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23.ディレイオペレーション


宇宙空間で、どこにいるのかわからない特定のモノを探し出すのは困難です。

それが単純に物理法則に従って動いているならばまだしも。

某オウムアムアはどうなんでしょう?

追いかけようというプロジェクトもあるようですが。

なぜか見当たらない、ってほうがワクワクしたり


 わざわざ見せつけるようにセレーネを追い越したラーグリフは、一旦光学観測領域外へと遠ざかると、針路を頻繁に変えながら目標宙域へと近づいた。いずれセレーネも到達するだろうが、先に宙域の現況を調べ上げて、こちらの執り得る戦術を練る必要がある。


「セレーネは減速を早めました。目論見通りです」

「俺たちを警戒してくれて何よりだ」

「追加で、状況報告の指示もいただきましたよ。特にフライトレートの実績を報告せよ、と」

「それも無視で。俺からの問いかけには答えないくせに、生意気だ」


 とは言ってみたものの、目下の任務は時間稼ぎだ。しかもどれだけ稼げば良いかは明確でない。射撃位置に至る前に、あのデカブツの動きを止めることが出来れば、それが一番良い。

「しかし、牽制攻撃が効くような相手じゃない。やっぱり話し合いだよな」


 射撃位置までのセレーネの進路予想を元に、レオンはラーグリフをその途中に静止させた。とはいえ本気で狙われたら、ラーグリフですらひとたまりも無いので、五万キロメートルほどずれた上で、横を向いた。そしてその場から、セレーネ内に居るはずのノルンに対して話しかけてみることにした。


 曰く、

 セレーネの行先を知っている。

 フェイザーを知っている。

 惑星ノアを狙っていることを知っている。

 アリーシャ・ティケスを知っている。

 ノーマ・フオンが何処にいるのかを知っている。

 ビョンデム民主主義人民共和国宇宙軍提督グエン・ドン・ズァンを確保している。


 そして、ラーグリフのiフライトレートの実績が最大レベル7に達することを、その時のフライトログごと提供した。


 その上で、質問を投げかけた。

 ラーグリフが見出した可住惑星候補の情報をどれだけ知っているか?

 人類以外の異文明の存在について、どこまで知っているか?


 追加で頂戴した報告指示に返答する形でこちらの情報を伝え、ノルンが興味を持ちそうな質問を用意した。明確な答えが返ってくるとは思わないが、あえてミスリードを誘う文言も混ぜてみた。そしてここでレオンは、自身が偉業と言っていい成果を成したことを、遅まきながらも知った。


「フライトレベル7に達していたんだな」

「はい、いつのまにか。びっくりですね。記録はノア~デルフィ間の航路です」

「びっくりとか、よく言うよ」


 体調の変化などは特にないのだから、文句を言うほどのことでもない。ただし、ノルンに対して伝えたのはラーグリフのフライトログまでだ。それで、ラーグリフを失うには惜しいと考えてくれたら上出来だろう。プロミオンのようにいきなり狙われないように、保険は幾つでも掛けておくべきだ。


 まだ射撃位置までは距離のある宙域に陣取って、レオンが意図的にデータファイルを小出しにすると、近づきつつある巨大な球形の構造体は、移動経路近傍のラーグリフに気づいて更に減速した。相手からの要求に一部でも素直に答えたので、ラーグリフを実質的にアリスが制御している可能性を考慮しただろう。


 しかし、やはりと言うか、レオンの質問に対する回答はなかった。

「こちらの真意を測りかねているでしょうね。けれども、針路そのままで停止しませんねぇ」

「そうだな~、ノーマ・フオンはこちらに寝返った、とでも言ってみるか」

 不穏な提案をレオンが思いついたが、それを実行する前にノルンから異文明に関する情報提供の指示が来た。


 またしても、ほったらかしにしておく命令が増えた。

「ノルンとかいう電脳も、いちおう気にしてはいるんだな。フェイザーの主目的だから」

 そこでレオンからは、異文明に対する情報を提供するのではなく、「可住惑星に害を為す輩には教えられない」と回答してみた。


「レオンの言葉を私がリダイレクトする形にして、ノルンと直接話しますか?」

 レオンはナノマシンによってアリスと直接交信が可能であり、アリスがレオンの意識を言語化してノルンと会話ができる。気を利かせてアリスは提案したが、レオンとしては今ここで効率を求めていないので、丁重にお断りする。


「いいよ、このままで。俺の生存はぼかしたままで、ゆっくり話しようぜ」

「そうですね」


 そうこうしている間に、静止しているラーグリフの目前、とはいっても5万キロメートルほど離れているが、をセレーネが通り過ぎた。それでもラーグリフは動かない。そしてこれまでのペースを保ったまま、ゆっくりと通信を続けた。


 ほったらかしの命令が増えたが、レオンは一向に気にしない。

「攻撃は仕掛けてこないな」

「警戒は続けていますが、兆候は見られませんね。……あ、いえ、セレーネが止まります」


 ラーグリフの横を過ぎてから、セレーネが急激に減速し始めた。ラーグリフに最接近したポイントからはもう十万キロメートルほども離れて、いよいよ速度を落としたセレーネはついに、静止した。


「異文明が狙うとしたらやはり地球だろう、という分析に同意してくれたのかもしれないな」

「意地が悪いですよね」

「これまでのやり取りの中に矛盾はないし、ぎりぎり嘘は言ってない。ノルンが地球出身なら、やっぱり心配だろ」

「意地が悪いですよね」


 ついに、セレーネを止めることができた。あの質量を再び動かすには、またそれなりの時間が掛かるだろう。長生き(?)なノルンは時間の経過にあまり頓着していないようだが、そこが狙い目だ。或いは、射撃位置でフェイザーを起動する予定時刻までには、まだ余裕があるのかもしれない。


「こちらに対して向き直りませんね。やはり方向転換に時間がかかるのも設計通りなのでしょう」

「そこもノーマ・フオンの情報の通り、ってことだな。そうじゃないと困るけど」

 フェイザーの照射軸は進行方向へ向いて固定されている。試作機ザッパーを幾らか改良したものが、あの球形の中に百四十四機設置されているが、射線の微調整が出来るのはおよそ8度の範囲で、側方や裏面を狙う使い方は想定していない。


 そもそも超長距離からの待ち伏せ攻撃専用であり、速射や連射も考慮されていない。そのかわり、防衛装備として大小様々なクラスのビーム砲門があらゆる方向を睨んで据付けられている。迂闊には近づけず、ラーグリフもそのまま動かずに、ただ緩慢にノルンに対して話しかけるのみだ。


 ラーグリフから送るメッセージは全て、アリスからのものとしてノルンに対して伝えている。そうでなくては聞いてすらもらえないかも、と思えたからだが、今のところは不器用な会話がなんとか成り立っている。そして、セレーネが止まってからも、ラーグリフから伝えるペースは変わらない。


「ノルンって、自分のクローン以外と話をするのは珍しいのかな。なんていうか、嫌がっている様子ではないな」

「これまでにない種類の刺激だと感じている可能性はありますね。私もかつて、レオンとの会話にそう感じました」

「ふーん」


 じゃ今は? とか聞こうかと思ったが、やめた。

 意地が悪いですよね、ってもう一回言われるのは嫌だから。



自分と全く同じ人間と会話をすると楽しいのか?

趣味嗜好が一致しているのだから楽しいはず、かそれとも?

ノルンはどうなのでしょう


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