表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/33

31.ドクタークレイオ


ケラウノス・システムを応用すれば、金も含め、重金属の生成も出来そうな気がするんですよね。

より重い未知の金属には様々に有用な性質があって、ミスリル、とかアダマンタイトとか命名されたり、なんてことにならないかなあ。


 ラーグリフの衝突とそれに伴う大きな爆発は、セレーネ全体を震わすほどの衝撃を与えた。


 フェイザーシステムを動かすために設計されたセレーネは、百四十四機のザッパーとそれを稼働するバニシングリアクタやジェネレータ、それらを最適配置に懸架するフレームからなる構造がメインである。 元から近接戦闘を想定しておらず、体積のより小さいウーガダールよりも質量は小さく、堅牢性に関しては遠く及ばない。


 そこへ想定にない衝撃を受けて大きな振動がセレーネ内の構造骨格を駆け巡り、レオンが期待した程度にはフェイザーシステムの動きを妨げた。そこへフェイントを挟んだケラウノスの第四射が重なり、セレーネは満足に対抗措置を励起できないままグラビティブラストの洗礼を受けることとなった。


 フェイントの為にエネルギーは幾らか減衰し、なおかつ超高温のトルネードはやや拡散したが、それが球形の構造体をすっぽりと覆うように襲い掛かると、ウーガダールに向いた表層が一瞬で赤熱して爆発的に反応した。

 多くの外装板が焼け爛れ或いは蒸散した中で、フェイントの副作用から中央部へのダメージが緩和されて黒々と焦げ残り、その様はさながら、赤黒く血走る眼のようにも見えた。


 セレーネはフェイザーを照射できず、フェイントに対する反応もなかった。


 崩壊した表層の赤熱が徐々に収まりつつも各所では新たな爆発が起こり、そこかしこから噴き出す煤煙はちっとも収まらない。ラーグリフの接触による衝撃のままに微動する様からは、もはやフェイザーの稼働は不可能ではないかと思えたが。

「念のため、ケラウノスの射線はセレーネを追尾して合わせておけ」


 溢れ出る多大なノイズと表層の高温により、セレーネの観察は今現在非常に困難だが、依然として警戒を緩めるわけにはいかない。

「ヤツの右側面へ回り込め。ゆっくりでいい」

 ラーグリフが衝突した側へと回り込もうとするウーガダールに対し、セレーネはどう動くか。その動き次第でローレンスの取り得るオプションは変わってくる。

「次の準備に取り掛かれるか?」


 第四射の際には、ケラウノスにも新たな不具合が発生していた。いや、無理を押してケラウノスの連射を行うウーガダールの全体に、大小さまざまなエラーや破損が露呈した。連続する高負荷の為にエネルギー経路やキャパシタに、はたまた至近で戦艦ライカードが爆散した為に前方を観測する各種センサーに、と細かな損傷が発生していた。


 強烈な重力が発生することによる各所への応力もあり、連続発射につれてリスクは確実に高まる。それでも、たとえウーガダールを犠牲にすることになるとしても、フェイザーは阻止しなければならぬ。可能なら、次こそは小細工なしに全力で撃ち込みたいところだ。


 ウーガ―ダールが戦術的位置の改善に動き始めると、ようやく赤熱の収まりつつあるセレーネからは、突如として平文による通信がもたらされた。

「先方は、ドクタークレイオと名乗っていますが……」

「クレイオ博士から? 下手ななりすまし、などという事は……恐らく、ないだろうな」


 クレイオ博士がラーグリフに深く関わる人物で、尚且つ故人であることをローレンスも承知している。ラーグリフに残されたクレイオ博士の遺志により様々な情報を得ていることもあり、突撃を敢行したのは或いはこの為か、とも勘ぐった。


 そのセレーネからの通信において、ドクタークレイオは、即時の戦闘停止を伝達してきた。フェイザーは稼働を停止し、セレーネは武装の解除に応じる旨を、一方的に伝えてきた。それでもはや、この戦闘は終了する、そう確信している言葉だった。


