27.重力の渦(3)
ケラウノスは高エネルギーの粒子の流れなので、流れを乱すのが対抗策の一つとなるでしょう。
ガンマ線の場合は、電磁波そのものですから、相殺する……
のには結局フェイザーが必要デスね
直撃ではなくとも、セレーネの表層にケラウノスの飛沫は到達している。そこここに焦げ跡を作り、破損したセンサーもある。
「グラビティブラスターを用意していたとはな」
「ランツフォートは様々に企んでいたようだ」
「ラーグリフによる銀河系の探査結果があればこそ、かもしれぬ」
異文明に関する何らかの情報を掴んでいるからこそ、グラビティブラスターなんぞを準備するのではないかとも推察する。セレーネの中心にあるアパラジータの中枢部で、同じ容姿の女の子が三人、同じ声で会話が進む。
ウーガダールの大出力兵器、ケラウノスの存在を予想外としつつも慌てることなく、難なく対処して見せたセレーネに目立つ綻びは見当たらない。しかし、セレーネに迫る大きさの大規模構造体が、今まさに障害になろうとしているのは明らかだ。ランツフォートの側があくまで抗うというなら、その為に犠牲が増えるとしても止むを得ない。
「ウーガダールと言ったな。あれを、排除する」
「一連の行動を完遂するためには、ここで取り除く必要がある」
「ならば多少の損害は許容しよう」
フェイザーシステムを構成する高出力ガンマ線照射装置は百四十四機すべてが正常に起動している。それらを動かすためのエネルギー源であるバニシングリアクタ群にも何ら問題はない。数光年先の惑星を「浄化」するにはエネルギーのチャージにある程度の時間を要するが、目前に迫る円筒形を消去する程度なら、さほどの事はない。
タイミングを合わせることで、グラビティブラスターに対抗できることは予測済みであり、つい先程実践できた。しかし相撃ちを続けては時間を稼ぎたいランツフォートの思うつぼであり、やはり戦闘の主導権を握る必要がある。
「グラビティブラスターを適切に相殺するには、フェイザーの繊細な制御が必要だ」
「目障りなラーグリフには、ひとまず黙ってもらうのが良かろう」
「これもある意味、力の差であろうよ。しばらくの間、ラーグリフにはおとなしくしてもらう」
目配せのあと、女の子の一人がコンソールへと手を伸ばした。
◆
目を閉じて、脳裏に映る戦況報告を追っていたレオンは、ラーグリフからセレーネへの電子戦の状況が、突然に途切れて暗転した。
「どうした? データリンクが切れちまったのか?」
しかしアリスからの返答がないので、訝しんでゆっくりと目を開けると、アリスはちゃんとそこに居た。そして、無表情のままレオンに向き直ってこう告げた。
「アパラジータに止められました」
「止められた? 何を?」
更に少しだけ間があって、珍しく困った顔をしてアリスが呟いた。
「ラーグリフの戦術管制システムを、です」
「どういうこと?」
「ラーグリフのあらゆる兵装を統括管理しているシステムを、使用できない状態です。このままでは電子戦だけでなくて、ビームもミサイルも撃てません。上位からの指令って、ここまで止めることが出来るんですね」
いまのラーグリフは、制御を失い漂流しているに等しい、と。
「って、感心してる場合じゃないぞ?」
アリスがさほど深刻な様子でもないので、何か対策があるのかと期待したが、相変わらずの澄ました声で告げられたのは、さらなる制約だった。
「兵装だけでなくて、戦闘態勢における立体空間機動も同じシステムなのですよね、当然ながら」
「えーと、じゃあ、動くことも出来ないって事?」
「概ね、そういう事になりますね。前進後退程度はできても、マニュアル操作での戦闘機動は現実的ではありません」
「それは、そーだろうな……」
元々外洋航行船の航海士であったレオンには、わずかながらマニュアル操船の経験もある。だからこそ、システムアシストの無い、ヒトの感覚のみでの空間戦闘機動など、まるで現実的でないことは良くわかる。
「それに、各兵装はそれぞれ設定画面から一つ一つパラメータを指定すれば撃つことは出来ますが、それで戦果を得られるとは到底思えません」
高度に自動化されているからこそ、システムソフトウェアの停止は致命的だ。
セレーネのホログラム、ウーガダールを含めた位置関係図、ラーグリフのステータス表示、それらの間をレオンの視線がせわしなく行ったり来たり。
ウーガダールの戦略兵器、グラビティブラスターとも言われるケラウノスを、セレーネは見事に防いで見せた。こうなると、セレーネの擁する超大出力ガンマ線発射装置フェイザーが何時発動することか、気が気ではない。
