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4.プロトタイプA

何もない宇宙空間でばったり出会うなんて偶然は、それこそ天文学的確率で、運命を感じますよね。


もしくはご都合なんとか


 五万キロメートル以上の空間を隔てた先に、『X』はこちらを向いて遊弋している。

 光学観測による解析の結果では、正面から伺うシルエットはラーグリフに似ているようにも思う。


「どうする……。MAYAはなにか言ってるか?」

「以前お話したことがありますが、ラーグリフの原型とでもいうべき戦闘艦の計画がありました」

「ああ、UN宇宙軍の総旗艦として計画された、ってやつだな」

「現時点で観測できている情報の多くが、その特徴と一致します」


 そう言われると、ぼやけた映像がますますラーグリフに似ている気がして、レオンは改めて正面に遊弋する艦艇のホログラムを睨みつけた。

「それじゃ、ヤツはUN宇宙軍なのか?」

「いいえ。ランツフォートが全く知らないという事は、あり得ません」


 まさかローレンスがレオンをからかっている、という事もないだろう。

「ダミーじゃないよな? なら何れにせよまずは敵を知ることだな。総旗艦ってのはどんな奴?」


 存在は確認されていませんでしたが、と断ってからアリスはMAYAの知る情報をかいつまんでレオンに伝えた。

「総旗艦は計画だけで、艦名もありません……、の筈でしたが」

 UNによる人類域の統制を強化しようと立案された宇宙軍強化案の一部、象徴としての意味合いを持たせて計画は策定されたが、G7のうちの穏健派の賛同を得られず実行には移されなかった筈のものだ。


 その後、全銀河探査計画がG7全体からの賛同を得て立ち上がった際に、主に期間短縮目的から総旗艦のプランを流用する形で現在のラーグリフが建造された。

 つまり、ラーグリフの原型と言える。


「プロミオンのような搭載艇は持たず、資材積載用のコンテナもありませんので船体規模はその分やや小さいのですが、リアクタの合計出力に違いはありませんし、船体が小さい分、機動性や防御性能はむしろラーグリフを上回ると考えられます」

 過去の設計案通りに建造されているならば、という注釈付きで。


「うーん……」

 そこまで聞いても、今どう動くべきかのヒントには乏しい。憮然としてレオンは腕を組んだ。

「攻撃能力、つまりエネルギー投射力や有効射程距離などはラーグリフと同等と思います」

「まあ、なんというか、戦いたくはないな」


 真っ先に考えたのは、いかにしてこの場をやり過ごすか。

 ある程度観測データが揃ったら、さっさとこの場を離脱して情報をローレンスに伝えよう。そもそも、『X』はラーグリフを認識して、何かしらの動きを起こすのか?


 と思った矢先に、先方からのアプローチがあった。

 当然、先方もラーグリフの存在を観測している。それどころか、ずっと前から補足していて、ラーグリフの針路前方へ先回りした可能性すらある。

「『X』から通信です」

「通信? 内容は?」


 いきなりこちらに対して攻撃を仕掛けて来たりはしないようだ。そこはローレンスの言ったとおりだ。

「指揮下へ収まるように、それから、保持する情報を提供せよ、との指令を頂きました」

「指令? ヤツから? 随分と偉そうに」

 レオンは腕組みしたまま、メインスクリーンに映る少しぼやけた船影を睨みつけた。


「指揮命令系統でラーグリフの上位に位置するものは、計画でしか存在しないはずでした」

 それがいま、現実に現れた。

「拒否はありません。特権管理者であるレオンの承認を待つだけです」

「なんだと? ……OKボタンしかない、ってことか」


「このふたつの指令に関しては、そうです。イメージ化しておきますね」

 目を閉じたレオンの脳裏に、OKボタンしかないダイアログボックスが明滅する。

 ……。

 シャットダウンしたくなる。そうもいかないが。


「えーと……」

 ひとつ瞬きして、レオンは意味ありげな笑顔でアリスを見た。

「じゃあ、押さずにそのまま、ほったらかしにする」

「あー……、そうですね。そうしましょう」


 タスクのうちの一つでは常に回答を促され続けるのだろうけど、いつまでも待たせておけばいいさ。

「それよりも、せっかく姿を現してくれたんだから、遠慮なく観察してやろうぜ」

 まだ距離があるのをいいことに、レオンは観測機の射出をアリスに指示した。

 今のうちに、できるだけ情報を集めておこう。


 ◆


 顎ほどの高さに髪を揃え、シンプルな貫頭衣を身に着けた女の子が、大きなスクリーンを見上げていた。

 そこに映るのは、0.1光年ほどの距離からの恒星にぼんやり照らされた宇宙船、ラーグリフ。

「このアパラジータからの指令に応えぬまま次なる動きを行うとは、あれには人が乗り指図しているということか」


 素足にサンダル履きの女の子が声を張ると、どこからともなく同じ声が応える。

「やはり、ラーグリフは奪われていた。何者であろうか」

 女の子は無表情のまま、自分と同じ声と会話を続ける。


「ランツフォートの手のものである可能性が高かろう」

「クレイオ・ランツフォートに連なるもの、そして、惑星ノア、か」

「銀河探査計画が抹消されているのを良いことに、探査情報を独り占めしようと企んだか」

「許されませんね……」

 女の子の表情は変わらないが、声のトーンだけはぐっと低くなった。


 こちらの指示に従わないラーグリフに対して、ドクター・クレイオ・ランツフォートの所在を尋ねた。すると、すぐさま若い男の声で返答があった。それは速やかに、レオン・ウィリアムズというランツフォート家に雇用された者であることが判明する。

 反対にこちらが何者であるかを尋ねてきたが、答える必要などはもちろんない。


「たしかに今、ラーグリフに人が乗り込んで其処にいるのが確認できた」

「つまり、いま惑星ノアにラーグリフはいない、そして尚且つしばらくは不在、ということになる」

「ならばまずは、かの”まがい物”の星の処理を先に進めよう」

 やはり顎ほどの高さに髪を揃え、シンプルな貫頭衣を纏う少女がほかに二人、計三人がそれぞれに声を上げる。


 髪型や服装だけでなく、体格も顔立ちも、見分けられぬほど三人はよく似ている。

「ラーグリフはいずれ手に入れれば良いこと」

「では、我らはアルラト星系へ」

「そのように」


自分に瓜二つな奴にばったり出会ったとき、自分に瓜二つな奴に出会った、って認識できるのでしょうかね。

自信ないです。


そんな実験、出来そうにないですよね。


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