 観測される種々のノイズは急速に収まり、熱量の発散もまた小さくなるのが確認できた。ウーガ―ダールの動きに合わせることもなく、セレーネはただそこにいる。

「ラーグリフが、やってくれたか……」

 瞑目し、ローレンスはひとしきりヘッドレストに頭を預けて小さく息を吐いた。


「第五射は中止せよ。ケラウノス停止。ウーガダールは警戒態勢に移行する。各部の状況の確認を急げ」

 ローレンスから明確な勝鬨はなかったが、その指令の意味するところは、この作戦に関わった者に速やかに浸透していった。

 言葉少ななローレンスに合わせて静かなCICとは対照的に、ウーガダール各所あるいは各艦艇内では作戦の成功に沸き立つ声にあふれた。まだ警戒態勢のはずであるが、長い緊張の反動で乗組員たちはお互いを称え合い、憚らずに歓声を上げた。



 セレーネは与えられたダメージのままに、緩やかに回転しながら漂流しはじめた。


 奥に収まるアパラジータはなお健在であろうが、しかしもはや惑星ノアに対して危害を加える選択肢は存在せず、そもそもセレーネは通常航行にも支障をきたすほどに損傷している。アパラジータがセレーネから分離するには破損への対処が必須であろうから、ノルンの行動もおのずとそれに縛られることになるのだろう。


 §


 実質的に戦闘は終結し、ローレンスがCICから航行艦橋へと移ると、そこには軍用艦艇に似合わない人物が待っていた。

「ラリー兄様。」

「お、おう」


 ノーマ・フオンをデルフィから連行したメルファリアは、そのままウーガダールに居座ることにしたのだった。ローレンスの説得を頑として聞き入れず、自分だけが安全な領域に退避することを拒んだ。そして、戦闘態勢が解除された今、メルファリアは総司令官ローレンスの前に立ちはだかった。


「まずは戦勝おめでとうございます。ノアをお救い頂いたこと感謝いたします」

 抑揚のない、喜ばしさをあまり感じない言い方だった。

「ああ」

「……それで?」

 メルファリアの声のトーンが一段と下がる。

「それで、とは?」

「レオンは、どちらに?」

「……」



 確認中だ。

 なんとなく、メルファリアが睨んでいるような気がする。

 レオンを犠牲にしたのではないか、そんな指令を下したのではないか、と疑っているのかもしれん。


 実際そんな指示は出していないし、指示を出すことも出来なかった訳だが、言い訳は通らない。ローレンスはこの戦いの総指揮官であり、戦闘の結果のあらゆる責任から逃れることはできない。


「戦闘結果と損害、その他諸々について、状況は現在確認中だ。ついて来い」

 ローレンスは珍しくも強面を崩さずに野太い声のままメルファリアに告げ、通路を歩み始めた。

「兄様。……わかりました」

 ローレンスの背中に視線を刺しながら、メルファリアはしっかりした足取りで後に従う。

 そしてその後を、随分と不安げな顔でリサがついて行った。


 §


 時間の経過と共に情報は集約、解析され、ラーグリフがセレーネに接触した際の相対速度は、秒速千キロメートルを超えていたことが分かった。

 光速の0.3%程度と言ったほうが、その速さの感覚をつかみ易いかもしれない。


 ノイズまみれとはいえ、その際の大きな爆発からは、接触どころか衝突或いは激突と言うのが正しい。隠すのも困難であるから、ローレンスは観測結果そのものの動画をメルファリアに見せた。

「こ、これは、……これでは……」

 胸元で両手を握り合わせるメルファリアに、隣で同じ映像を見たリサは狼狽えて声を掛けることが出来ずにいた。


「依然として調査中だ。ケラウノスの発射前後はノイズばかりが多い」

 この時点では、アパラジータからの指令でラーグリフの戦術システムが停止させられていたことは判明していた。ラーグリフを動かすならば遠隔操作という訳にはいかず、直接乗り込んで操船していたであろう。

「現時点では、ラーグリフともプロミオンとも連絡が取れない。今はまだ、何も言えん」


 ローレンスが無茶な指令を出したわけでないことが明らかになっても、それは慰めにならない。ゆっくりと近づくウーガダールには、その目前にラーグリフが開けた大穴が、静かに口を開けているのがようやく見えてきた。



数千年後の人工知能がどうなっているのか、想像も難しいんですが、情報に対して貪欲であることだけは間違いないと思うんですよね。

ノルンとクレイオ博士、天才は天才を知る、ってことで


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