「くそっ、どうする? 何ができる?」
レオンのバイオデータテレメトリーの数値が、さすがに乱高下しているのをアリスも認識できた。一歩近づき、やおら微笑みながらアリスは両手を優しく広げた。
「さあ、レオン。いつでもどうぞ」
「ん? ……な、なにが?」
「レオンが取り乱す機会なんて、そうありませんから。私が優しく抱きしめてあげます」
「え……」
「お姉ちゃんが頭をポンポンしてあげますよ。きっと落ち着きます」
おばあちゃんとは言わないところに、こだわりがあるようだった。
そして、頭をポンと叩くことにも、大変こだわりがある様子だった。
「……」
レオンはアリスに身を委ねることなく、そのまままずは目を閉じた。そして深呼吸。
「さあ。……おや、落ち着いてきましたね」
あからさまに残念そうに、アリスが広げた両手を腰にもどして大げさにため息をつく。
「まずは落ち着かないと、だな。ありがと」
「ええ、そうです。でもその前に、せっかくの機会ですから、狼狽えて取り乱してみませんか?」
「先に言われちゃうとな~、そうもいかない」
「ふうん、そうですか」
アリスのマイペースっぷりが今はありがたい。
落ち着きを取り戻し、そして、やるべきことを決めた。
レオンはゆっくりと、少し不満そうな澄まし顔に手を伸ばして頬を撫でた。
「よし、んじゃ行くか!」
「どちらへ?」
「ラーグリフのブリッジへ!」
§
ランツフォート軍総司令部である機動要塞ウーガダールの、本来の戦闘指揮所には、今は誰もいない。誰もいないが、すべてのシステムはいま全力で稼働している。オペレータは皆それぞれあてがわれた艦艇に乗り込み、コンソールをリンクして、或いはヘッドアップディスプレイとモーションインターフェースでそれぞれのタスクをこなしている。
それらとは別に、ウーガダール内部にて様々物理的な作業を行う儀体やアンドロイドもいる。初の実戦なうえにイレギュラーな対応ばかりだが、既に一度エルブリカ近郊へと出撃した経験がなにかと役に立った。
その上で、いざとなればウーガダールを犠牲にして人的被害を最小限にとどめようというローレンスのやり方に、将兵たちの士気はなんとか維持されていた。
恐怖心が全くないとは言えないが。
計算上はガンマ線の照射が四秒までなら、ほぼ全員が生き残れると解析している。フェイザーからウーガダールを狙うその射線の延長上に人類域の可住惑星をもつ星系は幾つかあり、ノルンのこれまでの行動履歴からフェイザーの全力照射は行われない、との推測でもある。
それに、全力での照射には準備のために多くの時間が必要となるはずだ。
「強力すぎる兵器ってのは使い方が難しいのさ。途方もないその強さが、時には制約になる」
そう自分に言い聞かせるローレンスも、不安がないわけではない。人類の進歩発展を願うノルンが何故ノアの初期化を望むか、そこのところをうまく理解できていなかったからだ。
「とはいえ、俺にできる事はそう多くはないが。やれることをやるさ」
ケラウノスの第三射は、定格のおよそ九十四パーセントでの発射となる事が報告された。直撃すれば、直径八十キロメートルほどもあるセレーネであろうと、それを崩壊せしめるほどのダメージを与え得る。致命傷を与えてノルンを破壊するのは避けたかったが、自らを守るために手加減をしている余裕はなさそうだ。
不気味に佇むセレーネには、フェイザーを稼働する予兆が第二射時と同様に現れているが、次の発射までのインターバルでは確定的にケラウノスが短く、そこに勝機があると見込んでいる。
「準備が整い次第、自動的に発射シークエンスへ移行する。各自備えよ」
ローレンスの目の前のコンソール上では次々に表示が変遷し、承認キーが現れると、伝えた通り彼は無言のままに指を滑らせた。
三度、ウーガダールの中央部に桁外れに大きな重力場が俄かに出現し、それは凄まじいエネルギーを伴う奔流と成ってセレーネを狙い、そしてこれを瞬く間に覆い尽くしたかに見えた。
高エネルギー粒子の竜巻が今度こそは球形の大規模構造体に届き、爆発反応を広げて恒星コロナの如く揺らめいた。
ラーグリフにも、船外を目視で見渡せる航行艦橋があります。
航空機ってのは基本的に前にしか進まないから前方に操縦席がありますが、宇宙船は様々な方向に動けるので船体中央に近いところに艦橋があった方が良いです。
そして船底には第三艦橋が?




