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25.重力の渦


デススターって、あの凹みが良いですよね。

突然ですが。

へこみの大きさとそれから深さと、素晴らしいバランスです。


「特異な重力波を感知しました。セレーネではありません」

「別の、それなりの質量が動いたってことだな」

 同時にセレーネでも感知したであろうとは、各所で熱放射がにわかに増大したことから容易に読み取れた。


かのメガストラクチャーにステルス能力は求められていないから、動きの予兆などは分かりやすい。元々、圧倒的なアウトレンジから敵を殲滅するためのモノで、そもそも敵勢力の近傍に展開することを想定していないのだ。


 セレーネはその巨大な躯体各所に配してある大小の砲座を順次起動して、エネルギーチャージを開始した。現時点でラーグリフは十万キロメートル以上離れており、それら砲口がラーグリフに向くとは考えにくい。高出力レーザーの集中収束も、実効性のある範囲からは外れるだろう。


 そして、iフライトアウトしてきた「それなりの質量」は、ラーグリフとは違う象限に姿を現した。通常時空間に存在を現したそれは、より遠く、およそ三十万キロメートルを隔ててセレーネに対しほぼ静止した。プラズマビームの届かぬ距離に留まったことを確認して、セレーネの発するノイズが俄かに減衰する。


「きた!」

「来ましたね。ウーガダールが」

 セレーネよりは一回り小さい、とはいえラーグリフとは比べ物にならないほどに巨大な円柱が、瞼を閉じたレオンの視野に確認できた。すぐさまローレンスからの通信が配されて、作戦はおのずと次の段階へと進むことになる。


 §


「正面、およそ三十万キロの距離にセレーネを捕捉。ラーグリフの位置も確認しました。射界には重なりません」

「手筈どおりだ、速やかにケラウノスを起動せよ。初の実戦だからな、まずは出力を三十パーセントに設定」

 ランツフォート軍総司令ローレンス・ジェラルド・ランツフォートは、乗りなれた自身の乗艦アーク・ネビュラスの戦闘指揮所から、機動要塞ウーガダールへと指示を下す。


 虚空に静止していた直径六十キロメートルの円柱形が、身じろぎをするように天蓋部をセレーネに向ける。円柱の軸を向ける形となり、セレーネからは大木の年輪のようにも見えるだろう。

 その内側の円の中心付近がわずかに動いて穴が開いた。


 この小さな穴は直径およそ三キロメートルほどあるが、光源はなく、黒く塗りつぶされてその中は伺えない。この場へ姿を現した以上は、セレーネにとって障害物となる可能性が高いとはいえ、この時点で何を画策しているのかを正確に見抜くのは、二千歳を超える電脳にも困難だろう。


 ケラウノスとは何か、を知っているのはランツフォート軍部内でもごく一部の者だけで、雷霆を意味するその名とて情報統制の一環でしかない。

「エルゴ領域形成。システム安定しています」

「よし。発射シークエンス」

 ローレンスが、手元のコンソールに表示された承認キーを指でなぞると、予め設定された手順が小さく表示されては消えていく。


 ウーガダールも巨大と言えば巨大だが、その大きさからは通常あり得ない、とてつもなく大きな重力波がラーグリフにも感知できた。当然セレーネでも確認できたろうが、その刹那に、狙われたノルンは何を推測しただろうか。


「マスリリース、ケラウノス発射」

 やや上ずった、オペレータの声だけが静かに響いた。

 円柱形の中心軸に沿って発生した余りにも巨大な重力の錐は、供給された質量をその狭い範囲の潮汐力で粉々に破砕し、軸に沿って激しく渦巻く超々高速のジェットとして放出した。


 到底直視など出来ぬ強烈な光を放ち、プラズマの螺旋がセレーネへと向かう。一点に集中して発生させた超重力は、その殆ど全てのエネルギーを輝くプラズマのジェットに乗せて放出すると霧散消滅し、その際にもう一度大きな重力波を発生させた。


「ウーガダールを建造して何年になるか。これを使う時が来るとはな」

 ローレンスは、肩の力を抜いて背もたれに身を委ね、小さく息を吐いた。初めて稼働したシステムに関する報告が矢継ぎ早に届くが、電波障害が強く、標的への効果がまだうまく測れない。であるのに、システムには幾つかの綻びも見えた。


 細かな不具合も散見され、それらには随時速やかな手当てがなされていく。そして、三十万キロ先では想定以上にプラズマジェットが拡散して、威力が削がれている事が次第に明らかになった。致命的ではないが、今ここで期待通りに使えなくては意味がないと思うと、舌打ちを禁じ得ない。


