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28.銀河の簒奪者


ケラウノスに供給される質量とは、アルゴンです。

常温なら不活性のガスですが、宇宙空間で熱を失うと固体になります。

どうせ潮汐崩壊してプラズマ化するのでなんでも良いのですが、地球の大気には1%くらい含まれるようです。


 例によって盛大に電磁波障害が発生し、ウーガダールからセレーネが観測できた時にはもう、黒闇を怪しく照らしたフレアは消し散り、溶け焦げた構造体が見えてきた。それでも幾つか炎はまだ燻り、煤煙が猛然と吐き出されている箇所もある。


「やったか。……いや、あの姿は? 」

 ようやく映し出された光学映像に、ローレンスのみならず戦闘指揮所の面々は目を奪われた。セレーネは、ウーガダールからみて、まるでドーナツのように外周のみが黒く焼け爛れていた。言い方を変えるならば、比較して中央部分にはほとんど損傷が見られない。

「ばかな! 中央部こそダメージが大きい筈ではないのか!」


 ケラウノス・システムが、おおむね正常に稼働していることは速やかに確認された。システムは目論見通りに巨大なエネルギーを叩きつけたが、一方で、セレーネが当初のプランからはあり得ない動きをしていることが示唆された。


 恐らく、セレーネは計百四十四機あるザッパーをそれぞれ個別に、或いは幾つかのグループに分けて制御している。これは本来のプランにはなかった機構であり、ケラウノスの第三射に対して、ザッパー群の一部分だけを稼働して相撃ちを試みたものと推察された。


 そして、その一部以外のザッパーは、今現在も発射に向けて稼働状態を継続している。フェイザーシステムは今まさに、ある程度に出力を減じた状態ではあるものの、ウーガダールに狙いを定めて発射されようとしている。


「ケラウノス第四射の準備はそのまま続行せよ。各艦は前方対ビームシールドを最大出力で展開急げ! ドックが損傷しても構わん。各員は、あてがわれたシェルタールームがあれば、そこへ退避せよ」

 セレーネは最小限の出力で一部のザッパーのみを使用して、ケラウノスの第三射を弾いた。それはおそらく、ケラウノスの次の発射の前にフェイザーを撃つための、いわば時間差攻撃だ。


「外周を多少は破壊できたようだが、フェイザーも、アパラジータも健在であろうな」

 ローレンスは苦々しく唇を嚙み、セレーネに対して大型対物ミサイルの発射を指令した。それらは第二宇宙速度まで加速できるとはいえ、それでもセレーネに到達するには遠すぎて、この戦いにおける攻撃の手段にはならない。


 射線上のどこかで起爆させ、電磁波の攪乱拡散を促すことを狙うものだが、フェイザーほどの大出力に対して、どれだけの効果があるのかは未知数としか言いようがない。

「我らの方が小回りが利く分だけ有利と思っていたがな、そうでもない、か」

 敵フェイザーが改良されている事に小さく舌打ちして、ローレンスは考える。


 ノルンの意図は明白だ。

 ケラウノスの第四射の前にフェイザーを撃つ。


 ケラウノスはセレーネに対して効果があることを如実に示したが、だからこそノルンは準備段階の途中からでも相撃ちを狙ってきた。

 なればこそ、これからケラウノスの第四射までのインターバルの間に、フェイザーは発射されるだろう。それも、こちらの発射のその直前に先んじて、タイミングを見計らったうえで。


「ぬう……っ」

 出来る限りの対策を講じたこのウーガ―ダールでも、崩壊の浸食を抑えられるのは精々十秒といったところか。実体のないなにかに、首をじわりと絞められるようで慄然とする。


 二射目、三射目への反応から察するに、ケラウノス発射のタイミングは見切られていると解するべきだ。ならば、ウーガ―ダールは先に攻撃を受けて無力化、或いは消滅ともなり得る。多くの人命を危険に晒すことを考えれば、離脱も考えねばならない。


「惑星ノアを諦める、のは身を切る辛さだが、それだけで済むのかどうかも分からん……」

 似合わない小さな声でぼそぼそと呟くと、じっと眼前のコンソールを睨めつけた。

「このまま、撃てるか……?」

 ローレンスは珍しく逡巡し、ケラウノス第四射の発射態勢はまだ整わない。


 ◆


 セレーネの中枢、アパラジータの中央指揮管制室では同じ容姿の三人が無表情のまま向き合っていた。

「例のブラスターの相殺を試みたが、完全ではなかった」

「思いのほか外縁部は被害を被ったようだ」

「ウーガダールの戦力評価は補正しておく。……次はないが」


 ケラウノスがほぼ全力で放ったグラビティブラスターを防いでなお、淡々とフェイザーの準備は進んでいく。一方で、ドーナツ状に焼け爛れた損傷個所のダメージコントロールはおざなりにされた。表層の被害は予想より幾分大きかったが、ウーガダールに対峙する正面方向のセンサーや艤装には、大きな問題がなかったからだ。


「エネルギーチャージは順調だが、稼働機数を減じている以上、共振、収束のために可能な限りは出力を上げたい」

「ゾーン制御はうまく機能している。次のブラスターの兆候を捉え次第に、先制する」

()()も人類の未来を乱す因子だ。確実に消しておくのが良い」


 現状、全体としては問題ない、そう認識して彼女たちはいよいよウーガダールを葬るための仕上げにかかる。数か所で発生していた火災は程なく鎮められ、幾つかの隔壁が閉じられ遮断された。放棄されたブロックもあるが、それらはいずれも些細な案件だ。


 目の前の障害物を速やかに片付けて、次には惑星ノアの処理を行う。

 そうしてノルンの想い描く、人類のより良い未来を補完する。し続ける。

「第二の地球を標榜するだなんて、おこがましいことです。できるだけ元の状態に戻して差し上げる」

「これは、いわば大いなる宇宙の意志であり、我らはその代行者でしかありません」

「多様に異なる幾つもの文明との共存こそが、人類の目指す道なのです」


 これまでノルンが観測した範囲に限っても、異文明の存在を仄めかす傍証は幾つもあった。一方で、惑星ノアは、今後異文明が興る可能性を示す最たるものと思われた。

「人類以外を淘汰し、銀河の簒奪者たらんとすることは許されません。そこには、人類の未来はないのです」

「なにごとも、自然のままに」


 敵のインターバルの間に出来るだけエネルギーをチャージし、あとはタイミングを見計らって撃ち出す。ウーガダールの防護力は未知数ではあるが、充分にチャージの時間を確保できたなら、これも問題にならない。

 もはやチェックメイトだ。


 あとはルーチンの如く、作業を消化するのみと思われたが。

「これは? ……ラーグリフによる探査記録なのか」

「新たな指示は下していない。ラーグリフから、自主的にデータの提供を開始したようだ」

「何を企図しているのか? 分析が必要か」


 もう随分前に発した情報提供の指示に、今になって反応があった。

 今頃になって、このタイミングで、何が目的なのかは明確でない。

「何も出来ずに、もがいているのでもあろう」

「これは……、ラーグリフが移動している。どういうことか」

「送られてくるデータストリームが、非常に大きい。真意を測る必要がある」


 おもむろに、三人は目前のコンソールに手を伸ばす。アパラジータからの指令で戦術管制システムを強制的に停止せしめたラーグリフが、いつの間にか動き出していた。


 これまでも度々ノルンの予測を覆してきた攪乱因子が、またぞろ蠢いた。



銀河の簒奪者、ノルンは人類をそのような存在とならぬよう導こうとしています。

ある意味、確信犯です。

歴史的に、大英雄や大罪人とはそのような者が多かったりするような


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