじった。
「まあ、やっぱり魔物に殺されてるんじゃないですか?
魔物に殺された場合、マッドハウスは発生しません」
ヴィオラ。
「凶器はナイフよ。
入り口近くのダンジョンで、ヒトの道具を扱える魔物は出ないわ」
アイラ。
俺はメモを見直す。
ダンジョンで死体が見つかった。
でも、マッドハウスが発生していない。
死体は、他殺体に《《見える》》ってことだ。
「単純な解決策として、自殺はどうだ?
自殺だとマッドハウスは発生しないんだったよな?」
俺は教科書で読んだ知識を披露する。
「そうよ。
でもダンジョンで自殺って、あまり聞かないわよ」
アイラは団子を食べながら言う。
確かに。
ダンジョンでは、死体はいずれダンジョンに吸収されてしまう。
骨も何も残らない。
誰にも知られず、世界から消えることになる。
自殺向きの場所では、……ないのかもしれない。
でも、脅迫されて、自死を強要されるとかどうだ?
家族を人質に取られるとか。
「他にもさ」
俺は別のの可能性を考えてみる。
「例えば、『マッドハウスが発生した直後に誰かが犯人を突き止めて解除した』なんてどうだろう?
マッドハウスは、皆が気が付かない内に発生して、気が付かない内に解かれてしまった。
どうだろう?」
「それは無理ね。
マッドハウスは大きな魔力が動く事件だから。
一応組合は、マッドハウスの発生を観測しているのよ。
こんな入り口近くで、観測を外れるなんてあり得ない」
アイラが3個目の団子を口に入れてから、言った。
ふーむ。
他にはどんな可能性があるだろう。
テーブルの上には、俺とアイラの団子が一串ずつ残っている。
「だから魔物に殺されたんじゃないですかァ?
ダンジョンなんですからァ」
「凶器はナイフだってば。
まあ、現場を見てみないと始まらないわね。
被害者は胸を刺された吸血鬼やゾンビかもしれないし」
ヴィオラの片方の眉がキュッと上がった。
なんかカチンという音が聞こえた気がする。
「吸血鬼とゾンビは従兄弟でも再従兄弟でもないですから!
赤毛のっぽ女!ブー!」
吸血鬼にとって、ゾンビと同じカテゴリーに入れられるのは、我慢ならないようだ。
「はは、ごめん、ヴィオラ。悪かった。
ま、殺人事件解決には、何といっても現場検証よ!
エドモンが、団子を食べ終わったら出発しましょ!」
アイラがパーティーリーダーの顔で言った。
えっ?
テーブルを見ると、アイラの団子も、ヴィオラのトマトジュースもない。
残ってるのは、俺の団子一串だけだ。
アイラの団子、特に三串め、いつの間に消えたんだよ!
俺はメモを片付けると、残った団子を口に放り込む。
早く食べないと、「いらないなら食べてあげようか」が発動する。
姉と妹に挟まれた俺は知っている。
この団子は俺のモノだ。
そして食べ終えたら、殺人事件が俺を待っているのだ。