「出力を絞りすぎたか。次は定格で行きたいところだ」

 初の実戦となったケラウノスも完調とは言い難く、幾つかのエネルギー経路で規格通りの供給がされず、重心軸の回転にも僅かな偏りが発生していた。

「不調な経路で切り離せるものは一旦切り離せ。次の発射を急ぐぞ、全力でなくとも良い」


 セレーネも何らかの対応をしてくるだろう。できればフェイザーを撃てぬよう、決定的なダメージを与えたい。ウーガダールの内包する複数のリアクタは初の試射時から出力を維持して、ジェネレータはエナジーセルに次弾を貯留するが、全力発射にはまだ時間が掛かる。その間に軸の偏芯を調整し、エネルギー供給のバラツキも補正したい。

「万が一にも、ラーグリフに当てたりなどしては笑い話にもならんからな」


 §


 俄かに出現したウーガ―ダールによって、巨大構造物同士が対峙することとなり、出し抜けにその巨砲がもう一方を撃った。だが、撃たれた側は更に巨大であり、ダメージの程は明らかでない。


 意味もないのにリアルに息をひそめて見守っていたレオンは、伝えられる戦況データがなかなかアップデートされないので、つい隣のアリスに伺った。

「どうなった? やったのか?」

「いいえ。先ほどのは言わば試射ですね。次からが本番です」


 重力波など、観測されたデータからMAYAは独自に推察もする。

「かなり出力を絞っての発射だったと思われます。試射も初ですから、単なるシステムテストのようなものですね」


 ケラウノスは、簡単に言えばブラックホールジェットを人工的に再現したものだ。とはいえ重力崩壊を起こす特異点を出現させては後始末が面倒なので、超高速回転する中性子星が絞り出す相対論的ジェット程度というのがより実際に近い。


 これは細く絞られた高エネルギー磁化プラズマの流れだが、流れる速度は亜光速にまで加速される。ごく短時間局所的に発生させた巨大な重力ポイント周囲に形成されるエルゴ領域に、或る程度の質量を供給して意図的な潮汐崩壊を起こし、プラズマの渦を作り出す。


 大きなエネルギーで重力を疑似的に発生させ、それをプラズマジェットにして撃ち出すのだから、ガンマ線を発するフェイザーと比べれば複雑にはなるが、出力や範囲の調整は比較的容易で、兵器としては使いやすい。


 そして何より、高エネルギー磁化プラズマの奔流は漆黒を背景に派手に煌めき、大いに目立つ。つまりわかりやすいので、敵だけでなく味方にも、与える視覚的心理的効果はとても大きい。


「電波障害が弱まりました。現時点でセレーネの外観にはほとんど変化がありません」

「表面艤装にいくらかダメージはあるだろうが、フェイザーシステムには影響していないだろうな」

 レオンの視線の先で、アリスが小さく頷いた。


「セレーネに動きがあります。発散ノイズが急激に増大、熱源も多数感知しました」

 光学映像のホログラムがじわりと動く。それを見たレオンの視点に呼応して映像が拡大し、ピンボケ気味のセレーネが移動しつつ回転するのが認められた。


「ウーガダールの方に向こうとしているな」

「フェイザーの射界に入らないよう、私たちも少し移動しますね」

「ウーガダールは動かないのか?」

「もう、フェイザーの照射範囲から逃れる事はできないでしょう。このまま撃ち合う事になると思います」


 お互いに速射のできない大出力の広域破壊兵器同士、先に撃った方が大いに有利なのは間違いない。

「この状況に至って、セレーネにも何かしら隙が見えるかもしれないぜ」

「そうですね、わかりました。なるべく近づいて、MAYAの全力で電子戦を仕掛けてみます」


 システムクラッキングはまず無理だろうが、少しでもセレーネの動きを阻害できれば上出来だ。過去にセレーネへの侵入を二日も試みてシステム構成の概略は掴んでいるからこそだが、ウーガ―ダールの攻撃を受けて、これまでとは違うシステムやメンテナンスルーチンが動いているとすれば、新たな糸口も見えてくるかもしれない。


 例えば末端の機器が異常を発報する信号を知れば、それに似せて大量に異常を発して確認処理を余儀なくさせる、なんて原始的なやり方でも足を引っ張るくらいならできる。

「全力で、嫌がらせしてくれ」

 真面目な顔でレオンが伝えると、アリスは少し楽しそうにウインクした。


 ノルンとの会話は少し前から途切れてしまっている。

 レオンとのとりとめのないやり取りは後回しにされて、セレーネは戦闘態勢を急速に整えつつある。拡大投影していたセレーネのホログラムが、ゆっくりとした回転を止めた。

「ノイズが更に増大しています。フェイザーの起動手順が進行していると思われます」

「ウーガダールの方はまだか?」


 次なる重力波はまだ感知できない。

 およそ三十万キロメートルの虚空を隔てて、巨大な破壊力を備えた要塞同士がいま、静かににらみ合っている。



ソーラレイ、ジェネシス、トールハンマー、そしてケラウノス

ってくらいの意気込みで。

フェイザーは見栄えがね……


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