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26.重力の渦(2)


ビックバンは138億年前、とまで言っていても、この宇宙が有限かどうかもまだ不明なんですよね。

ただ、この世界は三次元空間に収まらないので、三次元空間しか認識できない人類にとっては無限であることには変わりないです。

「俺に見える範囲は有限だ」と言ったところで詮無いような


 セレーネの動きは逐一ローレンスに報告され、その戦闘態勢の変化は伝わっている。とはいえ、微調整を経ないままでのケラウノスの第二射にはリスクが付きまとう。

「レオンには、今以上に近づかないよう伝えておけ。偏芯の調整は現作業までで一旦切り上げる」


 不具合を起こした経路は一旦遮断し、有効な経路によるバランスの再調整のみを指示する。エネルギーのチャージは順調だ。

「供給質量を規定値に戻して、第二射準備」


 ブラックホールブラスターとも呼ばれるケラウノス・システムは、ウーガダール建造当時から秘匿され試運転すら行われていなかった。ローレンス自身も、保険というのは使われない方が良い、と思っていたものだが、こうしていざ使わなければならない機会に至り、準備不足を痛感せざるを得ない。


 技術開発の具体化としてシステムの構築はなされたが、使用機会の想定予測は行われなかった。グラハム長兄などは、噂だけ流しておけば効果は充分、動くかどうかも問題ではない、とまで言っていたくらいだ。

「兄貴ですら実際に使うとは思わなかったわけだが、選択肢があるだけまだマシと思って、俺がなんとかせねばな」


 セレーネが方向転換を終え、こちらに狙いを定めたであろう、と報告がなされた。フェイザーを撃たれればどうなるか、想定される破滅的な被害も良く理解しているが、それでも司令官たるローレンスが動揺など見せるわけにはいかない。


 対電磁波防護を幾重にも張り巡らすこのウーガダールとて、フェイザーの計画上の最大出力で直撃されれば消えて無くなるほかない。要塞同士を隔てる三十万キロメートルとは、フェイザーの使途からすれば至近距離であって、発した電磁波が減衰する暇などないと言って良い。


 むしろ至近にすぎて1パーセク先の惑星を狙うのと同じとはいかず、別プロファイルに従うことになろう。超高出力ガンマ線照射装置であるフェイザーシステムの制御は、艦隊総旗艦の火器管制能力を流用する設計であったが、懐内にあるアパラジータがその任にあるとみて間違いないだろう。


「時間的な余裕はない。現状で第二射に移行する」

 セレーネからの雑ノイズ、及び感知される熱量の増大が報告された。

 既知の分析情報からはまだいくらかは猶予があるが、それを鵜呑みにするのは危険すぎる。ケラウノスはおよそ七十五パーセントの出力で、第二射は発射シークエンスに移行した。


 第一射の結果がフィードバックされ、重力ポイントの具現時間、マテリアル供給の微調整等が行われるが、その効果は実際の第二射でもって確認せざるを得ない。


 ランツフォート軍の総司令部を兼ねるウーガダールには本部要員として相当数の人員が詰めているが、いまはセレーネに相対するにあたり、全員がウーガダール内に係留した戦闘艦艇に分乗してのオペレーションを実施している。


 それは少しでも電磁波兵器からの影響を軽減するため。

 全力で撃たれれば、そういった言わば小手先の対応で防ぎきれないのは明らかだが、光学観測領域まで接近しての戦闘となれば、出力を抑えて対応してくるであろうと予想するからだ。


 平常時に配置されている非戦闘員たちは、急遽輸送船などを使って一旦退避してもらった。ウーガダールが動き出す迄に掛かった時間の大部分は、そういったところだ。それでもなお多くの人員が総司令部にあり、それらの運命はやはりローレンスの判断に委ねられる事になる。


「発射シークエンス」

 ローレンスが目の前に表示された承認キーを指でなぞり、それにつれてキー表示が消えると、一射目よりも少しだけ早く最終手順が消化されていった。

「ケラウノス発射」

 ウーガダールの中心部に再び超重力ポイントが具現化し、それによって形成されたエルゴ領域での潮汐崩壊が、渦を巻いて煌めくジェットを作り出す。


 多くが注視する先で、眩い粒子の奔流が虚空を裂いてセレーネへと延びる。


 一射目よりも密度を高めて激しく輝くトルネードは、セレーネによるフェイザーシステムの発動に先んじた。光の渦が、標的となった直径八十キロメートルの大規模構造体を覆い隠すかに見え、そしてひと際眩く膨らんで、強烈な時空振動波と共に散華した。


 §


 レオンは、ハレーションの後にノイズばかりになった映像から目が離せなかった。

「ど、どうなった?」

「これは……、大半はセレーネに届いていませんね。直前で劇的に反応しています」

 アリスの口から洩れたのはMAYAの見解だ。


 側方から観察していたラーグリフは、余波に船体を揺さぶられ、可視光領域のセンサーが幾つかオーバーフローした。周囲には荒れ狂う電磁波が乱反射して観測を困難にさせるが、断片的な情報からもセレーネが健在であることは確認できた。


「フェイザーシステムを精密に制御して、ジェットに当ててきたようです。不可能ではありませんが、まるで神業ですね」

「感心してる場合じゃない……けど」


 超高速のジェットにガンマ線をぶつけて反応させ、直撃を防いだ、ということか。重力波などからケラウノス発射の兆候をつかみ易いとはいえ、フェイザーを以て迎撃に使いまわすとは。

「侮れないな、ノルン」

 AIが「まるで神業」とかいう感想を述べるのに違和感を感じないでもないが、レオンがそもそもノルンを侮るなんてのも不相応に過ぎるだろう。


 ケラウノスから放たれた超高速のジェットは、セレーネの直前で迎撃された。フェイザーからの高出力ガンマ線を浴びたジェットはその場で爆発的に反応し、過密になったエネルギーはジェットそのものを吹き飛ばし、時空振動をも励起した。その瞬間には、局所的なインフレーションを発生させていた可能性すらある。


 まさに神業か。


 §


 期待に背いてセレーネは健在で、遠目には目立つほどのダメージを確認できなかった。帰趨を見守っていたオペレータが驚きを声に出すと、アーク・ネビュラスの指揮所にネガティブな反応が広がった。

 この状況で効果の期待できる、ケラウノス以上の攻撃手段を、ランツフォート軍は持たない。いや、ランツフォート軍でなくとも、おおよそ持ち得ないのではないか。


「相殺して防がれたか。だがな、打撃を与えることが出来るからこそ、奴も防ごうとするのだ。それに、これで少しだけ時間ができた」

 ようやく晴れてきた視界の先に浮かぶ大きな球形を睨み、ローレンスは味方の動揺を押さえて指示を下した。フェイザーの次射までは時間がある。


「ようし次だ、第三射に取り掛かれ! 大至急だぞ!」

 メルファリアからの要請もあり、ノルンを消すことなくフェイザーシステムを無力化できればと考えていたが、いよいよもって手加減をしている場合ではない。

「次は現状での最大出力で撃つ。準備を急げ」


 いまだウーガ―ダールにはなんらのダメージもなく、戦闘を継続するにあたり問題はない。セレーネの無力化が出来なければ撃破することもやむを得ないとはいえ、今この時点で「諦める」などという選択肢はないのだ。



要塞対要塞、まだ続きます

ラーグリフの出番は果たして


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